『雲を紡ぐ』と『オルタネート』を選んだ高校生たちの4時間の‟激論” 「自分でやりたいことがわからない高校生に届けたい」「家族愛か青春か...」

『雲を紡ぐ』と『オルタネート』を選んだ高校生たちの4時間の‟激論” 「自分でやりたいことがわからない高校生に届けたい」「家族愛か青春か...」

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/07/22

《高校生直木賞》「コロナ禍を生きる私たちと重なる」 「加速感がある『オルタネート』」 高校生たちが‟伊吹有喜”と“加藤シゲアキ”の小説を受賞作に選ぶまでから続く

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2021年5月30日に行われた第8回高校生直木賞は、伊吹有喜さんの『雲を紡ぐ』(文藝春秋)、加藤シゲアキさんの『オルタネート』(新潮社)の史上初の2作受賞となった。4時間をかけて受賞作を選んだ、高校生たちの熱い議論の様子をお伝えする。(全2回の2回目。前編を読む

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昨年『渦』で高校生直木賞を受賞した大島真寿美さんも、高校生たちの議論に耳を傾けた ©文藝春秋

伊吹有喜『雲を紡ぐ

・不登校やいじめなどの話題は身近で共感しやすい。登場人物は自分の思いを表現するのが苦手だが、やがてお互いのことを理解できるのが良い。もし自分が主人公だったら、と考えさせられる。

・同年代の主人公で感情移入しやすい。気づかれないいじめなど、曖昧なところに現実味がある。

・主人公に感情移入して読むと、母や祖母に違和感がこみ上げてきて、イライラしてくる(笑)。

・悩みがリアルなあまり共感しすぎて疲れるところもあったが、美しい情景描写で救われた。映像化してほしい。

・色、特に赤の使い方が印象的。ホームスパンやぼや騒ぎにも赤が使われる。

・赤のイメージはまずは「赤ちゃん」。守られる存在から、自分で自分を守ろうとする意志を持つ存在へ。自分探しの普遍的なテーマに対して、ホームスパンなどオリジナリティのある設定のバランスがいい。『西の魔女が死んだ』に通ずる。人間関係がほんとうにありそう。

誰にでも通ずる意味が込められているタイトル

・主人公は素直にはなったが、それがこの小説での「成長」なのだろうか。

・主人公以外の視点、たとえば父親の視点もあるのがいい。普段本をあまり読まない高校生には、王道のものとして勧められる気がする。主人公自身はあまり成長していないかもしれないけれど、人間簡単に成長するものではないので、これでいいのでは。

・主人公よりもお父さんに共感できる。

・家庭そのものが主人公なのかもしれない。周りに比べて主人公の変化が見えにくく、お父さんがいいキャラで、こちらが主人公? 自分の親の気持ちを理解するのに役立つかも。

・家族の繋がりが次第に薄れていく高校生という時期にこそ、読むに値する。

・はじめ知識のない主人公とともに読者が学んでいくという構造は『八月の銀の雪』と同じで、ただ自分としてはホームスパンより後者の科学の方に個人的には興味がある。

・しかし、ホームスパンや「紡ぐ」というタイトルには、一度壊れた人間関係を再構築していくという意味がこめられていて、誰にでも通ずるところがある。

2作品を巡った激論

直木賞本賞と同様に、高校生直木賞もまずはじめに投票と議論を繰り返す。各作品についての討議を終えた時点で投票したところ、はじめは4位だった『オルタネート』の評価が高まり、『雲を紡ぐ』に迫った。

それで、ここからは『雲を紡ぐ』と『オルタネート』に絞って議論が行われた。

・何をもってこの傾向の違う2作品を比べればよいのか。自分は純粋に自分自身のおもしろさを軸にしたい。

・他人に薦めることより、高校生としてどう読んだかが重要ではないか。

・たんなる読みやすさやおもしろさだけでなく、作品にこめられたメッセージも大事にしたい。

・テーマという意味では『雲を紡ぐ』の〈壊れかけた家族はもう一度一つになれるのか〉というのは重要なものだろう。『オルタネート』に比べてありふれているかもしれないが、逆に、ありふれたものをこれほど美しく表現できるのが魅力。主人公だけでなく、周囲の人々の言い分がわかる。高校生の視点からすべての年代の人に薦められる。

・自分は『雲を紡ぐ』の舞台と地元が近く、この作品に描かれる情景をまさしく目の当たりにしている。非常に優れた描写だと思う。

・実際に自分が不登校になった経験のある人はあまりいないかもしれないが、周囲にはよくある。そういう人たちに寄り添うためにも『雲を紡ぐ』はよい物語。

・自分でやりたいことがわからない高校生に届けたい。家族同士の確執など嫌な部分もあったが、読後感はよかった。主人公の成長はこの物語のあとも続いていくだろう。『オルタネート』は今後の自分の人生に影響を与えない。

・『オルタネート』は軸の異なる3つの視点がわかりにくいが、それが最後に重なり合うことこそが魅力。SNSが怖いだけのものではないということを伝えている。

・ただ、『オルタネート』はSNSの負の面を描いていないのではないか。自分はインスタなどでアカウントを10個以上持っていて、そこでずいぶん怖い思いをしてきた。『雲を紡ぐ』にはそういう現実の負の部分が母親を通じて示されている。

・『オルタネート』はいろいろな問題を詰め込みすぎたように思える。

・いや、一般的にSFやファンタジーなどでは、たとえば地球に生えていない植物がでてきても、それをいちいち説明したりはしない。『オルタネート』にも同性愛などの問題が未消化のまま並べられているように見えるかもしれないが、それはあまりクローズアップして考えるものではなく、そうしたものが既に日常に溶け込んでいる世界として描かれている。あまり社会的なメッセージに囚われるべきでなく、テーマは一貫して「青春」であり、恋愛と部活とで引き裂かれるが、それこそ両立の難しさ、高校生としての未熟さを示しており、それこそが青春。そこは近未来の世界でも変わらない。

家族愛か青春か

・『オルタネート』は全体の雰囲気が文化祭のよう。準備が楽しく、本番盛り上がって、後夜祭があって、最後に余韻を残して帰る感じがいい。

・校内では『オルタネート』の評価は高くなかったが、ここまでの議論を聞いて、自分の感動は間違っていなかったとおもった。今生きている世界をここまでリアルに切り取っている作品に出合ったのははじめてだった。SNSを使っていろんな人とつながっている実感が描かれている。『雲を紡ぐ』は読んでいる途中は夢中だったが、高校生にしては幼く、もっと深い秘めた思いがあるはずという気がする。

・『オルタネート』は3人の感情の振れ幅をていねいに描いていて、それが終盤で読者の心に痛みを覚えさせる。大人になったら感じられないかもしれない青春の痛み。他の作品よりもその痛みが深い。

・家族愛か青春か。美しいのは『雲を紡ぐ』で、うまいのは『オルタネート』。

残った2作を巡っての激論は尽きないが、ここで最終評決。集計の時間がこれほど長く感ぜられた本選もなかった。結果は16対16の同数。発表されたときの参加者一同の驚きの表情は忘れられない。

ここからさらに議論を重ねるかどうか参加者たちに尋ねたが、4時間かけてのこの同票にはそれだけの重みがあると判断された。高校生直木賞はじまって以来の2作同時受賞となった。

議論が終わってもまだ話し足りない者たちは、チャットを使って話し込んでいた。ここで築かれた関係が、なんらかの形で今後も残ること、そして来年もまたこうした議論を楽しんでくれる高校生が大勢現れることを願いつつ、本選の報告とする。

INFORMATION

夏休みには一般の方も参加が可能な「高校生直木賞」のイベントも開催されます。
詳しくは以下のページをご覧ください。
https://books.bunshun.jp/articles/-/6328

(伊藤 氏貴/オール讀物 2021年7月号)

伊藤 氏貴

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