「嫌われる勇気」では人間関係はラクにならない!? 元自衛隊メンタル教官がその理由を解説

「嫌われる勇気」では人間関係はラクにならない!? 元自衛隊メンタル教官がその理由を解説

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  • 更新日:2017/09/13
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<「感情」と「疲労」の3段階>/感情の反応の大きさと、疲労の深さにはそれぞれ3段階ある。人間関係トラブルの同じような出来事(AとB)でも、疲れがたまってくると、感情の反応が2倍の大きさになってしまう。だから、まずは「疲れのケア」が大事なのだ

アドラーの心理学を紹介した本、『嫌われる勇気』(岸見一郎・古賀史健著、ダイヤモンド社)は、2013年刊行後、100万部超のヒットとなった。テレビ番組での紹介や関連書籍の出版も続き、「アドラー心理学」は、対人関係に苦しむ人たちの一つの突破口として、ブームを超えて定着した感がある。その一方で「アドラーの本を読んで感動して、他人の評価を気にしないようにと努めたけれど、長続きしない……」と悩む人も出てきている。

「努力したけれど、最終的には、以前より落ち込んでしまったクライアントが結構いるのです」と語るのは、元自衛隊メンタル教官の下園壮太さん。近頃『人間関係の疲れをとる技術』(朝日新書)を刊行した下園さんは、多くの人の心の問題やトラブルに、カウンセラーとして寄り添ってきている。その経験から、「“嫌われる勇気”だけでは、人間関係はラクにはならない」と考えている。それはなぜなのか、その背景を聞いた。

*  *  *

■『嫌われる勇気』はなぜヒットしたのか

『嫌われる勇気』が大ヒットしたのは、まずそのタイトルが、今の日本人の潜在的な欲求を見事にとらえたからだと思います。それだけ、私たちは「人に嫌われたくない」「他人に好かれなくてはいけない」という強い意識を持っており、それに縛られているのでしょう。「嫌われる勇気」を持ちなさい、持っていいんですよというタイトルが、多くの人に光を与えたのだと思います。

さらに、アドラーの主張も、現代の日本人の心に響きました。アドラー心理学のおもな特徴を私なりにまとめると、

「すべての悩みは、人間関係にある」

「悩みは、記憶や経験などの過去の原因から生み出されるものではなく、その人の影の欲求により生ずる(例えば、親に心配されたいから学校にいけない)」

「人の評価など気にせず、自分の幸せは、自分で勝ち取るべきである」

という3点になります。

人づき合いに疲れている現代人は、人の目を気にして我慢ばかりしてしまう性格に自分がなったのは、親の育て方が悪かったからだ、などと他人や過去のせいにして考えがちです。

ただ、このような「他者依存的思考」は、その場はラクでも、やがて主体性を失っていきます。今の苦しさは、相手と過去が変わらない限り、変えられないものになってしまうからです。そして、過去は変えられず、相手も自分の思うようには変わってくれません。

アドラーの主張は、「自分の行動は自分で責任を持とう」ということ。つらい面もありますが、主体性は取り戻せるので、結局ラクに生きられることにはなります。

■アドラー心理学は日本と韓国だけで流行している

ただし、忘れてはならないのは、アドラーは、100年前のヨーロッパの心理学者であること。本質はついていても、私たち現代日本人にとっては、少し偏ったアドバイスになっている気がします。アドラーが生きた時代と、現代の日本では、状況がかなり違ってきているからです。

一番の違いは、現代の情報量の多さです。現代の情報化社会が、対人関係の感情を刺激し続けています。私たちはLINEやフェイスブック、インスタグラムで、実際に会ってもいない人から、大小の刺激を受け続ける「情報過多」の時代に生きています。

その結果、アドラーの時代より、現代日本人のほうが、より精神的に疲弊しています。そんな疲れている状況で、さらに「自己責任」といわれると、正論だけに苦しくなってしまうのです。

また、アドラーがもてはやされているのは、日本と韓国だけだそうです。いずれも他人に気を遣う文化。そんな文化の中では、対人関係での疲れが、特に現代的なテーマとしてクローズアップしてきているのでしょう。

他人に気を遣う文化は、人の目を気にし、内省する文化でもあります。内省すると、自分の悪いところはいくらでも目に付いてしまう。アドラーの言うことはわかるけれども、その通りにできない自分がいるとき、日本人は自分を責めてしまうのです。

「嫌われる勇気」を持とうと思っても、それは長続きしないことも多い。すると、「やっぱり私はダメだ」と自分を責めてしまうので、結局、人間関係もラクにならないのです。

実際、アドラーの本を読んで感動し、「他人の評価を気にしない」ように努力し、「自分の行動の背後の欲求を分析し、問題解決に努力した」…が、結局長続きせず自信を失い、自己嫌悪。最終的には以前より落ち込んでしまう、ということが少なくないのです。

■人間関係をラクにするためには

では、どうすればいいのでしょう。

疲れすぎてしまった現代の日本人には、「嫌われる勇気」を唱えるよりも、日常生活の中での実践的な取り組みが必要なのです。近著『人間関係の疲れをとる技術』(朝日新書)で詳しく解説しましたが、人間関係の苦しみはゼロにはできません。でも悩みすぎてしまう体質からの脱却を目指すことは可能です。

そのポイントは

(1)自分自身の疲労をケアすること

(2)感情の役割と仕組みを理解し、適切に感情をケアする方法を習得すること

(3)人間というものを理解し、人への期待をゆるめること

おもに、この3点になります。

いずれも、知識として知り、「スキル」として磨くことができます。

例えば、(1)の「疲労」は人間関係のトラブルとは双子の関係。疲れがたまれば人間関係が悪化するし、人間関係が悪ければ心の疲れがたまります。だから、疲労ケアは人間関係をラクにするためには重要なステップ。良質な睡眠と温かい食事、早めの休養が、かなり有効な対策になります。(構成/ライター・向山奈央子)

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