『ブレードランナー2049』を100倍楽しむための「バーチャル恋愛」と「バーチャル家族」論

『ブレードランナー2049』を100倍楽しむための「バーチャル恋愛」と「バーチャル家族」論

  • 文春オンライン
  • 更新日:2017/11/12

筋金入りのこじらせオタク・小石輝と大手マスコミの後輩・恋ちゃんによる「ブレードランナー2049」談義の後半は、ネタバレありのブレラン謎解き編です。主人公のブレードランナー・Kとバーチャルリアリティー恋人のジョイ。二人の「バーチャル恋愛」をキーワードにブレランに秘められた謎を徹底的に語り尽くします!(映画未見の方は、まず予習編をごらんください)

◆◆◆

恋ちゃん(以下、恋)「ちょっと小石さん、仕事中に通販サイトを何ニヤニヤ眺めているんですか!」

小石輝(以下、小)「いやー、『ブレードランナー2049』の劇中で、主人公の『K』と、ハリソン・フォード演じるデッカードと、デッカードの飼い犬が飲んでいたジョニーウォーカーが発売されるって聞いたんでな。あわてて予約注文しておいたんよ。それが今見たらもう売り切れで、オークションサイトでもプレミアがついとる。我ながら『先見の明やった』と自画自賛していたところや。ウシシ」

恋「相変わらず、すがすがしいほどのオタクっぷりですねえ(もちろん皮肉)。ところで私、昨日『2049』を観に行ったんですよ」

小「おお、いかにミーハーの君でも、あの大傑作は涙なしには観られんかったやろう」

恋「うーん、何か地味でしたねえ」

小「ゲゲッ」

恋「少なくともデートムービーじゃないって感じ。男の人が感情移入して観る分にはいいんでしょうけどね。特に小石さんのように自我をこじらせて、『一匹オオカミ』を気取っているようなタイプには」

小「……(返す言葉がない)」

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恋「ライアン・ゴズリング目当てで行ったのに、彼が演じるブレードランナー『K』のイケてなさっぷりには呆れましたよ」

小「あいつが人間じゃなくて、人造人間の『レプリカント』やったんが、気にいらんかったんか(ちょっと弱気)」

恋「それはいいんです。小石さんから事前に『ブレードランナー(ブレラン)の本質は、レプリカントが人間よりも人間らしい存在になっていく物語だ』って聞いていたし、前作のレプリカントのロイ・バッティーみたいに人間に反旗を翻し、仲間と自分の未来を懸命に切り開こうとするなんて、かっこいいじゃないですか。だけどKは人間に絶対服従で、仲間のレプリカントを見つけ出しては殺す汚れ仕事を黙々とこなしている。一番許せなかったのは自宅の狭いアパートで、『ジョイ』っていうバーチャルリアリティー(VR)の恋人といちゃついていることですね。正直『キモイ』って思いましたよ」

ジョイは「バーチャルセックス」まで体験させてくれる

小「君もはっきり言うなあ。だけど、物語当初のKは確かに『非リア充のオタク』そのものやな。友達もおらず、唯一の慰めは、3D映像で投影されるジョイちゃんとの『交流』だけ。ジョイは着せ替え人形みたいにどんどん衣装を変えてみせてくれたり、手料理でもてなしてくれたり。果ては街の娼婦の肉体と自分の映像を重ね合わせて、『バーチャルセックス』まで体験させてくれる。オタクは、お気に入りの美少女キャラを半ば自虐的に『オレの嫁』と呼ぶんやけど、ジョイはまさに『究極&至高の嫁』と言ってもええやろう」

恋「ジョイを演じる女優がまた、いかにもアニメのキャラっぽいんですよ」

小「キューバ出身のアナ・デ・アルマスやな。お目々ぱっちりのタヌキ顔&ちょっとだけぽっちゃり系の巨乳で、サド系美女が苦手なオタクのツボを突きまくっとる。『さすがヴィルヌーブ監督、よう分かっとる!』と感嘆せざるを得んわ。今、人工知能(AI)と頭部に映像ディスプレイを装着するタイプのVRがすごい勢いで進化しているけど、この2つを組み合わせたら、現実世界でもジョイに近い『VR恋人』が登場するのは時間の問題やろうな」

恋「で、小石さんみたいな人が、どんどん現実の女性よりもVR美少女との恋愛ごっこに耽るようになる、と」

小「やかましいわ! 女性は現実の方がええに決まっとる。オレも正直、最初はジョイに違和感があったけど、色々と考えるうちに、ジョイはこの映画を理解する鍵を握っている、と思うようになったんや」

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「自己繁殖できるレプリカントの製造」の謎

恋「へえー。どういうことですか?」

小「まあ、その話をする前に、映画の流れを振り返ってみようや。冒頭、Kが処分した潜伏レプリカントの自宅地下から、出産直後に死亡したと思われる古い女性レプリカントの骨が発見される。レプリカントに子供は産めないと思われていたから、これは大変なことや。人間とレプリカントの境界が崩れることを恐れたKの上司は、Kに生まれた子供を探し出して処分し、すべてを闇に葬るよう指示する。一方で、レプリカントの製造元であるウォレス社の社長は、失われた技術である『自己繁殖できるレプリカントの製造』の謎を解き明かすため、部下のラブを使ってKを追い、レプリカントの子供を手に入れようとする。物語のおおよその構図はこんな所やな」

恋「驚いたのは、子供を産んだ女性レプリカントは、前作で主役のデッカードと共に逃亡したレイチェルだったということですね。つまり、Kが追っている子供というのは、デッカードとレイチェルの間に生まれた子だったんですよね」

小「ブレランの続編は絶対無理、作ったとしても大駄作になる、とオレらブレランマニアは思い込んでいたからなあ。『その手があったんか!』と正直うならされたわ。話を戻すと、捜査を続けるうちにKは、実は自分がデッカードとレイチェルの子供ではないか、と思い始める。そやけど、最後の最後になって『それは、自分がデッカードの子供と同じ記憶を埋め込まれていたために見た幻に過ぎない』という事実に直面させられるんや」

恋「『自分は特別な存在かもしれない』と思いかけたのに、『やっぱりその他大勢の1人だった』と思い知らされる。多くの人が辿る道かもしれないけど、残酷ですよね」

小「それでもKは、ウォレス社に拉致されたデッカードを命がけで救い出し、捜査の過程で見つけ出した『デッカードの本当の子供=娘』と再会させようとする。どちらとも本当は赤の他人やのに、なんでそこまでやったと思う?」

恋「そりゃあ、デッカードと娘に情が移ったからでしょう?」

小「それだけで、命まで賭けると思うか。オレはこの展開を見ていて、ヴィム・ヴェンダース監督の『パリ、テキサス』を思い出したんや」

ヴィルヌーブ監督が『パリ、テキサス』を意識していた可能性

恋「旧ブレランと同時代の傑作ですね! ナスターシャ・キンスキーがすごくきれいだった……」

小「そうそう。この映画では家族3人が最初はバラバラやけど、失踪していた父親が息子と再会することで物語が動き始める。父親は息子との関係を取り戻し、一緒に母親を探す旅に出るんや。父親は風俗店で働いていた母親を見つけ出し、マジックミラー越しに長い対話をする。そして『やっぱり家族3人では暮らせない。妻を愛しすぎ、束縛してしまうから』と思い至るんや。そやけど、父親の務めとして、息子の居場所を母親に教え、2人を再会させる。そして自分は1人で去っていく、というストーリーや」

恋「確かに『2049』も、デッカードと娘をKが見つけ出して再会させるけど、3人が一緒に会うことは決してない。ロードムービーであることや、ガラス越しの再会であることも同じですね」

小「確証はないけど、ヴィルヌーブ監督が『パリ、テキサス』を意識していた可能性はかなり高いと思うで」

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ナスターシャ・キンスキー ©getty

Kとデッカードの娘との間には、血縁以上の強い結びつきがある

恋「だけど、そうするとKも『デッカードの家族の一員』ということになりません?」

小「その通りや。少なくともK自身はそう考えていたと思う。いや、それを『自分自身の物語』として主体的に選び取った、と言った方がええやろう。確かにKの記憶は偽物で、デッカードとも娘とも何の血縁関係もない。工場で生まれた孤独なレプリカントや。そやけど、Kはデッカードの娘と記憶を共有している。『記憶』というのは、煎じ詰めれば『自分はどのようにして生まれ育ち、なぜ今ここにいるのか』という物語であり、自分自身のアイデンティティーに他ならない。それを共有しているということは、Kとデッカードの娘との間には、血縁以上の強い結びつきがある、と言えんやろうか」

恋「なるほど……」

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偽の記憶をベースにし、Kの内面だけで成立する「バーチャル家族」

小「そしてKは『デッカードが自分の血を分けた子のために作った木彫りの馬を、自分がすごく大切にしていた』という記憶も持っている。その記憶は確かに本当ではないけれど、生々しいリアリティーがあり、自分自身のアイデンティティーとして信じ込むことはできる。つまり、Kは最終的に『デッカードは自分の父親であり、デッカードの娘は自分の妹や』という物語を自らの意志で選び取り、その物語を信じて生きることにしたんやと思う」

恋「自分の記憶がまがい物=フェイクに過ぎないと分かっていても、それを信じざるを得ないなんて、切ないですね……」

小「偽の記憶をベースにし、Kの内面だけで成立する『バーチャル家族』という所やな。オレはKにとってのジョイも、本質的には恋人というよりも『母親』やったんやと思う。Kに『あなたは特別な存在なのよ』とささやきかけて、『ジョー』という名前をつけたのはジョイやからな。ジョイはいつもKに優しく、Kに対してひたすら献身的や。『恋人』と考えると男にとって都合の良すぎる存在やけど、『母親』と考えたら自然な振る舞いに見えてくる。前作のブレランは、デッカードとレイチェル、ロイとプリス、という男女の愛の物語やったけど、『2049』は家族の物語なんや、というのがオレなりの結論や」

恋「小石さんの説を聞いて、やっと私もKに感情移入できるようになってきましたよ。ところで、小石さんは先日『2049を見て、デッカードがレプリカントか人間かの結論が出た』『なんで前作の最後で、ロイが恋人や仲間の仇であるデッカードを助けたのか分かった』と言っていましたよね。あれはどういうことですか?」

小「オレの個人的な解釈では、デッカードは間違いなく人間や。理由は、ウォレス社の社長は、デッカードの娘をのどから手が出るほど欲しがっていたけど、デッカードについては『娘の居場所を知るための情報源』としか見ていなかったこと。もしもデッカードもレプリカントやったら、『生殖機能を持つレプリカントの1人』ということになり、社長はデッカードの体も自分で徹底的に調べようとしたはずや」

恋「なるほど。じゃあ、ロイがデッカードを助けた理由は?」

なぜレプリカントのロイはデッカードを助けたのか?

小「旧作を見直したら分かるんやけど、ロイはデッカードとの最後の対決時に、デッカードの名前を知っていて直接呼びかけているんや。だけど、ロイがデッカードの名前を知る機会は、物語の流れの中では一度しかない。それはロイたちを創造し、ロイに殺されたタイレル社社長の部屋や。ロイはタイレルを殺した後、自分たちにとって有用な情報がないか、部屋の端末か何かを使って徹底的に検索したんやろう。

ロイはそれによって、自分たちを追っているのがデッカードであること、デッカードがレイチェルをかくまっていること、そしてレイチェルが子供を産める体であることを知ったんや。『憎い仇やけど、見方を変えれば自分と同じように、惚れた女を救おうと懸命に戦っている健気な男なんや』という共感が湧いたんやと思う」

恋「それに、デッカードがレイチェルと一緒に逃げ延びられて子供ができれば、レプリカントの未来にも新たな希望が生まれる、ということですね」

小「ロイは自分の寿命を伸ばすという希望を打ち砕かれ、恋人と仲間を失い、絶望していた。そやけど、デッカードとレイチェルに未来を託することで、初めて安らぎを得て死んでいったんやと思う。Kも、自分の大切な記憶やかけがえのない人がすべてフェイクだったことを知って一度は絶望するけど、自分の『家族』であるデッカードと娘に未来を託することで、初めて微笑みを浮かべ、静かに死んでいく。この二つの場面で『Tears in Rain』という同じ切ない曲が流れるのは、必然やと思うで」

恋「だけど、旧ブレランでロイがデッカードの名前を呼ぶのは、単純な作り手のミスかもしれませんよね」

小「まあ、そうやろうな。そやけど、ブレランレベルのすごい作品になってくると、スタッフの勘違いも含めてすべて『事実』として受け止め、自分なりの解釈を試みるのも意味があると思うで。それは、人生という『自分自身の物語』を紡ぐ訓練にもなるからな。オレたちがロイやKから真に学ぶべき教養は『自分自身の絶望の物語を、希望の物語へと反転させる意志の力』だと思うんや」

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(小石 輝)

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