どうしても、忘れられない人がいる
「絶対に、もう一度彼を振り向かせる!」
そんな目標を掲げて…
“別れてしまった恋人”との復縁を願い、行動する1人の女がいた
これは、元彼との“復縁”に奮闘する、とある女性の軌跡を描いた物語である
◆これまでのあらすじ
元彼に振られたショックでふさぎ込んでいた樹里(27)だったが、新しく出会った貴裕との関係を前向きに考えるように。そんな中、突然仕事で大きなトラブルが…。
▶前回:「復縁したい!」失恋してどん底の27歳女。占い師に告げられた、意外な未来

追い詰められる樹里
「では、記事は必ず上がってしまうんですね?」
私が神妙な面持ちで尋ねると、取締役は深いため息とともに話し出した。
「かなり交渉はしたんだが、いかんせんネタがデカすぎるからな。まさかあの吉岡さんと、まだ20歳の由奈が……」
私はまだ現実を受け止めきれず、冷めきったコーヒーが入った紙コップをただじっと見つめていた。
私が担当している、人気タレントの山城由奈。飛ぶ鳥を落とす勢いだった彼女に、初のスキャンダルが浮上した。しかも、相手は由奈の倍以上年上の有名俳優・吉岡重徳。さらに、妻子持ち。
由奈を乗せた吉岡の車が、彼の別宅に入っていくところを週刊誌記者に撮られてしまったのだ。
そして今日、この記事の本人確認が事務所に回ってきた。WEBに速報が流れるのは来週の水曜日で、その翌日に週刊誌が発売される。
つまり、3日後には、このニュースが世に出てしまう。
「先ほどから由奈と連絡を取っているが、全く繋がらない。誰か彼女の家に直接行って、事務所まで連れてきてくれ」
取締役の言葉に、私は即座に名乗りを上げた。由奈とは親友のように接してきた私が、一番近くで彼女を支えてあげたかったから。
しかし……。
由奈のスキャンダル発覚に、自分を責める樹里。しかし、この後さらにショックなことが…
「いや、お前はダメだ。普段からタレントを甘やかしすぎている。お前じゃ由奈を連れてこられない」
そうピシャリと言い放たれ、私は愕然とした。
由奈には、高校の頃からずっと付き合っている彼氏がいる、と今日まで信じきっていた。本当のことを言えばこの記事だって、何かの間違いだと思っている自分がいる。
こんなことになってしまったのは、由奈を管理しきれなかった私のせいだ。
ーマネージャー失格だな、私…。
◆
「……というわけで、次の収録は代わりに弊社の別のタレントをご提案させていただきたく…。はい。また後日改めて、ご連絡させて頂きます」
結局私は事務所に残り、関係各所への謝罪と今後の対応に関する協議を行うことになった。
収録前のものはまだ調整可能だが、問題は撮りきってしまった番組や放送中のCM。
違約・賠償金は億単位にのぼるだろう。
電話を切り、私は思わず頭を抱える。
すると、上司がその場にいた全員に対し、さらに驚くべきことを告げた。
「由奈が、近くの病院に救急搬送されたそうだ」
事務所内にざわめきが起こる。突然のことに、私は何も言葉を発せなかった。
「部屋で倒れていたが、どうやら寝不足と過労による軽い貧血だったらしい。でも、本人はかなり衰弱している。このタイミングだし、あることないこと書かれるかもしれない…」
私は、目の前が真っ暗になった。
由奈の不調にすら気がつけず、彼女を倒れさせてしまうなんて。最近は自分のことばかりに目が向いて、仕事が生半可になっていたのかもしれない。
あまりの不甲斐なさに、涙が出そうだった。
―浮ついた気持ちで仕事をしていた私のせいだ……。
事務所にも、由奈にも、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

『本日WEBで公開された週刊文冬速報で、俳優の吉岡重徳さんと、タレントの山城由奈さんの不倫が報じられました。この記事は、明日発売の週刊文冬本誌にも掲載されており――』
朝の情報番組では、どこのチャンネルでも由奈の不倫報道が取り上げられている。私のもとにも、探りを入れるような内容のメールやLINEが続々と届いている。
―みんな、ここぞとばかりに連絡してくるなんて…。
私は、ショックだった。信頼して連絡先を交換したはずの人たちすら、好奇の目を向けてくることに。
そんななか、貴裕さんとのやり取りが唯一の癒しになっていた。
『今日はかなり寒いですね。僕は東北出身なので寒さには強いほうですが、それでもすごく寒く感じます。樹里さんも、体調に気をつけてください』
貴裕さんは、私が彼女のマネージャーであることを知っているにも関わらず、この騒動を気にも留めていない様子で、いつも通り接してきてくれる。
最初は、彼のことを“つまらない”と思っていたけど、少しずつ惹かれていることは確かだった。
―私には、こういう人がいいのかもしれない。
今は恋愛について考えている余裕なんてないけれど、この状況が落ち着いたら、真剣に彼と向き合いたいと思い始めていた。
それなのに……。
突然友之からあんな連絡が来るなんて……。
貴裕に心惹かれる樹里だったが、まさかの連絡に気持ちは一転…?
元彼から突然の連絡!?
『ニュース見たよ。大変そうだね。無理してない?』
そのLINEに気がついたのは、上司とともにクライアントへ謝罪に行った帰りのタクシーの中だった。
メッセージの差出人は、“友之”。
私は驚きのあまり、スマホを落としそうになった。
既読をつけないようにメッセージを長押しし、たった3行のLINEをじっくりと読み込む。
―無理してない?って…私のこと、ちゃんと心配してくれてるんだ…。
ただ素直に、嬉しかった。
各所への謝罪回りや困難な調整が続き、どんよりと沈んでいた心の中が一気に明るくなる。
私はドキドキしながら返信内容をいくつも考えたが、『大丈夫だよ。心配してくれてありがとう』という最も無難なメッセージを送った。
すると、彼から予想外の返信がきたのだ。

『よかった。そういえばうちに樹里の荷物が結構あるんだけど、これどうしたらいいかな?』
―え、このタイミングで!?
私は、彼からの唐突なメッセージに動揺した。ただでさえ、久々の連絡に緊張しているというのに、いきなりそんなことを聞かれても…。
―いや、もしかしてこれってチャンスかも?
私は、以前読んだ復縁に関する指南書の内容を思い出し、ハッとした。
そういえばあの本には、こういうとき……。
「じゃ、俺はここで。あんまり落ち込みすぎるなよ」
あれこれ考えていた最中に、取締役の声が聞こえてふと我に返る。
「お、お疲れ様です!」とタクシーから降りる彼を適当な挨拶で見送り、私は即座に友之にLINEを打った。
『どこかで渡してもらえたら一番ありがたいけど、面倒だったら捨てても構わないよ』
これは、“相手の荷物をどうするか?”に関するやり取りの模範回答。その指南書によると、『渡す』か『捨てる』かの二択なら、ほぼ確実に前者を選んでくるらしい。
本当に、この回答をそのまま使うときが来るなんて…。
すぐに既読になり、返事がきた。
『じゃあ、今度渡したいから食事でもしない?落ち着いたらでいいからさ』
彼からの連絡に、私は思わずスマホをぎゅっと握りしめた。
―友之と食事なんて、嬉しすぎる…!
しかし、喜びも束の間。由奈のことや、貴裕さんの存在が頭をもたげる。
あまり浮かれすぎないようにと自分に言い聞かせ、それでも幸せな気持ちで窓の外の景色を眺めた。
まさか、この連絡がきっかけとなって、友之との関係性が大きく変わってしまうなんて。
この時の私は夢にも思っていなかった……。
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やっと友之と会えるところまできた樹里。でも、樹里が思い描いていたシナリオ通りには進まなくて…!?