「新築」という呪縛  日本に中古は根付くのか 中古活性化を阻むしがらみ 「脱新築時代」は来るか?

「新築」という呪縛 日本に中古は根付くのか 中古活性化を阻むしがらみ 「脱新築時代」は来るか?

  • WEDGE
  • 更新日:2019/11/28
No image

都心における新築マンションの供給量の減少と価格高騰により、マンションを中心に新築から中古や賃貸物件にシフトする「脱新築時代」とも読める動きが出てきた。不動産業界では中古、賃貸物件の販売を拡大する傾向もみられる。一方で、国の住宅政策は高度成長期から続いてきた新築優遇から大きくは変わっておらず、人口減少が進む中で中古の流通を拡大する政策を促進すべきだという指摘もある。「脱新築時代」の最新事情を追跡した。

Michael H/GETTIMAGES

3年連続で中古マンションの 契約件数が新築を上回る

首都圏において2016年から18年まで3年連続で中古マンションの契約件数が新築を上回ったことは、不動産・住宅業界に新しい流れが生まれたことを印象付けた。5年ほど前までは新築志向が強かったが、首都圏のマンション価格がこの数年で急騰した反面、所得の伸びがそれに追いつかなかったことから、新築から中古ヘのシフトがみられるようになった。

今年の首都圏のマンション供給量は不動産経済研究所の予測によれば、3万7000戸の横ばい。都心部で大規模物件を供給できる土地が見当たらないことから、今後も大きくは増えないとみている。

No image

(出所)「新築」は不動産経済研究所、「中古」は東日本不動産流通機構写真を拡大

同研究所の松田忠司・主任研究員は「首都圏では、00年から07年ごろまでに年間7万~9万戸の大量供給されていた新築マンションが中古として市場に出はじめている。このころのものは設備もしっかりしており、いま流行の間取りを先取りしているのもあり、こうした物件を購入してリノベーションするユーザーが増えている。利便性の高い新築マンションの供給量は今後も少ないので、首都圏に人口流入が続く現状では中古に流れる傾向が続くのではないか」と指摘する。

東京カンテイの調査では、今年9月の首都圏の中古マンションの平均価格(70平米換算)は、前月より0・6%上昇して3727万円、東京都は2・7%増の5165万円で最高値を更新した。

23区内も2・3%増の5764万円と高水準になっている。都心6区(千代田、中央、港、新宿、渋谷、文京)では、ついに8000万円台の大台に初めて達した。これも消費者の都心に住みたい志向が極めて強いことを裏付けている。

井出武・上席主任研究員は「東京23区では中央3区(千代田、港、渋谷)の水準が依然として高く、これに引っ張られて中古マンションの価格はジリジリ上昇している。新築マンションの価格も依然高水準で、富裕層は都心3区のビンテージマンションを求め、実需購入者は築20年前後で城北・城東エリアで比較的安価な中古マンションに流れる状況となっている。

最近は共働き世帯が増えていることから、通勤に便利な駅に近いマンションが好まれる。ただ、パワーカップルと呼ばれる世帯の合計年収が1500万円以上ある共働きであっても23区内で、7000万円台まで上昇した高額マンションを購入することは躊躇してしまうのではないだろうか。それなら、新築よりも平均30%ほど安く買える中古を買って、自分の好みに合わせてリノベーションしようという動きになっているようだ」とみている。

ただし、中古へのシフトが起きているのは首都圏のマンションに限った話だ。現状でも全国における中古の流通シェアは、マンションなどの共同住宅、戸建てを合わせても14・5%という低水準で推移している。

18年に行われた住宅・土地調査(総務省)によると、住宅総数は6241万戸。しかし、その13・6%に当たる849万戸がすでに空き家となっている。マンションの戸数は654万7000戸あるが、老朽化が進んできている。

また、少子高齢化も進み、人口は減少傾向が続く。世帯数の推移を見ると、23年の5419万世帯がピークで、以後は減少し、40年には5076万世帯になる。つまり、人口と世帯数の減少により、住宅需要の先行きは頭打ちになるのは明白だ。
それにもかかわらず、人口と世帯数の構造変化に対応した住宅政策がとられてきていない。

国はこの十数年にわたって、大手デベロッパーによるタワーマンションに代表される新築マンションや戸建て住宅を建て続けることが経済成長につながり、国民総生産(GDP)の増加要因になるとして歓迎してきた。

新築優遇税制と不透明な商慣行

それを下支えしてきたのが、税制面での優遇策だ。新築と中古住宅では、減税適用条件に違いがある。所得税では、年末ローン残高の1%の所得税額が13年間減税(住居面積が50平米以上で所得合計額が3000万円以下)される。一方、中古の場合、この条件を満たした上に、木造は築20年以内、マンション(新耐震基準)は築25年以内の建物に限定される(耐震対応をするなど、適用除外の方法もある)。また、固定資産税も、新築の場合は半分に軽減(戸建て3年間、マンションは5年間)される。一方、中古の場合、減税はない。

こうした状況に対して、さくら事務所の長嶋修会長は「首都圏の中古マンションに関しては確かに中古の取引が増えているが、戸建てについてはまだ新築の方が買いやすい。住宅ローンの減税についても、新築優遇を止めないままで中古の適用条件を少し緩和しており、依然として新築優遇には変わりはない」と、指摘する。「新築と中古のローン減税や補助金が同じならば、誰もが新築を買う。欧州では中古を明白に優遇してるように、日本でも新築から中古に舵を切るべき時が来ている」と訴える。

No image

(出所)国土交通省、総務省などの資料を基にウェッジ作成写真を拡大

No image

(出所)REINSTOWER、東日本不動産流通機構写真を拡大

「新築住宅を建てると、その経済効果は住宅価格の2倍あると言われた時期があった。1990年代まではそうだったかもしれないが、今は2倍もないのでは。1戸新築を作れば1戸空き家が生まれる状況で、かえってマイナスになることもあるのではないか。

一種の宗教のようなもので、(日本政府は)新築が良いと信じている。私は以前から住宅の『総量管理』をすべきだと主張しているのだが、あまり賛同してもらえない」(長嶋氏)。

住宅のストックとなった約6200万戸の住宅の多くが有効に活用されているならまだしも、7戸のうち1戸が空き家状態で、人口減少が加速する中、今までと同じペースで新築を建て続けるのは無理がある。新築はほどほどにして、今ある膨大なストックの中から長く住める住宅を見つけ出す政策を真剣に考えるべき時期に来ているのではないだろうか。

60年代の日本が高度成長を続けてきたころに、国の政策として行われてきた住宅建設5カ年計画という住宅供給を計画的に進める政策があったが2006年に終了した。その後は住生活基本法が制定され、居住水準、住宅環境など、住宅の量から質の向上を目指す政策に転換された。

ただし、政府は20年までに中古流通住宅・リフォーム市場の規模を2倍(20兆円)にしようとしたが、達成できていない(「新成長戦略」10年6月17日閣議決定)。

中古流通を妨げる要因として、不動産売買の商慣行もあげられる。日本では中古の売買を行う場合、宅地建物取引士の資格を持った仲介業者が売買する人の間に入り、取引が成立すれば「売り」と「買い」の両方から手数料を得る(売りと買い、別々の仲介業者もある)。これは、「両手取引」と呼ばれ、米国では原則的に禁止されている(Wedge12月号PART3にて詳述)。「高く売りたい」という売り主と、「安く買いたい」という買い主に対して、同じ仲介業者が介在するのは「利益相反」になるという考えからだ。

No image

(出所)ウェッジ作成写真を拡大

また、仲介業者は全国4地域に分かれて中古物件が登録されている不動産流通標準情報システム(REINS)と呼ばれるシステムを見て、顧客に希望する物件を紹介する。ただ、このシステムは物件について、築年数、間取り、価格などが表示されているが、リフォーム履歴、物件の周辺情報などは含まれていない。物件情報だけでなく周辺情報などあらゆる情報が盛り込まれている米国の不動産情報システム(MLS)とは成り立ちが異なる。

このような中古仲介における情報の非対称性や不透明さが、購入者に二の足を踏ませているという実態もある。

住宅資産評価の見直しを

中古の取引を拡大するためには、その資産評価をどれだけ正確にできるかもポイントになる。18年から仲介業者は、重要事項説明の際にホームインスペクション(建物状況調査)制度について説明が義務付けられたが、インスペクションはあまり普及していないという。

そもそも日本の場合、資産価値を築年数で計算する傾向が強いため、年数が経過すると資産価値が大幅に下落してしまう。特に戸建ての場合、30年以上経過すると建物の資産価値はゼロで土地値だけとみられることが多い。

住宅ローンの借り入れ・借り換えサービスを提供しているMFSの中山田明社長は「リノベーションした中古の資産評価を誰がするのか。金融機関にとってリノベーションによるバリューアップを評価するのは難しく、結局、鑑定企業に頼るしかない。

不動産のデータベースもリフォームなどの過去履歴をきちんとつかんでいないため、データベースだけでは評価しにくい。中古の評価を正確にするように義務付けられ、そうした情報にアクセスできるようになれば、住宅ローンがつきやすくなり中古の取引拡大につながるのではないか」と話す。

中古流通の拡大に向けて課題は山積しているものの、逆に言えば、日本の中古市場には大いに伸びしろがあるということでもある。「新築信仰」と「中古市場の使い勝手の悪さ」が存在する住宅市場だが、足元では物件情報の非対称性解消へ向けた動きがあり、また大手住宅メーカーでも中古部門に力を入れ始めた。Wedge12月号特集『「新築」という呪縛』では、こうした中古市場活性化に向けた業界の最前線の動きや、海外での健全な中古市場形成の仕組みを紹介する。

現在発売中のWedge12月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■「新築」という呪縛 日本に中古は根付くのか
砂原庸介、中川雅之、中西 享、編集部
PART 1  中古活性化を阻むしがらみ 「脱新築時代」は来るか?
PART 2   「好み」だけではなかった 日本人が”新築好き”になった理由
PART 3   米国の中古取引はなぜ活発なのか? 情報公開にこそカギがある
COLUMNゴースト化した「リゾートマンション」の行方
PART 4   中古活性化に必要な「情報透明化」と「価値再生」

▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

◆Wedge2019年12月号より

No image

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

経済カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
朝日新聞「最大6千万円で早期退職者を募集」報道にネット衝撃
百貨店の閉店ラッシュが止まらない...ありがとう、そしてサヨナラ
マイナンバーカードを持てば25%還元でお得? マイナポイントの疑問を総務省に直撃した
「トップを降りるつもりはないのか?」ユニクロ・柳井社長に“後継者問題”を直撃すると......
JSRが韓国で半導体製造用フォトレジスト製造を検討 - 韓国メディア報道
  • このエントリーをはてなブックマークに追加