なぜ喫茶室ルノアールには「ユニークな客」が集まるのか

なぜ喫茶室ルノアールには「ユニークな客」が集まるのか

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/02/19
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サラリーマン、経営者、フリーランス、主婦、シニア、ホスト、はたまた一見怪しげな職業の人までが一堂に会し、思い思いの会話をする場所。それが都心を中心に約100店舗を構える喫茶店「ルノアール」だ。なぜ同チェーンは、「ユニークな客が集まる、カオスな空間」となったのか?ルノアール好きが高じて、電子書籍「喫茶室ルノアール“本”店 vol.1」まで出版した「ルノアールを愛する会 会長」の山内真太郎さんが解説する。

ユニークな客が集まる「懐の広さ」を紐解く

「ほら見て見て、私のウオノメ、こんなにでっかいの!」
「それではこの商談は、そのように進めさせていただきます」
「俺にクリリンぐらいの戦闘力があったら、気円斬で切り刻むところだったよ」
「そもそもさ、月刊ムーは秘密結社をつくりすぎなんだよ!」
「*%&?$“S+*A=+(ちょっとここでは書けない話)」

見渡せば、主婦、シニア、カップル、ゴスロリとコワモテのカップル、サラリーマン、フリーランサー、ホスト、作家、芸能人、インバウンド、経営者、ここでは書けない職業の人……。このような会話や人物たちが同居しているカオスな空間が、世界にいくつあるでしょうか。

喫茶室ルノアール(以下、ルノアール)。1964年に生まれ、現在東京都心を中心に約100店舗を構えるこの喫茶店チェーンは、世界でも稀有な「人種のるつぼ」です。

しかもこの現象が、なんと100店舗すべてで起きているのです。世の中に数多ある喫茶店の中で、なぜ「ルノアール」にだけそのような特異な現象が起きているのでしょうか。

私は「懐の広さ」が桁違いだからではないか、と思っています。サクッと言ってしまえば「何ごとも程々に良い感じで、かゆいところに手が届きまくる」ということなのですが、詳しくご説明していきましょう。

ちなみに上記の会話は、すべて筆者がルノアール店内で耳にした実話です。

理由1:広大なパーソナルスペース

ルノアールの特長を語る際、「席がゆったり配置されていること」に異論を挟む余地はないでしょう。隣の客と肘が触れ合うことは絶対にありませんし、ノートPCを開いたら誰かにガッツリ覗かれるなんてことも、ほぼありえません。

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実はルノアールには、客同士のプライベート空間を確保するために「1坪あたり1.5席」という基本ルールがあります(※超都心部の狭小店舗は除く)。

席ごとのパーソナルスペースが広いため、面接やヒソヒソ話、時には示談などの「ちょっと込み入った話」をしても周囲に聞かれる心配が少ないのです。つまり、「込み入った話をしたい事情を抱えた人が皆、ルノアールに集まる」というわけです。

この「1坪1.5席ルール」が生まれた背景は、ルノアールが創業間もない頃にさかのぼります。「新店舗をオープンさせる際に、内装にお金をかけすぎて、椅子やテーブルを予定通り買い揃える予算がなくなったため仕方なくゆったり配置したところ、客にウケた」という冗談のような実話が、時を経てルール化されていったようです。

単位面積あたりの費用対効果を考えてみても、あえてこの方針を貫き続ける姿勢は見事というほかありません。

理由2:永住したくなる数々のホスピタリティ

ルノアールを語る上で欠かせないのが、「他の追随を許さない過剰なまでのホスピタリティ」です。

コンセントが使え、無料Wi-Fi完備、最近では名刺スキャナーまで使えます。また、熱々のおしぼり、無限に提供され続ける熱いお茶なども有名ですね。

ルノアールを転々としながら仕事をしているフリーランサーの中では、これらのうち「コンセント、無料Wi-Fi、無限お茶」のことを「ルノアール三種の神器」と称しているとかいないとか。

「長時間こもって何かしたい」という人が遠慮なく長居できるからこそ、ルノアールには様々な人が集まるのでしょう。

私も店内で「モーニングを注文して閉店までいた人」や「外付けHDDを10台テーブルに並べて大掛かりな動画編集している人」などのツワモノを見たことがありますが、読者の皆さんは店内の混雑状況を見ながら紳士的にご利用くださいね。

……と、ここまでは皆さん既にご存知のホスピタリティかと思いますが、実はルノアールのホスピタリティはまだまだあるんです。たとえば、椅子。ルノアールにはさまざまな形状の椅子があるのですが、実はこれ、時代とともに変化しています。

バブル期の頃、ルノアールはいわゆる「サラリーマンのオアシス」として有名で、サボリーマンたちが新聞(これも無料)を読んだり昼寝したりする牧歌的な空間でした。その時代の椅子は、ゆったり長居(サボり)できるように、どっしりと腰をうずめる形の、低く柔らかいソファ状のものが好まれたそうです。

そして時代が移り、いろいろとサボりづらくなったサラリーマンたちにとってルノアールが「移動の合間の軽い息抜きの場」となるにつれ、「サッとコーヒーを飲んで、パッと席を立つ」ニーズが大きくなり、店内の椅子の背は垂直に近い角度になり、座面も高いものに変わっていきました。

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また、日本の便器の主流が和式から洋式になるにつれて現代人の腰が弱くなってしまい、「低いソファに長時間座っていると腰を痛める恐れがある」ことも、この傾向に拍車をかけたそうです。椅子の背の角度にまでこだわるホスピタリティの高さ、すごいですよね。

もちろん、今でもふかふかソファを配置している店舗はたくさんありますので、TPOに合わせた椅子選びが可能です。どの椅子にどんな人が座っているのかを観察するのも、ルノアールの味わい方のひとつです。

理由3:「どこでもオフィス」を実現するコピペ内装

先述の「パーソナルスペースが広い」「長居しやすい」以外にも、様々な場所にあるルノアールを点々と利用するヘビーユーザー、特に自前のオフィスを持たないフリーランサーたちから挙げられる「ルノアールが好きな理由」が、「どの店舗も同じような内装デザインだから」というもの。

ルノアールの店内は、すべて「大正ロマン」あるいは「昭和モダン」な内装で統一されています(現在、新店舗や改装店舗は「昭和モダン」に移行中)。つまり、どのルノアールを訪れても「いつもの空気感」が約束されているわけです。

これは、「いつも同じ環境で仕事ができる」という点で「自分のオフィス」と同義です。しかも、新宿や銀座、品川などのあらゆる超一等地に「自前のオフィスが100ヶ所ある」というとんでもない状態になっているのです。

「シェアオフィスを契約してもいちいち行くのは面倒だし、コワーキングスペースを転々とすると毎回環境が異なるので落ち着かない」という人々にとって、ルノアールは「都心100ヶ所に散らばるマイオフィス」と言えます。

この際ここに登記できるようになればいいのに、といつも思います。そんなわけで、比較的ラフな、時に奇抜な服装であることが多いフリーランサーたちが、こぞってルノアールに集まるわけですね。

理由4:そもそも「喫茶店」ではない

ところで皆さま、お気づきでしょうか。喫茶店の記事にもかかわらず、ここまで私、コーヒーの話をしていません。そう、ルノアールを訪れる客の多くは、「別にコーヒーを飲みに来ているわけではない」のです。

ルノアールは、喫茶店にあらず。いや、もちろん美味しいコーヒーを提供してくれるんですが、その本質は創業当時から連綿と受け継がれる「ルノアールは空間提供業」という考え方なのです。

ゆったり話ができるのも、長居ができるのも、すべては「何かをしに来ているお客様のため」なのです。

数々のホスピタリティは、そのような多様なニーズに応える、という一点に収束します。「コーヒーを飲みに来ている人」ではなく「何かやることがある人」がターゲットですので、客層が多様になるのは必然です。私は「コーヒー代は空間使用料」だと思っています。

理由5:モラルを守る「価格戦略」

もはや母性すら感じられる「包容力の鬼」のようなルノアールにも、ひとつだけ来店ハードルがあります。それは、価格。

ルノアールのコーヒーって、微妙に高いんです。

店舗によって微差がありますが、だいたいコーヒー1杯500円台後半〜600円台。しかし、この価格戦略がうまく効いています。

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ルノアールは空間提供業ですから、客に良い空間を提供しなければなりません。そうすると、下校途中の中高生が部室がわりに使ったり、コンパ帰りの大学生がワイワイ騒いでいたりすると、他の客の迷惑になってしまう恐れがあるのです。

そのため、絶妙に高い価格設定にすることで、そういったリスクを排除できるわけです。私はメニューの価格表を眺めるたびに、「カオスは喜んで受け入れるが、モラルハザードは起こさないぞ」というルノアールのたしかな美学を感じます。

ルノアールは、その土地の多様性を映し出す「鏡」

ルノアールにユニークな客が集まる理由、おわかりいただけたでしょうか。

しかし「ルノアールにユニークな客が集まる」からといって、「全店同じようなカオス具合になっている」わけではありません。

そう、ルノアールには、店舗ごとに「色」があるんです。

渋谷周辺の店舗には比較的若い客が多く、にぎやかな空気です。英会話のマンツーマンレッスンに使っている方もちらほら。

歌舞伎町周辺では、夜の仕事をしている方が多いため平日の昼間や夜にカオス具合が増します。

そして銀座は所得の高そうなマダムが多くて、新橋はやはりサラリーマンが多いです。

都心からちょっと離れた場所、例えば鎌倉市の大船では、病院の待合室よろしく地元のシニア同士の憩いの場になっています。

このように、ルノアールが店舗ごとに異なるカオスを形成できる理由は、その土地らしい人々を丸ごと受け入れているからなのです。

そんな「ローカルな客」に加え、様々な街のルノアールを点々と利用する「回遊型の客」、初めて訪れる「一見さん」が店舗ごとにミックスされることで、「マクロで見てもミクロで見てもカオス」というルノアール像を作り出しているのでしょう。

さらに最近では、通訳機の導入を開始し、インバウンドまで取り込もうとしています。ただでさえカオスで満腹なのに、さらにグローバルをトッピングして「カオスマシマシ」に向かっています。恐るべし、ルノアールの懐。

さて、ここまでカオス、カオスと言ってきましたが、ルノアールがカオスなのは、あくまでも他の喫茶店チェーンと比較した場合に限ります。

ルノアールはカオスなのではなく、単に「その街の色」を忠実に映し出しているだけなのです。「客を選ぶ」という視点を極力排除し、その街がそれぞれに持っている豊かな多様性を、おおらかに受け入れているだけなのです。「街」と「ルノアール」は隔絶されているのではなく、極めてフラットにつながっているのです。

それでもあなたがまだ「ルノアール=カオス」だと思っているのであれば、実はあなた自身が、その街の本来持っている多様性に気づいていない、あるいは目を背けているだけかもしれません。

「空間提供業」というルノアールの創業以来の哲学から、私たちは「多様性」という現代のキーワードを導き出すことができます。あなたもぜひ、ルノアールの包容力に抱かれに行ってみてください。そして、「カオスの一部」ではなく「その街の一部」になってみてください。

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(株)銀座ルノアール社長をはじめ、各業界の「ルノアール・ファン」インタビューがこの一冊に!

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