メッシのミニマリズム。最小限の技で最大限の効果、現代最高の選手が知るサッカーの原理【西部の目】

メッシのミニマリズム。最小限の技で最大限の効果、現代最高の選手が知るサッカーの原理【西部の目】

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  • 更新日:2017/09/15
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得意なパターンから得点を量産しているリオネル・メッシ【写真:Getty Images】

何十回も見た光景。ルーティーン的なシュート

現代サッカー最高の選手と評していいであろうバルセロナのリオネル・メッシ。派手なテクニックを使うことはほとんどないものの、得意なパターンを駆使し、すでにバルサ通算で500ゴール以上を記録している。このアルゼンチン人FWの特徴とは何なのだろうか。(文:西部謙司)

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前線右寄り、いつもの場所でイニエスタからのパスを受けたメッシは、前面を塞ごうとする相手をいなしてカットイン、小さなキックフェイントでもう1つ左へ持ち出す。そして次のDFが来る前に間髪入れず逆サイドへの低いシュートを決めた。

17/18シーズンUEFAチャンピオンズリーグの開幕戦、バルセロナの3点目はもう何十回も見たような光景だった。カットインした後、もう一歩左へ持ち出したことでGKブッフォンに体重移動を余儀なくさせ、逆へ低く放たれたシュートに対して無力化する。ドリブルの歩幅のまま素早くシュートできる特徴を生かした、見慣れたメッシの得点シーンだった。

リオネル・メッシがサッカー史上のどの位置にいるのかはわからない。アルフレッド・ディ・ステファノ、ペレ、ディエゴ・マラドーナより上という人もいるだろうし、そこまでではないという意見もあるだろう。いずれにしても史上最高クラスであるのは確かだが。

アルゼンチン人の琴線に触れるのは、たぶんマラドーナだと思う。どうってこともないチームを率いて、ボロ雑巾のようになりながらも独力で別次元へ引っぱり上げた力業は、ペレもディステファノもなし得なかった偉業だ。桁外れの天才であり、ここという時、最も苦しい時に、誰も見たこともないようなプレーですべてをひっくり返した。

レオ・メッシには、今のところディエゴの神秘的なパワーは感じない。カオスだったバルセロナ、弱小ナポリ、自分を盛りたてるために自分以外が凡庸だったアルゼンチン代表を牽引したマラドーナと、恵まれすぎた環境にいるメッシを比較することはできない。また、マラドーナとはプレースタイル自体も違っている。

マラドーナ世代にとって、メッシは「よく出来たマシーン」に見えるかもしれない。いつも同じようにプレーし、リプレーのようなゴールを量産する。ユベントス戦での2ゴール、そしてポストとブッフォンの背中に防がれたシュートも、どこかで見たようなシーンであり、ルーティーンとさえいえる。

研ぎ澄まされたテクニック。全く無駄のないスタイル

メッシのプレーそのものもルーティーン化している。相手のディフェンスラインの手前をスタスタと歩き、時には静止してフリーになる。前を向けたら仕掛けて決定的な状況へ持っていく。そのときに繰り出されるテクニックも毎回ほぼ同じ。やろうと思えば何でもできるのだろうが、メッシの技は最小限だ。

右へステップして左足のアウトで左へ抜ける、これが最も得意な形。その逆パターンとして、左のアウトで触るとみせて相手の左足が出てくる瞬間にインサイドで右方向へ抜ける。背負ったときは2つを組み合わせて揺さぶって前を向く。大きくボールをまたぎ越して間合いを取り直す。

あとは即興的なダブルタッチやナツメグ(股抜き)もあるが、だいたいこんなところなのだ。シザースは使わないし、足裏も多用しない、ネイマールのようなヒールリフトもしない。最小限の技の組み合わせで最大の効果を上げる。パスを受けるために走り回ることもない。静かに全体の動きを見ながら歩き、隙間を見つけてパスを受ける。

全く無駄のない研ぎ澄まされたスタイル。マラドーナが絢爛豪華な宮殿なら、メッシは禅寺のごとき佇まいか。何をしてくるかわからないというより、わかっているけど止められない。余分な装飾は一切省かれていて、毎回同じ手順でゴールするからメッシは機械のように見えるし、だいたいどの得点シーンも既視感のあるものばかりになる。

サッカーのDNA。メッシが天才たる所以

「雨上がりのサーベドラ公園に現れた8歳のディエゴは、ボールリフティングしながらGKの頭越しにゴールを決めた」

マラドーナがプレーした少年チーム、ロス・セボジータス(玉葱の意味)のコーチだったフランシス・コルネーホは、初めて見た8歳にしてすでに我々の知るマラドーナだったと証言している。

メッシの少年時代の映像も現在のメッシそのものだ。小さくてユニフォームはブカブカで、ボールの大きさが膝ぐらい。それでも少年がメッシであることはすぐにわかる。右へ肩を落として左足のアウトでカットイン、相手の体重移動を見極めて切り返し、どんどん進んでゴール、誰も止められない。

体の大きさやスピードはもちろん違っているけれども、やっていることはほとんど同じ。子供のときのスーパースターもやがて普通の大人になるものだが、マラドーナやメッシはそのまんま世界の頂点まで行ってしまった天才である。

メッシが天才なのは、雷光の反射神経と図抜けたボール親和力だけではない。ボールと人体の原理を本能的に知っていたことだ。

ユベントス戦の1点目、ルイス・スアレスとの壁パスから決めたゴールは実にシンプルだった。守備戦術のオーソリティーであるイタリア、その名門ユベントスが、ただのワンツーで破壊される。ただのワンツーは言い過ぎかもしれないが、凄く正確で速く巧みであることを除けば、小学生でもやるパス交換であり、おそらくサッカーが始まったときからあった崩し方だろう。

戦術を複雑化させるのが好きな人がいる。いろいろな用語が生み出される。守備は100年間でどれだけ進歩し洗練されただろうか。でも、単純なワンツーでユベントスは崩された。ボールと人体が同じである以上、それで崩せるのだ。

頭の中で装飾されて肥大化しているだけで、現代サッカー理論の最高峰もワンツー1つで崩されるものにすぎない。なぜかメッシは子供のときからそれを知っていた。なぜかサッカーの原理がDNAに入っていた。身体能力やもろもろを除けば、子供のメッシはユベントス守備陣を突破できる。

バルセロナでテストを受けていたメッシ少年を見に来た、当時強化部長だったチャーリー・レシャックはキックオフに少し遅れた。そしてベンチにたどり着くまでのグラウンド4分の3周の間に契約を決めたそうだ。議論の余地がなかった。メッシはサッカーそのものに思えたからだ。

(文:西部謙司)

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