独りでに鐘「ゴォーン」 全国2200カ寺に「自動橦木」 自動化しても守りたい鐘の音

独りでに鐘「ゴォーン」 全国2200カ寺に「自動橦木」 自動化しても守りたい鐘の音

  • 丹波新聞
  • 更新日:2021/07/22
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「自動橦木」が鳴らす鐘の音を聞く酒井住職=兵庫県丹波篠山市古市で

夕刻、誰もいない兵庫県丹波篠山市古市にある宗玄寺の境内。独りでに鐘が「ゴォーン」―。何も知らなければ飛び上がりそうになるが、心霊現象ではなく、決められた時間に機械式の橦木が鐘をつく「自動橦木」のなせる業。このほど同寺の酒井勝彦住職(77)が導入した。メーカーによると、自動橦木を導入する寺院は全国的に増加しているという。背景にあるのは、毎日、決められた時間に鐘を鳴らす大変さと、住職の高齢化、住職がいない無住寺の増加など。自動化してでも鐘をつく住職には、鐘の音を守りたい気持ちがあった。

きっかけは、5月に本紙で連載した「時告げるサイレン―消えゆく農村文化」。記事を見た読者から、「宗玄寺さんの時報の鐘が自動で鳴るらしいで」と情報提供があり、寺に足を運んだ。

「瞬間的やで。よー見とりや」―。酒井住職が自動橦木を見せてくれた。チリチリチリと機械音がすると、鐘楼に取り付けられた金属の部品が降りてくる。鐘を打つ橦木に接した。

しばらくすると、急に「ゴォーン」。確かにひとりでに鳴った。橦木の内部にモーターとバネが仕込まれており、バネの反発力で鐘をつく仕組みだ。夏は午後5時半、冬は午後4時半に鳴るように設定してある。

酒井住職は、「時報の鐘は毎日、雨の日も風の日も雪の日も、ずーっとつき続けるもの。用事で出ていてもその時間に戻らないといけないし、どうしてもつけない日もあり、なかなか大変」と苦笑。そんな折、他の寺院で自動橦木を見つけ、導入することにした。ひとりでに鐘をつく姿は、メカ好きの住職の心もくすぐった。

いつも通り、手動でつくこともでき、自動化したのは時報のみ。大晦日の除夜の鐘や東日本大震災、広島、長崎に原爆が落とされた日などの追悼の鐘、地蔵盆コンサートの開演の鐘など、心を込めて鳴らす鐘は、これからも手動でつく。

「自動化して『さぼっとる』と思う人もいるかもしれないけれど、定刻の分だけ。それに自動やけど、ええ音で鳴ります」

◆あちこちに時計 正確さは機械で

全国で唯一、自動橦木を開発・販売している上田技研産業(奈良市)によると、自動橦木はその名も「ナムシモック」。仏教用語の「南無」と「橦木」を組み合わせたものだ。

創業者の上田全宏さん(78)が開発したのは1980年ごろ。すでに40年もの歴史があり、北海道から沖縄まで、全国2200カ寺で導入されているというから驚く。

上田さんは、「近くの寺で鐘をつく人が不足したことがきっかけ。日本ならでは鐘の音を守りたかった」と話す。

「全国各地で住職が高齢化している。しかも、今はスマートフォンなど、いろんなところに時計があるから、時報の鐘も『だいたい』では駄目で、機械の力を借りないと難しい」と言い、「高齢化も無住寺もこれからどんどん進んでいくだろう」と話す。

◆復活した梵鐘 守りたい思い

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鐘楼に取り付けられた自動橦木の構造。橦木の内部にモーターとバネが仕込まれている

自動化している寺院には、鐘の音を守りたい理由がある。寺院関係者によると、そもそも市内に大きな梵鐘がある寺は少なく、かつてあったものは第2次大戦中の金属供出で姿を消している。

同市西野々の清泰寺は自動橦木を導入してから30年以上がたつ。岡山泰寛住職(89)によると、もともとあった鐘は供出でなくなっていたが、1988年、地元出身の男性の息子が都市部で成功し、父親が好きだった鐘の音を復活させたいと、個人で梵鐘や鐘楼堂を寄進した。

当時は別の寺院におり、同寺を兼務していた岡山住職は、寄進者の思いを大切にしたいと、住職がいなくても鐘の音を響かすことができる、当時、最先端の自動橦木を導入した。「よほど鐘の音に思い入れがあったようだ。造ってもらった以上はなんとか応えたかった」とほほ笑む。

明智光秀に滅ぼされた国衆の忘れ形見が創建し、赤穂浪士の一人、不破数右衛門が討ち入り前に寺に身を寄せた家族に別れを告げに来たことなど、歴史と伝統を持つ宗玄寺の鐘も金属供出で一度は姿を消している。

1975年、檀家や地域住民からの寄付で再建。遠く離れたまちで暮らす出身者までも協力して復活した。

新しい梵鐘が出来たことから除夜の鐘を再開すると、たくさんの人がやってきた。子どもだった人がいつしか子を連れてくるようになり、境内でミニクラス会を開く人、ぜんざいや茶に舌鼓を打つ人など、「人と人をつなぐ鐘」になった。

酒井住職は、「みんなでつくった鐘。やっぱり、農村風景には鐘の音がよく似合う。鐘がある寺院は時報や除夜、世界平和などの気持ちを込めてつき続けてほしい」と話す。

ただ、境内から見える緑豊かな山々は以前と異なっているという。「昔はたくさんの人がいて、燃料にしたり、材木にしたりと、みんな山に入っていたからあんなにうっそうとしていなかった。人口減少や高齢化は風景も変えている」と言い、「それでも、この鐘の音だけは変わらずつないでいきたい。そのための自動化です」と話していた。

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