“五輪株”世界拡散の悪夢 パラ開幕とともに第5波も直撃か

“五輪株”世界拡散の悪夢 パラ開幕とともに第5波も直撃か

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  • 更新日:2021/06/10
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国会で新型コロナの感染拡大について答弁する政府分科会の尾身茂会長 (c)朝日新聞社

あくまで開催に向けて突き進む政府だが、何より気がかりなのは、感染拡大のリスクだろう。

【五輪期間中の新規感染者数予測はこちら】

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は6月2日、参院厚生労働委員会で東京五輪・パラリンピックの開催について問われ、「今の状況でやるのは普通はない」と答弁した。

政府に助言する立場の専門家が「五輪中止」に踏み込んだのは異例のこと。しかも、追い打ちをかけるようにこんな注文もつけた。

「そもそも、こういう状況の中でオリンピックを何のためにやるのか。それがちょっと明らかになっていない」

「安全・安心な大会」を掲げて開催に猛進する菅義偉首相に、国会の場で冷や水をかけた格好だ。ある官邸関係者は言う。

「菅首相は大会開催の意思を変えていないが、五輪反対論の高まりに風向きが変わりつつある」

それも無理もないことだ。たしかに、第4波のピーク時に比べると感染者数は減った。だが、東京都では10万人あたりの療養者数などの指標はステージ4(感染爆発段階)のまま。大会期間中に第5波が来てもおかしくない。

そのことは、専門家によるシミュレーションでも明らかになっている。

東京大学大学院経済学研究科の仲田泰祐准教授らが、今後の東京都のコロナ新規感染者数を予測した。

試算では、6月中旬に緊急事態宣言を解除すると前提を設けた。そのうえで、ワクチンの接種が日本全国で週420万回の「基本見通し」と、週700万回の「希望見通し」の2通りのケースを想定した。仲田氏は言う。

「緊急事態宣言の解除によって人の流れが徐々に戻り、人流が増えれば、感染者数も増えます。そのため、ワクチンの効果が出て感染者数が減るのは、希望見通しでも9月以降になる可能性があります」

東京五輪は7月23日~8月8日、東京パラリンピックは8月24日~9月5日の期間で開催される。現在の接種ペースでは、ワクチンの効果は間に合わない可能性が高い。

これだけではない。大会が開催されれば、人の動きが活発になることが予想される。参加する選手の数は約1万5千人、選手以外の大会関係者の来日は約8万人になる見込みだ。

また、大会が開催されれば、応援イベントなどで人が集まる機会が増えるのも避けられない。

仲田氏らの別の試算では、大会期間中に人の流れが1%増えれば、感染者が180人程度増える可能性があるという。

「試算によると、感染者数の増加に与える影響は、五輪関係者よりも日本国内に住んでいる人たちの人流増加のほうが大きい。大会期間中にどうやって人の流れを抑えるか。それを考えることが重要です」(仲田氏)

大会開催によるリスクは日本国内にとどまらない。複数の変異株が日本に集まれば、新たに“五輪株”が発生する危険性もある。尾身氏も3日の国会答弁で「(ウイルスが)医療制度や検査体制が非常に脆弱(ぜいじゃく)な発展途上国にわたる可能性がある」と指摘している。

東京医科大学病院渡航者医療センターの濱田篤郎特任教授が指摘する。

「多くの選手やコーチは選手村に宿泊するので、行動制限は可能でしょう。問題は、街のホテルに宿泊する報道関係者や大会関係者です。監視や行動制限が困難になることが予想されます」

大会に参加する選手や関係者の行動ルールをまとめた「プレーブック」では、報道関係者らにも商業施設やレストランに行かないことなどが求められているが、全員がルールを守るとは限らない。また、入国時は日本で繰り返しPCR検査を受けても、帰国後に日本と同様の検査や隔離が実施されるかは不明だ。

「大会開催の条件は、日本国内で流行を起こさないこと、医療機関に負担をかけないことだけではありません。大会関係者から世界に流行を広げないことも重要です」(濱田特任教授)

仮に五輪を切り抜けたとしても、本当の危機はその後にやって来るかもしれない。ある大会関係者は言う。

「五輪期間中に人の流れが増えれば、ウイルスの潜伏期間が過ぎた1~2週間後から感染者の増加が始まる。五輪閉幕の16日後に開幕するパラリンピックに“第5波”が直撃する可能性がある」

パラリンピックには、五輪にはないリスクもある。日本パラリンピック委員会の幹部は言う。

「パラリンピックの選手は、五輪選手に比べて平均年齢が10歳ほど高い。車いす生活が長い選手の中には高血圧や糖尿病の持病を抱える人も多い。また、頸髄(けいずい)損傷や脳性まひの人は呼吸器の機能が弱く、コロナに感染して肺炎になると重症化しやすい」

米国の医学専門誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」が5月25日に掲載した論文でも、この問題が指摘されている。東京大会で準備されているプレーブックを「科学的な厳しいリスク評価に基づいて作られていない」と批判。その一例として「パラリンピックのアスリートの中には、より高いリスクを抱えている人がいる」と指摘している。

大会終了後、日本が世界中から非難の的になる。その懸念はまだ消えていない。(本誌・西岡千史)

※週刊朝日  2021年6月18日号

西岡千史

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