男性も被害者? 都電荒川線で探る「男性専用車両」の可能性、“弱者”の叫びは社会に届くのか

男性も被害者? 都電荒川線で探る「男性専用車両」の可能性、“弱者”の叫びは社会に届くのか

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  • 更新日:2023/11/21
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都電荒川線(画像:写真AC)

参加者は12人

「男性専用車両」を運行するイベントが2023年11月18日、東京さくらトラム(都電荒川線)を貸し切って行われた。今回で3回目。参加者12人にスタッフ、報道陣を加えた総勢25人が乗り込んだ。

【画像】えっ…! これが60年前の「三ノ輪橋駅」です(計14枚)

「男性専用車両が欲しい」という声は、以前からSNS上でたびたび上がっていた。しかし、誰もが実現可能性が低いと考えているようだった。

そのなかに飛び込んできたニュースである。イベント参加者自体は多くなかったものの、世間の注目度は高く、インターネット記事には多くのコメントが付いた。多くは、男性専用車両の導入に賛同するものである。

イベント開催者であるNPO法人日本弱者男性センターは、

・男性も女性から性被害を受けることがあること
・痴漢の冤罪(えんざい)被害の可能性から、男性が不安や恐怖を抱えていること

これらを広く知ってもらうために開催したという。

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痴漢撲滅に向けた政策パッケージ(画像:内閣府、警察庁、法務省、文部科学省、国土交通省)

“弱者男性”の実態

この「日本弱者男性センター」という名称に目が留まった人もいるだろう。

男性優遇の傾向が強い日本では、弱者といえば女性の印象が強い。それでも“弱者男性”はさまざまな場面に存在している。経済的な面から見れば、中年の非正規雇用男性は弱者になる。

電車のなかの性被害という場面では、女性が弱者として見られがちだが、男性が弱者になる場合もある。

2023年3月30日に政府が発表した「痴漢撲滅に向けた政策パッケージ」においても、

「性別・年齢に関係なく被害者となり得ることにも留意が必要」

と明記されている。

同センターは、女性専用車両を絶対に必要なものだと考えているが、それだけがあって男性専用車両がないことで、

「男性は性被害を受けないもの」

と人々が思い込むきっかけになっているのではないかと危惧している。

実際には、電車内で女性から触られるなどといった性被害を受けても、信じてもらえなかったり、軽く扱われたり、そういった反応を見越して泣き寝入りするなどして辛い思いをしている男性がいるのだ。

妻からドメスティック・バイオレンスを受けたトラウマ(心的外傷)から、周囲に女性がいない方が安心できる男性もいる。

また多くの男性が恐れている痴漢冤罪は、誰にでも起こりうる、非常に不利になりやすいものだ。男性が電車内で弱者になり得る可能性は決して低くなく、常に危うさが伴っている。

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都電荒川線の路線図(画像:東京都交通局)

SNSの声

男性専用車両について、SNSでは「男性にも女性にも、お互いにとっていいこと」という反応が主流となっている。なによりも「痴漢冤罪の可能性が減る」ことが一番の理由のようだ。

誤解を受けないよう神経をすり減らして通勤する男性は少なくない。彼らは男性専用車両があるのであれば、そちらを選びたいと考えている。女性もそれを知っているし、自身が車内で接触された場合に偶然なのか故意なのか悩みたくない。

また、女性たちにも家族や恋人など身近な男性がいるので、彼らが痴漢冤罪で社会的立場を失うことを恐れている。女性専用車両に関し、「女性だけ優遇されている」と批判されることから解放されることもありがたいようだ。

賛成派が多いが、なかには導入に懸念事項があるとする意見も男性側にある。それは、

「男性専用車両に乗ってないと痴漢する気だと思われるのではないか」
「男性専用車両で性被害に遭うのではないか」

というものだ。

前者は、「女性専用車両に乗っていないと痴漢されてもよいとみなされる」というものと類似しているが、乗客が車両を選択するときには、

「乗り換え時などの乗車位置」

が大きく影響していることを、いま一度思い出したいものだ。

男性専用車両で発生するかもしれない性被害については、男性がターゲットとなる性被害が問題となったことを教訓にし、防犯カメラや混雑緩和といった電鉄会社による努力だけでなく、乗客全員がお互いに気付いたら助け合うなどの協力体制を持ちたい。

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都電荒川線(画像:写真AC)

鉄道会社の反応

さて、男性専用車両が恒久的に導入される可能性はどんなものなのか。J-CASTニュースが電鉄会社に男性専用車両導入について取材を行っている(2023年11月17日付)。

東京メトロは、現時点で導入予定はないとした。西武鉄道も、男性専用車両導入の要望が極めて少ないとし、導入計画はないと回答した。東京メトロは、女性専用車導入について

「行政からの各種要請があった」

ことも理由としている。

国内の女性専用車両は、関西地方では2002(平成14)年以降、首都圏では2005年以降に導入されたのが始まりで、それほど昔の話ではない。令和のいまも新規導入が続いている。今後、男性専用車両を望む声が本格的に高まれば、検討されることもあるかもしれない。

また「痴漢撲滅に向けた政策パッケージ」において女性専用車両が推進されているように、男性専用車両についても正式に推されれば、電鉄会社もしっかりと向き合わざるを得なくなる。

女性専用車両か男性専用車両、もしくは一般車両のどれに乗っても、性被害の弱者になることがなく、混雑具合でも弱者とならないような世の中を、行政、電鉄会社、乗客の意識変革によって実現していきたいものだ。

才田怜(ジェンダー研究家)

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