日立、英国原発撤退で3千億円損失の“英断”...常に変化に適応し、将来の収益基盤強化

日立、英国原発撤退で3千億円損失の“英断”...常に変化に適応し、将来の収益基盤強化

  • Business Journal
  • 更新日:2019/01/23
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1月17日、電機大手の株式会社日立製作所が英国の原子力発電事業を中断し、3000億円程度の特別損失を計上すると発表した。先立ってその観測が報じられた11日、日立の株価は前日から8.64%上昇して引けた。株式市場の投資家は、英国での原発事業の中断、あるいは撤退は同社にとってプラスとの判断をしたようだ。

今回、日立の経営戦略が重要な局面を迎えたことを意味するが、リーマンショック後、日立は構造改革に取り組んで収益性を高めてきた。そのなかで、同社は原子力発電事業をインフラ事業強化のために重視してきた。ただ、国際世論や英国の政治動向などが原子力発電事業のリスクを高めてきた。

環境の変化を受けて、日立の経営陣からは英原発事業からの撤退の可能性を示唆する発言などが出てきた。これは、同社の経営陣が自社の経営環境を冷静かつ客観的にとらえてきたことの表れにほかならない。日立がどのように今後の持続的な成長を目指すか興味深い。

●リーマンショック後の構造改革

リーマンショック後の日立の経営を見ていて痛感するのが、経営者の意思決定の重要性だ。構造改革を大胆に進め、経営の危機を切り抜けた川村隆氏(元会長、現東京電力ホールディングス取締役会長)の功績は大きい。同氏の功績のなかでも注目したいのが、環境変化への適応を進めたことと、後継者の選定だ。

川村氏の凄さは、自社の強みを見極め、それを伸ばすことによって組織全体の環境変化への適応力を高めたことにある。過去の成功体験や、企業の文化(長年従業員らが共有してきた価値観・行動様式)にとらわれることなく、危機に立ち向かう姿勢には学ぶべきところが多い。

2009年3月期、日立は7873億円の最終赤字を計上した。これは過去最大の赤字だった。10年3月期の最終損益も1070億円の赤字だった。このなかで川村氏は、総合電機メーカーから重電を中心とする企業へ、ビジネスモデルの改革を進めた。

特に、それまで日立が注力してきた薄型テレビをはじめとするデジタル家電事業を縮小したことは重要だった。それによって確保された経営資源を、川村氏は“社会イノベーション”に関連する事業に再配分した。社会イノベーションとは、交通・電力などの社会インフラと、ITシステムの融合を意味する。川村氏は、スマートフォンの普及などによって、インフラ管理・運用の効率化などが進むと考えた。また、川村氏のもとで日立はビッグデータの収集・分析とその利用などを念頭に、データセンター関連の事業にも取り組んだ。その後、景気対策としてのインフラ投資の効果やビッグデータの利用に注目が集まったことを考えると、川村氏は将来の展開を的確にとらえていた。

川村氏は後継者の選任にも手腕を発揮した。同氏の後、日立の経営は中西宏明現会長、東原敏昭現社長と引き継がれてきた。経営者が交代しても日立の株主資本利益率(ROE)は上昇し、海外売上比率も高まってきた。これまでのところ、日立は経営に適した人材を確保し、持続的な成長を実現してきたといえる。

●原子力発電事業のリスク

社会インフラ企業としての経営基盤を強化するために、日立は社会・産業分野において原子力発電事業を重視した。12年に日立は、英国アングルシー島における原子力発電所の建設権を持つホライズン・ニュークリア・パワーを6.7億ポンド(当時の邦貨換算額で850億円程度)で買収した。

背景には、英国政府が原子力発電を重視してきたことがある。英国での原子力発電事業の総事業費は3兆円に上り、うち2兆円が英国政府から支援されたことなどを見ても、英国政府のコミットメントは強い。日立にとって、新興国に比べて政治動向などの安定が期待できた英国で原子力発電事業に取り組むことは、リスクを抑えつつ収益を獲得するために重要なことだったと考えられる。

問題は、東日本大震災以降、世界的に原子力発電への慎重な考えが増えてきたことだ。加えて、温室効果ガスの排出削減のために、太陽光など再生可能エネルギーを用いた発電も増えてきた。そのため、原子力発電事業を重視する日立の経営を慎重に考えざるを得ない市場参加者は徐々に増えてきた。

そこに追い打ちをかけたのが、ブレグジット=英国のEU離脱だ。現時点で、英国がEUとどのように離脱交渉を進めることができるかは、わからない。不確実性はかなり高い。そのなかで、日立の英原発事業がどのように進むかを決め打ちすることはできない。

これは、英原発事業の期待収益率をリスクが上回った状況と言い換えられる。日立と企業連合を組んできた米ゼネコンのベクテル社がプロジェクトへのコミットメントを弱めた本当の理由は、ブレグジットの先行きがわからないからだろう。昨年以降、日立の株価が軟調に推移してきた背景には、原子力発電事業のリスクに英国の政治リスクが加わり、同社の先行きを慎重に考える投資家が増えてきたことがある。

●収益基盤の強化に取り組む日立

日立は英国での原子力発電事業のリスクを冷静に評価してきた。中西会長は、英国政府に対して現行のスキームでは事業継続が限界であることを伝え、追加の政府支援の可能性を探ってきた。その上、19年の年初に中西氏は、英国原発事業が「極めて厳しい状況にある」との見解も示した。

18年9月末の時点で、日立の英国原子力事業関連の資産価額は2960億円である。英国原発事業の中断、あるいは撤退によって収益の下振れは避けられないだろう。18年3月期、同社の純利益は4909億円、現金及び現金同等物は6979億円、流動資産は5兆1518億円、DEレシオ(有利子負債/自己資本)は0.23倍である。現時点で公表されている数値以上に負担が増えないのであれば、英原発事業からの損失に耐えるだけの収益力と財務健全性はあると考えられる。事態が悪化しないうちに撤退に向けたプロセスを進めることが重要だ。

加えて、日立はより安定した収益基盤の確保に向けて、大胆な戦略を進めた。それが、スイス重電大手ABBのパワーグリッド(送配電)事業の買収だ。取得金額は、約7000億円である。17年度のABBの送配電事業の売上高は1.1兆円程度に達する。送配電事業の収益の安定性に加え、世界的に送配電需要の高まりが見込まれていることも考えると、今回の買収は日立の経営にプラスの効果をもたらすだろう。

英国の原子力発電事業に関する経営陣の考えとパワーグリッド事業の取得を合わせて考えると、日立は客観的に経営のリスクを把握しながら、インフラ企業としての収益基盤の強化に取り組んでいると評価できる。その上で、再生可能エネルギーへの取り組みなどが進めば、同社の成長期待は高まるだろう。

経営者にとって重要なことは、組織全体が進むべき方向を示すことだ。特に、景気が安定しているうちに想定以上にリスクが顕在化した事業の見直しを進め、成長戦略を強化することが経営の持続性確保には欠かせない。日立の経営はこの考えに基づいている。それは、わが国の多くの企業にも参考になる部分が多いように思う。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

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