「モール反対」で自治体とイオンが対立! その突破口はイオンによる「行政のお荷物解消」だった

「モール反対」で自治体とイオンが対立! その突破口はイオンによる「行政のお荷物解消」だった

  • ハーバー・ビジネス・オンライン
  • 更新日:2017/12/11
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11月23日に増床棟(写真右)が開業、「巨大化」したイオンモール甲府昭和。周辺自治体の反対もあるなか、大規模な増床を果たすことが出来た理由とは……

「観光客は富士山へ行き、地元客はイオンへ行く」――。

11月23日に増床リニューアルオープンを迎えた山梨県最大のショッピングモール「イオンモール甲府昭和」(昭和町)は連日多くの地元客でごったがえしており、まさにそういった謳い文句が聞こえてきそうな状況だ。

しかし、全国各地で巻き起こるイオンの出店をめぐる行政や中心商店街との対立はここ山梨県でも同様だった。2011年の開業以前から今回の増床に至るまで、イオンモールは「商圏の破壊者」として県や周辺自治体からの猛反発を受け続けてきた。

そうしたなか、イオンが反対派をかわすことができた大きな要因は、イオンモールが「行政のお荷物解消」を買って出たことだった。

◆山梨最大の巨大イオン計画、反対運動で「大幅縮小」に

甲府都市圏のベッドタウンである山梨県昭和町へのイオン出店計画が明るみとなったのは2000年代半ばのことであった。

イオンが出店を計画したのはJR甲府駅から南西約7kmほどの場所で、当初は山梨県最大となる店舗面積4万8000㎡の巨大ショッピングセンターを建設する計画であったが、2007年1月に甲府市中心部の活性化を公約に掲げていた横内正明氏が山梨県知事に当選。「昭和町にイオンが出来れば甲府市中心部の衰退を加速させかねない」との考えから、横内知事はイオンに対して計画の見直しを求めた。

知事の動きに賛同するように、同年3月には甲府商店街連盟が計画反対派4万5000人の署名を集めたが、翌4月には出店先である昭和町で計画推進派による5万人以上の署名が集まるなど、利害関係者の意見は真っ向から対立。最終的にはイオンは山梨県との協議により、当初計画から4割減となる2万8000㎡の店舗面積で「イオンモール甲府昭和」を2011年3月に開業させることとなった。

これは、当時山梨県で最大の商業施設であった地場百貨店「岡島百貨店」の店舗面積(約3万2000㎡)を大きく下回る規模であり、店舗面積4万8000㎡での開業を前提にしていたイオンモールにとってみれば当初計画の6割以下の面積となったことは「大」がつくほどの誤算だった。

開業翌年の2012年、イオンモールは山梨県に増床計画を提出し、本来目指していた店舗面積4万8000㎡での再出発を図ろうとした。

しかし、これにはかつて建設計画の見直しを要求した山梨県をはじめ、甲府市、中央市、甲斐市、南アルプス市といった昭和町を囲む自治体が猛反発。まさに「四面楚歌」の状況に追い込まれたイオンモールは、2012年11月に増床計画の中止を強いられることとなった。

◆「お荷物再開発ビルの再生」で手に入れた増床権

甲府昭和の増床計画が未遂に終わり、計画認可への糸口を模索していたイオンモール。そうしたなか、同社が目をつけたのが甲府市中心部で不振に喘いでいた再開発ビル「ココリ」だった。

ココリは大型店の相次ぐ撤退により地盤沈下が叫ばれていた甲府市中心部の活性化を目的に2010年8月に開業。総事業費約107億円のうち半分を甲府市と山梨県、国がそれぞれ補助金として負担した。

「ココリ」とはビルが所在する「甲府市紅梅町オリオン通り」の略に由来し、建物は20階建て。20階~9階がタワーマンション、8~7階が宝石専門学校、6階~3階が駐車場、そして2階~地階が商業施設となっている。

ココリは上層のマンションが僅か2か月で完売するなど好調な滑り出しを見せた一方で、下層の商業施設は宝石の国として知られる同地方の特産品をアピールしたいという思惑から「アウトレットジュエリーモール」を核としたため、官庁街にあるという立地とのミスマッチもあって大きく苦戦。テナントの撤退が相次ぎ、2011年12月には2階をサブカル店中心の「ホビータウン甲府」に改装したが根本的な集客不振を解消するには至らず、ジュエリーモールを核店舗に決めた行政の責任が問われる事態となっていた。

そうしたなか、ココリの救済に手を挙げたのはイオンモールだった。

2014年末にココリとプロパティマネジメント契約を結んだイオンモールは、翌年の2015年春から2016年夏にかけてココリの大規模改装に着手する。

そして、スーパーマーケット「イオン」を核に、「イオンリカー」、「未来屋書店」といったイオン系テナントや、「築地銀だこ」、「サンマルクカフェ」といった飲食店を誘致することで利便性を大幅に改善。地域密着型の都市型ショッピングセンターとして生まれ変わったココリは好調な滑り出しを見せることとなった。

こうしたイオンモールによるココリ再生を「地域貢献策」として評価した山梨県は、2016年7月にイオンモール甲府昭和の増床計画を容認。さらに、2017年1月には甲府市、甲府商工会議所、甲府商店街連盟とイオンが「地域貢献協定」を結び、長年の対立関係は一気に雪解けへと進んだ。

そして、増床予定面積を12パーセント削減するというイオン側の譲歩や、増床反対派だった横内前知事の退任などといった複合的要因もあり、イオンモール甲府昭和はようやく今年11月の増床リニューアルオープンにこぎつけたのだった。

◆甲府市民の願いやいかに……中心部と郊外で広がる「イオン格差」

瀕死状態にあったお荷物再開発ビル「ココリ」を再生することでようやくイオンモール甲府昭和の増床を認められたイオン。

とはいえ、テナントの多くを自社グループで固めたココリと、増床棟に数多くの有名チェーンを誘致した甲府昭和とでは、イオンモールによる「力の入れようの差」は歴然であり、「イオンが海老(ココリ改装)で鯛(イオンモール増床)を釣った」という見方をされるのは当然だ。

甲府市中心部からイオンモール甲府昭和までは路線バスで約30分かかる距離であり、車を持たない住民にとって気軽に行ける場所ではない。

10月末の取材時、ココリに買い物に来ていた甲府市民の一人は「ココリは物足りないかな。昭和のモールが羨ましい」と正直な気持ちを吐露。かつて山梨県が実施した買い物環境に関するアンケート調査でも「甲府市にもイオンモールみたいなものがあったら」という甲府市民の声が多く聞かれており、郊外の巨大モールに憧れを抱く一方で、同じイオンが運営するココリの物足りなさに不満を覚えてしまう甲府市民は多い。

また、イオンモールの手で一時は全区画が埋まったココリだったが、今年1月には同社が誘致した「築地銀だこ」が2年足らずで撤退するなど、11月現在で3区画が空き床に逆戻り。かつてジュエリーモールが核店舗であった頃の「惨状」と比べたらマシな状況には変わりないが、イオンモール甲府昭和の増床リニューアルが中心市街地に与えた影響は少なくなく、ココリの利用者からは「今後大丈夫なのか」という不安の声も上がり始めている。

その一方で、増床リニューアル後のイオンモール甲府昭和には、ココリから撤退した「築地銀だこ」のほか、「H&M」、「ZARA」、「GAP」といった甲府市にはないファストファッション店が集結するなど、ココリとは対照的にさらなる充実を見せている。

山梨県最大のイオンモール開業から6年、同社は紆余曲折を経て甲府市中心部と郊外の昭和町の商業地図をイオン一色へと塗り替えることに成功した。お荷物再開発ビルの再生は流通最大手だからこその成せる技であったと言えるが、郊外モールと都市型ショッピングセンターという、かつて敵対関係であった両者をともに繁栄させ続けていくことは困難を極めるであろう。

富嶽を望む宝石の国で、イオンは今後どういった未来図を描くことができるのだろうか。

<取材・文・撮影・図表制作/佐藤(都市商業研究所)>

都市商業研究所
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken

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