「3億円」で出品される超レア物も!「ポケモンカード」に熱狂する“巣ごもりバブル”への警鐘

「3億円」で出品される超レア物も!「ポケモンカード」に熱狂する“巣ごもりバブル”への警鐘

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/04/07
No image

いまや「バブル」は株やビットコインに限った話ではない。世界的な金あまり現象が続く中、ポケモンカード(ポケカ)や話題のデジタル資産「NFT」の取引が過熱している。長引く新型コロナの巣ごもり生活の中で価格が急騰するこれらの資産だが、はたして死角はないのだろうか?
米国の投資運用会社で働いた経験があり、『マネーの代理人たち』の著書もある小出・フィッシャー・美奈氏が、ポケカやNFT、そして株にも共通するリスクを、市場の過去の教訓を引きながら解説する。

「ポケモンカード」の凄まじい高騰ぶり

「ポケカ」がバケた。

筆者はこれまで、無料携帯投資アプリ上での「ロビンフッドラリー」(関連記事:個人投資家、ヘッジファンドに勝利!? 「ロビンフッド」は過熱する株式市場の「誰の味方」か)や、株式市場でのSPAC上場(関連記事:ソフトバンクも手を出した「SPAC」上場、いまアメリカで大流行する「危ない仕組み」)ブームなど、コロナ禍での時ならぬ金あまり現象について書いてきた。

でも、ロックダウンの巣篭もりと当局の資本注入を背景にした投機は、株やビットコインだけではなかった。「ポケモンカード」やデジタル資産「NFT」などのニッチなオークション市場も、バブル的な賑わいを見せているのだ。

筆者は最近、ポケモンのトレードカード(ポケカ)のオークション取引をやっているアメリカ人と話をする機会を持って驚いた。彼は高校教師をやっている30代。給与だけでは生活は窮屈で資産形成などする余裕はない。

だが、子供時代への郷愁もあって数年前からポケカ収集と取引を始めたところ市場価格が最近になって爆騰し、これまでに軽く十万ドル以上、日本円で1千万円以上を手にしたのだという。

No image

Photo by Gettyimages

ちなみに米オークションサイトのイーベイを覗いてみたら(4月5日現在)、グレード9の日本語版「ポケモンイラストレーター」が300万ドル(約3億3000万円)で出品されている。

門外漢の筆者には「ピカチュウが可愛い」くらいにしか目に映らないのだが、このカードは1997年から98年のコミック雑誌のイラストコンテストで優秀者に配られたもので、現存するのは世界で10枚くらいしかない超レア物だという。

「イラストレーター」は2019年にも19.5万ドル(約2100万円)で落札されて話題となったが、2年経った今では桁が一つ違うらしい。果たして買い手が現れるのだろうか。

ポケカオークションは2、3年前からじわじわと盛り上がりを見せていたが、一部のプレミアカードの価格が急騰したのは、新型コロナによるロックダウンが始まってからのことだ。取引の中心となっているのはミレニアルよりちょっと若い30歳前後の世代で、「ロビンフッドラリー」の中核となっている個人投資家層と重なる。

さらに、ソーシャルメディアが価格形成に大きな役割を果たしていることも「ロビンフッドラリー」と共通する。

ポケカの場合は、約2300万人の登録者を持つユーチューバー、ローガン・ポール氏が初版海外版(1999年発売)未開封ボックス6箱(一つの箱にカードをランダムに10枚組み合わせた「ブースターパック」が36パック入っている)に、200万ドル(約2億2000万円)という大金を注ぎ込んだことがブームに火をつけた。

ポール氏は、このうち20万ドル(約2200万円)で購入した1つの箱を開封する様子をユーチューブで公開したが、ただ箱を開けるだけのこの動画が現在までに1100万回以上ダウンロードされている。

プレミアポケカの価格は、この動画公開の直後から跳ね上がった。

超高額カード取引の未熟なインフラ

イーベイなどのオークションに出品されているポケカは、上は300万ドルから下は10セントまで、まさにピンキリだ。もちろん初期版など希少カードほど高価になるが、価格は需要と供給のバランスで極端に変動する。さらにカードの物理的な状態によっても大きく変わってくる。

真贋の見極めを含め、値決めに重要な役割を果たすのが、鑑定機関の存在だ。トレードカードについては、PSA(Professional Sports Authenticator)をはじめ複数の鑑定機関があり、同じカードでもグレードによって価格が大きく動く。ムーディーズやS&Pなど格付け会社の評価によって、債券利回り(すなわち市場価格)が大きく変わるのとちょっと似ている。

例えばPSAの評価には、パーフェクトな状態の「GEM MINT10」から、状態の悪い「PR1」まで10段階ある。端が切れていたり、修復や塗り直しの跡、あるいは偽造が疑われる場合などはグレードがつかない。同じカードでも、PSA10と1ではオークションで期待できる値の桁がいくつも違ってくる。

取引は国際的だ。上記ポケカトレーダーの話によれば、彼らはネットで取引仲間を世界各地に作り、中東ドバイなどにまで飛んで売買をする。もちろん日本で仕込みをやるバイヤーともコネクションがある。ただし、最近ではアービトラージ(場所による価格差を利用して利鞘を稼ぐこと)が段々難しくなっているそうだ。

だが歴史のある金融商品市場と違い、こうしたニッチ商品の取引では、市場が不透明でインフラが未熟な点がネックになる。ロックダウン下では飛行機で海外に飛んで直談判することもなかなか難しいので、何百万円もするプレミアカードがFedExなどで当たり前のように送られているらしい。大抵は内容物に見合った保険もかけずに送られているから、輸送中に紛失したりしたら一大事だ。税関申告なども、きっといい加減なのだろう。

さらに、彼らZ世代の取引では、支払いや受け取りがデジタル通貨ということも多い。イギリス在住の25歳のポケカトレーダーは日本円で億単位の資産を持つが、資産の半分はビットコインで、半分はポケモンカードなのだという。

No image

Photo by iStock

それでは毎日、個人資産が何千万円も増えたり減ったりして夜眠れないんではないかと思ってしまうが、そこはYOLO(You Only Live Oce =人生は一度だけ)、スリル一杯の「熱い」生き方をしたい若者も結構いるらしい。

だが、ポケカの世界は、すでに趣味の収集目的ではなく、金融商品として利鞘を狙う転売屋がひしめく市場となってしまったようだ。

米国マクドナルドは2月9日に「ハッピーセット」の販促用に4枚1セットのポケカをおまけにつけたが、これが転売屋の格好のターゲットになった。ハンバーガーを食べるつもりもないのに、カード目当てに一人で10セット以上買い込む転売屋も現れたのだ。イーベイで270ドルで売られているのもある。

もはや、ゲームで純粋に遊ぼうとしている子供達から、投機目的の大人がカードを奪う事態になっているのだ。マクドナルドが声明を出して供給を増やしたが、ブームの熱はまだ冷めてはいない。

「世界でたった一つのデジタルコピー」の価値とは?

ポケモンカードであれ、ビットコインであれ、コモディティー(商品)相場は株より難しい。

その理由は、資産の「本質的価値(intrinsic value)」を見極めるのが困難だからだ。

株であれば、企業が営む事業の価値が株価の前提だという考え方が出来るので、企業が生み出すキャッシュフロー(現金の流れ)や利益、あるいは資本規模を目安にして、株が割安か割高かを判断することが出来る。

ところが、キャッシュフローを産まないコモディティー(商品)の場合は、市場価格が割高なのか割安なのかを判断する「本質的価値」の基準に欠ける。とんでもない高値に見えても、買い手さえいれば価格がついてしまう。高いのか安いのか良く分からないうちに、需給によって価格が決まる。

こうした例でもう一つ興味深い動きが、NFT(代替不能トークン、Non Fungible Tokens)と呼ばれるデジタル資産、例えばデジタルアートのオークションの盛り上がりぶりだ。

NFTはブロックチェーンを使って発行されるトークンだ。同じ「ブロックチェーン」の技術でも、ビットコインやイーサリアムなどのデジタル通貨は、識別子のない「ユティリティートークン」と呼ばれ、所有者の情報は分からない。一方、NFTには256ビットからなる識別子があり、メタデータによってデジタル資産の所有者を明確にすることが可能だ。

所詮デジタルなのだから、同一、同品質のコンテンツをいくらでも複製することができる。でもNFTを使えば、そのうち一つのデジタルファイルにメタデータで「タグ(札)」付けをすることによって、「たった一つのオリジナル」と識別することができるのだ。

もちろん、オリジナルとコピーで、コンテンツそのものの見分けはつかない。それに価値があると思うか、それとも馬鹿らしいと思うかどうかは、買い手次第だ。

老舗の「クリスティーズ」が3月12日に初めて手がけたNFTアートのオークションでは、デジタルアーティストBeeple氏が13年かけて作成したデジタル作品が6935万ドル(約75億ドル)で落札された。

さらに3月22日には、ツイッター創業者ジャック・ドーシー氏の最初のツイートが、約291万ドル(約3億1700万円)で落札された。

ヘンテコなのを挙げれば、謎のネコがにゃんにゃん鳴きながら虹と共に駆けていく「ニャンキャット (Nyan Cat 、1億8600万回以上再生) 」のGIF動画まで59万ドル(約6300万円)で落札されている。

不動産バブル期には安田火災が53億円で落札したゴッホの「ひまわり」が話題になったが、今はデジタルアートがバブルの担い手になっているようだ。

過去の教訓ーー「ビーニーベイビーズ」のバブル

バブルの歴史の教訓の一つに、多くの市場参加者が「大バカ理論(greater fool theory)」で動くようになったら要注意、というのがある。

つまり、バブル参加者の多くは、その資産の本質的な価値を信じて買うのではない。「自分よりバカなやつ」に、自分が買った値段より高値で売りつけて儲けてやろう、と思って買うのだ。

ところがバブルが弾ける時には、気がついたら自分がその大バカになっていた、ということが往々にして起きるーー。

米国では90年代の終わり頃、「ビーニー・ベイビーズ」というぬいぐるみがバブルになったことがある。手のひらサイズのこのぬいぐるみは、今でもドラッグストアなどで5ドルくらいで売られている。柔らかくて、目がウルウルして大きいのが特徴だ。

No image

Photo by Gettyimages

ビーニーバブルのノンフィクション本、“The Great Beanie Baby Bubble“ (Zac Bissonnette) によれば、最盛期には、ビーニーはイーベイ全出品数の1割を占め、くまの「ナンバー1 ベア」や、ロイヤルブルー生地のぞうの「ピーナッツ」などのレア物に、オークションで5000ドルの値札がついたという。

コレクターマニュアルや価格モニターなどの関連書籍も「 Y2K(2000年に世界のコンピューターからバグが出て、社会麻痺が懸念された問題)本」より多く出版された。

面白いのは今のポケモンカードとの共通点だ。97年にマクドナルドが「ハッピーミール」の販促にミニチュア版ビーニーの景品をつけたところ、ぬいぐるみ目当てに一人で100個も注文する転売屋が現れるなど、多くの店で初日の昼までに完売。マクドナルドの倉庫から景品のビーニーが盗まれる事件まで起きて、キャンペーンは数日で終わりとなってしまった。

「金融資産」となったおもちゃを大人が子供から取り上げ、小売店から商品が忽然と消えたことなど、今のポケカ騒ぎととても似ているのだ。

ビーニーバブルの崩壊劇は、今のポケカブームに警鐘を鳴らしてくれそうだ。

ビーニーの場合は、製造元のTy社がモデルを常時入れ替え、希少価値を作り出したことが強い需要を維持していた。特に生産停止が発表されたモデルには、価格値上がりを先読みしたバイヤーが殺到した。だが、99年に入ると価格の上昇が止まった。この頃にはイーベイなどにも大量出品されており、気がついたら買い手より売り手の方が多くなっていたのだ。

価格は、上昇の勢いが一度止まると、後はそれ自体の重さで落ちていった。値上がりを見込んで商品を溜めていた転売屋が慌てて一斉に売りに出て、その売りが更なる価格下落と新たな売りを呼び込んだのだ。最後には余った在庫がドルショップで叩き売られ、最盛期に10億ドル(約1100億円)あったTy社の売り上げは、その9割以上が消失した。

ビーニーベイビーズのブーム終焉がITバブル終焉と、ほぼ時を同じくしていた点にも注目すべきだろう。今のロビンフッドラリーやビットコイン、ポケモンカードやNFTなどの大盛況も、それぞれの固有要因というより、低金利と当局の資本注入によって生み出された過剰流動性、「金あまり現象」の一環と見ておいた方がよいと思う。

異なる資産で「リスク分散」しているつもりでも、一度市場調整が起きれば、株やデジタル通貨、ポケカやNFTなどの価格が一斉に下方相関(同じ方向に動くこと)する危険性に注意したい。

No image

テレビ番組のキャスターを経て米国の投資運用会社で働いた著者が、市場を動かすプレーヤーたちの実像を、冷静な筆致で描く。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加