「誰が第一号で捕まるのか、それが楽しみだな」といかにも楽しげに話すのは指定暴力団の幹部だ。いったい何の第一号逮捕者か。それはLINEアプリの使用に関する罪だという。ヤクザのLINE事情について暴力団関係者に話を聞いた。
ヤクザ界隈で広まるLINE禁止令
今年10月、多くの暴力団組織ではLINEの使用をやめるよう、組から通達が出たという。ある暴力団幹部は話す。
「組から通達が出たのは本当だ。通達の翌日、朝起きてLINEを開いたら、親分とのトーク履歴に 『メンバーがいません』と表示されていた。
上部組織からの通達は絶対だから、みんなすぐさまアプリを削除したようだ。アプリを開く度に、『メンバーがいません』という表示が増えていく」
なぜそのような通達がされたかというと、LINEの規約が変更されたことで、「反社会的勢力の人間がLINE を利用することで逮捕される」という噂が一気に広まったからだ。
LINEは暴力団関係者も広く使用していた。組員個人だけでなく、組織内でグループLINEを作成するケースもある。郵送された破門状は画像で共有され、本部通達もリアルタイムで下部組織の組員にまで転送される。どこかの誰かが事件を起こせば、その映像はすぐさま広がり、あっという間に所属する組と名前が割り出され、その情報がLINEトークに流れてくる。

これだけ日常的に使われていたアプリだけに、これからはLINEを使うだけで逮捕されるのか、そうなったらえらいことだ、と騒ぎになったようだ。
その噂が広まった背景にあるのは、10月1日にヤフーとLINEが合併してLINEヤフーとなり、アプリ利用の際にプライバシーポリシーへの同意が必要になったこと。LINEでは11月以降も同意していないと、「順次、同意するまでLINEアプリの継続利用ができなくなる」としている。
前出の幹部は「俺は同意しないで使っているから、いつアカウントが削除されるかわからないけど、そうなったら別の通信アプリを使うしかない」と肩をすくめる。
プライバシーポリシーへの「同意」に潜む危険
この幹部はなぜ「同意する」にタップをしないのか。それはもともとLINEの利用規約に、「当社は、反社会的勢力の構成員(過去に構成員であった方を含みます。)及びその関係者の方や、当社サービスを悪用したり、第三者に迷惑をかけたりするようなお客様に対してはご利用をお断りしています」という項目があるからだ。
同意すれば、パーソナルデータをLINEが収集できるようになり、反社だと判明したならば、ユーザーのアカウントやデータ、コンテンツが削除されるだけでなく、トーク履歴やさまざまなデータも必要に応じて利用される可能性がある。
それでなくとも警察は暴力団に対しての取締りを強化しているのが現状だ。
スーパーのポイントカードの規約に暴排条項があったのに同意してカードを作成したり、親族名義のETCカードで高速道路を利用して詐欺に問われて逮捕された組長もいた。

「暴力団である俺たちは、利用規約やプライバシーポリシーへの同意にだって注意しないといけない」と幹部はため息をつく。
LINEはもともとダウンロードの際に前述の同意の必要がなく、ヤクザでも気軽に使うことができた。さらに「LINE Pay」は、銀行口座がなくてもチャージができる電子決済サービスで、口座を持てないヤクザたちには通信ツールとしてだけでなく、決済ツールとしても便利だったのだ。
「俺は同意をしてないから、そのうちアカウントを削除されるだけだが、プライバシーポリシーに同意して使っているヤツは、そのうちLINEの利用規約にひっかかって詐欺で逮捕されることもあうだろう。その第一号が誰になるかが今一番の関心ごとだな」(幹部)
誰もが手軽に利用しているLINEを使うだけで、ヤクザは御用となってしまうということか。
取材・文/島田拓
集英社オンライン編集部ニュース班