
北香那『どうする家康』(写真提供=NHK)
『どうする家康』(NHK総合)の第10話「側室をどうする!」は、完全に北香那の“主役回”といっても過言ではないものだった。これが3度目の大河ドラマ出演にして、本作の初登場回。すでにレギュラーメンバーとして定着してきた顔馴染みの面々を押しのけ、たったの1話で超重要キャラクターへと躍り出たのだ。北香那という存在を、そして彼女の俳優としての力量を、私たち視聴者の誰もが思い知った回になったのではないだろうか。
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本作にて北が演じているのは、松平家に仕える侍女・お葉。これから大きくなっていかなければならない松平家の家康(松本潤)の側室探しの際、彼女に白羽の矢が立った。無愛想な性格ではあるものの、ほかの者たちが避けたがる仕事さえも率先してやる働き者だったからだ。雑用ごとはもちろんのこと、突進してくるイノシシさえも簡単にさばいてみせる。本作で描かれる家康像は優柔不断でどうにも頼りない人物だから、彼とは対照的なキャラクターである。
これを北はコミカルに演じてみせた。いや、“コミカル”というと誤解を生むかもしれない。彼女はいつだって真剣であり、何事にも全力投球だったからだ。先述しているように家康のキャラクターとは対照的。本作のストーリーが家康役の松本を中心にこの10話まで展開してきたため、つねに作品全体の印象にどこか滑稽さがある。その中心部へと途中から入ってきたお葉が無愛想で不器用なキャラクターであることに北が徹したため、家康らとのズレを生み出し、これがこの第10話に漂う“おかしみ”につながった。
北はインタビューでお葉役について(※)、「私がお葉ちゃんに抱いていたのは、クールで、喜怒哀楽が分かりにくく、テキパキ仕事ができて、いわゆる女子校でモテそうなカッコいい女子みたいなイメージだったんです。監督はそれにプラスして、一つひとつの動きがカチカチと決まっているロボットっぽくて、真面目にやっていることが愛らしく見えてくるようなキャラクターだと教えてくれました」と語っている。これは端的にいって成功したのではないだろうか。北自身が目指したものと監督が求めたものとが、十二分にこの時代劇の画の中には収められていた。さらに彼女は「私は感情が読めない、クールな役をあまりやったことがなかったので、そこは大変でした」と述べているのだが、たしかに思い返せば分かりやす過ぎる表現だったともいえるかもしれない。しかし、主演の松本らによってすでに完全なる下地ができていたのだ。そこに対抗し、お葉のキャラクターを刻み込んでいくのには、あれくらい濃厚で力の入ったパフォーマンスが必要だったはずである。
そんな北が大河ドラマに挑むのは、冒頭で触れているようにこれが3度目。2019年放送の『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK総合)、昨年の最大級の話題作『鎌倉殿の13人』(NHK総合)に続いてのことだ。今作では今後どれくらいの出番があるのか分からないが、少なくともこの第10話では非常に大きな功績を残した。お葉はいきなりの側室への打診に戸惑い、不器用ながら自身の感情を抑えて奮闘。最終的にはその心の内を感情的に吐露した。そしてこの一連の振舞いに翻弄されたのが、ほかの誰でもなく家康である。まだまだ天下は遠い、頼りのない男だ。演じる松本自身やその周囲のレギュラーメンバーはこれを一丸となって視聴者に示しているが、彼らの存在がより際立つキャラクターがつねに必要。今回の北の場合は最初から最後まで松本とは真逆のパフォーマンスを展開させることで、情けない男の姿をよりくっきりと浮き上がらせ、その先に彼の成長の可能性があるのだと示すことを手伝う役どころを担った。家康にお葉の全力の姿が響いていなければ、さすがにもうついていけないというものである。
いまなお話題の『ガンニバル』(ディズニープラス)にて物語のカギを握る重要人物の1人を演じていることもあり、北香那は各方面から注目を集めている。同作の続編にも期待せずにはいられないところだが、とりあえずいまは『どうする家康』での活躍である。次にまたお葉にスポットライトが当たるときは、再び家康に“喝”が入るときであり、それは物語が動き出すときだろう。
・参考
https://realsound.jp/movie/2023/03/post-1275926.html
(折田侑駿)
折田侑駿