世界から見た大相撲問題の本当の「異常さ」

世界から見た大相撲問題の本当の「異常さ」

  • ITmedia ビジネスオンライン
  • 更新日:2017/12/08
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大相撲の暴行事件騒動が、まだくすぶっている。

これまで、暴行事件が起きた夜に実際何が起きたのかについてさまざまな話が報じられてきたこの問題。11月30日に日本相撲協会から中間報告が出されたことで、話は相撲協会と貴乃花親方の対立に移っているようだ。そんな中でも、九州での冬巡業は厳戒態勢の中で続いている。

筆者は最近、日本を訪問していた知人のカナダ人ジャーナリストと会った。大手メディアで記事を書いているこのジャーナリストとの会話の中で、日本のメディアで連日報じられている相撲の話になった。その中で彼の返すコメントは、興味深いものだった。

この知人は日本独特の文化として相撲に興味を持っているものの、実は相撲そのものについてはほとんど知らない。ただ逆に、詳しく知らないからこそ、このジャーナリストの反応はストレートで考えさせられるものだった。相撲に何ら思い入れのない外国人からの意見を聞いていると、現在の騒動を俯瞰(ふかん)して客観的に見る手助けになる。

そして、日本相撲協会の中間報告などで詳細が明らかになってきた今、今回の騒動で出てきた話の中にはやはりいくつか「異常」なものがあることに改めて気が付いた。

筆者はまずこの知人に、できる限り簡潔に今回の騒動について、ことの顛末(てんまつ)を説明した。相撲の簡単な説明や、さらに最近まで横綱は4人中3人がモンゴル出身力士だったこと(ひとりはすでに引退を発表)、また、日本人の横綱は2000年から17年1月まで1人としていなかったこと。過去には暴行事件や八百長事件が問題になったこと、などだ。

そして今回の騒動についても、秋巡業の鳥取場所に訪れていた横綱3人を含むモンゴル人力士など少なくとも5人が、大会前日に一緒にラウンジの個室で酒を飲んでいて、暴行事件になったことを説明した。

大相撲、外国人には「Fixed」に映る

すると、それまで相槌を打ちながら聞いていた知人は、力士たちが一緒に酒を飲んでいたとの話の部分で「それは相撲の世界ではオッケーなのか?」と聞いた。

そう、その問いこそが「異常さ」のひとつなのだ。

これから戦う者同士が、試合の前日に一緒に過ごしているというのは、このジャーナリストに違和感を覚えさせたのである。さらに会話が進むと、「相撲は“Fixed”(不正に仕組まれている)だと言われても文句は言えないな」と、知人は言った。

客観的に見ると、個人戦の相撲で対戦するはずの仲間同士が仲良くしていると、取り組みに関しても“助け合っている”可能性を指摘する声が出るのはもっともである。相撲を愛する人たちにしてみれば「普段一緒に飲んでいても、星を“助け合う”なんてことはあり得ない」と言いたいかもしれないが、相撲を贔屓目(ひいきめ)に見ない「外部」にはそれは通らない。

結局、外国人には大相撲が「Fixed」であるかのように映ってしまう。少なくとも、世界的にもそう認識されても仕方がないということだ。欧米ではどんなスポーツも賭博の対象になっているし、勝負には多額の賞金が出る。例えば、今回の騒動を報じた英公共放送BBCは、顛末に加えて、力士がトップに上り詰めると、スポンサー料などを含め月に6万ドルは稼ぐと書いている。大金が動く勝負の世界では、「真剣勝負かどうか」「不正はないか」というのは非常に大事な部分である。

週刊新潮は12月7日号で、モンゴル力士同士の「星のまわし合い」(いわゆる“無気力相撲”を取るなど)について詳細な記事を掲載している。それを受けて、日本相撲協会は抗議文を送ると発表しているが、もちろんこうした疑惑はこれまでも相撲の世界で何度も指摘されてきた話である。にもかかわらずモンゴル人力士同士が大会前日に一緒に酒を酌み交わしていたという事実自体、相撲界の認識の甘さを露呈している。

大会前日に酒を酌み交わす問題

外国の相撲ウォッチャーの間で、相撲は「Fixed」だと見ている人は少なくない。その理由のひとつには、2007年に米国で出版されたベストセラーの『Freakonomics(邦題:ヤバい経済学)』という書籍がある。ジャーナリストのスティーヴン・J・ダブナー氏と、大学教授のスティーヴン・D・レヴィット氏が共同で書いた同書には、相撲についての話が登場する。

2人は1989年から2000年までの取り組み結果のデータを駆使して、千秋楽で「7勝7敗」の力士についてデータを調べている(力士は1日1戦、15日の15戦を戦う)。相撲では基本的に勝ち越しによって番付が昇格する可能性が高まり、賞金も増える。それを踏まえて、同書は、千秋楽に「7勝7敗」の力士と「8勝6敗」の力士が対戦したときのデータをまとめている。「8勝6敗」の力士は千秋楽で破れても勝ち越すことが決まっており、「7勝7敗」の力士はその取り組みで勝ち越しできるかどうかが決まる。

そこで過去のデータを見ると、「7勝7敗」の力士が勝つ可能性は普通なら48.7%だが、実際には、79.6%になっていることが分かったと、同書は指摘している。ちなみに「7勝7敗」同士の力士の取り組みでは、両力士とも勝ち越したいために「Fixed」される可能性は低く、真剣勝負になる可能性が高いことが分かったという。同書はこれについて、「最も理にかなった説明は力士らが星のまわし合いの合意をしていることだ。どうしても勝ち星の必要な今回勝たせてくれたら、次回は勝たせてあげる、というものだ」と指摘している。

この本は400万部を売り上げ、35カ国で翻訳された大ベストセラーで、社会現象にもなった本である(参照リンク)。世界中で多くがこの話を読んでいることになる。

今回の中間報告で、日本相撲協会はモンゴル力士同士の会合についてどんなコメントをしているのか。以下、紹介したい。

「『モンゴル力士会』という、いわゆる生活互助会がかなり前からありまして、横綱がいくら、幕内がいくら、十両がいくらということで、場所後の力士会の後に集めて、これを病気になった力士のお見舞金とか、冠婚葬祭の費用、あるいはモンゴルの子どもが病気になった、支援を求められたときに支援金を出すというボランティア活動をしています。そういう意味でこの会は、言われているようなアスリート間で食事をするような会ではありません。ここ数年間はがんになった力士がいたこともあり、以前は残ったお金で忘年会もしたことはあったようですが、ここ数年間はしていないということも確認いたしました」

ただ鳥取ではそれが実施されたということらしい。

もともと、貴乃花親方は、モンゴル人力士同士での会食をよろしくないと考えていたという。「貴乃花親方はとんでもない人権侵害をしている」といった指摘もあるが、世界的に見ると親方の考え方が正しい。繰り返すが、確実に対戦することになる相手と大会前日に酒を酌み交わすというのは真剣勝負の個人戦の世界ではあってはならない。

元名古屋高検検事長が県警幹部に電話

もうひとつ「異常」なことは、警察にまつわる話である。報道によれば、11月30日に行われた日本相撲協会の理事会では、暴行事件について相撲協会に協力することを拒否している貴乃花親方と理事のメンバーとの間で緊迫したやりとりがあったという。

その中で、出席者の1人が「県警に電話をしてみよう」と提案。外部理事で危機管理委員会の高野利雄委員長が、鳥取県警の幹部に直接電話を入れたという。サンスポによれば、元名古屋高検検事長の高野氏は県警幹部に電話し、「貴乃花親方が協会の聴取に協力すると、捜査の妨害になるのか?」と問うたというのである。しかも、「捜査幹部」はご丁寧に事件に直接関係のない第三者に対して「そちらの判断で決めてくれていい。聴取されても差し支えない」と述べたらしい。

これは特に捜査においてプライバシーや人権問題、透明性・公平性などが広く議論されている昨今、世界的に見ても考えにくい話だ。まだ起訴されてもいない捜査中の事件について、部外者に捜査当局側の見解を個別に述べるのはいかがなものか。もっといえば、その内容うんぬんではなく、電話で部外者に対して捜査関連の話をする行為そのものが問題で、さらには、その見解が、別の組織(相撲協会の理事会)の意思決定のプロセスに影響を与えているというのにも違和感がある。

そればかりか、突然「電話してみよう」とすぐに電話をできるのは、そこにもともと何らかの「関係性」が存在しているといった状態を想像してしまうのは筆者だけではあるまい。

もっと言うと、高野委員長がホットラインで捜査に影響を与えることすらできるのではないかとの印象も与えかねない。もちろん、警察や相撲協会に言わせれば、そんなことは100%ありえないということになるのだろうが、誤解を招く行為なのは間違いない。

この点についても、知人のカナダ人ジャーナリストは「相撲の協会の委員長は捜査関係者に直接電話して、電話一本で捜査について聞き出せるほどの力を持っているの?」とも指摘した。

警察側はこの話が公になったことにどう感じているのだろうか。これを不可解に思ったのは、私たちだけではないだろう。

もちろん相撲協会に悪気はないだろうし、直接的な過失はない。かなり頭の痛い問題だというのが率直な意見だろう。もちろん、協会が「Fixed」に加担している可能性は考えにくい。

ただやはり、この騒動、どこか根本的にずれている気がしてならない。

筆者プロフィール:

山田敏弘

元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。

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