“Z世代”が“チル”に夢中になる理由...「SNSが当然」の新・村社会が若者に与えた影響とは

“Z世代”が“チル”に夢中になる理由...「SNSが当然」の新・村社会が若者に与えた影響とは

  • 文春オンライン
  • 更新日:2020/11/20

「最近の若い者は……」紀元前の哲学者プラトンから現代のサラリーマンまで、あらゆる時代、あらゆる場所で何度繰り返されたかわからない定番の決まり文句がある。いつの時代も若者は旧世代では受け入れがたい思考・行動をするものなのだ。

ここでは、そんな“若者”についての研究を20年以上にわたって続ける原田陽平氏の著書『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』より新たな感性を持った世代、“Z世代”の特徴について紹介する。

◇◇◇

「chill(チル)」という価値観

少なくともこれまでのZ世代は、進学、バイト、就活、転職と、「ゆとり世代」と比べると、不安や競争の少ない生活を送ってきたので、彼らは「chill(チル)」という価値観を持つようになりました。

「チル」とは、元々はアメリカのラッパーたちのスラングで、「chill out」の略です。日本語では「まったりする」という言葉が近いニュアンスだと思います。

Z世代に人気の、自身もZ世代であるラッパーの空音やRin音が、上の世代のラッパーと違い、ダウンテンポのラップを歌っていることも、同じくZ世代に人気のYouTuberであるEvisJap(えびすじゃっぷ)が、andchill(アンドチル)というネーミングのアパレルを立ち上げたことも、Z世代の「チル」という感覚を象徴しています。

私があるZ世代に電話し、飲みに誘おうと「今、何してる?」と聞いた時に、「今っすか? 今、自分の部屋でネフリでチルってます(ネットフリックスを見ながらまったりしています)」という返事をされたことがありますが、例えば、このように使うようです。

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©iStock.com

私が日頃からたくさんのZ世代と接する中でも、チルっている人が多いと感じます。チルっているということは、マイペースに居心地よく過ごすということであり、会社などの組織の論理で彼らを動かそうとすることが、本当に難しくなっていることを意味します。

「ゆとり世代」との違い

20年以上もの長い間、若者研究を続けている私の感覚では、第一次就職氷河期の余韻が残り、第二次就職氷河期世代もいた「ゆとり世代」が学生だった頃は、私の研究を手伝ってくれている彼らにやる気を出させるために「こんなこともできないと、どこにも就職できないよ」などと、就活不安につけ込んだ「危機感訴求」をすると、それが大変効果的で、彼らの目の色が変わっていました。

ところが、逆求人サイトが全盛の、超人手不足の時代を生きてきたZ世代には、この「危機感訴求」はあまり効かなくなっています。

なぜなら、「原田さんは、そんなことじゃ就職できないというけど、ゼミのアホな先輩は結構いいところに就職できているけどなあ」という反論がすぐに彼らの頭に浮かんでしまうほど、時代が超売り手市場になったからです。

「優しい時代」への変化が新しい価値観を生んだ

また、Z世代は「働き方改革」や「ワークライフバランス」というキーワードの普及とともに育ったわけですが、こうした「チル」という価値観と相性の良い「優しい時代」になっていったことも、彼らがこうした世代特徴を形成する一因になったかもしれません。

以前、大手レコード会社のエイベックス代表取締役社長(当時)の松浦勝人氏が、三田労働基準監督署から「実労働時間を管理していない」「長時間残業をさせている」「残業代を適正に払っていない」と指摘され、改善勧告を受けた時に、「好きで仕事をやっている人に対しての労働時間だけの抑制は絶対に望まない。好きで仕事をやっている人は仕事と遊びの境目なんてない。僕らの業界はそういう人の『夢中』から世の中を感動させるものが生まれる。それを否定して欲しくない」といった内容をブログに書き、炎上したことがありました。

戦後の根性論が残っている最後の世代である私からすると、松浦氏の意見に共感してしまう面もありますが、優しい時代を生き、「チル」という価値観を重視するZ世代の多くに、この考えは通じなくなっているように思います。

どんなに楽しい仕事であっても、チルっているマイペースな彼らはプライベートの方が大切で、プライベートを超えるほど魅力のある仕事はそもそも存在しない……これがZ世代の多くの考え方であるように思います。

「チル」を象徴する「シーシャ」ブーム

彼らの「チル」という感覚を最も象徴しているトレンドアイテムが「シーシャ」です。「シーシャ」とは水タバコのことで、中東発祥と言われています。

日本では、バブル期以降に様々な国の料理店が開店し、その中の中近東料理を提供するレストランでシーシャが吸えるところが増えました。

それからだいぶ時が流れ、世界のZ世代の間でのシーシャブームもあり、この数年、中近東料理店以外でも、シーシャが吸えるカフェやバーが日本の大都市部を中心に増えています。

先日、Z世代たちにインタビューするために秋田に出張した際に、一軒だけシーシャが吸えるバーがあり、そこへ行くと可愛らしいZ世代のOLさんたちがシーシャを楽しんでいました。

この日本のシーシャブームの中心にいるのが、Z世代の若者たちです。シーシャは、彼らの「チル」という価値観を最も象徴的に、そしてオシャレに具現化したものであり、彼らの世代的アイコンになりつつある、と言ってもいいでしょう。

「ガラケー第一世代」と「スマホ第一世代」の違い

「ゆとり世代」の特徴の一つとして、思春期から携帯電話を持ち始めた最初の世代であり、それによって「同調圧力」が強くなった、というものがありました。

ここで重要なのは、「ゆとり世代」は確かに「携帯電話第一世代」ですが、もっと厳密に言うと「ガラケー第一世代」である、という点です。

一方、Z世代は、1台目からスマホを持っている「スマホ第一世代」です。

思春期から携帯電話を持ち始めた、という点でこの二つの世代は共通していますが、実はこの思春期から「ガラケー」か「スマホ」かの違いこそ、この二つの世代を似て非なるものに特徴づけているのです。

日本の若者は携帯電話依存が強い

これは余談ですが、日本の高校生、大学生の自分専用のパソコンの所有率は世界的に見て低く(少し前のデータだが、内閣府の「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」〈2013年度〉によると、16~19歳の自分専用のノートパソコンの所有率は、日本58.0%、アメリカ83.3%、イギリス82.0%、ドイツ72.0%、フランス83.8%)、それだけ日本の若者は携帯電話依存が強く、彼らを分析する上で携帯電話というものが大きな一因子になっていることは、前提としてお伝えしておきます。

パソコン並みの機能があるスマホと違い、ガラケーは画面も小さく、検索結果の量や質にも限りがあり、スマホほど検索行為は行われませんでした。

また、様々な機能も制限されていたため、「ガラケー第一世代」だった「ゆとり世代」は、前述のように、携帯メールやmixiや「前略プロフィール」(いわゆるプロフサイトの先駆けで、手軽に携帯電話で自己紹介ページが作成できるもの)などの主に人間関係ツールを多く使用し、その結果、「同調圧力」が強くなりました。

これに対し、Z世代は「スマホ第一世代」であり、検索もするし音楽(一応ガラケーでも音楽を聴けたが、スマホと比べると色々な制限があった)も聴くし動画も見るなど、多様な機能を使いこなすようになっています。

強い「自己承認欲求」「発信欲求」

SNSの先駆けであるmixiを使いこなしていた若い頃の「ゆとり世代」は、「新村社会」や「mixi八分」というキーワードが示すように、SNSに大変翻弄されていました。

しかしZ世代は、LINEに「ブロック機能」(つながった人を遮断し連絡が取れないようにする機能)があったり、ツイッターやインスタグラムに「鍵機能」(承認した人しか自分のページを見られないようにする機能)があったり、インスタグラムに「親しい友達機能」(自分が投稿したものを親しい友達にしか見せないようにする機能)があったりして、嫌な人と極力関わらなくて済んだり、自分の伝えたい人だけに伝えたい情報を伝えられるようになりました。

そのため、「ゆとり世代」のように、大して親しくない人や嫌いな人とも関わり、出る杭にならないように、陰口や噂話を流されないようにと「新村社会」の過剰な「同調圧力」に押し潰されるケースは減ってきています。

セルフブランディング意識の高いZ世代

もちろん、たくさんの人とSNSでつながっている状況自体は「ゆとり世代」の時と変わらないので、新村社会が全くなくなったわけではありませんが、周りの顔色をうかがって怯えるというより、自己ブランディングのために何を発信するか、ということに頭を割くようになった、という点が大きな違いです。

SNS上で叩かれたくないという「同調圧力」と「防御意識」が強かった思春期時代の「ゆとり世代」と、周りからの心象が悪くならない範囲で、SNS上で周りと同程度に自己アピールしたいという「同調志向」と「発信意識」が強いZ世代――。このように説明すると、この2世代の似て非なる特徴の違いが示せるかもしれません。

「赤ちゃん顔の私も可愛いでしょ…」承認欲求を満たす“間接自慢”がやめられない若者たちへ続く

(原田 陽平)

原田 陽平

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