第3次ドーナツブーム「1日5000個売れるドーナツ」が大ヒットを続ける3つの理由

第3次ドーナツブーム「1日5000個売れるドーナツ」が大ヒットを続ける3つの理由

  • 日刊SPA!
  • 更新日:2023/03/19

2006年にドーナツ専門店「クリスピー・クリーム・ドーナツ」が日本初上陸を果たし、軽くて甘いドーナツが大流行。次いで2010年代に入ると、コンビニ各社がレジ横にドーナツを陳列する「ドーナツ戦争」が巻き起こり、再びドーナツに注目が集まった。

そして近年、“第3次ドーナツブーム到来”と言われるほどに人気を博しているのが、ブリオッシュ生地(バターや卵を使用したパン生地の一種)をもとにした「生ドーナツ」である。

その代表格のお店が、中目黒や渋谷に店舗を構える「I’m donut ?」(アイムドーナツ?)。生ドーナツを買い求める人で常に行列ができるほどだ。同じく第3次ドーナツブームを牽引するのが、今回取材する「RACINES DONUT & ICE CREAM」(ラシーヌ ドーナツ & アイスクリーム)。

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1日で5000個を売り上げることもある「ラシーヌのドーナツ」

池袋と表参道の店舗では、手作りの生ドーナツを販売しており、こちらも行列店になっている。

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株式会社グリップセカンド 代表取締役社長の金子信也さん

これほど大人気のドーナツを生み出せたのはなぜか。その理由を探るべく、RACINES DONUT & ICE CREAMを含め、15店舗を展開する株式会社グリップセカンド 代表取締役社長の金子信也さんに話を聞いた。

「売り上げ目的やつまらないことはやらない。しっかりと意味のある出店をしていきたい」(金子さん、以下同)

今回は、そんな金子さんの独特な哲学に迫る。

◆常勝チームのキャプテン経験がレストラン経営に活きている

金子さんがレストラン作りで大事にしている精神が培われたのは、小中高大、そして社会人までバスケットボール選手として活躍していた頃までさかのぼるという。じつは、実力派バスケプレーヤーであり、元JBLで活躍。国内外の大会に出場し、“日本代表”にも選出された経験を持つ。

そんなトップアスリートとして階段を上がってきた金子さんにとって、レストランを始めるきっかけは何だったのか。

「海外ではレストランに関わるスタッフの地位も高く、将来のビジョンも持っている人が多い一方、当時の日本のレストランでは、ライフビジョンを描いている人は少なかった。というのも、飲食業界は今より“3K労働”と見なされていた時代で、やりがいや夢を持つ人もあまりいなかった状況でした。そこで、ずっとバスケットボールをやってきた自分の強みを生かし『何か貢献できないか』、『レストランの新しい文化を創れないか』と考えたのが原体験になっています」

学生時代は強豪校、社会人は常勝チームと、いつも全戦全勝を目指す環境下で、キャプテンを務めてきた。

「キャプテンとして、『負けないチーム』を育てることに従事してきました。常勝チームは練習のほかにも、独自の文化や勝ち続けるための土台づくり、基本を大事にしているんです。こうした経験のもと、レストラン経営でも1人でやろうとせずに『ワンチーム』の精神を持ち、みんなで一つのレストランを創り上げていくことを意識しています」

◆利益追求よりも“実力”に合わせて進んでいく

自分たちの成長は、スタッフが作るもの。身の丈以上のことをしようとせず、実力に合わせて着実に前へと進んでいく。

金子さんがチームビルディングで意識しているのは「成長するまで待つこと」だと言う。

「我々は飲食店ではなくレストランを作っていて、店舗数や事業規模、他店との競争などは全く意識していません。自分たちのやりたい時に、やりたい場所で、好きなことをやる。このようなスタンスが根底にあり、その結果として都内15店舗まで広がっている。なので、利益を追求するために店舗拡大するという考えはないんですよ」

そんな中、グリップセカンドは「地域密着」を大切にしている。

「地域や街と連携し、そこにスタッフがどう関わっていくか」を念頭に置きながら、店舗運営を行っているそう。とりわけ、池袋の南池袋公園周辺には複数の店舗が点在しており、地元では名の知れるレストランとして地位を築いてきた。

◆店舗の改装期間だけドーナツを販売したら予想外の大ヒットに

この地で生まれたのが「ラシーヌ ドーナツ」である。

「5年くらい前からドーナツの構想があった」と話す金子さんは、ドーナツを売り始めた経緯について次のように説明する。

「ボストンやニューヨークのドーナツ屋さんと話したりしていくなかで、『なぜ海外のドーナツを日本で売れないのか』と思うようになったんです。甘さや大きさ、食感など、日本人好みのドーナツをどう作ればいいか試行錯誤しましたね。幸いにも我々はブーランジェリー(パン屋)を運営していたのもあり、柔らかい食感や風味が特徴のブリオッシュ生地を使えば、日本人の口にも合うのでとは考えるようになりました」

また、ドーナツは嗜好品であるゆえ、「お客様を笑顔にする“ハッピーフード”」という構想のもと、生産者が作る食材から、フレーバーのアイデアを考えていったという。

「ドーナツは嗜好品なので、『いつも。どんな時も。幸せ。』というコンセプトのもとで、フレーバーを決めていきました。こうしたなか、生産者の現場では『規格外野菜やフルーツのロス』についての課題があることを知って。何かうまく解決できる方法はないかと思案し、それらを仕入れるようになりました」

南池袋の運営店舗では、コロナ禍の2021年2月に改装工事をする機会があり、リニューアル期間中だけドーナツを販売してみたところ、予想以上の売れ行きがあったとか。

そのことからリニューアルオープン後も、ドーナツを継続して販売するようになり、「ラシーヌ ドーナツ」が口コミで広まっていった。

◆ドーナツブームを仕掛ける狙いはなかった

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2021年9月にオープンした「RACINE DONUT & ICECREAM」

次いで、2021年9月には、表参道にドーナツとアイスクリームを扱う専門店「RACINE DONUT & ICE CREAM」を出店。

「アイスクリームとドーナツを販売すれば、年間を通して、規格外野菜やフルーツをもっと仕入れられるので、生産者の方にも貢献できるし、社会課題の解決にもつながる。こうしたアプローチから、ドーナツを始めることになったので、『ブームを仕掛ける』という狙いは全くありませんでした」

ラシーヌのドーナツにおける1日の販売数は、多いときで4000〜5000個を売り上げるという。なぜ、ラシーヌのドーナツはロングヒットを続けているのだろうか。

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一番人気のあるフレーバー「フジカワレモン」

金子さんは「3つの理由がある」と語る。

「まずひとつ目は、ドーナツ生地が豊富なことです。ブーランシェリーを運営しているため、ブリオッシュ、オールドファッション、フレンチクルーラーと3種類の生地を用意でき、さまざまな食感や味わいを楽しめます。

加えて、フレーバーにおけるラインナップの多さも何度もリピートしていただける要因だと思っています。約25種類のフレーバーが常時並んでいて、好みやその日の気分に応じて選ぶことができる。また、ケーキよりもドーナツの方が身近で、友人へ贈答したり差し入れに持っていく際のハードルの低さから、気軽に購入しやすいのも大きいと思っています」

◆商品力やブームに依存しない独自の世界観を作りたい

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今後も、自分たちの世界観を体現できるチームづくりに徹し、事業を営んでいくという金子さん。

「売り上げ目的やつまらないことはやらない。しっかりと意味のある出店をしていきたい」と意気込む。

「ラシーヌのドーナツは池袋、目白、青山、恵比寿で販売していますが、今のところこれ以上広げる予定はありません。2030年までの出店計画はすでに固まっていますが、ただ単に区画を埋めるだけの店舗展開はやりたくない。もし仮に出店する立地にドーナツが求められていれば、検討の余地に入れる程度で考えています。

独自の立ち位置を持った会社は強いと思っていて、これからもチームのみんなとともに成長しながら、ビジネスに取り組んでいきたい」

商品力やブームに依存せず、ラシーヌならではの世界観を目指す。内装やメニューは模倣できても、スタッフまでは模倣されない。

これが金子さんの考えであり、チームづくりひいてはレストラン経営において重要視していることだ。トップアスリートとして培ってきた勝負師としての経験や勘。これこそ、大人気のドーナツを生み出せた所以なのかもしれない。

<取材・文・撮影(人物)/古田島大介>

【古田島大介】

1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている

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