斎藤工「みんなわかっているはずなのに、なかなか社会がアップデートされない」ドラマ『ヒヤマケンタロウの妊娠』から私たちが見つめ直すべきこと

斎藤工「みんなわかっているはずなのに、なかなか社会がアップデートされない」ドラマ『ヒヤマケンタロウの妊娠』から私たちが見つめ直すべきこと

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  • 更新日:2022/05/16

もしも、すべての男性に妊娠・出産する可能性がある世界だったら――。社会派コメディシリーズ『ヒヤマケンタロウの妊娠』がNetflixにて全世界独占配信中だ。同名コミックスが原作の本作。仕事第一優先で独身生活を謳歌していた桧山健太郎が、「自分が」妊娠することで今まで見えていなかった社会の問題に直面し、パートナーの亜季と奮闘しながらも周囲の人、そして自分自身の「無意識の偏見」を変えていく姿が描かれる。そんな本作で妊娠した男性・桧山を演じた斎藤工さんに、全3回にわたりインタビュー。本作を通じて感じたこととは――。

身体的な変化は感じることができたのは貴重な体験だった

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――最初にこの企画のオファーを受けたとき、どんなことをお感じになりましたか?男性が妊娠する、という設定自体は、映画でも『モン・パリ』(1973年)や『ジュニア』(1994年)という前例がありましたし、さほど珍しいものではないという認識だったので、賛否はあるだろうなと思いつつ、僕自身は抵抗も戸惑いもありませんでした。予期せぬ「まさか」を通じて何を感じるか、を描くのがフィクションの醍醐味ですし、坂井(恵理)先生の原作マンガには、社会とそこに生きる女性たちの実態が織り交ぜられているからこそ、力強くおもしろいものになっていた。ドラマにしたとき、どの程度リアリティを重視し、テーマを重く響かせるのか、あるいは軽やかな物語にしていくのか、そのバランスは考えないとな、と思いましたが、現実の社会につながる何かになっていくだろうという確証は、企画内容を知ったときから、感じていました。――実際、演じてみていかがでしたか。作中では、つわりなどのわかりやすい部分だけでなく、妊娠によるさまざまな身体的変化やそれにまつわるトラブルも描かれていましたが……。実際に体験してみないとわからないことばかりですよね。出産経験のある母や姉の話も聞きましたが、一番は坂井先生の『妊娠17ヵ月!40代で母になる!』というエッセイマンガを参考にしました。『ヒヤマケンタロウの妊娠』は、坂井先生の内側から生まれた物語なので、先生ご自身が妊娠・出産から受け取った影響を、少しでも知ることができたらいいなと思いまして。――改めて、妊娠・出産について学んで驚いたことや、演じるのが難しかった部分はありますか。不思議だと思ったのは、お腹に宿る命が欲しているものが、自分の意志とは違うところで、食欲に結びつくことがある、というところですね。二つの意志が自分のなかに存在している、というのは一体どういうことなんだろう、と。それはもう、想像するしかできないのですが、妊娠周期ごとにサイズの異なるシリコンをお腹に装着していたので、身体的な変化は感じることができたんですよ。お腹が大きくなるにつれて身体的なバランスも変わるし、重みと存在感によって意識も自然とお腹に傾くようになっていく。それを実感できたのは、とても貴重な体験でした。

妊娠・出産によって女性が社会から一時的に隔絶されてしまう現状

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――野心家で仕事ができて、特定の恋人をつくらない広告会社勤務の桧山は、どちらかというと自分本位の男性でしたが、妊娠を機に少しずつ周囲の人たちに気が付くようになっていく変化もおもしろかったです。上野樹里さん演じる、パートナーの亜季との対比も。働き続けたいからこそ妊娠を考えていなかった亜季が、桧山の妊娠を知ったときや、一緒に親になると決めてからのセリフは、果たして女性の代弁なのか、それとも男性の本音なのか、境界線が曖昧になっているところもおもしろいですよね。身体的にはなんの変化も訪れていない亜季の言葉を無責任に感じる桧山のいらだちや、いくら協力してもらえるからといっても身体のことは自分でどうにかするしかない大変さに対する桧山の反応もまた、女性的ともいえるし、同じ立場になったら誰しも感じることなのかもしれないとも思う。でも、演じながら確かだったのは、人は他者との関係性のなかで成り立っているということ。上野さんが演じる亜季と対峙するお芝居を通じて、桧山がどういう人間なのか、妊娠・出産について、パートナーシップや家族について、どう感じてどうありたいと願っているのか、少しずつ明らかになっていった気がしています。――桧山の妊娠を知った亜季が「本当に私の子ども?」と聞いたり、「自分が産まずに親になれるなら、仕事も続けられるし、とてもラッキーなのではないか」と考えたりするところは、あけすけな本音だからこそ、おもしろくもありました。女性が主婦として家事をとりしきり、男性が外で働くというスタイルが通用しなくなっていることは、みんなわかっているはずなのに、なかなか社会がアップデートされない。妊娠・出産によって女性が社会から一時的に隔絶されてしまうことに、フォローできる環境が整っていない。その現状が、本作では浮き彫りになっていますよね。自分の状態と、職務・職場との折り合いをどうしてもつけることができないなかで感じる葛藤がどういうものなのか、僕も本作を通じて、改めて知ることができました。――働き続けるのが当たり前と思われている男性だからこその大変さも、描かれていましたね。それは、妊娠・出産でなくとも、病気や介護などに対峙しなければならない人にも共感されるのでは、と思います。ダイバーシティとはどうあるべきものなのか、表面的に語るのではなく、本質的に実現するためのヒントも詰まっている作品だと思います。演じながら、これまでは僕自身も、「仕方のないことだ」と小さなことをスルーして、旧来的な価値観に加担する側に無自覚に立っていたのだな、と複雑な気持ちにもなりました。コメディタッチのドラマでもあるので、テーマ性を前面に押し出して「みなさんで考えましょう!」なんて言う気はありませんし、あくまで物語として楽しんでいただきたい。ですが、日常を別のアングルで映し出すことで見えてくるものがきっとあるでしょうし、視聴者の皆さんのなかに、自分の“当たり前”とは異なる角度で日常を見る視点が、ひとつでも増えてくれたらいいなとは思っています。

▼インタビューvol.2はこちら

斎藤工が思う“自分らしく生きていく”ために大切なこと「“誰かから見た僕は決して主人公ではない”と気づいてから楽になった」

【information】

Netflixシリーズ『ヒヤマケンタロウの妊娠』

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Netflixにて全世界独占配信中(C)坂井恵理・講談社/(C)テレビ東京<Story>舞台は、すべての男性が妊娠・出産する可能性のある世界。広告代理店の第一線で仕事をバリバリこなすエリートの桧山健太郎(斎藤工)はある日突然、自分が妊娠していることを知る。同じく仕事最優先のパートナーの瀬戸亜季(上野樹里)も自分が親になることは考えていなかったため、想定外の出来事に戸惑う二人。妊娠を告げた日から社会から向けられる予想外の眼差しや、「妊婦」が体験する苦労に向き合う桧山と、そんな彼と共に悩み、寄り添おうとする亜季。現代の妊娠・出産にまつわる多くの問題に直面しながらも二人は「産む」決意をするのだが、マイノリティである男性の妊娠に対して社会の風当たりは強く……。

【公式サイトはこちら】

【衣装】ジャケット ¥75900、シャツ、¥26400、パンツ ¥41800/stein(carol️) その他 スタイリスト私物<問い合わせ先>carol 03-5778-9596

撮影/樗木新(willcreative) スタイリスト/三田真一(KiKi inc.) ヘアメイク/赤塚修二(メーキャップルーム)取材・文/立花もも 構成/岩崎 幸

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