
木下文子さん(仮名 65歳女性)は長年勤めた小学校の教員を引退し、3人の孫達の育児で忙しくしています。
小学校の校長も務め日々忙しい毎日を送っていましたが、退職後には2人の子供達も結婚して孫も生まれ、退職した後も3人の孫達の育児で忙しい毎日を送っていました。
そんな木下さんが銀行に行った際に、「定期預金年5%」と書かれたチラシを渡されたことがきかっけで、木下さんは投資のトラブルに遭ってしまったのでした。最終的に「50万円の損失」を出してしまった木下さんの事例を、<【前編】65歳女性が絶句…老後資金「2000万円」を銀行に預けた結果、おとずれた「衝撃的なトラブル」>に引き続き解説します。

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誰のためのキャンペーンなのか?
今回の木下さんのケースですが、これは金融機関側の定期預金の金利上乗せキャンペーンを入口に、投資信託の販売に繋げるための手法です。
「年利5%」と聞くととても魅力的に感じますが、1年に換算して5%ですので、実際には3ヶ月分で1.25%が適用されることになります。
木下さんが定期預金で得られる利息は1,000万円の1.25%ですので、12.5万円ということになります。
そして、販売手数料が掛からないノーロードファンドについてはこのキャンペーンの対象外となっているので、定期預金で3ヶ月分高めの金利を設定してもそれ以上に購入時の手数料を銀行は得ることができます。
今回の木下さんの場合、購入時手数料が2%ですので、その時点で20万円の手数料を払っていることになります。一方で受取った利息は12万5000円ですので、それ以上に手数料を払っていることになりますね。
定期預金5%という、年率に換算して高い利率になる数字で興味を引いて、それ以上に高い手数料率を払わなければならない投資信託を条件にするのがこのキャンペーンの目的です。
また、投資信託には「購入時手数料」の他にも「信託報酬」といったものがあり,
今回の木下さんが購入したものは、保有資産の1.65%が1年あたり差し引かれるものでした。
信託報酬は保有期間中ずっと発生する手数料で、木下さんの保有資産だと1000万円程度の資産がありますので、年間16万円程度の手数料が掛かり、その中から銀行に毎年手数料が払われる仕組みになっています。
今回の木下さんのように、投資に興味が無く普段ならば話を聴かないような人も、高い定期預金の金利を提示されると投資信託を買ってしまうこともあり、結果高い手数料を払い損失を抱えてしまうケースも少なくはありません。
投資信託選びで注意すべき点は手数料
投資信託は将来の資金をつくったり、まとまったお金を運用するのにとても良い商品と言えますが、注意すべき点があります。
その一つが手数料です。投資信託の手数料は、(1)購入時手数料、(2)信託報酬、(3)信託財産留保額の3つです。
株式投資信託の中には手数料が高くても、それ以上に優秀な運用実績のものもありますので良いものもありますが、運用実績が振るわなくても手数料だけが高いというものも多々あります。
今回木下さんが選んだような安定型の投資信託は、リスクが低いと同時にリターンも低い傾向にあるため、手数料を差し引かれることでリターンがあまり期待できないものになってしまいます。
例えば、いくら安定型であっても、年利2%のリターンになる商品から2%を差し引いたらリターンはありません。リスクだけがあってリターンが無い投資になってしまいがちです。

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こういったように、手数料が高いために資産がマイナスしてしまっているようなケースも多くあるのです。
今回、木下さんはこういった手数料の体系を知らずに商品を購入してしまったため、損失になってしまったのです。
手数料ビジネスに走っている銀行
今回のケースのように、銀行は投資信託や保険商品の販売による手数料収入を得ることに力を入れています。
本来、銀行はお金を貸してその利息で利益を得ることが仕事ですが、長く低迷する日本経済において資金需要は以前に比べ少なく、政府の金融政策により低金利が続き本業での利益を得にくい状況となり、こういった金融商品販売で収益を得る手数料ビジネスに走っている側面もあります。
顧客の資産状況や、今後の生活設計などをコンサルティングし、その上でそれに合った商品として手数料の高い投資信託を販売するのであれば顧客利益に資する販売と言えるでしょう。手数料が高い商品であっても、優秀な運用実績の商品もあり、利回りの良い社債等と組み合わせることで安定的にリターンを得られる資産配分にすることもできます。

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また、シニアを対象とした場合、相続対策や認知症になった場合などの資金管理の手段として、保険商品は活用できる場面も多いものです。保険商品もよく手数料が高くぼったくりのように言われ問題視されることが多いものですが、顧客の状況によっては保険商品の持つ機能が大いに役立つ場合もあります。
このように、場合によっては高い販売手数料を受取り収益を確保できるため、顧客の人生設計や家族環境、資産状況を鑑みて、適材適所で金融商品や保険商品の活用を提案すれば、今回のように顧客利益を害するような販売手法を取らずとも収益を確保することもできるはずです。
人生100年時代、顧客の多様化するライフスタイルにおいて、顧客一人一人にあった資産形成、資産運用プランというものはとても大切なものです。
銀行は顧客のお金を預かり、少なからず顧客から信頼を得られている立場であるはずですが、その立場にある銀行が今回の様な提案をしてしまうケースも多く、金融庁からも顧客本位の提案を行うように度々注意を受けています。
預金口座という顧客との強い接点を持っているのですから、しっかり顧客のライフプランから必要と考えられる保険や金融商品を販売していく等、ビジネスモデルの設計を考えれば如何様にも売り手と買い手双方の利益になるビジネスを考えることができるはずです。
それを考えられないのは銀行上層部の想像力の欠如と社会の血液であるお金を預かる社会の公器であることの意識の欠如と言えるでしょう。
勿論、全ての銀行員がそういった顧客利益に反する提案をするわけではありませんし、顧客のために親身になってくれる人もいます。しかし、銀行が手数料ビジネスに走り、こういった顧客の利益を顧みない手数料稼ぎになっていることも少なからずありますので、我々契約者側が一旦立ち止まって、本当に自分のためになる提案なのかを考え直すことが必要です。
「投資は危ない、自分には関係ない」が危険な理由
今回のケースは、売り手側の説明、注意喚起不足も当然のことですが、やはりよく理解できないものを「安定型って言われたから…」と安易に契約してしまった木下さんにも問題はあります。
金融商品を契約する際にやってはいけないことは、「よくわからないけど」と担当者の言われるがままになってしまうことです。
仮に担当者が本当に顧客のためを思って提案してくれたものであっても、契約者側がよくわかっていないと、一時的に価格が下がっていたり、早期解約のペナルティのような仕組みのために「こんなはずじゃなかった」と思うようなトラブルになることも多々あります。
「投資は怖い」「自分はやらない」と思っている方も、今回の例のように高い金利を提示されて心が動くこともあります。
こういったとき、金融商品やリスクをどのように考えればいいかがわからないと木下さんのように「銀行だから大丈夫…」と思ってしまうこともあります。
銀行側のセールスの仕方にも問題はありますが、やはりよくわからないまま安易に契約してしまうことも問題なのです。

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複雑な金融商品を説明を聞いてすぐに理解することは難しいでしょうが、少なくともその場では判断せず、一度持ち帰って誰かに相談することはできたでしょう。
日本人に多い傾向はこういった提案を受けたときに売り手任せにしてしまうことですが、大事な自分のお金のことですので、やはり自分でもしっかり考えて判断することは大切です。
投資するかしないかはさておき、こういった提案を受けたときに相手の話に流されずに立ち止まって考える、わからないものは契約しないという意識は必要です。
まとめ
今回は定期預金の金利のキャンペーンをきっかけに投資信託を購入し資産を減らしてしまった事例を紹介しました。
損失額があまり大きくなかったのが救いですが、知らないまま契約してしまうと失わなくてもよいお金を失ってしまうことになります。
「投資なんて自分には関係ない…」「投資の知識なんて不要」と考えていても、このように何かのきっかけで売り手の言いなりになってしまったことで資産を減らしてしまうことはよくあることです。
売り手側の販売の方針にも大いに問題なのですが、やはり私達契約者側にも売り手任せにせずに、契約するからには自分で責任を持てるようにしっかり理解してから契約する必要もあります。
投資をしたくない、リスクが嫌ということであれば無理に投資する必要もありませんが、少なくとも何かのきっかけで売り手の話を鵜呑みにすることなく、自分で責任を持って考えて判断できる知識と意識を身に着けるべきと言えるでしょう。
「売り手を信用しない」ということではなく、「自分で自分の選択に責任を持つ」ということが必要です。