伊豆半島の松崎町に移り住んだ元広告代理店営業が語る、地方移住への心構えと考え方

伊豆半島の松崎町に移り住んだ元広告代理店営業が語る、地方移住への心構えと考え方

  • CNET Japan
  • 更新日:2023/01/25
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新型コロナウイルスの流行によって、関心が高まったことのひとつに「地方移住」がある。テレワークやワーケーションなど働く場所を問わない働き方が浸透しつつあるなか、仕事と生活の充実の両立を目指すことに関心を持つ人々も少なくない状況がある。

地方移住にまつわるエピソードは数多くあるなか、ここで紹介するのは、静岡県内で最も人口が少ないという松崎町に移住した、ある40代男性のエピソードだ。

話を伺った神健一氏は、もともと広告代理店の電通に在籍し、主に営業として東京での仕事に従事。そこから、2021年1月に松崎町へ移住した。現在はミドルシニア世代のプロフェッショナル人材が集まるニューホライズンコレクティブ合同会社と業務委託契約を結び、東京からの仕事をリモートで受けつつ、伊豆への移住相談などをしている松崎町移住定住促進協議会の会長を務めるなど、地域の活性化の活動も行っている。

松崎町は伊豆半島西海岸の南部に位置し、人口は約6000人。町内に鉄道は通っておらず、新幹線駅がある三島市からは車で約2時間ほどにある。「花とロマンの里」をキャッチフレーズに、風光明媚な自然と港町として栄えた風情を随所に残している街となっている。

そんな松崎町のなかでも、細い山道を車で移動してたどり着くような山奥で、もともと別の方が住んでいた空き家を購入して移住したという。

美味しい食べ物と自然豊かな場所に憧れて移住

――なぜ、松崎町に移住をしたのでしょうか。

まず将来のことを考えたときに、美味しい食材を使った飲食店を経営する夢を持っていることが背景にあります。会社を辞める前から考えてはいたのですが、自分自身が自然豊かな場所に強い憧れを持っていたのが、移住した理由になります。

移住先を伊豆半島にしたのは、山と海があって水も美味しいですし、質のいい食材が得られやすい場所にしたかったので。あとは、実家が神奈川県にあるのですけど、何かあっても駆け付けられる距離だから、というのもあります。

伊豆半島の南端にある賀茂地区(下田市、東伊豆町、河津町、南伊豆町、松崎町、西伊豆町の1市5町で構成)で探しているなかで、自然豊かな場所への憧れから、自然の中にある家を探していたらここが見つかったので、松崎町に移住したというのが経緯です。

――この物件を見たとき、率直にどう思いました?

手に負えるかな……という思いは少しありました。実際に暮らしてみると、想像以上に自然をなめていたな、と思いましたね。前に住まれていた方は基本的に家にいて、常に手入れもされていました。初めて見たときはすごく整っていたのですけど、1年のうちに草がものすごく生えてきましたし。

不便はありますけど、ここから見た風景もいいし、水も井戸水だったりで、ピンときた感じでここに決めました。

――住んでみてのメリットやデメリットはどんなところですか?

私自身、食べ物が好きという前提がありますので、メリットは自然豊かであること、そしてそれは食べ物が美味しいということとイコールになっていますので。それが大きいですね。

デメリットは、あまり感じないですね。しいて挙げるなら、自宅に携帯の電波がかろうじて入るぐらいなので、たまに繋がりにくくなることとか。自然災害は懸念するところもありますけど、それを考え出したらキリがないでしょう。あと、庭の手入れに時間がかかるぐらいです。デメリットと言えばそうですけど、その分贅沢な暮らしができていると感じています。

――神さんが思う、贅沢な暮らしというのはどういうものですか。

手間や時間はかかるかもしれないけど、丁寧な暮らしができるということです。例えば、果物はスーパーで買えばその場で食べられます。でもここでは、朝に時間をかけてもいで、そして洗って、水分をとって追熟しなければ美味しく食べられない。でもそうして食べた果物を美味しいと感じられることは贅沢だと思います。

魚も一緒ですよね。最近魚釣りをしたのですけど、釣った魚を持って帰って、包丁でさばくのも手間ですし、時間かかります。でも、アジ一匹にしても味が全然違うと感じられるぐらい、すごくおいしくいただけることも贅沢です。

自分の住む場所も少しずつ手を入れて、自分好みに変えていけることも時間はかかりますが、結構楽しかったりします。やりたいようにやれる環境がある、ということが贅沢だと思います。

コミュニケーションとコミュニティが重要

――移住にあたって直面した課題や問題点はありましたか。

実際に暮らしたあとで移住をしたわけではないので、家から街までどのくらいかかるのか、そしてどういうことが四季のなかで起こりうるのかを想像しないまま来たので、少し戸惑うところはありました。本来で言うと、お試し的に在住したほうがいいと思います。あと、これは地方も都会も一緒だと思うのですけど、環境というものは、物理的なことだけではなく、そこに住む人にも左右されるところがあります。

地方で言うと、一人でできることに限界があります。周りの方々に助けていただかなきゃいけないですし、そういったコミュニティがちゃんとあるかどうかも大事です。そういう環境にないまま一人で住んでいたら、寂しさと孤独感に耐えられないのでは、と感じます。街の人に受け入れていただいて、いろんなことにお誘いいただけるか、みたいなものが、事前にコミュニケーションで築いたり、そのコミュニティについてわかったりすると、本当はもっといいんだろうと思います。

――地方への移住だと、特にコミュニケーションの重要性が高いようにも感じますが、実際はどうですか。

そうですね。特に、自分から話しかけられるかどうかが大きいです。一歩踏み込んで話してみると、意外とよくしてくださる方は多いです。

もちろんただ話すだけではなくて、地域でやる草刈りもそうですし、過疎地域ならボランティア活動や地域づくり活動などといった、都会とは全く違った形でのコミュニティが結構ありますし、一緒に活動してみることが重要ですね。松崎町だと、お花畑に関するコミュニティや港を清掃する活動、絵を描くサークルなどなど、20ぐらいはあるかな。

移住しても、ただその場所に住んでいるだけだと広がりようがありません。いろいろなところに顔を出してみて、自分にあうところに定着する。その最初の一歩が踏み出せるかどうか、ですね。

この家に住んでて感じるんですけど、ここには回覧板はまわってきません。ということは、近所づきあいがないんです。それがないということは、街のことを知る機会がないとも言えます。コミュニティを通じて活動することは、それを通じていろんなことを知ったり、教えてもらったりする機会があるということで、実際そこで得られるものも結構あります。同じ目的や趣味でのコミュニティは、とても前向きに受け入れてくれる方が多い印象があります。

――松崎町に在住されている方について、地域特有の気質みたいなものを感じることはありますか。

よく、みんな「温かい」と言いますけど、都会でも温かい方がいれば、地方でも冷たい方もいます。温かい方が目立っているのは事実だと思いますし、みんないい方ばかりですので。そういう意味では、東京に比べて違うこととしてあげられますが、松崎町特有ではない気がします。

また東京は人口の分母が多いので、いろんな方がいるなかで、いい方もたくさんいらっしゃると思います。松崎町は人口約6000人で、以前勤めていた会社の社員数よりも少ないんです。だから距離感が近いというイメージはあります。

年齢は高い方が多いですけど、総じて上の方がすごく元気です。70代でも農家として現役バリバリで体を動かしている方も少なくないです。その意味でいうと、いわゆるお年寄りが元気というイメージが、都会に比べるとあります。

――松崎町でさまざまな方と接してきていると思いますが、印象に残っている方はいらっしゃいますか。

年齢が私の一つ下ぐらいで、ものすごくパワフルな農家の方がいます。お米を作っているだけではなく、レモングラスを作っていたり、牛乳配達もしていて。あと、しいたけ栽培用の原木を切ってきたり、上野の動物園にいるパンダの餌のための竹を、伊豆中駆け回って何種類も集めてきたり。冬期には、地元のさつま揚げ屋さんがお歳暮の時期で忙しくなるので、朝7時前から揚げていたりと、超人的な働き方をしています。

あとは、60代半ばの学校の教師をされていた方は、街中を花で飾るためにすごく精力的に活動されてますし、松崎町では蛍を見ることができる場所が5、6箇所あるのですけど、そこのビオトープ造りをほぼひとりでやられていて。5~6月は毎晩点検されています。

“複業”ができる働き方だと楽しい

――神さんは、移住の相談も受けているとのことですが、実際に相談を受けてみて感じることはありますか。

農業に興味があって、就農したいと考えている方はすごく多いです。でも、現実に農家というのはすごく大変です。家庭菜園レベルから初めてみるというのであれば別ですけど、いきなり都会の会社を辞めて農家になりたいという方もいます。ただ、一度ちゃんと考えてから来ていただいたほうがいいですね。農業体験みたいなものに、何回か通っていただくのもいいと思います。

実際、農業は天候に左右されることが少なくありません。この雨はやばいと思って畑に行かなければいけないなど、その日の予定を全部キャンセルするということも当たり前のようにあります。ほかにも、虫や獣害の対応も結構苦労します。作っていただいている方々に、改めて感謝をしなければいけないと思うぐらい、大変なことです。その一方で、例えば近くに畑を借りて少し育ててます、というスタンスであれば、すごく楽しめると思います。

あと働き方についても、年齢にもよりますが、30~40代の方を想定して考えるのであれば、移住した先の仕事だけで稼ぐというのは、東京よりも大変です。なので、東京の仕事もしながら、こちらでも収入も得るという働き方ができると、すごくいいと思います。

複数の仕事ができるという意味での“複業”ができるようになると、田舎は楽しいですね。何カ所か収入を得る方法があると、生活がうまくまわる感じがします。松崎町で働いている方は、季節労働的なことをしている方がそれなりにいらっしゃいます。都会で会社員だと、あまりそういう発想にならないと思うので、そういった働き方があると知っていただけると、見え方が変わってくるかなと感じています。

――神さんご自身の仕事や収入の割合について伺ってもいいですか。

今は正直なところ、東京からの仕事が8割で、それ以外の2割というのが現実です。おそらく理想は、東京の仕事と、街のための仕事と、自分のやりたいことで3分の1ずつのポートフォリオを組めるようになるのがいいと考えてます。

――実際移住された方で、印象的な方はいらっしゃいますか。

大枠として、30~40代の方は自然を求めてきますので、自然が豊かという価値が担保できていれば、あとはどうにかなると思っている方が多いです。こんなに食べるものが美味しくて、豊かな自然があって、すぐ海へ遊びに行ける環境がいいじゃないか……と。ほかは別に妥協できるという考えで。その意味でいくと、少しだけ尖っている人が多いような気もします。

移住先を検討するとき、少し田舎感のあるところがいいという方は、おそらく三島で止まるんです。映画館やファーストフード店など、身の回りのものが都会と変わらずありますし、新幹線が停車する駅もあって、東京へ40~50分あれば通える場所でもありますから。

ここまで来るのは、そういった環境を捨てて、西伊豆の山や海の風景が好きという方々ですから。好きだから、ほかのことは我慢できると。特別印象的という方はいないですが、なんらか癖のある方々、という言い方はできるかもしれません。そのなかの一人に私も含まれるわけですが。そもそも我が家は街の人に聞いても「なんでそこに住んでるの?」と言われるぐらいなので。

――ここまで来るとき、途中で道が違うと思うぐらいの場所で。本当に人里離れた、という感覚になれます。

これだけ静かで、空間のある家ですので。夜は本当にボーっとして、お酒飲んだらすぐ寝てしまえるぐらい、すごくリラックスした時間を過ごしている感覚はあります。イノシシも明るい時間から出てきますし、なんならそこで鹿が息絶えているとかもありますから。そういったことが楽しいし、自然のなかで暮らさせてもらっているという、そのありがたみを実感できます。

――今後こういうことをしていきたい、と考えていることはありますか。

この街がもっと過ごしやすくなるとか、良くなる可能性があると思えることは、たくさんあると感じています。私が今まで培ってきたことで、街のためにできることをやろうと思っています。

生産者の方々を何かしらで助けられる仕事だったりとか。街のDXということであれば、自分が過ごしやすい街にもっとなっていくとか。今の現状を聞く限り、加速度的に人口が減少しているなかで、物とお金と人の流れが大きく変わっていく過渡期だと感じています。そのなかに松崎町がか細くても強くて、しなやかに生き残っている町になったらいいなと。

多分このままいったら、人口減で税収も減っていくので、他の地域と合併して干からびていくのを待つだけという可能性があることも否定できません。それよりは、これだけいい場所で人も良くて、景色も良くて、食べ物が美味しいという場所が、強くしなやかに洗練されていける街になるために、何がお手伝いできるかを模索していきたいです。

少なくとも5年は街のためにできることをやって、料理屋を作るという自分の願望は、50代になったらと考えてます。

――地方移住を考えられている方にメッセージはありますか。

地方に興味があって、今後移住を検討しようと思っている方は、動かれるならば、早めに動いた方がいいです、ということでしょうか。どこの地域にするかを決めることではなく、例えば旅行に行った先で、何か街づくりの活動に参加したり、人とのネットワークを築いておいたり、定期的に行ってみて、その地域の方々と仲良くなっておくようなことができていれば、移住した後の環境は段違いになってくるので。

あとは、僕自身が実感していることとして、40代で来ることができて良かったです。それは体が動くうちに地域で活動ができる、地域のために仕事ができるということは、すごくアドバンテージになります。

私の主観的な考え方で、人によるところも大きいのですが、ある程度都会に在住した経験があって、若過ぎてもいない年寄りでもないという30~40代の方々は、移住先の地域でも即戦力になると思います。可能性があると少しでも感じた方は早めに動いた方がいい、ということはお伝えしたいです。

佐藤和也 (編集部)

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