eスポーツの現在地 グローバルトレンドと日本の差

eスポーツの現在地 グローバルトレンドと日本の差

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2022/06/28
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2022年4月27日、世界で100万人以上が釘付けになった「決勝戦」がある。5人からなるブラジル代表チームと北米代表チームが、磨き上げられた技術をぶつけ合い、約5時間にわたる試合を繰り広げた。

これは、eスポーツの話だ。米本社のライアットゲームズが開発・運営するFPSゲーム「VALORANT(ヴァロラント)」の国際大会「2022 VALORANT Champions Tour Stage 1 Masters」で、北アメリカチームの「OpTic Gaming」が僅差で優勝を手にした。

FPSとは、First-person shooterの略で、プレイヤーが操作するキャラクター本人の視点で移動しながら、銃などの武器を用いて戦うゲームのこと。日本では「APEX」などが人気タイトルとして知られている。

決勝戦はさておき、この大会で注目すべきは、日本代表チーム「ZETA DIVISION」が世界3位に輝いたことだ。さらに、試合をめぐって巻き起こった熱狂はこれまでにないもので、Twitterでも関連ワードが多数トレンド入り。日本代表チームを応援するハッシュタグ「#ZETAWIN」は、世界トレンドの1位にもランクインした。

日本のeスポーツは潮目が変わったのか。世界と比較した日本の現状とは。

6月25、26日にはさいたまスーパーアリーナで開催される国内最大規模のオフラインイベント「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2」を前に、ゲムトレ代表の小幡和輝が、ライアットゲームズ日本法人CEOの藤本恭史(ふじもと・やすし)に話を聞いた。

「VALORANT」という成長機会

──日本で人気のFPSというと「APEX」や「PUBG」などが思い浮かぶ人が多いと思いますが、「VALORANT」はこれらのタイトルとどう違うのでしょうか。この1年ほどで爆発的な人気を博したように感じていますが、それは意識的に仕掛けられたものだったのでしょうか?

「VALORANT」(2020年提供開始)は、近未来の地球を舞台にキャラクターを操作して銃撃戦を行う、我々ライアットゲームズが初めて手がけたFPSゲームです。

競技シーン(eスポーツ)を意識してつくられた、ちょっと”尖った”ゲームでして、たくさんの方に気楽に楽しんでもらうというより、このゲームを通じてプレイヤーの方々に技能や知識を高めてもらうタイプのもの。なので、求められる技能やスキルセットも他のゲームとは異なっています。

例えば、より厳密な操作性があり、5対5でのチーム戦なので、プレイヤー同志のコミュニケーションや瞬時の連携、攻撃・サポート・索敵などの役割分担が重要になってくるわけです。

「成長機会」というとおこがましいかもしれませんが、プレイヤーの方々が、今までのゲームとは違う能力を開発できたり、技能を伸ばせたりという新しい興奮をつくることができた。「VALORANT」はゲームトレンドをひとつ変えることができたのではないかと感じています。

また、本格的なFPSであるにも関わらず、キャラクターデザインやブランディングにおいて、スタイリッシュな表現にこだわった点も、大きな独自性の1つです。こういったゲームでは、敵を撃った時にリアルに血が飛び散る表現をするものも多いのですが、「VALORANT」では露骨な描写をなるべく避け、うまくデザインに溶け込ませるように意識しています。それが結果的に、より幅広い層のプレイヤーに受け入れられた理由の1つになったと思います。

プレイヤーが増えれば自然と層は厚くなり切磋琢磨が起きる。するとプロを目指す人も増え、新しい才能が発掘されるエコシステムができやすくなる。そのためには、プレイヤーの頂点で戦うプロ選手の方々にとって、本当の意味で「戦う価値がある場」をいかに提供できるか。それが我々ゲームパブリッシャーにとって重要だと考えています。

──先日の国際大会「2022 VALORANT Champions Tour Stage1 Masters」をめぐる盛り上がりは、何かが違ったと僕も実感しました。ファンが一体となって日本チーム「ZETA DIVISION」を応援していた熱狂を見て、日本のeスポーツシーンが1つ”壁”を超えたんじゃないかと思ったんです。視聴数も桁1つ違う規模感でしたが、この出来事をどう捉えていらっしゃいますか?

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ゲームを通して脳と心を鍛える「習い事」としてのオンラインゲーム家庭教師のサービスを提供する「ゲムトレ」代表の小幡和輝

私は(この大会での盛り上がりは)まだ”Just beginning”だと捉えています。日本代表チームの「ZETA DIVISION」が世界3位になったことで、一気に観客の熱量は高まりましたが、eスポーツの価値を世界と同じレベルまで持っていけるかどうか。それが、今後の鍵になるのではないかと。

ピークの同時視聴は全世界で約100万人でした。前回の2022 VALORANT Champions Tour Stage1 Mastersと言われる世界大会の最高値は41万人。41万人が同時に熱狂できるコンテンツって、いま他にほとんどないと思います。

しかも、メインの視聴者層はZ世代やもっと若い中学生や高校生たち。彼らを3時間とか5時間とか、試合中ずっと夢中にさせているわけです。

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「2022 VALORANT Champions Tour Stage 1 Masters LOWER SEMIFINAL」でZETAとPRXが戦った時のパブリックビューイングの様子(4月23日)

ゲームの試合はスマホやPCで見ている人も多いですが、世界中にはあちこちにパブリックビューイングの場が設けられていて、オフラインでも人々が街を壊しそうなほど熱狂している。実質値でいうと全世界で1億人くらいが試合を見ているという状況が、いまeスポーツの世界では起こるようになってきているんです。

eスポーツは若い世代を惹きつけ、熱狂させ、ものすごく集中させている。私たちはそういう場を提供しているわけですが、日本ではこの事実をまだまだお伝えできておらず、私はマーケティングキャリアが長いのですが、例えばこの市場の可能性を日本のマーケターたちにまだ正確にお伝えできていないのが事実です。

ラグジュアリースポンサーが先行投資

スポンサーの顔ぶれにも変化が起きています。例えば我々の「リーグ・オブ・レジェンド」の世界大会だと、マスターカードやルイ・ヴィトン、さらにメルセデスといったラグジュアリーブランドがどんどん参入しています。

世界のありとあらゆるスポーツに対してスポンサーをしているマスターカードが参入しているということは、つまり「リーグオブレジェンド」が十分に「スポーツ」として認知されているということが言えるわけです。

ルイ・ヴィトンがなぜそれをするのかというと、彼らが通常のマーケティングではリーチしにくい「将来の顧客」に対するブランド認知を高められるから。つまり先行投資です。

ところが、日本では状況が全く異なります。eスポーツの認知や理解のされ方について、世界と日本の間には、ものすごく大きなギャップがある。もはや「世界と日本は違う」というような状況ではなくて、ほとんどグローバルトレンドから取り残されている状態ですね。これは日本にとってマイナスにしかならない。

なので、なんとか日本の状況を世界にグッと近づけて、同じ感覚で対話できる土俵をつくっていかなくてはいけない。それはeスポーツ業界全体で取り組んでいく必要があると考えています。

──どうすれば、世界と同じレベルに近づけることができるでしょうか?

日本では、どうしても「ゲーム」が批判的に見られがちな風潮があります。eスポーツ元年と言われた2018年ごろにも、テレビのコメンテーターが「ただのゲーム大会ですよね?」とか「スポーツと言っているけれど、体は動かしていない」などと発言するのを見て違和感を抱いていましたが、残念ながら世の中の認識はそんなに変わっていないと思います。そういう発言を聞くたびに、日本ではeスポーツが正しく理解されていないと実感します。

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ZETA DIVISION

──その認識を変えていくために、僕は”教育”が大事だと思っています。プロゲーマーになってお金を稼ぐという方向よりも、ゲームをプレイすることで認知力や情報処理能力が高まったり、コミュニケーション力が身についたりする、ゲームの能力開発の側面に注目した方が、ゲーム全体の市場価値が高まるのではないかと。そういう観点から、ゲームを「習い事」にしようと「ゲムトレ」を起業したわけですが、藤本さんは、今後日本のeスポーツがグローバルに追いつくためには、どんなことをするべきだと考えていますか?

「偏見と戦う」ことでしょうか。eスポーツが正しく認識されるように、我々は努力をし続けるべきだと思っています。まずはそれがスタートポイントになるでしょう。

ゲームがプレイヤー自身の能力開発になるという考え方は面白くて、ゲームを「隙間時間を埋めるもの」として見るのか、それとも将棋やチェスのように、メンタルの成長も含めて自分自身の能力開発のツールとして見るのか。捉え方によって、ゲームをプレイした人が受け取るものは全く違ってくるはずです。

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ライアットゲームズ(日本法人)社長/CEO 藤本恭史

ある研究によると、プロゲーマーに目の動きを追うトラックボールをつけて解析すると、サッカーの選手がピッチで行うよりも遥かに多い情報量を瞬時に処理しているそうです。eスポーツの試合は「ただのゲーム大会」などではなくて、とても高度な技能とチームワークを持った人たちが、プロとして戦う場なんだということを、より多くの方に知ってもらいたい。

リアルスポーツとeスポーツのどちらが上とかしたとかそういうことではなくて、フラットにどちらも同じスポーツとして見てもらいたい。

そんなプロの世界で、世界各国・地域の12チームが集結する中で、日本チームが世界3位になったというのはとんでもない快挙です。それを成し遂げた選手たちの素顔を、虚像ではなくリアルな姿として伝えていく。業界全体のそういった取り組みも必要になってくるのではと思います。

こうしたゲームにおける「スポーツ」としての能力開発の側面が、正しく世の中に理解されてくれば、少しずつ変わっていくのではないでしょうか。

藤本恭史(ふじもと・やすし)◎ ライアットゲームズ(日本法人)社長/CEO。国内IT企業でのフィールドエンジニア職を経て、1998年マイクロソフトに入社。業務執行役員、Windows本部長およびセントラルマーケティング本部長、また2015年からはペイパルでマーケティング統括などを歴任し、2018年パブリッシング統括ディレクターとしてライアットゲームズに入社。2022年2月より現職。

小幡和輝(おばた・かずき)◎ 1994年生まれ。ゲムトレ代表。約10年の不登校の後、ゲームで救われた経験から高校3年生で起業。ゲームを通して脳と心を鍛え、コミュニケーション能力を向上させることなどを目的に、「習い事」としてのオンラインゲーム家庭教師のサービス「ゲムトレ」を主宰する。著書に『学校は行かなくてもいい』『ゲームは人生の役に立つ』『子ども稼ぐ力』などがある。

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