公立高校教師ユーチューバーの歴史本が、圧倒的支持を得ている理由

公立高校教師ユーチューバーの歴史本が、圧倒的支持を得ている理由

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/11/20
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ここ最近、歴史関連書・学習参考書の売上ランキング上位に常に位置しているのが山崎圭一著『公立高校教師YouTuberが書いた 一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』だ。昨年夏の刊行から1年で17万部に達し、今年9月には姉妹編『公立高校教師YouTuberが書いた 一度読んだら絶対に忘れない日本史の教科書』も刊行され、こちらも発売1ヵ月で6万部突破と売れ行き好調。

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「公立高校教師YouTuber」で検索してみると、山﨑氏がHistoria Mundi(ヒストリアムンディ)名義でアップしている膨大な数の授業動画にたどり着く。著書のタイトルには「YouTuber」とあるが、いわゆるYouTuber的な太字テロップの多用や顔芸、過剰なリアクションなどはまったくなく、一見、教室で行われているような黒板を用いた講義が淡々と行われていく──それでいて、たしかにわかりやすい。累計再生回数は1300万回を超え、教育系動画としては屈指の人気を誇っているのだ。

公立高校教師による画期的な動画授業、およびユニークな書籍企画はいかにして生まれたのか? その人気の理由とは? 著者の山﨑圭一氏と担当編集者である鯨岡純一氏(SBクリエイティブ)に訊いた。

生徒の要望で動画配信を始めた

──山﨑先生が動画を配信し始めたきっかけから教えてください。

山﨑 約7年前、人事異動で勤務先の高校を移ったことです。異動元では2年生の世界史の授業を担当しており、「来年度は近・現代をやるから楽しみにね」と話していたのに、異動で教えられなくなってしまいました。生徒たちに「先生の授業の続きが聞きたい」と言われたのですが、新しい学校でも担任をもち、部活も授業もしなければなりませんから、時間的に難しい。「先生、せめてYouTubeで教えて」と言われ、配信を決意したのです。

ただ、仕事が終わって深夜か休日に動画を撮るしかなく、編集する時間もありませんので、「そのまま、普通の授業を撮って出しする」という感じでやっています。始めた当時は動画授業をやっている人がほとんどいなかったため、参考にする動画もありませんでした。

──先生の動画はいわゆるYoutuber的な派手さはないものの、内容がわかりやすく、また「年号を使わない」とか「地域ごとにまとめて歴史を語る」といった特徴があります。どういう風に今のスタイルを考案されたのでしょうか。

山﨑 もともと教員になった当初から、「地域ごとの歴史の流れがよくわかるように」ということに重点を置いて教えてきました。年号も教え始めた頃からほとんど使わず、因果関係をきちんと押さえていき、まずストーリーをしっかり頭に入れた後にカギとなる年号をいくつか入れる、という手法を使っています。

歴史で最も多くの生徒がつまずくのは、どこを学習しているのか「行方不明」になってしまうということです。一回一回ごとの授業の内容は理解しているのに、積み重ねると全体的にどこの勉強をしているのかわからなくなるのです。

例えば、時代が並行している中国の明・清と、オスマン帝国・ムガル帝国は教科書では連続して習うことになっているのですが、場所が全く違うため、流れがつかみにくい。そこで明・清は元の後、オスマン帝国はティムールの後、ムガル帝国は奴隷王朝の後、というように、地域ごとに分割して中国、西アジア、インドの歴史を俯瞰できるように教えています。この点は、実際の授業でも動画でも、書籍でも同じです。

私の動画が「全体で200回」となっているのは、年号などを使わずに「今、全体量の10分の1まで到達した」「今全体の半分である」と、授業の回数でだいたいの位置が直感的にわかるようにするためです。歴史という科目は、きちんと説明すれば、一回一回の授業では本来「わかりにくい」ということはありません。しかし、積み重ねるとストーリーの全体像が見えなくなることが一番の問題なのです。

私の授業が特にわかりやすいと言ってもらえるのだとすれば、私が赴任した学校は、特別支援学校や勉強が苦手な生徒が集まる学校、定時制高校など、歴史を苦手とする生徒が多い学校ばかりだったことがあるかもしれません。そうした生徒たちばかりのクラスでも、生徒の気持ちを引き付け、「歴史って面白い」と思ってもらえるように努力を積み重ねてきました。もし、私の本や動画を多くの人が評価してくださっているのであれば、そうした日々の積み重ねのおかげだろうと思います。

──先生の動画はどんなふうに認知されていったのでしょうか。

山﨑 7年かけて少しずつ再生回数が伸びていったので「ここでブレイクした」という時期はありません。学校の考査シーズンに合わせて再生回数が伸びているので、テスト前に見る高校生たちの口コミが大きいのではないかと思います。

書籍は「社会人の学び直し」を狙った

──どのような経緯で書籍化に至ったのでしょうか。

鯨岡 これまで私は編集者として主にビジネス書や自己啓発書を手がけてきましたが、以前から世界史ものの書籍も作ってみたいと考えていました。そんな中、2017年11月にムンディ先生(山﨑氏)が新聞で「公立高校教師なのにYouTubeで授業を無料公開している先生」として取り上げられているのを見かけたんです。さっそく、ムンディ先生の動画を視聴して、「これはすごい!」と思い、すぐにムンディ先生にコンタクトを取りました。

なんでムンディ先生の授業動画に感動したかというと、年号を使っていなかったからです。高校時代、私は世界史の年号の語呂合わせが書かれた参考書を買って年号を丸暗記し、そこに人名や出来事を関連付けて覚えていたんです。だから、ムンディ先生の年号を使わない授業を観て「なんだこれは?」と衝撃を受けたんです。

世界史学習者の中には「出来事や人名を断片的に覚えてはいるが、全体の流れがいまいちよくわからない」という人が多いと思いますが、ムンディ先生は年号を使わない代わりに出来事を数珠つなぎに因果関係で解説していくので、歴史の流れがよくわかるうえに、結果的に、出来事や人名も驚くほど頭に残るんです。

私が類書を見たかぎりでは、学校教科書に準拠しながら、徹底して「年号を使わず」「古代から現代までを1つのストーリーで解説している」本は他にないと思います。その点は本書の大きな「売り」ですから、冒頭で図版を使ってしっかり説明することにしました。

書籍化するにあたって、ムンディ先生の動画のオリジナリティを活かしながら、いま需要が高まっている学び直しの社会人層に向けた「歴史入門書」として出版させてほしい、とムンディ先生にお話ししました。

山﨑 書籍を書くにあたっては、動画のエッセンスは盛り込みましたが、学校現場の授業とも、動画の授業シリーズとも違う方針を立てました。大人の学び直しに使える必要かつ十分な、バランスのとれた有用性の高い本を目指しています。

現在、書店に並んでいる歴史の本の多くは、専門家がマニアのために書いた「敷居の高い本」か、ビジュアルやイラストでごまかす「内容の薄い本」のどちらかがほとんどで、「吟味されたわかりやすい話し言葉できちんと説明をする」という本がなかったのです。

鯨岡 先生の動画は200本以上ありますから、その内容のすべてを書籍に入れることはできません。だから、先生とは最初から動画のコンテンツをそのまま書籍に移行させるということではなく、一から内容を新たに構成していただきました。先生のおっしゃるとおり、世界史の類書は歴史に関心のある中級者以上向けが多く、50~60代男性が中心の市場ですが、この本はメインターゲットの30代~40代から、高校生・大学生まで、男女を問わず、幅広く売れています。

「YouTube授業」が教育にもたらす効果

──営利目的で予備校が講師の動画を有料で提供していることはあっても、YouTubeに動画で授業を無料公開している現役教師はほとんどいません。ご自身で動画配信をやってみて、どんなことを感じていらっしゃいますか。

山﨑 動画授業の存在は、教育の多様化やコストダウンには今後、なくてはならない存在になると思います。一つのクラスに40人という現在の学校教育のしくみでは、どうしても不登校の生徒や、成績不振の生徒、逆に成績上位で学校のレベルに合わない生徒、突出した「天才肌」の生徒など、学校教育では手の届かない層が出てきてしまいます。

こうした、従来の学校教育では手が届かない層も、動画授業があれば一人でも授業が受けられ、自分のレベルに合った授業を見ることができるし、好きな科目の勉強に集中することができます。

人事異動が私の動画配信のきっかけになったように、学校側の都合により途中で教師が交代することで授業の一貫性が失われたり、世界史で受験をしたい生徒がいるのに「世界史B」の講座が開講されなかったりすることもよくあります。また、教員の配置状況によっては日本史を大学で学んだ教員が世界史や地理も教えなければならない、といったこともあります。先生自身が不得手な科目を教わるのですから、興味深い授業にはなりません。当然生徒にとっても「つまらない科目」という印象が残ってしまうでしょう。

さらに言えば、一般的な高校では文系・理系が分かれるようになっており、理系から在学途中で文系に転じる、いわゆる「文転」をすると、社会科科目を独学で学ばざるを得なくなり、不利な状況に陥ってしまいます。動画授業があれば、これらの「学校の都合」による生徒の不利益をかなりのレベルで補完できます。

──しかも、営利目的の塾、予備校以外の場所で、YouTubeで広く無料公開されていることの意義は大きいですね。

山﨑 動画授業なら、大人の「学び直し」の需要も満たすことができます。特に私が教えている社会科は、その名のとおり、社会人になってからこそ深く理解できる内容が多い。実際にビジネスパートナーとしてまったく異なる文化を持った国の人と接してはじめて、異文化について知りたいと思う社会人も多いと思いますが、動画授業ならばそのニーズに応えることができます。

──動画授業を配信することによる周囲の反発などはありませんでしたか。

山﨑 むしろ感謝されることの方が多いです。教員は普段、授業を一人で運営しなければなりません。そのため、比較する対象や参考になる授業の実践例を得にくい環境にいます。先ほども言ったとおり「地理歴史科」の免許をもつ教員は、授業の割り当てによっては世界史も日本史も地理も教えなければなりません。研究授業などの機会はありますが、年に1、2回程度ですし、先輩の教員の授業を見学することも頻繁にはできません。そこで、私の動画を歴史の授業の参考や比較対象にしてくださる先生もいらっしゃるようです。

また、すべての教員がそうであるように、私も日本史・世界史・地理の全範囲、全時代にわたって熟知するということは不可能ですので、YouTubeのコメント欄で誤りを指摘していただいたり、よりわかりやすい解説の方法を教えていただけることがあり、実際の教育現場でのより良い授業づくりに生かすことができています。

やむをえず授業を欠席しても動画を見れば補完できますし、テスト前に復習もできますので、勤務先の生徒や保護者の反応もおおむね好評です。

YouTuber台頭後の「本」の価値とは

──担当編集である鯨岡さんにお聞きしたいのですが、現在、教育系コンテンツとして動画が著しく台頭しています。そうした時代に、動画と書籍との関係、あるいは書籍の位置づけはどうなっていくとお考えでしょうか。

鯨岡 教育系YouTuberは、間違いなくさらなる人気コンテンツになると思います。ただ人気を得た動画のコンテンツをそのまま書籍化して、動画と同じように支持されるかと言うと、そうならない場合もあると考えています。動画の視聴者は紙の教科書や参考書を読むのが苦手なので動画で学んでいるという人が多いのではないか、と私は考えています。字幕やカット割りの妙などは、まさに動画ならではです。書籍の場合、そういった「動画だからこそ」の強みはなくなるわけです。

──ターゲットの違い、メディアの違いを乗り越えないといけないわけですね。

鯨岡 そうですね。ただ、ムンディ先生の授業には圧倒的なオリジナリティがあり、他の先生も授業の参考にするくらい質が高い。コンテンツにオリジナリティがあれば、それは、動画や書籍という媒体を超えて、どこでも支持されると思います。逆にコンテンツそのもののオリジナリティよりも動画ならではの見せ方などで勝負している教育系YouTuberは、書籍というフォーマットには合わせづらいかもしれないと考えています。

私はほかにも、YouTubeで大学数学をわかりやすく講義しているたくみ先生の『難しい数式はまったくわかりませんが、微分積分を教えてください!』や、いま教育系YouTuberとして一躍人気になっているオリエンタルラジオ・中田敦彦さんの『勉強が死ぬほど面白くなる独学の教科書』(11月20日刊行)も担当していますが、いずれも重視しているのは「書籍として勝負できる『中身』を持っているかどうか」なんです。

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