「冥王星」が「惑星」ではなくなってしまったことによって「激怒」してしまった人たち...最新天文学が明らかにした衝撃的な太陽系の真の姿とやがて見つかる「第2の地球」

「冥王星」が「惑星」ではなくなってしまったことによって「激怒」してしまった人たち...最新天文学が明らかにした衝撃的な太陽系の真の姿とやがて見つかる「第2の地球」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2023/03/19
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「『サイエンスZERO』20周年スペシャル」取材班             サイエンス激動の時代を捉えるため、日本のサイエンス各分野の著名な研究者に「サイエンスZERO」の20周年(3月26日(日)夜11:30~ NHK Eテレ)を記念し、この20年の研究を振り返ってもらうインタビューを行いました。そこでどの研究者からも飛び出してくる驚きの言葉や知見、未来への警鐘とは―。

前編『「日本で最も有名な天文学者」にここ20年の「宇宙の大発見」について聞いたら驚きのニュースが多すぎた件…「アインシュタインからの宿題『重力波の発見』」「『中性子星合体』で金と銀が生まれる」「惑星誕生の瞬間」「ブラックホール・シャドウが見えた!」』から、「日本で最も有名な天文学者」とも言われる国立天文台特任教授の渡部潤一さんにこの20年で発見された宇宙の大発見についてお話を伺いました。本編でもその続きを伺います。

そして「宇宙を知ることは人類を顧(かえり)みること」と語る渡部さんですが、宇宙の謎が解き明かされるにしたがって「私たちの文明が子ども」だということに気づかされるとも言います。いよいよその意図について詳しく伺います。

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NHK提供

惑星の定義が変わった! 教科書が書き換えられた大ニュースの舞台裏

―2006年に「冥王星」が太陽系の惑星から除外されたことも大きな話題になりましたね。

これは新聞の一面になりましたし、教科書も書き換わってしまったので、国際的なインパクトは大きかったです。2003年頃に冥王星よりも大きな天体が発見され、冥王星の周りにはやたら同じような天体が数多くあることが分かってきました。それで、「仲間がいっぱいいて、しかも自分がちょっと小さめ」の冥王星だけを惑星と呼び続けるのかという話になって、2006年に国際天文学連合(IAU)が惑星定義委員会を立ち上げて、議論をして惑星をきちんと定義することにしたんです(※2)。その際に、惑星と小天体の間に「準惑星」というカテゴリーを設けて、そこに冥王星も位置付けました。

私は、国際天文学連合の中で「惑星定義委員会」の7人のメンバーのひとりに選ばれたんですが、アジアから誰かということで、太陽系や惑星がよく分かっていて、なおかつ社会的なインパクトもよく分かる人ということで、広報をやっていた僕に白羽の矢が立ちました。それで、秘密裏にパリ天文台で合宿をして案を作ったんですが、みんなから文句言われる役だから、えらいしんどかったですよ。

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渡部さんは、太陽系の惑星の定義を決める国際天文学連合の委員会では、冥王星を含めた準惑星のカテゴリー全体を惑星として考える案に賛成票を投じた

―どうして文句を言われたのですか?

冥王星は1930年代にアメリカで発見され「プルート(冥王星)」と名付けられた星なので、アメリカ人にとっては極めて特別な天体なんです。ディズニーのプルート(犬のキャラクターの名前)はそこから来ているし、プルトニウムというアメリカで見つかった元素も、プルートから来ているんですね。だから発見した当時は国中を挙げて大騒ぎしたんだと思いますね。それが惑星じゃないってなったものだから、怒ってしまっって。アメリカ人の天文学者はわりと冷静だったんだけど、冥王星を見つけた町の人とか一般の人が反感を持っていました。

実は当時、「ニューホライズンズ」という探査機が冥王星に向かっている途中だったんです。「まだ探査されていない最後の惑星に行く」といううたい文句だったんですが、打ち上げてから行く途中に、惑星の定義が変わったんで、探査機のある関係者もが激怒していました。個人的には仲のいい友だちなんですけど、そのときは怒っていましたね。

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探査機「ニューホライズンズ」が撮影した冥王星/画像提供:NASA/JHUAPL/SwRI

※2「惑星の定義」…2006年プラハで開かれた国際天文学連盟の総会で、惑星の定義は「1.太陽の周囲を公転している」「2.十分に大きく、重力が強いため球形をしている」「3.その軌道周辺では群を抜いて大きく、ほかの同じような大きさの天体が存在しない」ものとされた。

謎の「巨大流星雨」の正体を突き止めたい!

―渡部さんのご専門である流星天文学の分野で印象に残っている出来事はいかがですか?

2001年の「しし座流星群」は、流星天文学を変えた出来事でした。それまで、流れ星というのは、母天体であるほうき星(彗星・すいせい)からはき出された砂粒の川(ダストトレイル)が、同じ軌道を流れていくという前提で予測していました。

ところが2001年前後に、海外の天文学者が、ほうき星と、砂粒(ダストトレイル)とは微妙に違う軌道にあることを発見したんです。考えてみると当たり前なのですが、砂粒が放出される時期によって木星や土星のような大きな惑星の位置が異なるので軌道が微妙に違ってくるんです。

この砂粒と地球の位置を計算し、流星群の出現を予測する「ダストトレイル理論」によって、2001年のしし座流星群の予測は大当たりしました。それ以降、ダストトレイル理論を使うと、流星群の出現がどこでピークを打つかというのは、分単位で予測できるようになりました。

僕がこの道に進んだきっかけは、「1972年に日本中を騒がせたジャコビニ流星群(※3)がなぜ出現しなかったのか」ということで、それがずっと引っかかっていたんですね。ダストトレイル理論ができてしばらくして、僕の共同研究者に「72年のジャコビニ、ちょっと計算してよ」と頼んだらすぐに結果を持ってきてくれて、やはり地球に砂粒の軌道が当たっていないんですね。「今だったらああいう予測は出さないね」と2人で納得しました。

※3 ジャコビニ流星群…10月上旬に見られる、突発的に出現する流星群。1972年大流星雨が予測され日本でもブームになったが、予測は外れた。

1933年の10月、北海道の函館で起きた奇跡

―ご自身の研究でのこれからの夢を教えて下さい。

目撃証言があるような「突発的大流星雨の出現」、おそらく数千年か数万年に一度しか起こらないような現象の目撃証言を元に調べて、その原因を明らかにしたいと思っています。

長年調べているのは、北海道の函館で1933年の10月に「空が全面流れ星で覆い尽くされるような流星群を見た」という目撃証言です。ただ数分間しか出現してないので目撃者は非常に少なかったんです。

これまで記録に残る流星群で一番降ったというのが1時間に10万個なんですが、大したことないんですよね。10万個のレベルのシミュレーション動画を、目撃した方に見せたら、「こんなもんじゃない」と言われたんです。だから、その方が目撃したのは、非常にまれな現象だったんだろうと。じゃあ、なぜそういうことが起こるのかをいろいろ考えていたんです。すると、「ヘルクレス座タウ流星群」の母天体がすごいバラバラに分裂して、その直後に地球が軌道内を通るとおそらく同じことが起こるだろうということが大体分かりました。

ただ残念ながら、その母天体が見つかっていないんです。どう探しても見つからないんです。その日時も1933年の10月、時刻は夜9時頃というところまでしか絞り込めないまま10年、20年が過ぎてしまいました。世界にこういうのがあることを知ってもらって、目撃の記録を掘り出して、その正体を突き止めたいなと思っていますね。

地球外生命体はまもなく見つかる!?

―これからの天文学で、一番期待している発見はどんなことですか?

やはり、「第二の地球」の発見ですね。恒星の明るさの変化から惑星の存在を発見する「トランジット法」(※4)によって地球サイズの系外惑星も発見できるようになり、その惑星の公転周期や表面温度も計算できます。

これによって、ちょうど地球と同じような平均気温が20℃くらいのいわゆる「ハビタブルゾーン」に存在する惑星が、今数十個見つかっているんです。第二の地球候補ですね。残念ながらまだ、大気があり、水が循環しているような状況かまでは突き止められていない段階で、生命が存在するかは分かっていません。

しかし、現在建設中の反射鏡の直径が30m級の望遠鏡が2030年代に完成したら、すぐに分かるのではないかと思います。一番先に稼働する予定なのは、南米に建設中のヨーロッパの望遠鏡「Extremely Large Telescope」(ELT)です。ただそれは南天しか捉えられないので、北天で日本の関わっている「Thirty Meter Telescope」(TMT)が活躍すると、生命の存在する可能性のある第二の地球のリストができてきます。

その中で、酸素やオゾンの濃度を調べて地球と同じようなフェーズにあるものが分かれば、地球と比べてどのくらい進化しているのかが予想ができます。知的生命がいてもおかしくないような、円熟した状況であると分かれば、一生懸命に文明があるかを調べるでしょうね。地球のそば、100光年以内にそういう文明があるというのは考えにくいですけれども、あれば面白いですよね。

※4「トランジット法」系外惑星がその主星の恒星面を通過した時に起こる、主星のわずかな減光を検出することで系外惑星を発見する方法。

文明はどうやって「子ども」から「大人」になるのか

―もし地球外の文明とコンタクトできるとしたら、先生ならどんなやりとりをなさいますか?

おそらく多様な生命が存在する中で、どのように文明を持続させて、他種とどう融和・融合して生き延びているのかということを一番聞きたいですね。人間が他の種族にとって代わられる可能性が出てきた時にどう乗り越えるか、という手段が、もし、我々よりも長い、10万年、100万年のタイムスケールの進化を経験しているなら、何かあるはずだと思うんです。

僕らの文明は、まだまだ子どもなんだと思います。子どもから大人になるプロセスというのは、自分中心から自分が社会の中の一員だというのを認識していくプロセスなんですね。400年前は我々が宇宙の中心だと思っていたわけで、天文学はそれを是正して我々は「one of them(ワン・オブ・ゼム)」であるというのを段々認識していく学問だったんですね。

宇宙の中心からどんどん滑り降りて行って、今我々は、銀河の片隅にある何でもない星の周りで、たまたまハビタブルゾーンにある適切な大きさの星のところで進化してきたのだと分かってきたところです。

400年前から比べれば少しは大人になっていても、まだよちよち歩きでいろいろ無駄な失敗をしている段階で、もっと大人の文明にならなきゃいけない。戦争なんかしているのはその失敗を繰り返している一つなのだろうなと思います。紛争解決も武力を使わないもっとスマートな方法になって、より良い世界になっていけばいいと思っています。

ただ、知的生命が存在すると推定された時に、いざコンタクトできるかどうかの確率は、双方の文明の持続時間によって変わってきます。だから知恵を絞らなくてはならないですね。

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NHK提供

―最後に、先生はサイエンスZEROに数多くご出演いただいていますが、これからの番組に期待されることを教えて下さい。

私自身がこの道に入ったのも、子供の頃に予測されていた流星群が現れず、なぜ予想と違うんだろうと、つまり「分かっていないことが世の中にいっぱいある、ということが分かった」からなんですね。

最先端の科学の面白さ、「ここまで分かった」というだけではなく、「ここから先は分からない」ということが面白いと思うので、そういうところをどんどん発信していただけたらなと思っています。教科書に書いていないことが世の中にたくさんある、ということを多くの人に知っていただけることを期待しています。

「サイエンスZERO」20周年スペシャル 3月26日(日)夜11:30 NHK Eテレ

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