映画『恋する惑星』タランティーノ絶賛の恋愛映画。魅力が凝縮された4つの使用楽曲を解説<あらすじ 考察 評価 レビュー>

映画『恋する惑星』タランティーノ絶賛の恋愛映画。魅力が凝縮された4つの使用楽曲を解説<あらすじ 考察 評価 レビュー>

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  • 更新日:2023/01/25
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イラスト:naomi.k

映画「恋する惑星」を演出、脚本、配役、映像、音楽の視点で徹底解説! トニー・レオン、フェイ・ウォン、ブリジット・リン、金城武ら出演。1994年の公開から現在まで色褪せない、ウォン・カーウァイ監督が描く、4人の男女の恋愛模様に酔う。ノスタルジックな90年代の香港が香るこの映画の真の魅力、そして結末とは?
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●90年代香港の熱気を映した即興演出〜演出の魅力

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ウォン・カーウァイ監督【Getty Images】

本作は、香港・九龍にある雑居ビル・チョンキンマンション(重慶大厦)を舞台に男女4人の恋愛模様を描いたウォン・カーウァイの長編作品。前半と後半の2部構成で、前半に金城武とブリジット・リンが、後半にトニー・レオンとフェイ・ウェンが出演している。

長編第1作『いますぐ抱きしめたい』がカンヌ映画祭の批評家週間でカメラドール(最高賞)を受賞し鮮烈なデビューを果たしたカーウァイ。4作目となる本作は、香港電影金像奨(香港アカデミー賞)で優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演男優賞(トニー・レオン)の3冠を達成したほか、本作を絶賛したクエンティン・タランティーノが配給権を購入するなど、カーウァイの名を世界にとどろかせることになった作品として知られる。

さて、そんな本作の特徴は、なんといっても即興演出ならではの自由さだろう。長編作品『楽園の暇』の製作が中断している合間に撮影されたといわれる本作には、とにかく映画が撮りたくて仕方がないという監督の無邪気な遊び心に満ち溢れた作品に仕上がっている。

また、本作の舞台である香港の姿も印象的。街に煌めくネオンサインや数々の屋台が街を彩るジャンクな日常風景、そして様々な国籍の人々が行き交う香港の雑踏の熱気は、アジア好きにはたまらない。

なお、本作の公開は1995年。香港がイギリスから中国に返還される2年前である。そういう意味で、本作はかつての香港の姿が描かれたフィルムとしても歴史的な価値を持っているといえるだろう。

●大量消費社会を舞台に描かれる男女の恋愛〜脚本の魅力

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ウォン・カーウァイはシナリオも担当している【Getty Images】

全編即興演出で撮られた本作には、脚本などあってないようなもの。しかし、のちのカーウァイ作品にも登場するモチーフや、カーウァイならではの発想が随所にちりばめられている。

例えば、第1部と第2部の始まりを告げるシーン。金城演じる刑事・モウ(刑事223号)がそれぞれブリジット・リン演じる謎の女と、フェイ・ウェン演じるフェイとすれ違う。映像はストップモーションとなり、彼のモノローグが流れる。

そのとき、彼女との距離は0.5ミリ―57時間後、僕は彼女に恋をしたー。
そのとき、彼女との距離は0.1ミリ―6時間後、彼女は別の男に恋をしたー。

すれ違いから始まる一瞬のアバンチュール。キャッチコピーにもなったこのセリフは、まさに都市における男女の表層的な恋愛関係を表している。そしてこのテーマを端的に表すモチーフが「缶詰」である。

例えば第1部では、モウが失恋した悲しみを、賞味期限が自分の誕生日で切れる缶詰を買うことで埋め、最終的に失った恋人が缶詰と大差ないことに気づく。ここには、あらゆるものが大量生産される消費社会では、人間の愛にも賞味期限があり、代替可能であるという悲しい現実が垣間見える。

一方、第2部で登場するフェイはこの記号を逆手に取る。警官663号の部屋に忍び込んだフェイは、トマトとしょうゆのイワシの缶詰のラベルを貼り直して棚に並べ直す。知らずに缶詰を口にした彼は、違和感を覚えながらも、麺との相性は悪くないと思う。彼女は、むしろ大量消費社会における記号をいじくることで、彼の胃袋をつかむのである。

●躍動感と孤独感を表現するカメラワーク〜映像の魅力

本作の最大の魅力は、なんと言っても手持ちカメラによる躍動感あふれるカメラワークと、ビビッドな色彩感だろう。

第1部の映像監督・アンドリュー・ラウによる映像は、フランソワ・トリュフォーの作品さながらの流れるようなカメラワークと小気味良いテンポのカット割りが持ち味。手持ちカメラでの撮影ながら不快な手ブレは一切なく、観客は視覚的な快楽にどっぷりと浸ることができる。

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第1部の映像監督・アンドリュー・ラウ【Getty Images】

第2部の映像監督・クリストファー・ドイルによる映像では、照明を一切使わず、自然光のみで撮影を敢行。ヴィヴィッドな色彩と青のトーンが印象的なスタイリッシュな映像づくりに成功している(なお、このパートで登場する部屋は、ドイルが実際に住んでいる部屋が使われている)。

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第2部の映像監督・クリストファー・ドイル【Getty Images】

また、本作では全編を通してほとんどのドラマが屋内で展開し、屋外の映像も街の全景を映すようなカットはほとんど使われていない。そのため、映像にはなんともいえない閉塞感が漂っている。

その最たるものが、警官663号が暮らすチョンキンマンションの部屋だろう。彼がCAの彼女とアイコンタクトを交わすヒルサイドエスカレーター(世界最長として知られる)も、窓の隙間からわずかに映るにすぎない。

こういったカットから、登場人物が抱えるぬぐい難い孤独に結びつけて考えるのはあながち間違いではないだろう。彼らはみな孤独を抱えており、お互いの引力で引き合ってはまた離れていく。『恋する惑星』とは、言い得て妙である。

●フェイ・ウォンの無邪気な演技に注目〜演技の魅力

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第2部のヒロインを務めたフェイ・ウォン【Getty Images】

本作のMVPは、第2部のヒロインを務めたフェイ・ウォンだろう。

警官663号の部屋に忍び込み、ころころと表情を変えながらイタズラを仕掛ける彼女。おそらく現実にいたらヤバいやつ認定されるのは確実だが、彼女持ち前の愛嬌とキュートさでとても魅力的なキャラクターに仕上がっている。その無邪気さは、刹那的な人間関係をテーマとする本作にぴったりである。

なお、制作では彼女は、あくまでのびのびと自然体で演じることで役柄を表現。相手役のトニー・レオンは、彼女の無邪気に翻弄され、自らの演技プランを完全に放棄してフェイの演技に身を任せていたという。なお、彼女の役柄は、本作で唯一、彼女の本名と一致する。その点、本作は、素の彼女にスポットを当てたドキュメンタリーとしての特徴も兼ね備えているといえるかもしれない。

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第1部の主人公を演じた金城武【Getty Images】

なお、彼女以外の3人の役者も、豊かな演技を披露している。電話に向かってたどたどしい日本語を披露する新人俳優・金城武の色気、サングラスの奥に透けて見えるブリジット・リンの気高さ、石鹸や雑巾に向かって語りかけるトニー・レオンの哀愁ー--。

こういった役者の魅力は、まさにカーウァイ自身の演出力の賜物である。

●作品のテーマを効果的に表現するポップな挿入歌〜音楽の魅力

本作に登場する曲は主に4つ。デニス・ブラウン『Things in Life』とママス&パパス『夢のカリフォルニア』、ダイナ・ワシントン『縁は異なもの』、そしてフェイ・ウォン自身が歌う『夢中人』である。

『Things in Life』は「変化し続ける世界で、互いに信頼関係を築き、理解し合いたい」という本作のテーマをそのまま表現したような曲。本作では複数回流れるが、印象的なのは金城演じるモウとブリジット・リン演じる謎の女がバーで出会うシーンで、ジュークボックスから流れている。

『縁は異なもの』が流れるのは第2部、警官663号がフェイの店を訪れてデートに誘うシーンである。なお、この曲の歌詞は、昨日まで希望が持てなかった自分に愛を告白してくれる人が現れ人生が一変するという内容で、こちらもこのシーンにぴったりの曲だといえる。

『夢のカリフォルニア』は、警官663号の彼女のお気に入りという設定で何度か登場。その後、フェイが警官663号の部屋を模様替えしているシーンでも劇中内で再生される曲としてそして流れる。また、ラストでは、警官663号の前にフェイがCAに扮して登場する場面で流れ、彼女がカリフォルニアへと旅立つことを示唆する。

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アイルランドのロック・バンド、The Cranberries【Getty Images】

そしてラストで流れるのは、フェイ自身が歌う『夢中人』。アイルランドのロック・バンド、クランベリー(TheCranberries)のヒット曲『Dreams』のカヴァーとして、世界的にヒットした曲である。本曲でフェイは夢の中の恋を歌っており、香港の幻想的な雰囲気にぴったりの曲に仕上がっている。

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