年収1000万円超でもゴミ屋敷に住んでいた60歳男性は「死んでよかった」のか

年収1000万円超でもゴミ屋敷に住んでいた60歳男性は「死んでよかった」のか

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2020/11/20

ゴミ屋敷の住人は早逝することが多い。住人がいなくなれば、残るのはゴミだ。その清掃費用は数百万円に上ることもある。もし家族がゴミ屋敷の住人になったとき、あなたはその死をどう受け止めるだろうか。今回はどちらも60歳男性という2つの現場を紹介する——。(連載第4回)

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撮影=今井一詞「あんしんネット」の事業責任者の石見良教さん(右端)と作業員のみなさん。撮影のためマスクを外してもらったが、普段はコロナ前から終日マスク姿で作業をしている。 - 撮影=今井一詞

ゴミ屋敷に住む人は内科的疾患を患っている人が多い

「こんな家に住んでいると、人は死にます」というこの連載第1回第2回は実際に人が死亡した家、第3回はこのままいくと死んでしまう、というタイトルそのものの現場を紹介し、その背景に「ためこみ症」があることにも触れた。もしあなたの大切な人がゴミの中で生活していたらどうするだろう。もしくはあなたがゴミの中で暮らす可能性はないだろうか。

なぜゴミ部屋の中で人は死ぬのか。

実は、ゴミ屋敷に住む人は内科的疾患を患っている人が多く、ゴミの中には大抵薬が埋もれている。つまりは服薬していない。食生活もいい加減なため、糖尿病になりやすい。最終的には合併症を起こし、不衛生な環境で感染症にかかり、早逝してしまう。

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【連載】「こんな家に住んでいると、人は死にます」はこちら

生前・遺品整理を手がける「あんしんネット」の事業責任者で、孤独死現場の第一人者でもある石見良教さんがこう話す。

「ああいったゴミがたまるような家に住んでいる人は、自分の好きなものしか食べないですし、よくあるのはアルコールばかり飲んで糖尿病が進んでいるケースですね。そして病院にもかからず、受診した時にはかなり病が重症化していて救いようがない」

ほかに室内のゴミ山から転落死することもあれば、夏季には熱中症で亡くなるケースもある。現場では全く笑えないのだが、室内にはエアコンのリモコンがどこにあるのかさえわからない。第3回は“最もキツイ”と記したが、次に紹介する現場は私を含め、すべての作業員の肉体が数分で限界に達するゴミ部屋だった。

液状の便がこすりつけられ、髪の毛がねっとりと付着

ある猛暑日、東京都内でマンションに一人住まいの60歳男性がゴミの中で死亡した。近隣の住民が「異臭」を訴えて通報し、警察が室内に入ると、部屋で男性が死亡していたのだ。のちに死後1週間と推定された。警察が遺体を運び出した後、室内の片付けにあんしんネットが呼ばれたのだった。

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猛暑日に作業をした男性宅。競馬で小遣いを稼ぎ、数年前まで仕事をしていたらしい形跡があった。(撮影=笹井恵里子)

ドアを開けた瞬間、すさまじい死臭が漂った。室内空間の5分の4はゴミで埋まっており、壁面のエアコンにまで達している。ゴミ山には液状の便がそこここにこすりつけられ、壁には死亡した男性のものと思われる髪の毛がねっとりと付着していた。

室内にはむんむんとした熱気が立ち込めていた。とりわけ暑いサウナ室にいるようだ。作業員は高さ160センチ以上のゴミ山の頂上と天井の間のわずかな隙間に座って整理するしかない。誰もが“ゆでダコ”のように顔が真っ赤になり、手を上にあげると手袋内の汗がドバーッと流れ出た。

「あっつー」「くっさー」

という作業員のつぶやきがしばしば聞こえる。皆、声に元気がない。

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撮影=笹井恵里子死亡した男性のものと思われる髪の毛がねっとりと付着していた。 - 撮影=笹井恵里子

特に中年のゴミだめは見つかりにくくなっている

場数をこなしているはずの当日の社員チーフも、時折外に飛び出し、しゃがみこんで口元をおさえていた。臭いにやられているのか暑さに参っているのか、わからない。

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こうしたゴミがエアコンの高さまで積み上がっていた。この日はあまりの暑さのため、連続した作業は10分が限界だった。(撮影=笹井恵里子)

私も連続した作業は10分が限界だった。まるでウルトラマンのように、脳に危険信号が点滅し、目がチカチカして頭が痛くなってくるのだ。いつもはどんなに臭くても汚くても笑いの絶えない現場だが、ここでは誰もが他人を気遣うことができないほどノックアウト寸前だった。家主の男性も熱中症で死亡したのかもしれない(原因は不明)。

男性は競馬で小遣いを稼ぎ、数年前まで仕事をしていたらしい形跡があった。家賃も滞りなく支払えている。

しかし死体発覚状況を考えても、現在は社会とのつながりがない。現場を見た石見さんが推測する。

「このゴミをためるのに20年はかかっています。失業や離婚、転職など何かのきっかけがあり独居生活とともに、失望感みたいなものがあって、どうでもいいやと思ってしまったんでしょうね。そしてご近所さんとのつながりも薄れていった。西洋的概念で“個”が大事にされる現代では、特に中年のゴミだめは見つかりにくくなっている」

年収1000万円超、家賃20万円近くの賃貸マンションに一人暮らし

この10月下旬も、やはり60歳男性がゴミ部屋の中で死亡した。誰もが名前を知る超大手企業に勤めていたその男性の年収は1000万円を超えていたという。家賃20万円近くの賃貸マンションに一人暮らしで、ゴミ山から転落して頭を打って亡くなったとのこと。

男性の親族からあんしんネットへ室内整理の依頼があった。同社にとってもトップクラスのゴミの量だというから、ぜひとも私も見たいとお願いした。しかし片付け一日目では、玄関口から室内に入ることさえ不可能と聞き、2日目の作業に参加させてもらうことにする。

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撮影=今井一詞10月下旬に作業した男性宅。ようやくテーブルが見えてきた。当初はテーブルの存在もまったくわからなかった。ここまでゴミを排出するのに、すでに2日間かかっている。 - 撮影=今井一詞

すると、なんと今回はプレジデントオンライン編集長の星野貴彦さんも「一緒に掃除をしたい」と言う。これまで多くの人にゴミ屋敷の話をし、大半の人が興味を示してくれたが、「自分もやります」と申し出てくれたのは彼が初めてである。

とても意外だった。

「こんなマンションで隣がゴミ部屋だったら大変でしょうね」

星野さんは都心のきれいなオフィスで、スマートに仕事をする姿がよく似合い、泥まみれ汗まみれは不釣り合いだったからだ。以前、「ゴミの中で死ぬこと」について話していた時、彼はこんなことを言っていた。

「私は人が死んでもまったく悲しくない性分なんです。仕事関係のある方が若くして突然亡くなった時、まったく面識のない妻のほうが泣いてしまう始末で、自分の冷酷ぶりに自分で驚き、戸惑いました。私は父をがんで亡くしていますが、周囲に迷惑をかけるような人だったので、その時も正直ほっとしたと言いますか……。だからゴミ屋敷の住人が亡くなったとしても、身内の方は『よかった』と思うのではないでしょうか」

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撮影=今井一詞リビングの様子。やはりエアコンの高さまでゴミが積み上がっていた。撮影までに片づけが進んでおり、当初は隣の部屋には入れなかった。エアコンのリモコンはのちほどゴミの中から見つかった。 - 撮影=今井一詞

だからだろうか。ゴミ屋敷掃除の当日、星野さんはしきりにゴミ部屋があるところと同フロアの、“周囲への影響”を気にしていた。

「(表札を見て)隣にはお子さんがいるみたいだし、こんな立派なマンションにファミリーで住んでいて、隣がゴミ部屋だったら大変でしょうね……」と、つぶやく。正直に言うと、私は星野さんからのこの発言を聞くまで、周囲に住む人の気持ちに思いをはせたことはなかった。いつも気になっていたのは、掘り下げたいと思っていたのは、“ゴミ部屋に住む人の心”だ。

「ゴミ部屋に住む人」と「世の中の主流」の間にある壁

そうか。私は部屋にゴミをためこんでしまう、その心のうちを知りたいと思う。一方で、星野さんはゴミ部屋化した人の隣に住む家に共感をよせる。彼は好奇心旺盛でフットワークが軽く、物事をさまざまな角度からスピーディーに判断する。書き手の私にとって、見落としていた部分に気付かせてくれることがしばしばある、貴重な編集者だ。

けれど一方で、星野さんとは根本的にわかり合えない。気遣いのある人だから、こちらの気持ちを察することには長けているのだけど、何も言わなくてもわかる、というような感覚がもてないのだ。彼と私との間には、コロナではやった「アクリル板」が常に存在しているような感じである。

星野さんは「物を買いそろえること」には理解を示す。「ひとごとではない」とも言う。だが、妻と子供がいる、そうはならなかった自分という視点がある気がした。批判しているのではない。ゴミ部屋に住む人は、“世の中の主流”とまじりあうことのできない壁を感じているのかもしれない。

「毎月数十万円分はプラモデル類を購入していたはず」

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廊下のゴミを片付け、ようやく洋室に入ることができた。ゴミの山をかき分けながらの作業になった。ドアはこれ以上開けられない。(撮影=今井一詞)

男性宅は広めの2LDKだが、すべての空間がプラモデルやモデルガンを中心とするゴミで埋め尽くされていた。玄関、トイレ、風呂、キッチン、リビング。そのすべてに160センチ以上のゴミが積み上げられている。窓も埋まっており、ゴミを排出しなければ、玄関より先には立ち入れない。

ただよく見ると、ゴミ山には未開封の箱がきれいな層になっているところもあり、そこはまるで“秘密基地”を思わせた。端から見れば孤独な空間だが、本人にとっては好きなものに囲まれた幸せな居場所だったのではないか。

それにしてもーー。

「毎月数十万円分はプラモデル類を購入していたのではないか」と石見さんは言う。石見さんの見立てでは部屋中のプラモデル類をすべて売りさばけば、中古であっても100万円近くになりそうだとのこと。しかしこの男性宅の室内を整理するにはおよそ200万円近くがかかるという。

親が、子供が、きょうだいがゴミ部屋で亡くなったら?

私は星野さんに尋ねた。

「もしお父さまが病気でなく、このようなゴミ部屋で亡くなっていたら、遺族としての気持ちに変化はありますか?」

ゴミ部屋でくしゃみが止まらなくなりながら、星野さんはこう答えた。

「困ったことをしてくれたな、という気持ちが強くなったでしょうね。ただ死ぬだけでなく、ゴミという迷惑まで残していったのか、と。自分事として考えても、整理業の方に費用をお支払いして処理を依頼することになったでしょう。その費用負担を強いられるストレスがあったでしょうね」

あなたならどうするだろうか。親が、子供が、きょうだいがゴミ部屋で亡くなったら? 次回は遺品整理で、高額な料金を請求する悪徳業者を取り上げよう。(続く。第5回は12月4日配信予定)

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)など。
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笹井 恵里子

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