「化石燃料の投融資縮小」問われる株主提案の賛否

「化石燃料の投融資縮小」問われる株主提案の賛否

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/06/23
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4月13日に開かれた環境NGOによる株主提案の記者会見(記者撮影)

みずほフィナンシャルグループや三菱UFJフィナンシャル・グループで20~30%台の賛成票を集めた気候変動関連の株主提案。2022年の株主総会では、新たに三菱商事や三井住友フィナンシャルグループなどが株主提案の対象となり、一段と踏み込んだ気候変動の取り組みを求められている。

2021年に国際エネルギー機関(IEA)から温室効果ガス実質ゼロ実現のために必要な施策が提示されたことに加え、第26回気候変動枠組条約締約国会(COP26)で、地球の平均気温の上昇を従来の目標とされていた2度から1.5度に抑える必要性が指摘されたことも追い風になっている。地球温暖化に歯止めをかけるためには、2020年代の遅くない時期に温室効果ガス排出削減の道筋をつける必要があるためだ。

株主提案の対象は5社に拡大

気候変動関連の株主提案は、2020年のみずほを皮切りに、2021年は三菱UFJと住友商事で提案された。いずれも否決されたが、みずほ、三菱UFJ、住友商事で賛成票はそれぞれ34%、22%、20%に達した。

2022年の株主総会では、三菱商事、三井住友FG、東京電力ホールディングス、中部電力、J-POWERの5社が対象となっている。

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環境NGOだけでなく、ヨーロッパの機関投資家が株主提案をしていることも2022年の特徴だ。

三菱商事および東電HD、中部電、三井住友FGに対しては、オーストラリアの環境NGOマーケット・フォースや日本の気候ネットワークなどが株主提案を共同で提出。J-POWERには、フランスの大手資産運用会社アムンディなどヨーロッパの3つの機関投資家がオーストラリアのNGOであるACCRとともに株主提案をしている。

ACCRはJ-POWERに株主提案をした理由として、「同社は日本最大の石炭火力発電運営会社であり、日本が2050年温室効果ガス実質ゼロ目標に沿って排出量を削減していく際に、企業価値を失うことを懸念している」と主張している。

機関投資家の議決権行使に大きな影響を与えるのが、インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)やグラスルイスといった議決権行使助言会社だ。三井住友FGへの株主提案に対しては両社とも反対を推奨する一方、三菱商事への提案では賛否が分かれた。

三菱商事について、ISSは「LNG(液化天然ガス)ビジネスの拡大が2050年実質ゼロの方針と矛盾しているように見える」と指摘。他方、グラスルイスは「同社は実質ゼロの方針や目標をきちんと開示している」として、株主提案への反対を推奨している。

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一方、J-POWERについてはISSが3項目すべてで賛成を推奨。グラスルイスは報酬の方針に関する開示を定める定款変更を除く2項目について賛成を呼びかけている。賛成推奨の理由としてISSは、「老朽化した石炭火力発電所の廃止計画が存在しないことや座礁資産化リスクがあること」などを指摘する。

東電HDおよび中部電に対する株主提案についてグラスルイスは、「気候関連の破壊的影響に対しての資産の耐性をどのように確保しているかを開示することは株主の利益に資する」と賛成理由を述べている。ISSは、「東電HDの2050年実質ゼロ目標達成は、同社および中部電の火力発電合弁会社であるJERAによる取り組みの成否にかかっている。株主がその取り組みを検証するための気候関連の情報が必要だ」と指摘する。

カーボンニュートラル実現へ一段の取り組みを求めている点で、ISSとグラスルイスのスタンスは似ている。

株主提案に一定の支持も

マーケット・フォースのジュリアン・ヴィンセント代表は、「(私たちが株主提案の対象とした)4社はいずれも新たな化石燃料事業または関連の投融資に強く関与しており、気候変動がもたらす財務リスクにさらされている。4社とも2050年実質ゼロを念頭に置いての投資や融資の判断をしているとは思えない」と説明する。

また、イギリスの大手コンサルティング会社ブランズウィック・グループ東京事務所の金田テレザパートナーも、「2050年排出ゼロといった目標を示すだけでは不十分であり、その目標にたどり着くためにどのようにビジネスを変えていくかを投資家は知りたがっている。その点においてきちんとした開示がなされるかに注目している」と語る。

では、株主提案はどれだけの支持を得られるのだろうか。

株主提案の多くはパリ協定の目標と整合した事業計画の策定・開示を求めている。2021年までの株主総会で一定の賛成票を得ているほか、議決権行使助言会社の賛成推奨もあり、一定の支持を得られる可能性が高そうだ。

他方、エネルギー会社による火力発電所建設などの投資や銀行による化石燃料開発への融資と、実質ゼロ目標と整合性を求める提案がどれだけ賛成を得られるかは未知数だ。

IEAによる実質ゼロシナリオやパリ協定に即した排出削減目標と整合性を保とうとした場合、新たな化石燃料関連の投融資は事実上難しくなる。そのため、整合性を追求するなら企業の投融資に事実上の制限を設けることになる。

個人株主として三井住友FGの株主提案に共同参加した環境NGO350.orgの横山隆美日本代表は、「私たちが求めているのは短期・中期のしっかりした目標を策定し、明らかにしてほしいということ。化石燃料関連の投融資を今すぐ一切禁止しろと言っているわけではない」と説明する。

これに対し三井住友FGの取締役会は「仮に(貸し付けとの一貫性といった)本議案が可決された場合、株主やお客様などの多くのステークホルダーに悪影響が及ぶ可能性があることを懸念する」と反対意見を述べている。

賛成率の低い投融資の禁止提案

海外では、化石燃料への投融資の禁止や規制を求める株主提案への賛成率は低い水準にとどまっている。資産運用会社の大手ブラックロックが5月、「(削減を義務付けるような)規範的な提案は支持しない」とする報告書を公表したことも大きな影響を及ぼしているとみられている。

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日本企業はここ1~2年の間、新たな石炭火力発電所への投融資の中止や残高の削減、2050年カーボンニュートラルといった、今までになく踏み込んだ内容の経営方針を策定するようになった。政府による2020年のカーボンニュートラル宣言によるところが大きいが、株主提案の圧力がより踏み込んだ対応を促したことは間違いない。

環境NGOとして日本で初めて株主提案をした気候ネットワークの元メンバーである平田仁子氏(現クライメート・インテグレート代表理事)は「気候変動対策を後押しするツールとして、株主提案は日本でも定着した」と振り返る。

2022年度に入ってからも、三菱UFJが石油・天然ガスセクターへの投融資における二酸化炭素(CO2)排出削減目標を設定するなど、化石燃料ファイナンスを見直す動きは進んでいる。その背後では、環境NGOや機関投資家と企業との間でエンゲージメントと称する対話や厳しいやりとりが続けられている。

反面、ウクライナ戦争によりエネルギー危機が深刻化するなど不透明感は増しており、「カーボンニュートラルに向かううえで考慮すべき変数が増えた」(三井住友FGの竹田達哉・サステナビリティ企画部部長)のも事実。株主提案への賛否は今まで以上に読みにくくなっている。

(岡田 広行:東洋経済 解説部コラムニスト)

岡田 広行

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