「麦芽を使ったお酒」米麹の代わりに麦芽を使用し、麦芽由来の酵素で米を糖化する

「麦芽を使ったお酒」米麹の代わりに麦芽を使用し、麦芽由来の酵素で米を糖化する

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  • 更新日:2023/05/26

「日本酒とビールの融合の、その先へ」をテーマに、米麹の代わりに麦芽を使用し、麦芽由来の酵素で米を糖化することにチャレンジしました。
原料は「米、麦芽、ホップ、米麹」。“ビールでも日本酒でもない、なんだこのお酒は!” というお酒を目指しました。

この記事は主に、醸造の裏側を知りたいギークな方、日本酒/ビール業界の方に読んでもらえたら嬉しいなと思っています。

0.自己紹介

こんにちは。三村といいます。
私は南相馬にあるhaccoba(https://haccoba.com/)という酒蔵でお酒を造っています。

haccobaは「酒づくりをもっと自由に」という思いのもと、ジャンルの垣根を超えた自由な酒造りをする酒蔵です。例えばクラフトビールの要素(ビアスタイル / ホップ)を取り入れた酒造りなどをしています。

そこで今回haccobaでは、「米麹の代わりに麦芽を使用し、麦芽由来の酵素で米を糖化したお酒」に挑戦しました。

1.今回のお酒について

お酒のテーマ

このお酒には大きなテーマがあります。
「日本酒とビールの融合の、その先へ」をテーマに、米麹の代わりに麦芽を使用し、麦芽由来の酵素で米を糖化することにチャレンジしました。

通常日本酒は、米麹由来のアミラーゼでお米を糖化しますが、今回は麦芽由来のアミラーゼでお米を糖化します。
麦芽を使ったお酒は未開の領域であり、だからこそやる価値があると思っています。その結果として、お酒の表現として幅が広がると思っています。

「酒づくりをもっと自由に」
これがhaccobaが大切にしていることです。

お酒の概要

・COEDO(https://coedobrewery.com/)さんとのコラボ
・COEDO 伽羅-Kyara-(https://coedobrewery.com/collections/coedo-classic/products/232)をモチーフ(同じ麦芽、アロマホップを使用)
・テーマ:日本酒とビールの融合の、その先へ
・チャレンジ:米麹の代わりに麦芽を使用し、麦芽由来の酵素で米を糖化する
・目指した味わい:ビールにも感じるし、日本酒にも感じる。ビールでも日本酒でもない、なんだこのお酒は!というお酒。
・原材料:米、麦芽、ホップ、米麹
・製法:高温糖化サワーモルト花酛、酵母(ビール+清酒)のハイブリッド発酵、並行複発酵、二段仕込、ドライホップ

2.ビールと日本酒の違いについて

ビールと日本酒、そして今回のお酒の違いを記載します。

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※全てのお酒に当てはまるわけではありません。こちらを参考に作成。https://sakestreet.com/ja/media/what-is-sokujo

表を見てわかる通り、ビールと日本酒の造り方の違いはたくさんあります。
原料はもちろん、糖化方法、発酵方式、水歩合(ex. 原料100kgに対して水100Lの場合は100%)、温度経過、発酵期間など全て異なります。
そのためレシピを考える際はとても悩みました。

3.どのように醸造したのか

レシピ作成にはかなり苦戦しました。
この部分はビール要素、この部分は日本酒要素、この部分はビールと日本酒を1:1で取り入れる、のようにレシピをつくりました。

未知なことが多く(ex. 水歩合、モルト歩合、温度経過など)、かなり苦戦しましたが、いろんなブルワーの方に助言をいただき、ようやくレシピが固まりました。

○実際どう造ったのか

再度製法を記載します。
製法:高温糖化サワーモルト花酛、酵母(ビール+清酒)のハイブリッド発酵、並行複発酵、二段仕込、ドライホップ

どういうことかというと、
・まず水に唐花草とホップを入れ、沸騰させる

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ホップを入れて煮沸

・沸騰したら唐花草とホップを濾して、煮汁をタンクに入れる
・タンクに粉砕したモルトを入れる(マッシュの完成)
・62℃で1h糖化する(酵素の力でデンプンを糖に分解。高温糖化サワーモルト花酛の完成)
・モルトを濾過し、綺麗な液体のみを別のタンクに移す
・(その後、通常のビールの場合、ビアリングホップを入れて煮沸。ここポイント)
・酵母添加(ビール酵母+清酒酵母) ※ここで仕込1日目が終了

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高温糖化サワーモルト花酛の翌日

・3日目に蒸米をタンクに投入
・以後、適宜温度調整、追水をして発酵管理をする
・発酵後期に米麹四段(1kg)
・ドライホップをする

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ドライホップ!

・瓶詰め
・完成!

こんな流れになります。
今回のお酒は、糖化とアルコール発酵が同時に進む並行複発酵で造っています。仕込みの前半はビールと同じように仕込んでいるのですが、煮沸工程がありません。あえて煮沸しないことで、麦芽由来の酵素(アミラーゼ/プロテアーゼ)を残しています(70℃以上では、酵素が失活してしまいます)。
たた、これがのちのち厄介なことになります笑

○酛

酛の種類は高温糖化サワーモルト花酛になります。おそらく誰もやっていませんw
haccobaの定番であるはなうたホップスは高温糖化白麹花酛なのですが、米や麹の代わりに麦芽を、白麹の代わりにサワーモルトを使用した結果、このような名前になりましたw

○酵母

酵母はビール酵母と清酒酵母のハイブリットです。なぜハイブリットにしたのか。
清酒酵母のみで実施すると、麦芽由来の酵素で分解された糖を資化(アルコール発酵)できない可能性があります。清酒酵母では麦芽由来の酵素で生成されたマルトースをあまり資化できません。

「マルトース、グルコース混合糖中のマルトースの利用性(資化性)」培養7日目で協会6号は29%、7号は38%、および9号酵母は48%となった。

またビール酵母のみで実施すると、11%以上のアルコール耐性がないため(※今回使用した酵母の場合)、それ以上超えると酵母が死んでしまい、酵母臭が出てしまいます。また日本酒のように低温発酵を想定していたので、ビール酵母よりも清酒酵母の方が適しているのではと思いました。

双方のデメリットを補う目的で、ハイブリット発酵という判断に至りました。

○四段

四段で米麹を1kgだけ入れています。
この米麹は糖化目的ではなく、「その他の醸造酒」という免許の範囲でお酒をつくるために米麹を入れています。

○ハプニング

予想していないハプニングがたくさん起こりました笑
例えば、濾過する際にモルト詰まる、発酵初期がいつも以上に発酵旺盛で焦る、発酵の途中でTKG(卵かけご飯)や納豆っぽい香りがする、米があまり溶けない、上槽の際に詰まるなど。
最初から最後まで、ハプニングが付きまといました。笑
これらのハプニングに対応しながら、醪管理・温度管理をしました。

実は上記以外にも、小麦麹と大麦麹にも挑戦したのですが、失敗しました。。こちらについては別の機会に書きたいと思います。笑

4.得られた知見

いろいろ試した結果、知見がたくさん得ました。
これから同じようなお酒を造ろうとしている人向けに、今回得られた知見はシェアした方がいいかなと思い、共有します。

煮汁:ホップを煮沸させた煮汁を使用したが、ホップが酸化していた、もしくは発酵途中で酸化したと思われるオフフレーバーが発生(納豆臭,イソバレリン酸)。この段階ではホップは使わないほうが無難。

例えばビールの世界では、納豆の香りはオフフレーバーの一つである「イソヴァレリアン酸(イソ吉草酸)」の香りの例えに用いられる。オフフレーバーとは一定以上含まれるとビールに不快な香味を付与し、飲み進みづらくしてしまう香気成分の総称で、上記の成分は熱によるビールの劣化や古いホップの使用、ドライホッピングしたビールの劣化、製造工程等でビールがバクテリアなどに汚染されてしまった際に発生し、「腐敗臭」とも呼ばれる。

糖化/濾過:日本酒の設備で麦芽を糖化する際は、麦芽をホップバックに入れた方が良さそう。
そのままやると単純に詰まってしまう。また濾過に時間がかかってしまうため、空気を触れる機会が増えコンタミに繋がってしまう。

発酵:米が想定よりも溶けなかった。
なぜ溶けなかったのかは原因は不明。対策を考えなければいけない。
発酵温度が低かった、麦芽由来の酵素では米を糖化しにくい、酵素量がなりない、糖化の際の温度が高く(初めは70℃ほどあった)、一部の酵素が失活してしまった、などが考えられる。

発酵:おそらくDMS(dimethyl sulfide)が発生していた。
通常ビールの場合、煮沸工程を経ることでクリアできるが、今回は煮沸工はない。発酵中に発生する炭酸ガスで揮散できるようなので、20℃近い温度まで上げて発酵を促進した方が良さそう。

DMS は、①麦芽由来 の S-methyl methionine の熱分解によって生成する経 路、②発酵中に酵母によって還元され生成する経路の2つの経路によって生成してくると考えられている。①の経路で生成するDMSは仕込工程中に十分に煮沸することで揮散する。②の経路で生成するDMSは発酵中に発生する炭酸ガスによって揮散する。

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①麦芽由来のS-methyl methionine の熱分解によって生成する経路 Marvin JS by ChemAxon(https://www.nite.go.jp/chem/kasinn/syouryou/mol/) を元に作成

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②発酵中に酵母によって還元され生成する経路の2つの経路 Marvin JS by ChemAxon(https://www.nite.go.jp/chem/kasinn/syouryou/mol/) を元に作成

5.完成品はこちら

ハプニングを乗り越え、ようやく完成しました!

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Kind of Malty

商品名:Kind of Malty
品目:その他の醸造酒
原材料名:米 (福島県産)、麦芽、ホップ、米麹 (福島県産米)
精米歩合:88%
アルコール分:9.5%
URL:https://haccoba.com/products/kind-of-malty

味わいは、ホップ由来のトロピカルフルーツやマンゴー、グレープフルーツの香りと苦味、麦と米の甘み、酵母のハイブリットによる複雑性のあるお酒に仕上がりました。
このお酒は火入れをしており、ビールのような発泡性はありませんが、ビールでも日本酒でもない、お酒ができたのではと思っています。
チャレンジ盛り盛りのお酒造りでしたが、次回つくる時は格段に美味しくなると思うので、楽しみにしていてください!

最後に(おまけ)

ちなみにこのお酒は、私が初めて醸造責任者として担当したお酒になります。
どんなお酒に仕上がるのかというワクワクと不安、仕込初日からハプニングによる焦り、正式にリリースできるかというプレッシャー、無事リリースできたことの安堵感と喜び、うまかったよ!という嬉しいコメント、もっと美味しくつくれたなという反省など。いろんな感情が入り込んでいます。

最後に言えるのは、新しいお酒をつくるのは楽しいということです。

「麦芽を使ったお酒」をつくる上で、おいしさだけを求めるのであれば、チャレンジのレベルを下げてつくれます(おそらく)。しかし麦芽由来の酵素で米を糖化するという難易度が高いことにチャレンジしました。
チャレンジを恐れてはいけない、チャレンジした上で美味しいお酒をつくる。個人としてもhaccobaとしても。

これからも酒造り関連の投稿をしていこうと思っています。
あとTwitterもやっているので、よかったら覗いてください!
https://twitter.com/mimu_haccoba

最後までご覧いただき、ありがとうございました!

まだ見ぬ最高に美味い酒を求めて。

haccoba 三村

#haccoba #クラフトサケ #KindofMalty

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satoshi mimura

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南相馬にあるhaccobaという酒蔵でお酒を造っています。

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