Netflixの“+1”最右翼がディズニープラスである理由とは?群雄割拠の動画配信サービスを読み解く

Netflixの“+1”最右翼がディズニープラスである理由とは?群雄割拠の動画配信サービスを読み解く

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  • 更新日:2021/03/04
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ウォルト・ディズニー・カンパニーによる動画配信サービス「ディズニープラス」の全世界での契約件数が、2020年10-12月期末時点で9490万件に達したと発表された。

Netflixの2億件と比較すると少ないように感じるが、Netflixが1億件に達するまで約10年かかっており、サービス開始から1年あまりでこの契約数は異例のスピートといえるだろう。

ここではディズニープラス好調の要因について、海外ドラマ視聴歴40年超えの評論家・池田敏氏が分析。“Netflix+1”の“+1”を狙う、ディズニープラスの戦略とは──。

世界中の有料動画配信サービスが目指す“Netflix+1”

世界的に“ステイホーム”が呼びかけられるなかでぐんぐん需要が高まった、有料の動画配信サービス。米国のNetflixは2021年1月、全世界合計の契約数が2億件を突破し、株式時価総額は映像大国ハリウッドでトップクラスに到達。そんな状況下、“このままNetflixの独走はつづくのか?”という疑問が湧いてくるのは当然だろう。おそらく現時点でNetflix以外の世界中の有料動画配信サービスが目指しているゴールは、“Netflix+1”の“+1”である。

改めてNetflixを知ろう。一昨年に邦訳された『NETFLIX コンテンツ帝国の野望:GAFAを超える最強IT企業』を読んで筆者が驚いたのは、NetflixがまだレンタルVHSビデオ全盛だった時期、すでにレンタルDVDの将来性に着目していたこと。創業者のひとり、リード・ヘイスティングスがレンタルVHSビデオの返却に遅れ、延滞料金を40ドルも払ったのがNetflix起業における大きな“気づき”になった。

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『NETFLIX コンテンツ帝国の野望:GAFAを超える最強IT企業』(ジーナ・キーティング 著/牧野洋 訳/新潮社/2019年)

そうして発進したNetflixは先駆者として有利な状況下、レンタルDVDユーザーたちの嗜好を貴重なメガデータとして蓄積し、それらをつづくステップアップに役立てていった。

驚異的スピードで契約件数を増やすディズニープラス

では、Netflixとセットで契約したくなる“+1”の座を、世界の有料動画配信サービスはどう目指すのか。現時点で最も意欲的なのはディズニープラスだ。全世界合計の契約数は約9500万に到達し、近いうちに1億を超えるだろう。まだNetflixのたった半分、という見方もあるが、Netflixが1億件に到達するまでに約10年もかかったのに対し、ディズニープラスはたった1年3カ月でこれほどの躍進を遂げた。

理由はいくつも考えられるが、まずは娯楽ブランドとしての“ディズニーらしさ”を前面に押し出しつつ、まさに“プラス”を感じさせる充実したラインナップを実現したことだろう。ディズニー自体やその子会社ピクサー・アニメーション・スタジオ、ディズニー系列となったマーベル・スタジオとルーカスフィルム、そして20世紀スタジオ(かつての20世紀フォックス)のヒット作・名作がずらりと並んだ。これらの膨大なライブラリーから有名作品を配信できるのは大きなアドバンテージだ。

SWシリーズ『マンダロリアン』とMCU『ワンダヴィジョン』

重要なのは、Netflixが世界で事業を展開させるにあたり、多様性を重視して多彩なオリジナルコンテンツを量産していること、それらがHBOなど全米ケーブルテレビ界の大人向けドラマを参考にしてか、刺激的な内容の作品が多いことに対し、ディズニープラスはあくまでファミリー向けの“安心して観られる”プラットフォーム作りに徹し、差別化を図った。これは “+1”の座を狙うにあたって有効であり、快進撃につながっている。

しかし、すでに世界中で観られた作品も多く、ほかの動画配信サービスと同様、この“動画配信・戦国時代”ではオリジナル作品が重視されるが、ディズニープラスも周到に準備している。

まず、おそらくディズニープラス最大のヒットオリジナル作品は『マンダロリアン』。映画『スター・ウォーズ』シリーズから生まれた初のスピンオフ実写ドラマだが、映画『アイアンマン』第1、2作のジョン・ファブロー監督が、企画に加えて多くのエピソードで脚本を担当。うるさい『スター・ウォーズ』ファンもうならせる高いクオリティで、シーズン3の製作が決まっている上に、3本のスピンオフの企画まで進行している。

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『マンダロリアン』シーズン2(ディズニープラスで配信中) (c) 2021 TM & (c) Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

そして、残念ながら映画『ブラック・ウィドウ』が1年もの公開延期を余儀なくされた「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」だが、ドラマ『ワンダヴィジョン』が世界中のマーベル好きを熱狂させている。

MCUのキャラふたり、ワンダ(エリザベス・オルセン)とヴィジョン(ポール・ベタニー)を主人公にしたコメディという意表を突いた導入部で幕を開けたが、まさしくMCUの1本だと次第に明らかになっていく。当初は『ブラック・ウィドウ』がMCUの“フェーズ4(第4期)”の第1作となる予定だったが、その公開延期でぽっかりと空いた穴を見事に埋めた。最近、ある調査によれば“世界中で最も視聴されているドラマシリーズ”になったとか。

ワンダヴィジョン|特別インタビュー|Disney+ (ディズニープラス)

オリジナル&アニメーション映画も配信で即アップ

つづいてオリジナル映画に関してだが、ディズニープラスはNetflixほど力を入れていないように見える。そもそもディズニーは映画賞レースにおいてアニメーション以外の部門を重視しているように思えず、映画は世界の劇場で拡大公開してがっちり稼ぐコンテンツという位置づけである。しかしコロナ禍がそれを変えた。

2020年春から全世界で公開するはずだった実写版『ムーラン』は公開延期を経て、当初は追加料金を払わないと観られなかったが、現在は会員なら誰でも観られるコンテンツに。これには映画界(多くの劇場が予告編を上映した)から非難する声が出たが、ディズニーランドなどのテーマパーク事業が大打撃を受けたディズニーにとって、必要な救済策だったと肯定する声も少なくない。

「ムーラン」MovieNEX 予告編

同時に、ディズニーが得意とするアニメーション映画の分野においても昨年末、大きな花火が打ち上がった。『ソウルフル・ワールド』は『モンスターズ・インク』『カールじいさんの空飛ぶ家』などで知られるピート・ドクターが監督。これも当初は劇場公開が予定されたが、『ムーラン』のようなプレミア視聴料なしに、いきなりディズニープラスで配信。だが傑作で、例年より遅れている映画賞レースでも高い評価を受け始め、ディズニープラスの勢いを後押ししているはずだ。

ディズニー&ピクサー新作『ソウルフル・ワールド』本予告編

全米の学校で教材にも採用

ディズニープラスには大人も要注目というコンテンツが多い。『ハミルトン』は演劇界の権威、第70回トニー賞で史上最多ノミネーションを獲得し、11部門で受賞した傑作演劇を収録。アメリカ合衆国建国の父のひとり、アレクサンダー・ハミルトンを主人公にした物語とあってなんと全米中の学校で教材となり、ここにもディズニープラス独自の路線を感じる。

Hamilton | Official Trailer | Disney+

ちなみにディズニープラスは「ナショナル ジオグラフィック」のドキュメンタリーも充実しており、これらもコロナ禍で学校に行けない子供たちにとって格好の教材になり得る。

ナショジオ観るならディズニープラス!

オリジナルのドキュメンタリーシリーズもあり、『マーベル616』はマーベル・コミックと社会の関係に迫るが、これの第6話(以前は第1話だったはずだが)「日本版スパイダーマン」は、これだけでも多くの日本人に観てほしい感動的なドキュメンタリーだ。

Marvel’s 616 | Official Trailer | Disney+

アニメーションとシリーズ作品というディズニーの強み

これは偶然が重なっただけだろうが、映画会社としてのディズニー自体、コロナ禍のような非常事態に強いという一面がある。まずアニメーション自体、リモートワークで作品作りがしやすい。さらに実写映画においても、2016年の『ジャングル・ブック』のように俳優以外はほとんどCGという作品にも挑んでおり、実写パートにおいてスタッフを減らすことが可能だ(ただしVFXのスタッフは通常の実写映画以上に多そうだが)。何より、シリーズ化が可能なヒット作が多いのがディズニーの強みである。

ジャングル・ブック (吹替版)

改善されるべき点がないわけではない。ディズニーが脱アニメーションを目論んで1980~90年代に力を入れた実写映画の数々や、20世紀フォックスの過去のライブラリーをもっと配信ラインナップに加えてほしいと願う。確かに、中にはファミリー向けと呼びがたい作品もあるが、もう少し料金が上がってもそれらを観たい大人のユーザーは多いはず。

いや、もうひょっとしたら、そうした“ディズニープラスプラス”の構想があるかもしれない。何はともあれ、表面からは見て取れない伸びしろが実は多いディズニープラス。サービス名についた1文字、“+(プラス)”は、ディズニーの未来を象徴しているのかもしれない。

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(c)2021 Disney and its related entities

池田 敏

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