菅首相の「ゆるい緊急事態宣言」は、日本経済に「壊滅的な打撃」を与えるかもしれない

菅首相の「ゆるい緊急事態宣言」は、日本経済に「壊滅的な打撃」を与えるかもしれない

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/01/13
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新型コロナウイルスの感染が急拡大していることから、政府は1都3県に対して緊急事態宣言の発令に踏み切った。大阪府など関西の3府県も緊急事態宣言の要請を行ったので、宣言の対象は今後、拡大する可能性が高い。

しかしながら、今回の緊急事態宣言は休業要請範囲が限定的であり、事実上、飲食店のみを対象にした措置に過ぎない。政府の対策を真っ向から否定し、休業要請に応じない企業も現れており、宣言が十分な効果を発揮しない可能性も出てきた。

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〔PHOTO〕Gettyimages

事実上、飲食店限定の措置?

政府は2021年1月7日、東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県を対象に、緊急事態宣言の発令を決定した。当初は、経済に対する深刻な影響が懸念されたが、フタを開けてみれば休業要請の対象が事実上、飲食店だけに限定されており、昨年のような事態は回避できる可能性が高まっている。

良くも悪くも今回の宣言内容は緩やかなわけだが、だからと言って、このやり方が経済に対して効果的とは限らない。その理由は、緩やかな対策は、短期的には経済の落ち込みを回避する効果があるものの、感染による悪影響を先送りする役割も果たしてしまうからである。

前回の緊急事態宣言では街中の人出が激減し、1カ月で10兆円もの消費が失われた。今回は飲食店以外のビジネスは平常通りであることや、今のところ地域が1都3県に限定されていることなどから、1カ月あたり1兆円程度の影響で済むと考えられる。だが他地域の感染が深刻になれば、順次、自治体が発令を要請することになり、宣言は全国に拡大するだろう。

対象が全国になったとしても、休業要請が飲食店だけにとどまっていれば、前回より打撃が少ないのは同じだが、感染そのものが終息せず、消費者のマインドをさらに悪化させるリスクも抱えることになる。

国内の医療体制はそろそろ限界に達しており、このままのペースで患者数が増えれば、事実上の医療崩壊に至る可能性は否定できない。そうなってしまえば、政府からの休業要請の対象が飲食店だけだったとしても、消費者のマインドは一気に冷え込んでしまう。

医療専門家のほとんどは、今回の対策では感染者数を大幅に減らすことはできないと指摘している。医療リスクを懸念する消費者の心理は決してバカにすることはできず、政府がいくら安全をアピールしても、行動がなかなか元に戻らないというシナリオも考えられるのだ。

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患者数が少ないのに、なぜ医療崩壊?

日本の医療体制が崩壊するのかについては様々な意見があり、また何をもって医療崩壊とするのかの定義も様々である。一部からは、欧米よりも患者数が少ない状況で、日本の医療が崩壊するはずがないとの指摘も出ており、実際、レストラン大手グローバルダイニングのように「(医療崩壊は)本当なのか疑問に思っています」との声明を出し、時短営業には応じない方針を示す企業も出てきている。

確かに日本の患者数は、今のところ欧米よりは少ない水準で推移しているが、今の新規患者数が続いた場合、欧米並みに達するのは時間の問題である。また、日本の医療体制は病床数こそ多いが、患者1人あたりの医療従事者数は諸外国の3分の1から4分の1しかなく(OECDの調査をベースに算定)、圧倒的にマンパワーが足りない(普段から患者を受け入れ過ぎているとも解釈できる)。

今、コロナ以外で入院している患者を強制的に退院させたり、異なる科目や病院に勤務する医師や看護師をコロナ病棟に派遣するといった最適化措置を実施できれば話は別だが、現体制のままで患者数が増加した場合、統計的にはかなりの確率で医療崩壊(必要な人に必要な医療を施せない状況が相応の頻度で発生する)を起こす。日本は国民皆保険制度であり、医療は事実上、政府が運営している。政府が強力なリーダーシップを発揮して、緊急時の特別体制を構築しない限り状況は変えられないだろう。

上記を総合すると、今後の日本経済のおおよその推移が見えてくる。

今回の緊急事態宣言は、休業要請の範囲が限定的であり、宣言の発令そのものが経済に壊滅的な影響を与えるわけではない。しかしながら、人の移動は思ったより減らない可能性が高く、感染を抑制する効果は薄くなる。そして、医療体制の抜本的な変更がなければ、少なくとも現時点の医療水準は維持できなくなる可能性が高い。

感染拡大がもたらす長期的な消費低迷

昨年のように、あらゆる経済活動が一時的にストップするような事態にはならないものの、医療崩壊リスクが国民に知れ渡れば、一定割合の消費者は自主的に行動を抑制するようになるだろう。場合によっては、政府の緊急事態宣言とはまったく無関係に消費活動が相当なレベルまで低下する可能性もある。

一部の論者は、新型コロナウイルスと従来のインフルエンザには大差がなく、一連の対策は過剰であると指摘しているが、医学的な見地からの是非とは別に筆者はこうした意見にはあまり意味がないと考えている。経験したことがない未知の感染症が蔓延しており、確率が低いとはいえ、健康だった人があっという間に死に至る事例が散見される状況では、一定割合の国民がリスクを懸念するのは当然のことである。

こうした国民に対して「過度に心配するな!」と勇ましく叫んだところで、本質的な懸念が払拭されない限り、彼等は消費活動を自主的に抑制するだろう。

この状態が長く続いた場合、経済が壊滅的な状況にはならないまでも、消費低迷がボディーブローのように雇用に悪影響を及ぼし、長期的なコロナ不況が継続するシナリオも十分に考えられる。もちろん、ワクチンの接種が順調に進み、その効果が十分なものであれば、一気に回復する望みもあるが、一般論としてワクチンはそれほど万能ではない。日本は国内でのワクチン開発支援体制が十分ではなく、今のところ海外製品に頼らざるを得ない状況なので、国民全体にワクチンが行き渡るのはもう少し先のことになる。

筆者がもっとも懸念しているのは「コロナなど大したことはない」と主張する人と「コロナのリスクは高い」と考える人で社会が分断されてしまうことである。

コロナなど大したことがないという声が大きくなれば、政府は特措法の改正など、罰則を伴うより厳しい措置には踏み込みにくいだろうし、特別定額給付金のような支援策も実施されないだろう。しかし、コロナのリスクを懸念する人が一定数存在する以上、消費の低迷は続き、体力の弱い企業は市場退出を迫られ、雇用環境はジワジワと悪化することになる。

結果として非正規社員など立場が弱い人から仕事を失い、生活困窮者が増加。これがさらに消費を低迷させるという悪循環に陥りかねない。最終的には国民(国民から選出された政治家)の判断になるが、少なくとも、コロナ危機というのは、ロックダウンや罰則といった厳しい措置を伴ってでも抑制すべき対象なのか、そうでないのかという基本的な位置付けについて、政府ははっきりとした見解を示しておくべきだろう。

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