生命の危機を乗り越えた奇跡の子・山﨑福也は崖っぷちオリックスの救世主となるか

生命の危機を乗り越えた奇跡の子・山﨑福也は崖っぷちオリックスの救世主となるか

  • Sportiva
  • 更新日:2021/11/25

年に何度か北海道に行く機会があるのだが、札幌に泊まると必ず立ち寄るのが北海道大学の構内である。札幌駅から少し歩くと正門があり、そこをくぐると一瞬にして世界が変わる。イチョウ並木、レトロな校舎、芝生を駆け回るエゾリス......そんなのどかな景色のなかに突然現れる北海道大学病院。通称・北大病院の偉容を見ながら、いつも思い出すことがある。

「山﨑福也はここで命をつなぎとめてもらったんだなぁ......」

【写真】スワローズを「パッション」で盛り立てるチアリーダー11人厳選カット集(34枚)

そのオリックス・山﨑が今シーズン自己最多の8勝をマークして、プロ野球最高峰の舞台である日本シリーズに挑む。

No image

今シーズン22試合に登板し、自己最多の8勝をマークしたオリックス・山﨑福也

山﨑が中学生の頃、この「北大病院」で死線をさまよう大手術から生還したことは、彼が2014年のドラフトでオリックスから1位指名された時にいくつかのメディアで報じられたから、ご存知の方もいるだろう。

所沢中央シニアの本格派左腕として、また天性のバッティングセンスで注目され、名門・日大三高への進学も内定した。

高校入学前に健康診断書を提出する必要もあり、ならば念のためにと、母・路子さんの勧めで全身精密検査を受けることにしたのだが、そこでまさかの「小児延髄上衣腫」という診断が出た。つまり、子どもの脳腫瘍だ。

もちろん手術しないと生命にかかわる難病で、しかも症例が少なく、さらに患部が難しい場所にあり、困難な手術になることが予想されることもあって、受け入れてくれる病院がなかなか見つからなかった。

その時にたしか、路子さんのお姉さんが大奮闘されたと聞いた。さまざまな情報をかき集め、北大病院に小児性脳腫瘍手術の権威・澤村豊医師がいることを突き止める。

日大三高入学まであと少しと迫った3月下旬、山﨑は後遺症が残るリスクをはらんだ難しい手術に臨み、見事に生還してみせた。

手術に携わった医師たちが驚くほどの回復力だったという。なにより驚いたのは、「お腹が空いた。ステーキが食べたい」という山﨑のリクエストに、「命がけの手術からわずか数日で食べられるわけがないだろう」と思いながら用意したステーキを、目の前でペロリと平らげたことだ。その姿を目の当たりにした路子さんが言う。

「そうなんです。あの子は"奇跡の子"なんです。だから、ちょっとやそっとの苦労でへこたれるわけがないんです。プロが厳しい世界なのは、主人からいろいろ聞いていますから、わかっているつもりです」

父の章弘さんは育英高校(兵庫)で強肩・強打の捕手として注目され、巨人、日本ハムでプレーしたのち、いくつかの球団で指導者として活躍された。

「あの子がいま生きているのは、3つの奇跡があったからです。1つの奇跡でもなかなか起こらないのに......。福也は人生最大のピンチに、奇跡が3つも重なった」(路子さん)

1つ目の奇跡は、高校進学を控え、見た目は元気いっぱい、健康そのものに見えた福也少年に路子さんが"精密検査"を勧めたこと。

「なんだったんでしょうね......ほんと"神の声"としか思えないですよね。私の勧めを素直に受け入れた福也も、今にして思えばよく納得したなと」

2つ目は、路子さんのお姉さんが「神の手」を探し当てたこと。

「私はもうぼう然としてしまって、どうしたらいいのかわからない。それで姉が必死になって探してくれて。あまり突然のことだったので、正直、私も最初はちょっとあきらめてしまったような時期もあって......」

脳腫瘍が生命を脅かす病気だということは、広く認知されている。そのなかでも症例の少ない「小児脳腫瘍」は専門に治療できる医師も少なく、困難を極めたという。

「最初に診断してくれた病院でも治療は難しいと。でも姉が『そんなはずがない。これだけ医療が進んだ時代に、治せないわけがない』と。ちょっとでも可能性のありそうな病院があると、すぐに連絡を取り、断られたらまた探す......それを何十回も繰り返して、やっとたどり着いたのが北大病院の澤村先生だったんです」

そして路子さんは、すぐに澤村先生に手紙を書いた。

書いてみたら、母としての思いよりも、福也少年の野球に対する思い、日大三高で甲子園を目指そうとしている情熱......そちらのほうが便箋の大部分を占めていたという。

「手術ができることになって先生から言われたのは、生活に支障の出る後遺症が残る確率は半分。あとは福也くんの生命力にかけますと。もしかしたら、診断を受けた病院で終わっていたかもしれない命だったのが、奇跡的に手術までこぎつけた。この子は強い運を持っている。私も、福也の生命力の強さにかけました」

3つ目の奇跡は、後遺症もなく、驚異のペースで快復していったことだ。

「高校、大学と全国の舞台に出させていただいて、おかげさまでプロにもドラフト1位で進ませていただきました。もうこれ以上ないほど幸せな野球生活を続けさせてもらって、あとはチームのお役に立てるようなピッチャーになってくれたら......」

昨年まで、プロ6年間で通算15勝22敗。毎年期待されながら、一軍ローテーションの座を確保しきれないシーズンが続いていた。さすがに「そろそろ本気で危ないな」と思い始めて迎えた今シーズン、マウンドでの投げっぷりがガラリと変わった。

これまでランナーを出すと、ちょっと落ち着きをなくすようなところがあったが、自ら野手に声をかけ、ボール先行気味だったピッチングもファーストストライクから厳しいコースをつける「凄み」が出てきた。今季は自己最多の8勝をマークし、25年ぶりのリーグ制覇に貢献。

そして最高峰の舞台である日本シリーズでの登板も有力視されている。ここまでオリックスは1勝3敗と崖っぷちに立たされたが、"奇跡の子"の本領発揮を期待したい。

安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加