忘れられない男 最終回:大好きだった彼が、突然失踪したワケ。女の“失われた3年”に決着の時

忘れられない男 最終回:大好きだった彼が、突然失踪したワケ。女の“失われた3年”に決着の時

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  • 更新日:2017/12/12

春香が、24歳のとき。

心から愛していた男が、ある日忽然と姿を消した。

その日から、春香の時計の針は止まったまま。食事会に行っても新しい恋人が出来ても、まとわりつくのはかつて愛した男の記憶。

過去の記憶という呪縛から逃れることのない女は、最後に幸せを掴み取る事ができるのか?

3年前に姿を消した原因をさぐるために祐也に会ったものの、もう一度やり直そうと言われ戸惑う春香。同時に慶一郎からも話があると言われる。

2人から全く同じ日に呼び出された春香が向かった先とは—!?

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「どういうことなのか、きちんと説明して欲しいの」

強い口調で言う春香の視線の先には、怯えたように視線を落とす慶一郎の姿があった。

「私と祐也のこと、全て知っていて私に近づいたって…本当なの?」

慶一郎を問い詰めながらも、春香の胸の中は、どうか嘘であって欲しいという気持ちで一杯だった。

しかし慶一郎は、しょんぼりとした表情で答えた。

「ごめん…その通りだ」

そして、一つずつ順を追ってゆっくりと説明をしていく。

祐也とは大学時代から知り合いだったこと。当時からFacebookを見て春香の顔を知っていたこと。そして3年前に祐也が春香を捨てて逃げたのを知っていたということも。

「大学時代、俺、別れた彼女のこと引きずってたって言ったよね…」

慶一郎は遠い目をして語る。

ちょうどその頃は就活の時期で、慶一郎はどうしても入りたかった第一志望の銀行に落ちたばかりだった。ところが祐也は、そこの内々定をもらっておいて、銀行なんて興味ないとあっさり蹴って今の会社に入ったのだと言う。

慶一郎は話しながら、時折悔しそうな表情を見せた。

「就活も思い通りで、春香ちゃんみたいなかわいい彼女もいて、なんであいつばっかり人生楽勝なんだろうって思ってた。別れたことを聞いたときは、俺だったら絶対に、あんな可愛い子を捨てたりしないのにって思ったんだ」

そしてある日たまたま、春香と会った。顔を見てすぐに祐也の元彼女だと気づき、運命だと思ったという。

「知らなかったふりをしていたことは謝る。きっかけは確かに祐也だったけど…でもそのあと本気で春香ちゃんを好きになったんだ。それだけは嘘じゃないって信じて欲しい」

「…わかった。それは信じるよ」

春香が答えると、慶一郎はぱっと表情を明るくする。

「ほんと?だったら俺と…」

しかし春香はきっぱりと言った。

「ごめん…慶一郎君の気持ちには、答えられない」

そして椅子から勢いよく立ち上がる。

「私、行くね。まだ、やらなくちゃいけないことがあるの。今度こそ、本当に蹴りをつけなくちゃいけないことが」

祐也の待つ展望台へ向かう春香。

彼が姿を消した理由

六本木ヒルズの展望台に向かうエレベーターの中で、まるでフラッシュバックのように記憶が蘇った。

—春香。君のことが誰よりも好きだ。

付き合っていた頃に、甘い言葉を囁きながら、展望台のスカイデッキで春香を強く抱きしめた祐也の声。

忘れかけていた過去の記憶をはっきりと思い出しながら、春香の結論はすでに出ていた。

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「寒っ…!!!」

スカイデッキに一歩出ると、冬の冷たい風がびゅうびゅうと吹きつける。マフラーが飛んでいきそうになるのを手でおさえながら、春香は祐也の姿を視界に捉えた。

「…春香。来てくれたんだ」

嬉しそうに両腕を広げる祐也に向かって、春香は尋ねる。

「ねえ、今日こそ教えて。どうしてあのとき、突然私の前から姿を消したのか」

祐也はしばらく気まずそうな顔をして下を向いていたが、意を決したように顔をあげて、言った。

「あのとき…携帯電話をなくしたんだ。それで、春香と連絡がとれなくなった」

数秒間、春香の頭の中を大量のクエスチョンマークが埋め尽くしていたが、すぐに我に返った。

「はっ?3年間、携帯電話失くしてたとでもいうわけ?嘘をつくならもう少しまともな嘘つきなさいよ!仮に携帯なくしたって、他に連絡とる方法いくらでもあるじゃない!」

春香が怒りで震え始めると、祐也は諦めたように大きなため息をついて、話し始めた。祐也の吐く息が、ふわりと白く浮かんでは消えていく。

「わかったよ、正直に話す。でも携帯を失くしたのは本当。1週間くらいで手元に戻ってきたけど、携帯がない間、春香と連絡が取れなくなって、自分でも驚くくらい気が楽になっていることに気づいたんだ」

そして祐也は、春香のことを重荷に感じていた自身の気持ちに気がついてしまい、途端に解放されたい気分に駆られたのだと言う。

「あの頃の春香さ、担当弁護士にいじめられてるから仕事辞めたい、だから早く結婚したい、いつになったら結婚してくれるの?って。顔を合わせればその繰り返しだったじゃん。俺、それに疲れてたんだ」

春香は唖然とした。3年前の事件の原因は、他でもない自分自身にあったのだ。

「別れようなんて言ったら春香が発狂するのも、そう簡単に別れてくれないのも、目に見えてたし、ただでさえ仕事も忙しいのにそんな厄介はごめんだって思って…それで逃げた。本当にごめん」

放心状態となっている春香の元に、祐也は近づいて、春香の手を握りしめた。

「でも、今は後悔してる。春香ほど俺のことを好きになってくれる子は、その後も現れなかった。あの頃はどうかしてたんだと思う」

そして春香を強く抱きしめた。

「傷つけて、本当にごめん。もう2度と君を傷つけない。もう一度言うよ。失った3年を、これからやり直そう」

「祐也…」

春香の頰をゆっくりと涙が伝っていった。

春香が出した答えは?

過去の記憶からの解放

それから半年後。

「川口さん、書類出来てる?」

担当弁護士に尋ねられ、春香は慣れた手つきで書類を揃えて渡す。

「ありがとう!いつも助かるよ」

裁判所に向かう弁護士の背中を見送りながら、ホッと一息ついた春香の肩を、事務長が軽く叩いた。

「最近よく頑張ってるじゃない」

この半年間、春香はまるで人が変わったように仕事に没頭している。

きっかけは、仕事から逃げ出したくて祐也に依存していた自分の甘さに気がついたことだった。心を入れ替えて、ゼロから頑張ろうと決めたのだ。数ヶ月前からは担当する弁護士が増え、他の事務所から入所したばかりの、若手弁護士の担当にもなった。

若手弁護士・藤堂が関わったチームの案件がようやく片付いた頃、彼からディナーに誘われた。

「藤堂先生って素敵だよね〜」

ひそひそ囁く同僚たちの間をくぐり抜けてそっとオフィスを飛び出し、待ち合わせ場所の店『サンス・エ・サヴール』に向かう。

途中で通りかかった店先のショーウィンドウで、春香は足を止めた。

—あっ…。もう何ヶ月もあったはずのバッグがなくなってる…。やっぱり買えばよかった。

これまでいくらでも買うチャンスはあったというのに、いざ売り切れてしまうと、急に喉から手が出るほど欲しくなるから、皮肉なものだ。

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ふと春香は、半年前の出来事に思いを馳せる。

あの日、春香は結局、祐也の手を取らなかった。展望台に向かうエレベーターの中でフラッシュバックした春香の記憶。心が震えるような甘い思い出だったけれど、春香は同時に思い出したのだ。

祐也とかつて登った展望台は、いつだって大喧嘩をした後。祐也が浮気をするたびに大泣きをする春香の機嫌をとるため、その都度連れてこられてきた場所だった。

思えば、付き合っている間も泣いてばかりの恋だった。でも春香は3年間、それを思い出さないようにしていた。過去を美化するがあまり、辛い記憶に蓋をして過ごしていたことに、そのとき気づいたのだった。

それはまるで、ショーウィンドウの中からある日突然消えてしまった売り切れのバッグのようだと思う。手に入らないものに人は執着し、それを欲しがる。でも目を覚ましてみれば、あれはただの革製のバッグでしかない。

店に着いてソワソワしていると、少し遅れて藤堂が現れた。

コース料理を堪能しながら会話が弾む。この数ヶ月、仕事を通して苦楽を共にするうちに、いつのまにか二人の距離は縮まっていた。

デザートが運ばれてきたタイミングで、藤堂が口を開く。

「…川口さんって、彼氏いるの?」

真剣な眼差しで春香を見つめる彼の後ろから、キラキラとした温かい光が差し込んでいるように見えた。

―Fin.

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