《いまだ断行中》「なぜ私は佐野SAストライキを始めたのか」渦中の“解雇部長”が真相を告発

《いまだ断行中》「なぜ私は佐野SAストライキを始めたのか」渦中の“解雇部長”が真相を告発

  • 文春オンライン
  • 更新日:2019/08/24

お盆真っ只中の8月14日、例年多くの観光客で賑わう東北道・佐野サービスエリア(上り線)は閑散としていた。理由は従業員が起こした前代未聞のストライキ。その後、運営会社「ケイセイ・フーズ」はストライキについて自社の見解を記した「事情のご説明」を報道各社に送付。社長の岸敏夫氏(61)が会見するなど、大きな話題となった。

【写真】8月14日、加藤氏らが張り出したストライキの張り紙

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人影もまばらになってしまったストライキ中の佐野サービスエリア ©文藝春秋

佐野サービスエリアは佐野ラーメンが名物で、年間利用者数は約170万人。しかしストライキは長期戦の様相を呈し、いまだに本格的な再開には至っていない。16日朝からフードコートと売店に限り、関連会社の従業員や日雇いスタッフを集めて営業を再開したが、佐野ラーメンが提供されるまで食券購入から50分を要したケースもあったという。

「営業再開後に佐野ラーメンを食べましたが、以前よりもスープが薄味になったと感じました。10人程のスタッフが厨房にいましたが、何をしてよいのかわからず、立っているだけの人もいた。夕方にも関わらず、フードコートは閑散としていましたよ」(立ち寄った客)

ストライキの中心人物“解雇部長”への信頼は厚い

ストライキの端緒となったのは加藤正樹元総務部長(45)の不当解雇だ。加藤氏がケイセイ・フーズに入社したのは昨年5月。元々は大手総合商社で働いていたが、東日本大震災をきっかけに故郷である宮城に戻り復興活動に従事していた。そんな折、ケイセイ・フーズで働く知人から誘われ、同社に入社したのだ。「加藤さんは入社して間もないが、従業員の信頼は厚い」と語るのは加藤氏と共闘する同社支配人A氏だ。

「加藤さんは着任早々、様々な取り組みをしてきました。例えば北関東限定販売の、葵の家紋がデザインされたコカ・コーラの“徳川ボトル”。以前は冷蔵庫で冷やして売っていたのですが、加藤さんがお土産にちょうどいいからと、大きな売り場を作って、箱単位でも売り出したんです。それが当たり、地域限定ボトルの売り上げで佐野サービスエリアが全国1位を獲った。メーカーさんも驚いていました」(A氏)

加藤氏はほかにもメディアを活用するなど、サービスエリアのイメージアップに貢献した。しかし一方でケイセイ・フーズの親会社である片柳建設の経営は悪化の一途を辿っていた。

「2019年6月20日に、片柳建設のメインバンクが新規融資凍結処分を下したのです。しばらくはバレなかったのですが、7月20日に行われた労使交渉で、経営陣が融資凍結と返済滞納を認めたことから、その場にいた従業員20名超が知ることとなりました。払うアテもないのに納品を頼むことは心苦しく、従業員の動揺はすぐに取引先に伝わりました」(加藤氏)

会社側のウソを明らかにする音声データ

ストライキを受けてケイセイ・フーズが報道各社に送付した文書「事情のご説明」には、「新規融資凍結処分」を受けたとの事実はないと記載されている。しかし労使交渉を録音した音声データには、このようなやりとりが記録されている。

《支払いなんですが、本当に言いづらいんですけど、ああいう情報が出ている状況で……》(加藤氏)

《どういう情報が出てるんだ! なんだ情報っていうのは》(岸社長)

《〇〇銀行から融資が止まっていると》(加藤氏)

《〇〇新規融資が止まっているという話ですよね》(監査役Y氏)

《はい》(加藤氏)

《それは事実なので、ただ今、それを正常化するように努力している。私のほうにも〇〇銀行から依頼ありましたので》(監査役Y氏)

《ですよね。私は非常に近しい人(取引業者)に現金で払ってあげられないと、それなら早く手配してもらった上で……》(加藤氏)

《それは(エアコンの)設置が終わってからでいいですか》(岸社長)

そして2019年7月、ついに佐野サービスエリアが異常事態に陥る。

「売店のバックヤードから商品がどんどんなくなっていったのです。8月初旬には、バックヤードからほとんどの商品が消えてしまっていました。しかもそんな危機的な状況下で、岸社長の子飼いだった当時の総支配人T氏による経費の個人的支出が露見したのです。T氏は会社の経費で700万円以上する高級車や、100万円相当の家電製品などに不適切な支出をしていたことが発覚しました。特に車は社長が『オレの側近が安い車に乗っていると恥ずかしい。高級車ならいいな』と言い出したから買い換えたというのです。従業員たちの不安が怒りに変わりました」(加藤氏)

従業員の給料が支払われない最悪の事態へ

「商品が搬入されないとなると、売り上げがたたない。このままでは従業員の給料が支払われないような事態にまで発展してしまう恐れがありました。そこで岸社長に対し、新たな事業計画を練って銀行から新規融資を取り付けてほしいと直談判したのです」(同前)

加藤氏は“覚書”を作成。従前、ケイセイ・フーズの取引業者への商品代金支払いは翌々月だったが、この緊急事態に、加藤氏は商品の代金を前倒しで支払うことと、従業員へ3カ月後までの給与の支払いを確約することを記し、岸社長にサインを迫ったのだ。

「8月5日には社長も渋々サインをし、安心した業者から商品が再び納入され始めました。従業員もこれで今まで通りお客様に商品を販売できそうだと、胸を撫で下ろしました」(同前)

しかし、8月9日、岸社長から「資金繰りが苦しいので、取引先に覚書の条件を緩めてもらってこい」と申し入れがあったのだ。

「会社の事情はわかります。しかし取引業者の皆さんにも従業員にも家族がいるんです。来月の収入がないかもしれないという不安のなかで働かせるわけにはいかない。8月13日、社長に『お盆中は繁忙期なので、交渉は無理です』と訴えました。すると社長は『(破るのは)お盆明けの20日でいいな』と、撤回について譲りませんでした」(同前)

社長が言い放った「解雇、解雇、解雇」

2人のやりとりはヒートアップしてゆき、口論になっていった。

「どう話しても埒が明かない。この件で奔走して体調を崩していたこともあり、『今日は帰らせてください』と事務所を出ました。帰り際、取引先の人がいたので日常会話をしていたら、社長がやってきて『解雇、解雇、解雇』と連発したのです。さらに社長は『オマエ、何話してるんだ! 加藤の言ってる事は全部嘘です』とその場で喚き出しました」(同前)

加藤氏はその日のうちに荷物をまとめるよう指示され、会社を後にした。加藤氏の解雇から3時間後には後任の総務部長が送り込まれていたという。

「深夜0時前、仕事が終わった従業員から連絡が届き始めました。SNSでグループを作り話し合いを始めたのですが、そこで従業員は『加藤さんについていきたいけど、娘や生活もあって、本当にすみません……』と言ってくれた。それは当然の意見です。私も労基署に相談し、1人で闘うつもりでした。しかし、そのなかである従業員が『会社に残っても安定なんてないですよね? それなら加藤さんについていきます』と声を挙げたのです」(同前)

加藤氏を慕う従業員たちによる一斉蜂起

その一声は、他の従業員たちの心に波紋を広げていった。

「この会社に先はない。そう考えた人たちが、次々に私についていくと言い出したのです。実際のところ、私は暑い日にジュースを差し入れしたくらいで、ろくに話したこともない方が大半なんです。だからここまでついてきてくれるなんて……」(同前)

予想だにしていなかった従業員たちの言葉に、加藤氏は心を動かされた。

「その時、時計の針はすでに午前2時を回っていました。そこで、まずはここに集まっている人たちだけで、明日から体調不良を理由に出社しないことにしようという話になりました。しかし、売店のバックヤードにはもう翌日午前中分の商品しか残っていなかったんです。実は8月4日から5日にかけて商品がほとんどなくなってしまったことがあるんです。お客様で大混雑するなか、レジに突っ立ってクレームを受け続け、本当に辛かった。今回も同様の事態に陥ってしまう。それなら店を閉めてしまおう、ということになったのです」(同前)

加藤氏はすぐに動いた。サービスエリアに戻り、入り口前にロープを張って、ストライキをする旨を書いた紙を貼り出したのだ。時間は深夜4時頃。夜空は白みかけていた。

「ネットで調べてみたら、ストライキには事前通告が必要と書いてました。それにお盆はサービスエリアにとって一番の稼ぎ時。観光客の方とのやりとりを楽しみにしていた従業員もいました。お客様には大変ご迷惑をお掛けしてしまって心苦しいのですが、やむを得なかった。今回生じた損害賠償は私一人でかぶるつもりです」(同前)

ストライキには従業員の9割に当たる約50人が参加

例年、お盆の期間は売店で1日800万円、フードコートで200万円、レストランで150万円の売り上げがあるという。加藤氏は自身の Facebook でもストライキの経緯を説明。労働組合は取引業者への商品代金支払いと従業員への給与支払いの確約に加え、加藤氏の不当解雇を正式に取り消すことを経営陣に要求した。かくして佐野サービスエリアのストライキ騒動はお盆のUターンラッシュの最中、たちまち全国ニュースとなったのだ。

「ストライキには従業員の9割に当たる約50人が参加してくれました。初日は『店を閉めて大丈夫か』と不安そうな方が大半でした。お客様にご迷惑をかけているだろうと、心配でたまらずサービスエリアに向かった方もいます。私も当初は3時間程度で収束すると思っていた。しかしいまだ労使交渉は難航しています。社長はストライキ後に従業員へ個別電話をかけて切り崩し工作をしていましたが、1人として説得することができずにいます」(同前)

8月15日、会見で社長は「仕入れ業者との注文の食い違いがあり、社員の不当解雇というのがありまして、それでストライキになりました。すでに昨日の段階で、解雇は撤回しておりまして、一刻も早く再開できるようにしたいと思っています」とコメントしている。

一部フードコートの営業を再開した16日の会見では、「(一部従業員が)毎日のように私のことを『悪い人』だと言っておりますが、『悪い人』のためにこれだけの人たちが集まって協力してくれているのは、本当に涙の出る思いでございます。今後は『いい人』だなと、言われるような人間になりたいです」と述べている。

「業者に頭を下げるものじゃないよ」

加藤氏が語る。

「8月15日の会見後、突然コミュニケーションもなく『解雇撤回』のメールが届きました。それは私にではなく世間を意識して言ったものだろうなと思いました。それに撤回と言われただけで会社に来いとは言われていない。ですので今も不当解雇されているという認識です。

社長は声を荒げることはありませんが、常々従業員や取引業者の方々を下に見ていた。私が業者の方に『おはようございます』と頭を下げると、社長は『加藤さん、業者に頭を下げるものじゃないよ。我々が頭を下げるのは(東北道を管理・運営する)NEXCO東日本と(その子会社で店舗を貸与する)ネクセリア東日本だけ。業者は業者。上下関係だから』と言い放ったこともあります」

結果的に従業員のストライキは14日から断行されたまま。現在も加藤氏の下には、従業員らが毎日集まってきている。8月19日、加藤氏と、共闘する支配人I氏らが経営陣との団体交渉へ赴く際には、従業員みんなでその後姿を見送ったという。I氏が語る。

「交渉が終わった後でも、暑い中みんなが屋外で待ってくれていました。その際の話し合いで、経営陣である岸社長と監査役のY氏が退陣する意向もあると示しました。しかし、退任する条件として、加藤さんの退陣も要求してきたのです。私たちはそれを認めるわけにはいきません。

加藤氏に認められて従業員たちの心に誇りが芽生えた

佐野サービスエリアは加藤さんが来るまで、小さくて地味なサービスエリアでした。でも加藤さんが来てから変わったんです。職場の雰囲気が明るくなった。ストライキに参加している従業員のなかには勤続30年の方もいますが、どれだけ働いていても私たち従業員が経営陣から認められることなんてなかった。でも加藤さんは私たちのことを『佐野サービスエリアのプロフェッショナル』として尊重して扱ってくれたんです」

加藤氏の着任で、佐野サービスエリアの従業員たちの心に誇りが育っていた。それが、現在のストライキの原動力になっているのだ。

「今まで忙しくて、みんなで話すことがなかなか出来なかったので、この機会を活かして、毎日接客や売り場のオペレーションなどについてみんなで勉強し直しています。たくさんの人にご迷惑をおかけしたんです。自分たちが戻る日には、今よりもっと“プロフェッショナル”になっていなければいけません」(同前)

最後まで守りたいものは守らないといけない

加藤氏は最後にストライキへの覚悟についてこう語った。

「これは勢いでやってることではないんです。最後まで守りたいものは守らないといけない。従業員はみんな、一日でも早く現場に戻りたいと思っている。できることなら私も彼らと少しの間でも長く一緒に働きたい。今月の給与が従業員に支払われなかったときのため、労働組合に1500万円を供託しています。私にとってはすごい金額ですが、みんなで分けたらたいした取り分にならない。それでもみんな頑張ってくれているんです。

私は宮城県出身なのですが、東日本大震災のとき、故郷では亡くなったりケガをしたりした友人がたくさんいました。『今やらなくていつやるんだ』と自分を奮い立たせ、会社を辞めて復興に身を投じました。私が独身だからできることですが、貯金の8割を使った。今回もあの時と同じくらい大事な節目だと思っています。こんなことができるのは、本当に、一生に一度くらいですよ」

加藤氏の証言について、ケイセイ・フーズに事実確認を求めたところ、代表取締役社長の岸敏夫氏が書面でこう回答した。

「今回の一連の事態についての報道には、前提となる事実を誤認していると思われるものが数多く見受けられ、弊社としても、できますれば、ご質問の件について、詳しくご回答申し上げたいところではあります。しかし、弊社は、現在は、きたるべき労働組合との団体交渉に向けての準備に精力を集中すべき時点であると考えており、ご質問にお答えするだけの余力がございません。したがいまして、誠に恐縮ですが、現時点において、ご質問についてご回答差し上げることはご容赦いただきたく、悪しからずご容赦ください」

ストライキ終結の目処は、いまだ立っていない。

【佐野SAストライキへの流れ】

2018年5月 加藤総務部長がケイセイ・フーズに入社
2019年6月 親会社である片柳建設が新規融資凍結処分をくだされたと情報が流れる
7月 取引業者に信用がなくなり、倉庫の商品が減り始める
7年上旬 当時の総支配人が会社の経費で高級車と家電を購入したことが発覚
7月20日 労使交渉で銀行からの新規融資凍結処分を社長が認める
8月初旬 倉庫の商品がほぼ空になる
8月5日 加藤氏が商品の再納入のため覚書を作成し、社長がサイン
8月9日 社長が覚書を破ると発言
8月13日 口論となり社長が加藤氏に解雇を通告
8月14日 売店、フードコート、レストランがストライキ
8月15日 社長会見
8月16日 売店、フードコートの一部営業再開
8月18日 ケイセイ・フーズがストライキに関する見解を文書「事情のご説明」で発表
8月19日 加藤氏・支配人I氏ら労組と経営陣が団体交渉し決裂

(「週刊文春」編集部/週刊文春)

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