「462万人の認知症患者の1割近くが治る!」 その見極めポイントとは

「462万人の認知症患者の1割近くが治る!」 その見極めポイントとは

  • 文春オンライン
  • 更新日:2020/09/16

「認知症は一度発症したら治らない病気」……本当にそうだろうか? 現在、全国にいる462万人の認知症患者のうち、1割近くが投薬や手術で改善する可能性があるという。認知症と即断する前に、治る認知症のサインを見極めようよう。(全2回の1回目/後編を読む)

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週刊文春 認知症全部わかる! 最新予防から発症後の対応まで」(文春ムック)

40万人が治る認知症の可能性、気づかずに悪化も

物忘れや判断力の低下が徐々に進行していく。そのスピードを遅らせることはできても、元には戻せない――。ゆえに誰もが恐れる認知症。だが「うちのおじいちゃん、最近おかしい。認知症ね」と即断する前に、疑うべきことがある。重要なのは「正しい診断」だ。

一度発症したら、基本的に治ることはないとされる認知症。脳の器質的な障害により、記憶障害や認知機能の低下などが徐々に進行していく。

現状では、アリセプト、レミニール、メマリーといった抗認知症薬で症状の進行を抑えたり、徘徊やせん妄、介護拒否、暴力といった周辺症状を改善することしか出来ない。生命保険会社の調査によれば、中高年の約四割は「将来、認知症になるのは怖い」と考えているという。

その恐怖の根源は、第一に「元の状態には戻れない」ということにある。ゆえに「治る認知症」と聞くと、耳を疑う人も多いのではないだろうか。

忘れっぽくなる。気力が低下して行動的ではなくなる。歩き方がおかしくなる――。これらはたしかに認知症に見られる典型的な症状であり、医師も周囲も、たいていはふつうの認知症として対処する。しかしその中には「治る認知症」が含まれているかもしれず、該当する患者は40万人に上る可能性もあるという。

認知症専門医である、医療法人ブレイングループ理事長の長谷川嘉哉医師が解説する。

「記憶力が低下したり、ぼーっと無気力になったり、動きが緩慢になり足元もおぼつかないといった症状が出るため認知症と誤診されやすい疾患があります。きちんと鑑別されないため、たいていはアルツハイマー型認知症とされてしまう。しかも、そのまま間違った治療を受けることで、本当の認知症になってしまったケースも見受けられます。

現在、全国に462万人の認知症患者がいるとされていますが、1割近くが、この『治る認知症』だと考えられています」

甲状腺検査はあまり実施されていない

認知症にはアルツハイマー型、脳血管性、レビー小体型、前頭側頭型の四大認知症がある。中でもアルツハイマー型は全認知症の約6割を占めている。

これらには含まれないが、認知症と同じような症状が出て、それゆえ認知症と誤診されやすいが、実は手術や投薬などで回復する病気――。「治る認知症」といわれるゆえんだ。

その一つが、甲状腺機能低下症だ。首の根元近く、気管の前にある甲状腺は、ホルモンを産生・分泌する臓器。何らかの原因で甲状腺ホルモンの分泌力が低下すると、顔や足などにむくみが出たり、抜け毛が増えたり、体がだるい、急な体重増といった症状が出る。

「高齢者はこうした典型的な症状が出ず、認知機能低下が目立つ場合があります。そもそも甲状腺機能低下症の症状は、高齢者の加齢による症状とも似ています。むくみは顔、特にまぶたなどに出ますが、それがむくみなのか、もともとそういう顔だったのか初診では判断がつきません。したがって認知症専門医なら必ず初診時に血液検査を行い、甲状腺ホルモン値をチェックします。実際、認知症を疑われた人から驚くほど低い数値が出ることもある。甲状腺ホルモンを補充することで、症状は改善します」(同前)

実はこの甲状腺機能低下症の検査は、医療現場ではあまり実施されていないという現実がある。

2018年7月、一般財団法人・医療経済研究機構から認知症患者における甲状腺機能検査実施率についての研究結果が発表された。

研究を行った医師の佐方信夫氏(現・筑波大学准教授)がこう話す。
「日本では、85歳以上のお年寄りの17%にアリセプトなどの抗認知症薬が出されているという報告があります。しかし私は在宅医療も担当していますが、本当に抗認知症薬が適用されるべき患者さんなのか、疑問に思う場面もある。

高齢で記憶力などの認知機能が落ち、元気がなくなっていたら『認知症ですね、まずはお薬を出しておきましょうか』となってしまい、きちんと原因が鑑別されていないのではないか。そこで認知症と診断する際、きちんと甲状腺機能低下症についてのスクリーニングがなされているかどうかを調べました」

「歩き方」の変化で気づける

厚労省は全国の保険医療機関のレセプトを管理し、データベース化している。佐方氏は、このデータベースから2015年四月〜16年3月の一年間に、65歳以上の新規に抗認知症薬(5種類)を処方された人を抽出。約26万2279人が該当した。

甲状腺機能についての血液検査を受けていたのは、クリニックなどの診療所では二25.8%、20床以上の病院で28.3%、全国に226カ所(16年3月現在)指定されている認知症疾患医療センターで57.1%。全体の実施率は32.6%という結果にとどまった。

日本神経学会が出している『認知症疾患診療ガイドライン』によれば、特発性正常圧水頭症(後述)などと併せ、甲状腺機能低下症も鑑別するように指針されているのだが……。

「正直、診療所と病院における実施率は相当低いと思います。認知症疾患医療センターはもう少し高い結果、70%くらいの実施率と予想していましたので、これも意外でした」(同前)

ただ、レビー小体型認知症などで見られるせん妄や物盗られ妄想、幻覚を訴えるといった典型的な症状により、甲状腺機能低下症の可能性は低いと判断されることもある。こうしたケースでは甲状腺機能検査が行われない事情もあり、低い実施率になった可能性はあるという。

「いずれにしても、甲状腺機能低下症をチェックしないといけない、ということを知らない医師もいるのではないかと思います」(同前)

◆ ◆ ◆

続きは『最新予防から発症後の対応まで 認知症 全部わかる!』に収録されています。

6種類以上の薬の併用で認知症に似た症状も… 家族の異変を見逃すなへ続く

(「週刊文春」出版部)

「週刊文春」出版部

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