年金運用は結局「勝っている」のか「負けている」のか

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2016/11/30

「プラスになった」と喜んでいいのか?

年金改革をめぐる法律審議が佳境だ。制度改革も必要だが、今ある国民の年金資産を、きちんと運用してもらうことも重要だ。今年に入って株価の下落が続いたあおりで、年金運用で巨額の損失が発生した話が報じられたが、その後、株価が戻って年金資産はどうなっているのだろうか。

年金資産を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が11月25日、今年度の第2四半期(7月~9月)の運用成績を発表した。

結果は2兆3746億円のプラス。

四半期では3期ぶりのプラスだけに、今年4月にGPIFの理事長になったばかりの髙橋進理事長らGPIF関係者はホッとひと息ついているに違いない。国会で巨額損失を責められ続けてきた安倍晋三内閣の面々も同様だろう。

だが、「プラスになった」と手放しに喜んでよいのだろうか。

今年度が始まる直前の今年3月末の日経平均株価の終値は1万6758円。第1四半期が終わった6月末には1万5575円まで下がっていたものが、第2四半期が終わった9月末には1万6449円と、ほぼ振り出しに戻った。ところが、4~9月の運用収益の合計では2兆8596億円ものマイナスになっているのだ。

確かに株価が上昇した7~9月は2兆3746億円のプラスになったのだが、第1四半期に出した5兆2342億円の穴が埋まっていないのである。運用方法を大きく国内株にシフトしたことが批判されてきたGPIFだが、損を出している原因は、国内株ではないのか。

GPIFの発表資料を詳しくみてみると、投資分野ごとの収益額が出ている。GPIFは保有する資産(9月末で132兆751億円)を、大きく分けて「国内債券」「国内株式」「外国債券」「外国株式」に投資している。

基本的なポートフォリオ(資産運用割合)は、国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%ということになっている。2012年末までは60%が国内債券で運用されてきたが、安倍内閣はそれの分散化を進めてきたのだ。

国内株式での運用収益額をみると、第1四半期に2兆2574億円損失を出したものの、第2四半期では2兆234億円の利益を出している。ほぼ損失は消えたわけだ。

GPIFの株式運用のほとんどが「パッシブ運用」と言われる株価指数への連動を目指す運用のため、日経平均株価などの指数が戻れば、運用収益もそれに比例して上がる。市場での株価の戻りと共に、年金の損失も消えていた。

ではどこで損が残っているのか。

第1四半期、第2四半期通算で最も損失額が大きいのが「外国債券」の1兆5591億円。次いで「外国株式」の1兆3651億円である。為替変動がその大きな要因だと思われるが、「外国モノ」で損失を抱えているのだ。

もちろん、年金運用の収益は長期的に見なければいけない。一時的に市場環境が悪いこともあるからだ。そこで使われるのが「ベンチマーク」と呼ばれる指標。市場の平均値であるこの「ベンチマーク」を上回ることを運用のターゲットにする。業界では、運用実績がベンチマークを上回れば「勝ち」、下回れば「負け」と言う。

では、GPIFの運用はベンチマークを上回っていたのか。つまり「勝っていた」のであろうか。

追及するなら「外モノ」

GPIFの資料によると4~9月のベンチマークの収益率(▲はマイナス)は、国内債券=0.50%、国内株式=▲0.79%、外国債券=▲8.71%、外国株式=▲4.24%となっている。これに対して実績は、国内債券=0.54%、国内株式=▲0.76%、外国債券=▲8.22%、外国株式=▲4.39%となっている。

国内債券と国内株式、外国債券の実績はベンチマークを上回っており、「勝ち」なのだが、外国株式は「負け」ている。0.15%という差は小さいようにみえるが、外国株式には9月末で27兆7358億円を投資しており、0.15%を単純にかければ400億円余りに相当する。

アベノミクス開始以降、円安が進んだこともあり、外国株運用は高い利回りを上げてきた。2012年度は28.91%、13年度は32.00%、14年度は22.27%といった具合だ。これに気を良くしてか、15年度には外国株での運用割合を大きく引き上げたが、逆にマイナス9.63%と損失を被ってしまった。その流れが今も続いているのである。

低金利が進む中、債券を中心とした運用では、年金資産が増えないのは明らかで、年金の支払いを確実にするためにも運用の見直しが不可欠だったのは理解できる。だがしかし、あまりにもタイミングが悪かった。

10月以降、日経平均株価は大きく上昇している。米国でドナルド・トランプ氏が次期大統領に決まった後は、円安が進み、日経平均株価は1万8000円を超えている。

10月末時点でGPIFが試算した国内株式のベンチマークの収益率は4.48%。このままの傾向が12月まで続けば、国内株の運用ではかなりの利益を稼ぐことになるだろう。

だが一方で、外国債券のベンチマークはマイナス8.36%となっており、外国債券の運用損はあまり減らない模様だ。外国株式の10月までのベンチマークはマイナス2.58%に改善しているが、実際の運用でどこまで損失を減らすことができるのか。

民進党など野党は、国会でGPIFの資産運用を批判する場合、国内株に比重をかけることを問題視する傾向が強い。だが、実際のところ、足下の損失は「外モノ」に原因がある。運用が難しい外国債券や外国株式の運用委託先管理などをきちんとGPIFが行えているのかどうかに目を光らせていく必要がありそうだ。

年金改革関連法案にはGPIFの組織のあり方の見直しも含まれている。塩崎恭久厚生労働大臣は就任以来、ポートフォリオの見直しと、GPIFのガバナンス体制の見直しは「車の両輪」だと発言し続けていた。国民の大切な資産がきちんと運用されるための体制整備が、遅まきながら、ようやく始まるわけだ。

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