なぜ、ジャッジに時間をかけてはいけないか|村田和也監督 『正解するカド』『鋼の錬金術師 嘆きの丘(ミロス)の聖なる星』『翠星のガルガンティア』など

なぜ、ジャッジに時間をかけてはいけないか|村田和也監督 『正解するカド』『鋼の錬金術師 嘆きの丘(ミロス)の聖なる星』『翠星のガルガンティア』など

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  • 更新日:2017/08/16
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アニメ『正解するカド』で特徴的な映像を創り出し、多くのファンを魅了した村田和也監督。瞬時にジャッジを下さなければいけない理由と、その秘訣を語っていただきました。

村田和也(むらた・かずや)氏:アニメーション監督。松下電工(現・パナソニック)に就職した後、退社し、スタジオジブリの演出研修制度の第1期生となる。『おもひでぽろぽろ』『海がきこえる』などに参加した後、スタジオジブリを離れる。制作会社オー・エル・エムの設立に参加した後、フリーとなり『交響詩篇エウレカセブン』(演出)、『コードギアス 反逆のルルーシュ』(副監督)などに参加。映画『鋼の錬金術師 嘆きの丘(ミロス)の聖なる星』で劇場初監督を務める。2018年春より、村田和也監督×ボンズのSFアニメ『A.I.C.O. -Incarnation-』がNetflixで独占配信される。

★ この連載について ★
1本のアニメ作品に関わるスタッフは100人以上。アニメーション監督は、そんな大所帯を率いて作品の完成を目指すプロジェクトリーダーだ。作品をちゃんとまとまった形にするために、監督は打合せで狙いを説明し、成果物をチェックしてOKかNGかをジャッジする。アニメはそんな「打合せ」と「チェック」の積み重ねで出来上がっている。アニメーション監督はそこでどのようなマネジメントを行い、作品をあるべき形へと導いているのか。さまざまなアニメーション監督の作品づくりを支えるマネジメント術から、ビジネスパーソンにも役立つポイントを伝えていく。

ジャッジに時間をかけてはいけない理由

――村田さんの作品を取材すると「成果物に対するジャッジが早い」という声をスタッフの方からよく耳にします。それは意識的に心掛けているのでしょうか?

村田:はい。たとえば作品に登場するキャラクターのラフ画が上がってきて、それを見た瞬間に違和感があれば、その違和感をもとになるべく早く返事をします。

なぜなら、見た瞬間の感想がいちばん鮮度が高いからです。お客さんは常に初見で作品を判断するわけですから、自分が見た瞬間に違和感があれば、お客さんも「それってなんか変じゃない?」と、同じように無意識的にでも何か感じるはずなんです。

ところが時間を置くと見慣れてしまい、これはこれでよいかと思ってしまったりもするわけです。そうすると、お客さんの感覚から離れてしまう。それが、作品をつくるうえで一番怖いことです。

――返事に時間がかかることはないのでしょうか。

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村田:それは、こちらのオーダーとぜんぜん違うものがあがってきた時ですね。

ちゃんと説明したにもかかわらず、まったく違うものが上がってきた場合は、その人なりの考えがあるのかもしれないし、自分の伝え方が間違っていたのかもしれない。或いはそのアイデアに乗り換えたほうがおもしろくなるかもしれない、と考えることもあります。

作品の根本に関わる部分でそういう迷いが生じた場合は、さすがに時間をかけて考えざるを得ません。逆に言えば、根本がしっかり決まっていることが、ディティールに対するジャッジを早くすることにも繋がるわけです。

――村田さんが、そういう自分なりの監督スタイルを確立したのはいつごろでしょうか?

村田:じつは、自分なりの監督スタイルってないと思ってるんです。自分の監督作は短い作品を除くと、制作中のものも含めて4タイトルありますが、すべて成り立ちや状況が違うんです。なので、企画の事情ごとに監督の身の置き方も変えざるを得なくて。自分としてはどこかでスタイルを確立したという意識はあまりないんです。

『正解するカド』で挑戦したこと

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『正解するカド』絵コンテのガイドライン(※画像クリックで拡大画像を別タブで表示)

――総監督としてクレジットされている『正解するカド』の場合はどうだったのでしょうか。

村田:『正解するカド』は自分が参加できる期間が限られていたので、もともとはPVの制作だけ引き受けたんです。ところが、PVは本編の特徴的なシーンを抜き出して作ることになり、メインキャラクターのデザインを決めなくてはならない、脚本も完成させなくてはならない……となり、だんだん関わりが深くなっていきました。

そうして作品の基礎的な部分を固めたということで総監督の表記になりました。絵コンテ作成や演出処理(画面づくり)など、本編の実際の映像づくりはシリーズディレクターの渡辺正樹さんに委ねています。その際、私の趣旨なり必要な情報は、マインドマップなどにまとめたりして引き継ぎました。

――PVをつくるうえで、どんなことを意識されましたか。

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『正解するカド』公式サイトはこちら
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©TOEI ANIMATION,KINOSHITA GROUP,TOEI

村田:どのような映像のテイストでいくべきか、作品のルックを探りました。『正解するカド』はメインキャラクターを3DCGで描いています。

制作現場となった東映アニメーションのデジタル映像部は長い歴史を有しますが、3DCGによるキャラクター表現については後発組です。

だからこそ、この作品では後発組であるデメリットを吹き飛ばすような“何か”が必要だろう、と考えました。

作品の舞台が現代の東京なので、主人公まわりのビジュアルで特徴を出すのは難しい。となると、作品を特徴づけるには高次元世界(※作中では「異方」と呼ばれている)から現れた1辺2kmの巨大な立方体「カド」の表現を印象的にする必要がある。

そこでマンデルブロ集合というフラクタル図形の一種を使うことを提案したんです。技術的なハードルはかなり高かったそうですが、スタッフの方たちが工夫して可能にしてくれました。

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写真を拡大©TOEI ANIMATION,KINOSHITA GROUP,TOEI

――スタッフの間から「無理です」という声は出なかったのでしょうか。

村田:最初は「分からない」というところからスタートしましたが、幸い「無理です」という言葉は出ませんでしたね。それは技術者としての好奇心、未知のものへと踏み込むおもしろさに訴えかけるものだったからかもしれません。

未知のものを知りたい気持ちを、僕は知に利するという意味で「利知」と呼んでいますが、それは人間を行動に駆り立てる大きな要因だと思っています。

――利知ですか。

村田:はい。以前、ある作品に参加したことをきっかけに、人間の行動原理を自分なりに考えてマインドマップにまとめたことがあるんです。その時に人間の欲求には3つの直交するベクトルがあると思い至りました。

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村田さんが「人間の3欲求」を整理したマインドマップ(※画像クリックで全体画像を別タブで表示)

ひとつめは「利己」で、自分を守ろうとする欲求。もうひとつが「利他」で、家族や種族・同胞など「自分以外の仲間」を守ろう、維持しようとする欲求です。そして3つめが「利知」。広い意味での探究心です。

たとえば、ゲームなどの娯楽を途中でやめられないのも「一瞬先を知りたい、体験したい」という欲求があるからだろうと。これら3つの欲求軸が、フレミングの法則の手の形のようにxyz軸として直交して存在している、というのが私の考えです。この3欲求を整理したことが、作品づくりにも役立っています。

――どのように役立っているのでしょうか。

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©BONES/Project A.I.C.O.

村田:まず、キャラクターの人間性を考える際の具体的な手がかりになります。さらに、視聴者と作品の関係を考える際にも役立ちます。

たとえばサスペンス作品であれば、その作品のどの部分をお客さんに訴えかければよいか。

お客さんの利己欲求に訴えかけたいなら、主人公のピンチに視聴者を同調させ「ハラハラさせる演出」を仕掛けます。利他欲求に訴えかけるなら、「主人公や特定の登場人物を救いたい」と思わせる展開が必要です。利知欲求であれば、「犯人探しや謎解きのおもしろさ」を前面に出すべきです。それらを、どれか一つではなく、常に3軸同時に意識しつつ、場面ごとに何に重点を置くかバランスをとることが肝要だと考えています。

すべてのスタッフは成長途上にある

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――自分なりの人間観を持つことは、作品づくりと深い関係があるのですね。それはチームをマネジメントするうえでも役に立つことはありますか?

村田:そうですね。この3欲求軸を意識するようになってから、こちらの打ち出しに対して、スタッフのリアクションがそれぞれ異なることを自然に受け止められるようになりました。「この人のモチベーションは、利己、利他、利知がどういうバランスで構成されているのか」。そこを想像すると、成果物をチェックする視線も変わります。それは、相手に投げ返す時のアプローチの変化にも繋がります。

――監督としてスタッフと接する時に意識していることはありますか?

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村田:「すべてのスタッフは成長の途上にある」ということです。自分も含めスタッフは皆、この仕事を通じて成長しようとしているんです。

その途上において、この仕事はどういう意味を持っているのか。カウンセラーみたいに事細かに立ち入るわけではありませんが、監督として人の成果物をチェックする時は、そこを常に考える必要があると思います。

監督業というのは、人の力を借りないと完結しない仕事です。だからこそ、その人のキャリアにとってその仕事がどんな意味を持つのかを考えることは重要だと思っています。

――ありがとうございました。

▼村田和也監督の作品づくりにまつわるマインドマップ(※初公開資料)
『正解するカド』絵コンテのガイドライン
『正解するカド』処理上の注意点
『仕事』についての考察(3欲求の整理)

★ 今回のポイント ★

思考を整理して、瞬時にジャッジを下す

ジャッジの早い上司と遅い上司、どちらが好ましいでしょうか。おそらく多くの方が前者と答えると思います。しかし、どんなにジャッジが早くてもそこに一貫性がなければ、現場は終始振り回されることになります。一貫性のあるジャッジを瞬時に下すには、考え方を根本までしっかり煮詰めておくことが必要です。また、マインドマップなどを用いて指示の全体像を可視化して現場と共有することは、大掛かりなプロジェクトをひとつの方向に導くたしかな原動力にもなるはずです。(編集部より)

取材・執筆:藤津亮太(アニメ評論家)
'68年、静岡県生まれ。'00年からフリー。アニメ作品・アニメ業界への取材を行っている。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)『チャンネルはいつもアニメ』(NTT出版)『声優語』(一迅社)『ガルパンの秘密』(廣済堂新書、執筆は一部)などがある。TV番組に出演したり、複数のカルチャーセンターで講座も担当する。

▼この連載の記事一覧
“イエスマン”がいたほうがいいんです|大地丙太郎監督
“考えさせる”と“悩ませる”は違う|水島精二監督
相手を見極めずしてディレクションはできない|片渕須直監督
本当に大事なことをシンプルな言葉で伝える|伊藤智彦監督

『正解するカド』絵コンテのガイドライン

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『正解するカド』処理上の注意点

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『仕事』についての考察(3欲求の整理)

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