スーチー氏「ロヒンギャ」解決を阻む3つの壁

スーチー氏「ロヒンギャ」解決を阻む3つの壁

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  • 更新日:2017/11/24

「今さら聞けない」ニュースのキーワードについて、「分からないことはなんでも聞いちゃう」いまドキの社会人、トオルくんとシズカちゃんが第一人者の先生たちに話を聞いていきます第一回〈今さら聞けない「ロヒンギャ」差別の原因〉

難民の保護が最優先

トオル…アウンサンスーチーさんも「ロヒンギャ」に対してすごく慎重になっていることがわかりました。

シズカ…前回、スーチーさんは「ラカイン問題調査委員会」を発足させたと教えてもらいました。そこで進展はあったんですか?

根本(敬:上智大学総合グローバル学部教授、専門はビルマ近現代史)
…委員会は2つの答申を発表しました。「ラカイン西北部に住むムスリム(=ロヒンギャ)の移動の自由を認めるべき」「彼らのなかで世代を超えてこの地に住む者には国籍を付与すべきである」ということです。これはロヒンギャ問題の解決に前向きに取り組もうとしていたアウンサンスーチーさんにとっても追い風となるはずでした。

トオル…はずだった?

根本…答申が公表された翌日未明、政府軍を襲撃する事件が発生。犯行は、「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)によるものでした。軍は一方的にロヒンギャの一般住民を封じ込め、国から追い出すべく弾圧を加え、そのため委員会の答申のニュースは吹き飛んでしまい、また答申に沿った取り組みへの道も遠のきました。

トオル…なかなか問題解決に向けて前に進まないですね。

シズカ…先生はロヒンギャ問題をどうやって解決すればいいと思っていますか?

根本…まず一番初めにやらないといけないのは難民の保護でしょう。60万人以上の難民が避難したと言われていますが、避難先のバングラデシュの街や村は、物理的なキャパシティを超えています。そして、薬も食べ物も足りていない。援助を行い、彼らが安全に過ごせるようにしないといけません。そして、中長期的な目標ではアナンさん率いる委員会の答申をミャンマー政府が推し進めることが大切です。

「軍」と「世論」という2つの壁

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国民に演説するスーチー氏写真:新華社/アフロ

トオル…う~ん、スーチーさんの鶴の一声で何とかならないんでしょうか?

根本…高い壁が立ちはだかっていますね。まずは軍有利にできている現在の憲法上の制約。ロヒンギャの難民問題には警察や軍が大きく関与していますが、アウンサンスーチーさんは警察や軍、国境問題への指揮権が与えられていません。軍に意見することはできますが、軍がそれを聞き入れるかどうかはケース・バイ・ケースです。加えて、軍は100%反ロヒンギャですから、彼らにあまり言い過ぎると「現政権に協力しないよ」と言い出すことも考えられます。

シズカ…スーチーさんはミャンマーの顔だけど権限は限られているのね。

根本…それでも、壁が軍だけなら、世論を味方に軍と話し合うことはできるかもしれません。しかし、世論も反ロヒンギャです。ここに2つめの壁があります。アウンサンスーチーさんはなんとかこの問題を前向きに解決したいのに、自分の支持層の国民も反ロヒンギャというわけなのです。アナンさんの答申で国民を説得しようと思ったら襲撃事件が起きてしまい、さらに軍に過剰なロヒンギャ弾圧が生じて国際社会から非難ごうごうとなっているので、彼女はいま板挟みの状況にあるといえます。

トオル…なるほど。軍と世論とスーチーさんとのあいだに微妙な関係があるんですね。

根本…今回の難民問題について国際社会は大きく報じているわけですが、あらためてその理由を考えてみましょう。一つは過去2回あったロヒンギャのバングラデシュへの難民流出に比べて規模が格段に大きいからということですが、もう一つは「アウンサンスーチー政権の元で起きた」からなんです。過去2回の難民流出は軍事政権のもと生じましたが、今回は1991年にノーベル平和賞を取った“あのアウンサンスーチー”率いる政権ですから、国際社会は驚いたのです。

シズカ…どうやって解決するのか、他の政権よりも注がれる目が厳しいのでしょうね。

現実的な落とし所はあるのか

トオル…先生はスーチーさんをどう評価しているんですか?

根本…100点満点はとてもあげられませんが、なんとかできることをやっていて、ぎりぎり合格点といったところでしょうか。彼女はこの問題の解決への強い意思だけはもっていて、そこが反ロヒンギャに発つ軍や多数派世論とちがうところです。

ロヒンギャの状況をより一層悪くさせずに安全に帰還させることに取り組めるのは、今のミャンマーでアウンサンスーチーさんしかいません。国際社会全体に言えますが、彼女へのバッシングではなく、アナンさんの答申に取り組めるように彼女をバックアップする必要があるでしょう。ミャンマー国民の反ロヒンギャ感情とのねじれがあるとはいえ、それでもミャンマー国民から彼女は支持されている。言い方を変えれば、彼女は国民を説得できる立場にいるわけです。今後1~2年かけて難民が帰ってくることになるでしょうが、その際に正規の国籍を与えるかどうか、ここが大きな宿題となっています。

トオル…う~ん、でもさっきの「ロヒンギャ」という名前からして認めないという話を聞くと…

シズカ…そこが宿題にして、一番大きな壁な気がするわ。

3つめの壁「ロヒンギャの同意」

根本…おそらく「ベンガル系ミャンマー人」や「ラカイン・ムスリム人」などの新しい枠を作り、ロヒンギャがそれを受け入れるのであれば正規の国籍を与えましょうという話になるのではないかと思っています。これが我々から見ると現実的な着地点ではありますが、一方でロヒンギャから見れば自分たちの名前を否定されていることになる。名乗る権利は人権のイロハのイで、自分の名前を拒否されることは大変な人権侵害です。それは民族名も同じです。

シズカ…ロヒンギャの人たちがその新しい枠を否定する可能性もありますよね。

根本…「我々は昔からロヒンギャなのだ」と言われればそれは尊重しないといけない。だが、そうするとミャンマーの世論も軍も受け入れない。ここが最後の壁ですね。ロヒンギャがそれを認めなければこの先を宙ぶらりんの状態が続くのではないでしょうか。これまで通りの話になってしまって問題の火種は消えないままになってしまいます。

トオル…どちらかが折れて、妥協してくれればいいんだろうけど…。

シズカ…この問題に関しては、それもなかなか難しそうね。

根本…もう一つの選択肢としては一旦別名の民族名を認めてもらって、その後きちんと話し合いましょうという流れもあるかもしれません。長期にわたって検討しましょうという条件を付して納得してもらう。ただし、これでロヒンギャ側が折れてくれるかはわからない。国籍を与えるなんてとんでもないという人が多くの世論の声なので、やはりアウンサンスーチーさんの難しい立場はかわりません。

シズカ…いずれにせよ焦らず中長期的に考えないといけないですね。

次回〈日本人は「ロヒンギャ」を自分事にできるか〉に続く。

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