美を創出して生きるミャオ族の文化に触れる「ミャオ族の刺繍と暮らし展」

美を創出して生きるミャオ族の文化に触れる「ミャオ族の刺繍と暮らし展」

  • @DIME
  • 更新日:2017/12/07

日本最高の知性と呼ばれた小林秀雄は、以前、小学生、中学生たちにこう語りました。「すみれの花を、黙って、一分間眺めてみよう。諸君は、どれほどたくさんなものが見えてくるかに驚くでしょう」(『美を求める心』新潮社刊より)

花の名前がわかった瞬間に、花そのものを理解しようとする意識がなくなってしまうことを知っていた小林秀雄は、子供たちにすぐに記号に置き換えないで、黙ってすみれを見ることを伝えようとしました。

現代は、インターネットで調べればすぐさまビジュアルも歴史も一目瞭然、一瞥して情報を処理することが多くなっていますが、12月10日まで三軒茶屋の「生活工房」で展示されている「ミャオ族の刺繍と暮らし展」は、黙って一分間、眺めて欲しい展示です。

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お祭りの正装「百鳥衣」

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黄とピンクの刺繍で埋めつくされた藍染めの服(部分)

ミャオ族は、中国西南部の山岳地帯に暮らす少数民族で、山あいの棚田で稲を育て、お祝いの日には餅を作り、納豆も蕎麦も食べ、漆を使い、麹で酒を醸します。自然のすべてを神として崇拝し、祖先の霊を祀って生活する文化は、日本人の心の原風景とよく似ています。最近までずっと文字を用いず、歌と刺繍などで神話や文化を伝えて来た、というあたりは、太安万侶が稗田阿礼から古事記を聞き書きした頃の日本の文化を思い起こす人もいるかもしれません。元々は揚子江流域に住んでいたミャオ族は、秦の始皇帝の時代に戦に敗れて次第に山岳地域に住むようになったと言われますが、今も急峻な山あいで棚田の文化を維持していることに、驚きます。

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梅影村の歓迎祭りに参列する村人たち(写真:佐藤導直)

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棚田の稲刈り(写真:佐藤雅彦)

その美しさで世界的に有名なミャオ族の刺繍は、女性たちが愛する者のために一針一針心を込めて縫い上げたもの。ミャオ族の女性は6歳になると母親から織物や刺繍を学び、自ら布を織って、スカート、上着、帯、帽子、靴、背負い帯や自分の花嫁衣装まで、細密な刺繍を施した衣類を作ります。何年もかけて作られたものもあり、特に子供の背負い帯や上着、帽子、靴などの刺繍は精緻を極め、下の布が見えないほど、刺繍が施されます。

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舟渓の廬王祭に参加する正装の娘たち(写真:佐藤雅彦)

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革一の背帯。祭りの様子が描かれている。

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同(部分)

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ミャオ族と文化や居住地が似かよっているトン族の子供用帽子

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同(部分)

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施洞の『姉妹節』に参加する少女(写真:佐藤雅彦)

子供たちのための刺繍が精緻なのは、「布目から魔が入る」というミャオ族の古くからの言い伝えによるもの。医療機関も少ない山岳地帯では、子供の生命を守るのは容易なことではなく、子供の無事を祈ってひと針ひと針刺繍を施すのだそう。また、図柄も、ミャオ族の神話に出てくる生き物や、宇宙を感じさせるモチーフ、またミャオ族の歴史が織り込まれ、子を思う親の無償の愛がこのような美を生み出すのかもしれません。

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鎖繍(ソウシュウ)という技法で円が描かれたトン族の上衣

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同(部分)

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錫を綴じつけた剣河の上衣(部分)

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今回の展示は「1996年にミャオ族の刺繍に出会って魅せられ、ただただ愛し、個人的に蒐集を重ねてきた」という佐藤雅彦さん、瑞代さんご夫妻が、20年に渡るミャオ族の人たちとの交流で授かった約1000点のうちの一部。お二人は、古民家の自宅の2階を「苗族刺繍博物館」にしつらえ、また、2001年には、学校に行けないミャオ族の子供たちのために、無償で通えて、刺繍や語学を学べる学校を創設しています。

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『ミャオ族の刺繍とデザイン』(苗族刺繍博物館著/大福書林)写真:西岡潔

ミャオ族の暮らす貴州省は、中国でも最も貧しいと言われる地域。義務教育とはいえ教科書代などが必要になり、ミャオ族の人たちは現金を得る手段として、大切な刺繍を売って子供たちを学校に通わせていた時期に、佐藤さんご夫妻は、託されるような形で刺繍を購入したそう。

「北京に留学していた時に、北京に刺繍を売りに来ていたミャオの人たちのコミュニティと知り合って、その人柄の暖かさと刺繍の美しさに魅せられ、ほとんどお預かりするような形で集まった刺繍です。美しいミャオの伝統を残して欲しい、字も書けない子供たちに教育の場を提供し、刺繍・織物の習得からミャオの歌、文化を勉強できる機会があれば、と、学校を設立しました。その後、有志の方たちの力をお借りして37名の卒業生を輩出しました。今は、欧米をはじめ、たくさんの方がミャオの刺繍の魅力に気づいてくださるようになりました」(佐藤瑞代さん)

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「台江・梅影村の禾苗刺繍学校校舎」写真:佐藤 雅彦

※この校舎写真は、2006年創設時のもの。現在は施洞鎮に移築されています。

ミャオ族の人たちの文化と祈りと年月が織り込まれた刺繍の数々には、精緻でありながら、なぜかホッとする温かさがあるのはなぜでしょう?と佐藤さんご夫妻に尋ねてみると、「ルーペを持って刺繍を見てください。ほんのちょっと不揃いなところがあり、そこがまた、ハンドクラフトならではの温かさを感じさせてくれますから」と。お話くださった佐藤さんご夫妻の思いとミャオ族の刺繍の作り手の気持ちが重なっているようだなあ、と眺めていると、さらに、どれほどたくさんのものが見えてくるか、驚くような展示です。

会期:開催中(2017年12月10日まで)
場所:三軒茶屋キャロットタワー3階、4階「生活工房」にて開催中。
時間:11時〜19時・月曜休。
✳会場では「刺繍学校」の生徒たちが刺繍した作品も購入でき、売上は刺繍学校の運営に役立てられます。また、ミャオ族の刺繍の写真が収録されている『ミャオ族の刺繍とデザイン』(大福書林刊)も会場で販売中。

■生活工房HP:http://www.setagaya-ldc.net

文/尾崎 靖(エディトリアル・ディレクター)

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