AIドローン兵器が勝敗を決したナゴルノ・カラバフ紛争の衝撃

AIドローン兵器が勝敗を決したナゴルノ・カラバフ紛争の衝撃

  • JBpress
  • 更新日:2021/07/23
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ナゴルノ・カラバフ州に近い橋。アゼルバイジャン軍の管理下にある(写真:ロイター/アフロ)

カスピ海に面する旧ソ連の国アゼルバイジャン。首都バクーの旧市街は城壁都市として世界遺産にも登録されている、美しい国である。私も訪問したことがあり、古代から続く歴史文化の遺跡に感銘を受けた。

このアゼルバイジャンが、世界の軍事関係者を震撼させている。AIを搭載したドローンによって、30年来にわたる係争地として知られるナゴルノ・カラバフ州を巡るアルメニアの紛争をアゼルバイジャンが勝利に導き、同州の領土の一部を奪還することに成功したからだ。

AIドローンは、アルメニア側の兵士や戦車の存在を見つけ出し攻撃する。これまで洞穴の中などに隠れている兵士は上空から判別できなかったが、AIドローンは、兵士の持っている電子機器などの存在から兵士の存在を発見し、攻撃するのだ。不意の攻撃を受け続けたアルメニア側は修羅場と化したであろう。

アゼルバイジャン軍によるドローン攻撃

なぜ、アゼルバイジャンという軍事大国とも科学技術大国とも言い難い国が、AIドローンという最新兵器を使って軍事的勝利を収めることができたのか。それは、同地域の大国トルコによるAIドローンの提供があったからだ。

トルコは、ナゴルノ・カラバフ紛争において、同じトルコ系でイスラム教徒が多いアゼルバイジャンを軍事的に支援してきたが、今回はAIドローンという隠し玉で勝敗の帰趨を決める役割を果たした。

今回のトルコの支援は、トルコ系という民族の血とイスラム教という信仰の絆が、国際社会において依然として一定の役割を果たすことも示した。

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係争地として知られるナゴルノ・カラバフ州の光景。アゼルバイジャン軍の兵士が国旗を立てている(写真:ロイター/アフロ)

火薬や核兵器など、兵器は世界史を大きく変えてきた。今回のAIドローンは、軍事史を変えるくらいのインパクトのあるものだ。そのことを知るために、世界の軍事技術の大きな変遷を見ていきたい。

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世界史を激変させた火薬の存在

矛や盾、刀といった原始的な武器による戦争の形態を大きく変えたのは、火薬である。

火薬は宋の時代の中国で発明されたが、世界史に大きな影響を与えるようになったのは、15世紀頃からオスマン帝国を含むヨーロッパ・地中海地域で使われるようになってからだ。

火薬を大量に使う大砲が初めて本格的に使用されたのは、オスマン帝国によるコンスタンティノープル攻撃(1453年)であるとされる。ヨーロッパ社会を恐怖のどん底に陥れたコンスタンティノープルの陥落は、実は当時の先端軍事技術によるものだった。

また、スペインやポルトガルによる新大陸の植民地化においても、火薬の存在は大きな威力を発揮した。なぜなら、当時のインカ帝国やアステカ帝国は、火薬を一切知らなかったからだ。新大陸の人々は、いきなり爆発する物体を見て、悪魔が到来したと思うくらいの恐怖を覚えたのではないだろうか。

歴史に「if」は禁物であるが、もしオスマン帝国を含むヨーロッパ・地中海の国々が火薬を戦争に用いなければ、世界史は全く違った姿になったであろう。中南米やアジア、アフリカといった地域の植民地化も違った形、おそらくはもっとマイルドな形になっていた可能性が高い。

その後、武器は科学技術の発展を受け大規模化していく。

AI兵器使用による最悪のシナリオ

ダイナマイトによる大量殺戮が可能になったのが19世紀。20世紀には核兵器が開発され、全人類の滅亡すら可能になるだけの兵器が世界で製造・確保されるようになった。

そして、火薬、核兵器と続いた軍事技術革命は、AI兵器で新たな革命を迎えることになる。なぜなら、AI兵器は人間を介さないで意思決定するからだ。数千年における人類の戦争史を見ても、人間の意思を介さない攻撃というものはなかった。人類は新たな次元に入ってきていると言ってよい。

このようなAI兵器であるが、一体どのような変化を我々の世界にもたらすであろうか。

第一に、戦争における攻撃のハードルが下がることで戦争がより凄惨なものになる可能性があることだ。

AI兵器は、敵と判断した兵士や武器をことごとく攻撃することもありうる自動殺戮兵器である。敵を殲滅させることにより、本来であれば可能になる和解交渉が難しくなり、怨恨を長期的に生み出す可能性がある。AI兵器によって、分断や排外主義が横行する国際社会を、怨恨により悪化させる恐れがあるのだ。

第二に、軍事大国の勢力図が変わる可能性があることだ。

アゼルバイジャンにAIドローンを提供したトルコは地域大国ではあるが、米中露に比べて世界の軍事大国とは言えない国だ。しかし、アゼルバイジャンを含めて、6カ国にAIドローンを提供しているとの報道もある。また、テロリストやテロ支援国家が、AI兵器を活用することで一気に軍事大国化する懸念も消えない。

開発が比較的困難である核兵器に比べ、手軽なAI兵器は様々な国家に広がる恐れがある。現時点ではAI兵器には制御するための国際的取り決めはない。紛争当事国がAI兵器を無法図に使うなど最悪の事態が生まれる可能性もある。

第三に、サイバー攻撃を含め、敵の社会全体を麻痺させる可能性も高まることだ。

AI兵器の攻撃は、何も物理的な攻撃だけではない。サイバー攻撃という形で、敵の社会システム全体を破壊することも目標になっている。

例えば、我々の使っている電力が、ある日、サイバー攻撃によって稼働しなくなることも起こりうるなど、日常の経済活動にも大きな影響を与える。戦争は、どこか遠い国の出来事ではないのだ。

実際、2021年5月には、米国の「コロニアル・パイプライン」が、ロシアからと見られるサイバー攻撃を受けて5日間も停止している。サイバー攻撃は、軍事攻撃以上のインパクトを生み出す可能性が高い。

以上を基に、AI兵器の時代を我々としてはどのように対応していくべきなのか。

アルゴリズムは効果的な兵士を作るが・・・

第一に、自社のAI技術がAI兵器に転用される危険性について配慮することだ。

もしAI兵器に転用されたことが明らかになると、SDGs(国連の定める持続可能な開発目標)にも反する行為として、投資家や消費者から厳しい視線を浴びることになるだろう。

土木工事を目的として開発されたダイナマイトが軍事転用されたように、先端技術は常に軍事転用されうる。それがテロリストやテロ支援国家に活用されたら・・・。これまでの技術流出防止以上の対策が求められるだろう。

第二に、AI兵器の軍拡競争を他山の石として、自社のAIの暴走についても目を光らせることだ。

AIがコントロール不能になる状態は兵器に限らない。自社の生産や販売、管理部門などが暴走する危険は常にありうる。

AI兵器の危険を2015年に公開書簡の形で世界に警告を鳴らしたのは、ケンブリッジ大学の宇宙物理学者ホーキングであった。数年以内に実用化されるAI兵器を放置すると果てしない軍拡競争に陥り、火薬、核兵器に続く、兵器の大きな革命になると警告したのだ。

ホーキング氏の予想通りAI兵器は実用化され、人類は軍拡競争の入り口に立っている。同氏が泉下で嘆いている姿が目に浮かぶ。

Economist(2021年7月3日)は以下のような指摘をしている。

「Algorithms may make proficient soldiers but poor generals(アルゴリズムは効果的な兵士を作るが、駄目な将校を作る)」

人類は今大きな分岐点に立っていると言って過言ではない。人智を結集して駄目な将校の出現を防止すべきだろう。

山中 俊之

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