自衛隊のトイレットペーパー自腹問題に終止符。防衛予算「微増」で

自衛隊のトイレットペーパー自腹問題に終止符。防衛予算「微増」で

  • 日刊SPA!
  • 更新日:2019/09/14

―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―

◆その63 自衛隊員の「待遇改善」が予算の概算要求に明記された

防衛省が令和2年度予算の概算要求を出しました。予算規模は総額5.3兆円となり、報道では「過去最大」とされています。しかし、この程度の「微増」では自衛隊の悲惨な内情を補うことは到底できないでしょう。東アジアの情勢を鑑みれば、GDP比2%以上の軍事費でも、いざと言うときに国を守り切れるとは思えません。国民の生命と財産を守る気概が、我が国には微塵も感じられないことを悲しく思います。

しかし、たった一つ評価したいことがあります。この連載で過去何度も取り上げた「トイレットペーパー自腹問題」や官舎の老朽化など、隊員の生活全般を改善するための予算が付いた点です。「トイレットペーパー自腹問題」が取り上げられた昨年11月の臨時国会で、安倍総理が「このミクロの問題についてはただちに対応していきたい」と述べましたが、この約束が果たされたということです!

政府の本気度はすさまじく、一部屋まるまる「トイレットペーパー・ルーム」という部屋が突如出現した駐屯地もあります。問題を真正面から受け止めてくれた政府の「どうだ! まいったか!」という声が聞こえてくるようです。

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自衛隊駐屯地のトイレに突如、出現したトイレットペーパーの山。少しずつではあるが、ここ数年予算が上積みされていることで、自衛隊員の「待遇改善」に繋がった一例といえよう

今回の概算要求には「隊員の生活・勤務環境改善のための備品や日用品等の整備に対して24億円。隊員が士気高く任務に専念できるよう、老朽化した生活・勤務 用備品の更新や日用品等を整備に対して環境改善のための自衛隊施設の整備で586億円」が共に計上されています。

この問題を知る人が増え、国会でも取り上げられた結果です。これですべての自衛隊員の生活面の問題が改善されるわけではありませんが、はっきりと明るい希望の光がともりました。これまで、経費自腹負担に不満はあっても「どうせ誰も取り合ってくれない」と自衛隊員は諦めていました。

しかし、問題を粘り強く訴えていくことによって、自衛隊の「待遇問題」が広く周知されることとなり、国も重い腰を上げて待遇改善に向け動き出してくれたのです。少しずつですが、世論がよい方向に形づくられていくのを見て、この連載を続けてきてよかったとつくづく思いました。

自衛隊は「何ができないか? 何が足らないか? 何に苦しんでいるのか?」といった自衛隊の宿痾をリポートしたこの連載が『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』という新書になりました。この問題は我が国の国防に大きな病巣となっていますが、地味で目立たぬものです。この機会にぜひ多くの人に知っていただきたいと思います。

◆すべては「トイレットペーパー」から始まった――

国会でも取り上げられた通り、何もかも足らない自衛隊を象徴していたのが「トイレットペーパー自腹問題」でした。本編に、腹痛でトイレに飛び込んで用を足した後、トイレットペーパーがなくて苦悩する自衛官の体験談が出てきます。その体験談の主・A君に防衛省概算要求にトイレットペーパーの予算が付いたと話をしたところ、「“ギャツビー事件”ならぬオレの“ケッツビー事件”がみんなの役に立ったか~!」と大喜びでした。その自衛官A君は失敗を笑い飛ばす明るさがありました。何事も悲観せず乗り越えていく強さは魅力的です。

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※写真はイメージです

さて、何でも笑い飛ばす豪快な人の周りにはさらに豪快な人がいるようです。トイレットペーパーがなく苦悩した自衛官の経験談を聞いて元医官(自衛隊のお医者様)が続けて一言呟きました。

「こいつバカだな」

こちらの彼は階級が高かった元自衛官ですから、トイレットペーパーがないことくらい予想しておけと叱責するのかと思いました。上司だから上から目線なのかと見上げると、彼はニヤニヤしながらまったく予想外の言葉を浴びせかけます。

「バカだな。少しは頭を使え…。そんなときは……靴下があるじゃないか」

あまりの発言に呆然としているA君に堂々と彼は続けました。

「靴下は両足に2足ある。4回は尻を拭ける。頭を使え」

その後は、お互い顔を見合わせて大笑いしていました。シテヤラレタ感じです。野営で困ったときに編み出した知恵だそうです。豆知識で覚えておくといいとのことですが、「うーん、どう考えても役に立ちそうもないです」とお答えしておきました。

自衛隊で長く過ごすとトンデモない問題によくぶち当たるのだそうで、いちいちキレたり困ったりしても仕方ないので、その場にある何かで切り抜ける方法を考えます。そういった場面を笑いに変えることも大事です。少しでも自衛官がその生活に誇りを持てるように必要な予算はしっかり付けてもらいたいものです。自衛隊員のポジティブな素養はドケチに対処するものではなく、誇りを持って敵に立ち向かう場面で発揮すべきものです。国が要望に応えてくれたことには心から拍手したいと思います。

◆メディアは防衛費の「肥大化」を煽るが、防衛省の概算要求は「微増」にすぎない

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陸上自衛隊Facebookより

防衛省の令和2年度予算の概算要求は総額5.3兆円規模と「過去最大」となりました。しかし、必要な予算を積み上げ式で計算すればこの程度の規模で収まるはずがなく、これではまた必要なものを我慢することになります。この程度の微増では大型化する装備品の兵站を賄うことができません。有事に継続しての戦闘能力を保てる「弾薬・燃料・人員」を十分に持てなければ、あっという間に撃破されてしまいます。どんなに優秀な戦闘機や空母を持っていても弾がなくなれば、ただのオモチャです。

我が国は本当に国民を守る気があるのでしょうか?

先進国の軍事費はGDP比2%が最低ラインだと思います。東アジア情勢が一瞬即発の緊迫を増すなか、我が国は有事に必要な弾薬や燃料を備蓄し、国民を守ろうとしないまま安穏と過ごすつもりでしょうか? 米国のトランプ大統領はときおり同盟国である我が国に対して、日米安保の不公平感を解消するようあからさまに求めてきます。目の前に火種がある我が国が自国防衛努力を怠れば、いつまで米国は依存させてくれるのか不安です。

◆緊迫化する朝鮮半島情勢を考えれば、軍事費のGDP2%超えを目指した議論を

韓国がGSOMIA(軍事情報に関する包括的保全協定)の破棄を告げてきました。米韓関係もかなり険悪になってきています。朝鮮半島内部の人間を介した情報(ヒューミント)は減ることでしょうが、我が国が軍事情報に困るほどではありません。

そんななか、韓国の文在寅大統領は在韓米軍の撤退を推し進めようと、関係改善とは真逆の方向に暴走しています。北朝鮮と韓国の関係も、北朝鮮のミサイルがたびたび韓国沖に発射されるなど、朝鮮半島有事が現実になりそうな緊張状態が続いています。これはつまり、我が国の対馬沖が戦場になる可能性が日に日に高まっているわけです。

有事に対して弾薬や燃料や輸送手段を準備しなくていいのでしょうか? 朝鮮半島から来るボート難民対処に収容施設や警戒要員を準備しなくていいのでしょうか? 何もなければいいのでしょうが、この予算では不安は拭えないのです。

―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―

【小笠原理恵】

国防ジャーナリスト。関西外語大卒業後、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動を開始。2009年、ブログ「キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)」を開設し注目を集める。2014年からは自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」を主宰。自衛隊が抱えるさまざまな問題を国会に上げる地道な活動を行っている。月刊正論や月刊WiLL等のオピニオン誌にも寄稿。日刊SPA!の本連載で問題提起した基地内のトイレットペーパーの「自費負担問題」は国会でも取り上げられた。9月1日に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)を上梓

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