【連載17:AFTERII】はじめての...“セックス・オン・ザ・ビーチ”

【連載17:AFTERII】はじめての...“セックス・オン・ザ・ビーチ”

  • Menjoy!
  • 更新日:2016/11/29

テッサは恋人ハーディンと離れ、初めてのシアトル出張を楽しんでいた。大人として認められること、大事にされること。彼といても得られないもので満たされていても、思い出すのは彼のことばかり。一方ハーディンは、昔の仲間たちと以前のようには楽しめずにいた。互いに求めあいながら、許しあえないテッサとハーディンは……。連載17回。

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はじめての“セックス・オン・ザ・ビーチ”の味は……

クリスチャンの案内で、とてもすてきなシーフード・レストランまで車で向かった。

いままでにないほどおいしいサーモンとクラブケーキを食べながら、クリスチャンがニューヨークの出版社で修行していた時のおかしな話を聞いて笑い転げる。なんでも面白おかしく語るクリスチャンに、トレヴァーとキンバリーが合いの手を入れる。みんな、すごく楽しそうだ。

ディナーを終えると、車ですこし行ったところにあるガラス張りの三階建てのビルに向かった。踊る人々の体にフラッシュライトが降り注ぎ、光と闇が作り出す光景が窓越しに見える。クラブってこんな感じだろうとは思っていたものの、ずっと規模が大きくて人も大勢いる。

車から降りると、キンバリーに腕をつかまれた。「明日は、もっとのんびりした雰囲気のところに行くから─ここは、会議で会った人たちが来たいと言っていたところなのよ!」と笑う。

入口に立つ大柄な男性はクリップボードを手に入場制限を行っていた。早くなかに入りたいという人たちが歩道を埋め尽くし、通りの角のほうまで列が延びている。

「しばらく待たないとだめなの?」わたしはトレヴァーに尋ねた。

「まさか」彼はくすくす笑った。「ミスター・ヴァンスは待ったりしない」

それがどういう意味かは、すぐにわかった。クリスチャンが何やらささやくと、入口の用心棒はロープを移動させて、わたしたちをすぐに通してくれた。スモークがたかれたスペースに流れる大音量の音楽と躍る光の洪水に、すこしめまいがする。

わざわざお金を払って、見知らぬ人に体を押しつけられ、マシンから吹き出るスモークを吸って頭痛になるなんて、わたしにはきっと理解できない。

短いドレスを着た女性に案内されて階段を上り、薄いカーテンで仕切られた小部屋へ向かう。なかにはソファがふたつとテーブルがひとつ。

「VIPルームよ、テッサ」興味津々で室内を見回すわたしに、キンバリーが言った。

「まあ」みんなのあとに続いて、ソファに腰を下ろす。

「いつもは何を飲んでるの?」トレヴァーが聞いてくる。

「えっと、いつもは飲まないの」

「ぼくもだよ。いや、ワインは好きだな。でも、それほど量は飲まない」

「だめよ、今夜は飲まなきゃ、テッサ。わたしが命じます!」キンバリーが叫ぶ。

「あの、わたし─」

「彼女に“セックス・オン・ザ・ビーチ”、わたしもね」キンバリーは勝手にオーダーした。

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ウェイトレスがうなずくと、クリスチャンはわたしが聞いたこともないドリンクを、トレヴァーは赤のグラスワインを頼んだ。

わたしがお酒を飲んでもいい年齢かどうかなんて、誰も聞かない。実際の年齢以上に見えるのか、それとも、クリスチャンの連れにそんなことを聞いて、彼の機嫌を損ねたくないのかもしれない。

“セックス・オン・ザ・ビーチ”がなんなのかわからないけど、自分の無知をさらけだしたくない。戻ってきたウェイトレスは、パイナップルスライスとピンクの小さな傘が刺さったトールグラスを渡してくれた。

礼を言って、すぐにストローでひと口飲んでみる。すごくおいしい。甘いけど、ちょっぴり苦い後味がくせになる。

「おいしい?」と尋ねるキンバリーにうなずいて見せてから、わたしはふたたび一気に味わった。

「全部あいつが仕組んだことよ」

「ねえ、ハーディンってば、もう一杯」モリーが耳元で言う。

酔っ払いたいのかどうか、自分でもわからない。すでにウォッカを三杯飲み干してるから、あと一杯飲んだらぜったいに酔っ払う。ぐでぐでに酔って、いま起こっていることをすべて忘れるっていうのも悪くない。とはいうものの、筋道を立てて考えるには頭がすっきりしてなくちゃならない。

「ここを抜け出したくない?」

ろれつの回らないモリーはマリファナとウイスキーのにおいがした。彼女をバスルームに連れこんで一発ヤりたい気もする。とくに理由はない、ヤろうと思えばヤれるからだ。テッサはあのくそ野郎のトレヴァーとシアトルにいて、おれはそこから三時間も離れたこの場所でソファに座り、なかば酔っ払ってる。

「ねえってば、あの娘のことなんて忘れさせてあげる」モリーが膝のうえにすり寄ってくる。

「なんだと?」おれが尋ねると、彼女は首に両腕を回してきた。

「テッサのことだよ。あたしがあの娘のこと忘れさせてあげる。名前も思い出せなくなるくらい、あたしをファックしまくっていいから」熱い吐息が首筋にかかり、おれはモリーから体を引いた。

「放せよ」

「なんだって言うのよ、ハーディン?」プライドが傷ついたという表情だ。

「おまえなんか欲しくない」

「いったい、いつから? 前はずっと、そんなこと言わずにあたしとヤりまくってたくせに」

「いつからって……」

「いつなのよ?」モリーはソファから飛び降りて、腕をむちゃくちゃに振り回した。「あのうぬぼれたビッチに出会ってからでしょ?」

モリーは女だ。悪魔みたいな口をきいているが、実際には違う─自分にそう言い聞かせないと、ばかなことをしでかしそうだ。「彼女をそんなふうに言うな」おれは立ち上がった。

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「だって、ほんとのことだもん。あんた、鏡で自分のこと見てみなよ。迷子の子犬みたいな顔しちゃってさ。あの聖母マリアなんてほんとはケバい女で、あんたのことなんて求めてもいないのに!」

モリーはまくし立てた。笑っているのか、泣いているのか、彼女の場合はどっちも同じように見えてくる。

両手を拳に握っていると、ジェイスとゼッドが彼女のそばにやってきた。モリーがジェイスの肩に手をかける。「ちょっと、ハーディンに言ってやってよ。あたしたちが彼女の前で秘密をバラしてから、とんでもなく退屈な野郎になっちゃった、って」

「“あたしたち”じゃない、おれは入れるな」

ゼッドに訂正されて、モリーは彼をにらんだ。「同じことだよ」とモリーが言うと、ゼッドはあきれたようにあさっての方向を向いた。

「どうしたってんだよ?」ジェイスが尋ねる。

「なんでもない」おれはモリーの代わりに答えた。「愛に飢えてるのに、おれがセックスしてやらないからすねてるんだ」

「違う、あたしが頭にきてるのは、あんたが最低野郎だからだよ。あんたといっしょにいたいやつなんて誰もいない。だからジェイスは、彼女にぜんぶバラすよう言ってきたんだし」

目の前が真っ赤になる。「ジェイスがなんだって?」おれは噛み締めた歯のあいだから言葉を押し出した。彼が最低な人間なのはわかっていたが、あんなふうにテッサに暴露したのはモリーの嫉妬心からだと思っていた。

「だから、彼女にバラしてやれ、ってジェイスがあたしに言ったの。やつがぜんぶ仕組んだことだから。彼女に何杯か飲ませてから、あんたの前であたしがバラしたら、ジェイスが彼女のあとを追って慰めるって手はずだった。あんたが赤ん坊みたいに泣いているあいだにね」

モリーはけらけらと笑った。

「ジェイス、あんた、なんて言ったんだっけ? “めちゃくちゃに彼女をヤってやる”だっけ?」

おれはジェイスに詰め寄った。

「なんだよ、ただのジョークだろ─」

そう言いかけた彼の顎にパンチを見舞った瞬間、ゼッドがにやりとした。おれの見間違いじゃないはずだ。

ジェイスの顔を何度殴っても何も感じなかった。怒りに圧倒されたまま、馬乗りになって暴行を続ける。テッサに触れ、キスし、服を脱がせるこいつのイメージが頭に浮かぶたび、さらに激しく拳を振るう。ジェイスの顔に流れる血に逆上し、ますますやつを痛めつけたくなる。

黒縁のめがねが壊れて血だらけの顔の横に落ちたとき、ぐいと体を引っ張られた。

「いい加減にしろよ! このままだとやつを殺してしまうぞ!」面と向かってローガンに怒鳴られて、おれはようやく現実に戻った。

「言いたいことがあるなら、ここで言えよ!」友達、あるいはそれに近い存在だと思っていた連中に向かって、おれは怒鳴っていた。

みんな無言のままだった。モリーでさえ。

「本気で言ってるんだからな! 彼女についてこれ以上何か言ってみろ、おまえたちひとり残らず絞めてやる!」

なんとか床から起き上がろうとしているジェイスにもう一度目をやってから、おれはゼッドのアパートメントを出て、凍える夜の闇に踏み出した。

次回、身も心もボロボロになったハーディン。一方、慣れないお酒に酔ったテッサはなんと……!?

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