フランスの学校は“いじめや不登校”にどう立ち向っているのか

フランスの学校は“いじめや不登校”にどう立ち向っているのか

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/04/07
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子どもの自殺が増えている。警視庁によると、2020年は前年を25%上回り、449人の小中高生が自殺により命を落とし、これは1980年以降過去最多だと言う。

さらに、自殺総合対策推進センターの調査によると子どもの自殺は新学期に多くなるそうだ。

そのようななか、いじめを経験した著名人がメッセージを寄せた「#元いじめられっ子から今いじめられている君へ」という特設サイトが設けられた。

フランスではどのようにいじめや不登校、子どもの不調に立ち向かおうとしているのか。

フランスの学校制度とは?

フランスの学校制度はシビアだ。

3歳から義務教育で「数字の4と5の区別がつかない、指示通り課題に取り組むことができないから年小クラス(3才)をもう一年した方がいい」と教師から言われることもあれば年小クラスから年長クラス(5才)に飛び級する子どももいる。

中学校から専門性の強い学校を選ぶこともでき、高校も普通科は進学を前提とした生徒たちで中学校も高校も卒業資格試験がある。

その分、勉強についていけないときや遅刻や欠席があるときは「何かうまくいっていないことがあるのではないか?」と学校内の児童福祉の専門職員がリカバリーを助ける役割を担っている。

調査をしたパリ市の北セーヌ・サン・ドニ県のある中学校は、市営住宅が多く、移民の割合の高い地区で予算が多めに与えられている。校長は「学校は教育だけでなくリカバリーの場でもある」と言う。朝食を食べていない生徒には食べさせ、家がうまくいっていない生徒にはケアをする。

1学年110人(22人×5クラス)が4学年いるが、児童福祉の専門職として教育相談員2人、教育アシスタント10人、いざこざや恋愛相談を専門とする仲裁専門家1人、休み時間や放課後の学習を担当する見守りスタッフ8人、ソーシャルワーカー1人、心理士1人、看護師1人がそれぞれフルタイムで働く。

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図:セーヌ・サン・ドニ県のある中学校の例(筆者作成)

遅刻や欠席がありフォローが必要な生徒は、生徒が選んだ教育アシスタントか教師がチューターとして任命され生活全般の相談にのる。

教師は学科担当で資格によって勤務時間は15〜18時間と規定されており授業が終わったら帰宅する。教師がクラブ活動、放課後の補習や生徒のチューターを引き受けるときは別に契約を結び費用を支払う。

中学校、高校、職業高校で生徒の生活面、生徒や保護者との欠席や遅刻に関するやりとり、暴力や問題があったときの対応は教育相談員の役割である。修士号取得者が国家試験で採用される国家公務員だ。

ソーシャルワーカーは外部とのやりとりを担当し、成績ではなく収入に応じて生活費を補う奨学金の手続きをしたり、学校生活に必要な靴やスポーツ用品などを買う費用も必要があれば支払ったりする。

教育相談員は「家族に笑顔で送り出された生徒がいる一方で、両親がお互い不満を言い合っているなか家を出てきた生徒がいるかもしれない。教師には事情はわからないし、親にも子どもにも責任はない。気になる様子があったら話を聞いて解決策を生徒と見つけ出すことが私たちの仕事です」と言う。

子どもそれぞれの環境を整え、学校生活を安心して送り実力を発揮していけるよう支援する。授業中に眠くなる、落ち着きがない、友だちをたたくことがある、必要な持ち物を持って来なかった、服が汚れたままであるといったサインを見のがさず、また両親の別居や片親の一時帰国による不在などの情報があったときもケアする。

教育相談員によると、落第制度は「子どもを質の高い市民に育てるための教育」という国の姿勢の表れであると言う。

幼稚学校から1人の生徒の教育費に年間約50万円かかり、その子どもが2回落第すれば100万円余計に費用がかかる、高校や専門学校を何回もやり直せばその分、国が1人にかける教育費は膨らむ。小さいうちからケアをする方がコストを抑えられるのだ。

そのためにこれだけ多くの専門職を配置して生活からサポートしている(専門学校も無料で通えるものがいくつもあり、大学大学院も個人の学費負担分は年間3万円と少ない)。

子どもは環境次第で大きく変わる

「教育相談員」という職業を知らなかった筆者がこの職業を知ったのは、自身の調査で2年間フォローしていた児童保護施設に暮らす中学2年生の女の子の付き添いで学校の面談に同席した時だった。フランスの学校の底力を知り衝撃を受けた。

呼び出しの経緯としては、監視員から彼女が休み時間にいつもの友達と過ごさなかったこと、英語の教師から授業中に注意をされてふてくされ机に突っ伏し授業中の態度が適切ではなかったことの2点の連絡があり、面談に呼ばれた。

その面談では多くの提案があった。まず、休み時間にいつもの友人と過ごさなかったことについて質問され、その友人への面談が約束された。

次に、休み時間教室で1人で過ごすのではなく、いくつかあるクラブ活動に参加するよう勧められ、彼女が選んだクラブに参加手続きをおこない、その指導員と連携をとって今後フォローをすると伝えられた。

授業中の態度が適切でなかったことについて、彼女が勉強のモチベーションが低いことが悩みで、先々の明るいイメージができないと口にした。

教育相談員は彼女の関心のある職業を聞き、希望する3つについて知り合いのつてで学校休暇期間中に一週間単位の職場体験をさせてもらえるようオーガナイズすることを約束した。

特に彼女が希望するパティシエについて、これまでも先輩たちの研修を受け入れてくれたとても親切な店に電話をしておくから早速学校帰りに寄って挨拶して来なさいと言う。

また、彼女が学校の雰囲気、クラスメイトたちの雰囲気に違和感があると言うと、近隣の学校の見学と、全寮制の学校の見学もソーシャルワーカーに手配を依頼してくれた。

彼女は頑張れない現状を打破するための選択肢がたくさんあることを知り「いろいろ試してみたいという気持ちになった」と言い、面接の始めは自分の膝を見ていたのが、後半は教育相談員の目を明るい表情で見ていた。

特に彼女にとって励ましになったのは、彼女の言葉一つひとつに重きをおいて受け止め、彼女のためにできる限りのことをするという姿勢を見たことであるようだった。

結局、彼女は違う学校に行くことを選択したため翌月には転校した。前の学校では授業中の態度や遅刻などで呼び出しがあったのが、次の学校からの通知表には「輝かしい生徒。他の生徒もこうあってほしいと思うような姿勢で何事にも取り組む」と書かれるまでになった。希望する職業はパティシエから弁護士に変わった。

子どもは環境次第で変わること、子どもの「うまくいっていない」という訴えを聞き入れることで子どもに可能性を広げることができることを知った。

「不登校は不具合の症状の1つ」

学校の児童福祉の専門職が子どもたちの様子に常に注意を払い、子どもと家族を支援し、必要であればより手厚い親子の支援が得られるよう他機関につなぐ。

フランスで不登校は「子どものまわりにうまくいっていないことがある」状況であるとして「月に半日を4回以上休む」ことが基準であり、それを超えるとリストに載せ県の担当機関に連絡し「なぜ生徒が欠席しているのか」原因追及し対応しなければならない。

校長は言う――「頭が痛い、お腹が痛いから休ませているとしたら、中学生が月何回も頭が痛くなるのはおかしいので何か起きているということです」。

義務教育の年齢の子どもは、学校に行かない場合、年一回地元の学校で全科目の試験を受け合格することが求められている。

不登校と学校システムからの早期離脱予防することについて教育省のサイトには以下のような説明が載せられている。

学校システムからの早期退出、国が定めた職業資格を得ずに社会に出ることは「長期失業、低給料で不安定な就労、健康面、自尊心の低さ、人生のQOLの低さ」のリスクを高める。子どもたちの才能の価値を引き出さないことは社会的な損失であり社会の調和を揺るがすものであるため「現在に投資し、未来のコストを削減する。社会の調和を守る」ため予算が必要としている。学校システムからの早期退出者の国にとっての損失は週2865億円。1人あたり生涯平均2740万円社会扶助費がかかるとする。全体で19兆4334億円の社会的コストであり、今後5年間で学校システムからの早期退出者を半数にし、コストを半分に減らすことができるとしている。そうして、学校には早期退出や不登校を防ぐため、専門職を配置する予算が下りる。

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〔PHOTO〕調査先のセーヌ・サン・ドニ県ホームページより

さらに、個人の不具合は家族全体がシステムで影響し合っている中で起きていると考えられているため、不登校は不具合の症状に過ぎず、子どもに「学校に行くことへの支援」をするのではなく、家族全員へ働きかけ、家族の不具合をケアしていくなかで症状も改善されていくと考えられている。

以前「在宅教育支援」の記事でも紹介したように専門的な訓練を受け国家資格を持つ職員が毎日家庭に通って日常生活を一定時間共にしたり、親が自分自身をケアしたり問題に向き合える機会を設けたりしている。

親と子どもそれぞれの力を引き出すことが専門職に求められているとされ、「複数の大人で子どもを育てる」という概念である。不具合の症状がある子どもほど、さまざまな活動を提案し、多くの大人に出会えるようにする。

先ほどの少女の例やチューター制度のように話せる大人を複数配置するのも同じ目的だ。「子どもを守る」「子どもを育てる」役割を親や教師に限定することなく、広く子どもの周りにネットワークを張ろうとしている。「回復能力や打たれ強さ(レジリエンス)の後見人」つまり困難を乗り越える方法を学べるという人、「社会的親」に出会うことを重視する。

落第制度によって毎年緊張して過ごさなければならないこと、中学校でも暴力などで加害者が退学と転校を繰り返す例があることにはもちろん批判もある。

だが、一方で兄弟内の差別や家事育児を押し付けられること、親にみじめな気持ちになるような言葉を言われることを教育相談員に話すことで家庭環境が改善し良かったと答える若者たちにも出会った。

「学校はリカバリーをすることができる場でもなければならない」と職員たちは言う。信頼できる尊敬できる大人たちに出会い支えられながら成長するのが良い、親も支えてもらって良いという価値観がフランスの教育現場にはある。

注:パリ郊外のセーヌ・サン・ドニ県で調査した。他の県で運用が同じとは限らない。
引用:
「#元いじめられっ子から今いじめられている君へ」特設サイト
https://www.shoukasonjuku.com/ijime
ニュース
https://forbesjapan.com/articles/detail/40453
教育省ホームページ
https://www.education.gouv.fr/la-lutte-contre-le-decrochage-scolaire-7214
統計論文
https://www.education.gouv.fr/agir-contre-le-decrochage-scolaire-alliance-educative-et-approche-pedagogique-repensee-8987
セーヌ・サン・ドニ県 子ども・教育・若者部門
https://seinesaintdenis.fr/enfance-education-jeunesse/

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