翁長知事を「殉職」に追い込んだ真犯人は誰なのか

翁長知事を「殉職」に追い込んだ真犯人は誰なのか

  • アゴラ
  • 更新日:2018/08/10
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亡くなった翁長知事(沖縄県サイトより)

沖縄県の翁長雄志知事が8日、死去した。67歳。今年4月にすい臓がんの手術を受けたが、退院後も激やせしながら公務をこなす姿に、健康状態を憂慮する声はあがっていた。11月の知事選出馬も危ぶむ見方が多かったが、7月末に入院。昨夕になって入院先で意識が混濁し、副知事が職務代理者となることが発表されたのもつかの間、夜になって訃報が届いた。

名護市辺野古への普天間基地の移設を巡り、安倍政権と激しい攻防を繰り広げていた中での死去。いまとなっては信じられないが、30代半ばで那覇市議選に初当選して以来、政治家生活は当初、自民党に所属していた。その後、那覇市長時代の後期、オスプレイの沖縄配備や普天間基地の辺野古移設への反対運動に加わるようになって、自民党を離党。知事選では、左派勢力を中心にした「オール沖縄」に支援され初当選し、基地問題で安倍政権と激しい対立を繰り広げてきたことは、周知の通りだ。

訃報が流れてから、ツイッターでは、右派のネット民などが翁長氏を中傷する意見が散見され、たまりかねた乙武さんが苦言を呈していた。

思想信条の違いはあろうかと思います。それでも、死者に鞭打つような言葉を書き殴る方々の少なくないことに驚かされています。どんなに敵対する間柄であっても、最期にはその死を悼む。それが日本人の国民性だと信じてきました。愛国を自認する方々にこそ、そうした尊い国民性を貫いていただきたい。
— 乙武 洋匡 (@h_ototake)
2018年8月8日
from Twitter

翁長知事は安倍首相に「殺された」のか?

しかし、左派のネット民のなかにも「安倍首相に殺された」などと書き込む人たちも相次いでいた。たとえば、こんな感じだ。

翁長沖縄知事が安倍に殺された完全にガン移植殺人です。

「核兵器は存在そのものが許されない」と、オーストリアの大使が原水禁世界大会の世界フォーラムで。翁長知事も「米軍基地は沖縄に必要ない」との立場で頑張り抜き、その途上で倒れた。安倍政権に殺されたようなものだと、僕は感じた。翁長知事の遺志を継ぎ、基地のない沖縄を必ずと、泣きながら思う夜

翁長知事は共産党に殺されたとネトウヨがコメントしていた。ふざけるな!!安倍政権に殺されたんだよ!ネトウヨは人じゃない。

そんな彼らの「空気感」の一端を示すのが、この朝日新聞が運営するAERAドットの記事の見出しだ。

翁長沖縄県知事が死去 安倍政権との戦いで満身創痍 知事選前倒しへ (1/2) |AERA dot. (アエラドット)

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首相官邸サイトより

どんなセンセーショナルな記事になっているかと思って読んでみたら、この渡辺豪記者の書いた記事自体は意外に冷静だった。むしろ、官邸が翁長知事の本当の健康状態に関する情報を収集し、秋の知事選が前倒しされる可能性もにらんで周到に準備をしていた様子をしっかり伝えている。

この記事はAERAオンライン限定だそうだから、そういう意味では、典型的なネット向けの「煽りタイトル」をつけた形になる。

ただし、外形的な事実としては、安倍政権との法廷闘争を含めた激しい戦いで心身をすり減らした末に、翁長氏が「殉職」したとみる向きが出るのは致し方ないかもしれない。少なくとも知事就任後の国との戦いの末に病死したのは事実だ。政治的立場は問わず、まさに壮絶な最期だった。

しかし、翁長氏の「殉職」を語る上で、直近の事象しかみないのは近視眼的でもある。かつては自民党の沖縄県連で幹事長まで務めるほど、沖縄保守の中枢にいた人物が、なぜここまで「反権力」的になったのか。そうさせたものをしっかりみていかなければ本質を掴んだとは言えないのではないか。県議時代には辺野古移転を推進した側でもあったわけだから。

翁長氏自身が語っていた“真犯人”

ここで興味深いのが、同じ朝日新聞の過去の記事だ。題して『翁長雄志さんに聞く 沖縄の保守が突きつけるもの』。小泉純一郎、進次郎父子の密着取材で知られる常井健一氏がFacebookで紹介していたので読んでみたものだが、市長時代に反対運動に身を投じはじめた頃の翁長氏にインタビューしている。

これを読むと、翁長氏が政治的に「転向」したきっかけの一端がわかる。その「核心」とも言えるところから引用しよう(太字は筆者)。

――普天間問題での鳩山由紀夫内閣の迷走で「あつものに懲りた」というのが永田町の感覚でしょう。

「ぼくは自民党県連の幹事長もやった人間です。沖縄問題の責任は一義的には自民党にある。しかし社会党や共産党に国を任せるわけにもいかない。困ったもんだと、ずっと思ってきた。ただ、自民党でない国民は、沖縄の基地問題に理解があると思っていたんですよ。ところが政権交代して民主党になったら、何のことはない、民主党も全く同じことをする」

「僕らはね、もう折れてしまったんです。何だ、本土の人はみんな一緒じゃないの、と。沖縄の声と合わせるように、鳩山さんが『県外』と言っても一顧だにしない。沖縄で自民党とか民主党とか言っている場合じゃないなという区切りが、鳩山内閣でつきました」

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2010年5月、普天間基地を視察する鳩山首相(官邸サイトより)

これを読むと、「翁長さんは安倍に殺された」という人は「なんだ、民主党の悪口を言いたいから、都合のいい記事を引っ張ってきたんじゃねーか」と憤慨するかもしれない。

ただ、客観的な事実を述べさせてもらうと、記事が掲載されたのは、2012年11月24日。この時点での官邸の主は民主党の野田政権であり、安倍晋三氏は野党党首に過ぎない。つまり、当時の翁長氏の「政敵」は、「最低でも県外移設」と主張して辺野古問題の積み上げをぶち壊した鳩山氏であって、安倍氏ではない。

もちろん、その後に翁長氏が、安倍政権との戦いに身命を賭した末に亡くなったのは事実だが、この朝日の記事でご本人が語っているように、「転向」のきっかけはウチナンチュー(沖縄人)としてヤマトンチュー(本土の人)への大きな失望なのだ。沖縄問題は1人の政治家のポジションひとつ論じるだけでも複雑なのだ。

複雑さという意味では、翁長氏が集団的自衛権容認を少なくとも当時は公言していた点でも、この記事は注目に値する(太字は筆者)。

「ぼくは非武装中立では、やっていけないと思っている。集団的自衛権だって認める。しかしそれと、沖縄に過重な基地負担をおわせるのは別の話だ。玄葉光一郎外相にも言ったが、あんた方のつぎはぎだらけの防衛政策を、ぼくらが命をかけて守る必要はない」

「自民党の野中広務先生は、新米の県議だった僕に『いまは沖縄に基地を置くしかない。すまん。許してくれ』と頭を下げた。でも民主党の岡田克也さんなんか、足を組んで、NHKの青年の主張みたいな話をして、愛情もへったくれもない」

「ポスト翁長県政」へ複雑な問題を冷静に論じよう

この記事であらためてわかるのは、脊髄反射的に「翁長は非国民だ」とか「翁長さんは安倍に殺された」などと反応するのは、それが左右を問わず、安倍政権の指示不支持を問わず、ヤマトンチューの人たちからのものであれば、あまりに思慮が浅いということだ。

前出のAERA渡辺記者は記事の最後に「新基地建設反対を最期まで貫いた翁長知事の「弔い」の感情が県民の間に広がることも予想される」などと付け加えている。そうなる可能性を否定はしないが、知事選は、複雑な基地問題を一歩でも前進させる上で、何が大事か冷静に議論しなければなるまい。そのことは「ポスト翁長県政」において、地域経済の低迷、貧困、全国最低の学力浮揚といった沖縄の根深い問題をどう解決していくかを論じる意味でも必要なことだ。

最後になりましたが、長らく沖縄県のために尽力された翁長知事のご冥福を慎んでお祈りします。

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