人生はやり直せたらパーフェクトか!? 過去へ跳び何度もやり直した男の末路『回遊人』

人生はやり直せたらパーフェクトか!? 過去へ跳び何度もやり直した男の末路『回遊人』

  • ダ・ヴィンチニュース
  • 更新日:2018/01/13
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『回遊人』(吉村萬壱/徳間書店)

「あの日、あのとき、あの場所に戻れたら」と思ったことはありませんか? 私たちの誰もがふとした瞬間に、ありえたかもしれないもう一つの人生について考えたことがあるはずです。『回遊人』(吉村萬壱/徳間書店)は、そんな「もう一つの人生」を歩む男の話です。

主人公は書けない小説家の江川。妻と子の三人暮らしで平凡で慎ましいながらも、それなりに幸せな家庭を築いていました。しかし、デビュー作以降の作品の筆がなかなか進まず、経済的に行き詰まっていくうちに、家族との関係でも行き詰まりを感じるようになります。妻に対する結婚の条件として衝動的に旅に出ることを了承させていた江川は、ある日取材と称し売春宿の多い地域に出奔します。ドヤ街の食堂で見つけたのは、小さな怪しい白い錠剤。小説のネタになるならよし、死んでも構わないと考えて、あろうことかそれを飲み干してしまうのです。目覚めると、そこは10年前。まだ妻と結婚する前の世界でした。

最初のやり直しの際、江川は望んでいた女性を妻とし、社会的な成功も手に入れます。10年後の世界から来た江川には売れる本のあらすじが分かっているので、本来の著者よりも早く本を書き、ベストセラー作家に成り上がるのです。社会的に成功すると、それまで自分には見向きもしなかった人からの注目も集めるようになります。江川はやり直した人生で充実した生活を送るはずでしたが、「元」の世界の妻子が気になってしまい、やり直した人生を楽しむことはできないのです。そして何度か人生をやり直し、誰も予想していなかった結末を迎えます。

小説の前半では、江川の欲求や煩悩の記述が多く一部、官能小説を読んでいるのではないかと思わせるような内容です。しかも江川の子どもはまだ小学生。人の親であるにもかかわらず妻子を残して出奔し「小説のネタになるならよし、死んでも構わない」という発想を持つこと自体、人間性を疑います。後半からは一気に物語のスピードが速くなり、本作のクライマックスである「妻か妻の友人か。過去へ跳び、人生を選べ。何度も」を迎えるのです。

読み終えた私は、とても暗い気持ちになりました。ありえたかもしれないもう一つの人生を考えるとき、私たちは今の記憶を持ったまま、時間が逆戻りしたらいいだろうな、と考えますよね。けれどこの小説を読めば、もしもそれが実現しても、まったく人生はおもしろくないだろうと思い直すはずです。

著者の吉村萬壱氏は教育大学卒業後、教諭を務めたのち専業作家になるという経歴の持ち主。本作のシチュエーションの一部は、著者自身の逸話だそうです。小説家は多かれ少なかれ「小説を書くことは自分の存在証明であり、そのためなら何でもする」という熱病のような気持ちを持っています。この物語では主人公・江川を通して、それが表現されているだけでなく苦しみから逃れたいために軽はずみな行動をしてしまう人間の心の弱さも描かれています。

作中ではタイムリープのきっかけとなる白い錠剤を誰が何のために作ったのか、どんな仕組みでタイムリープしてしまうのかについて、一切語られることはありません。今の記憶を持ったまま過去に跳んだとき、果たして自分は同じ選択をするのか。同じように夫や妻も記憶を持ったままタイムリープしたときに、その人も自分を選んでくれるのか。

何度やり直すことができても、完全に満足のいく人生を歩むことは難しいでしょう。人生は今を楽しむ気持ちを持ってやり直しのきかない選択を重ねていくからこそ、おもしろいものになるのだろうと思わせてくれます。一定期間連れ添ったパートナーがいる人にとって、興味深いテーマが描かれている作品です。

文=いづつえり

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