フジテレビの新アニメ枠「+Ultra」が掲げる“3つのHigh”とは? 森彬俊Pが明かす世界に向けた戦略

フジテレビの新アニメ枠「+Ultra」が掲げる“3つのHigh”とは? 森彬俊Pが明かす世界に向けた戦略

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  • 更新日:2018/11/09
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フジテレビの新アニメ枠「+Ultra」が掲げる“3つのHigh”とは? 森彬俊Pが明かす世界に向けた戦略

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2018年10月より放送の『INGRESS THE ANIMATION』を皮切りにスタートした、フジテレビの水曜深夜アニメ枠「+Ultra」(プラスウルトラ)」。フジテレビの深夜アニメ枠といえば木曜深夜の「ノイタミナ」がすでに有名だが、深夜アニメブランドを新設した狙いは何なのか。

また、「+Ultra」では『INGRESS THE ANIMATION』に続き、2019年1月には谷口悟朗監督と白組による『revisions リヴィジョンズ』、同年4月には渡辺信一郎監督とBONESによる『キャロル&チューズデイ』など、海外でも人気の高い監督やスタジオによる新作が報じられている。
これらの作品は日本のアニメファンには一体何をもたらすのだろうか。

「+Ultra」と「ノイタミナ」の作品に携わる森彬俊(もり・あきとし)プロデューサーにこれらの疑問をぶつけ、新ブランドである「+Ultra」の意義やプロデューサーとアニメ作品の関係など話を伺った。
[取材・構成=いしじまえいわ]

■「+Ultra」新設に至った、2つの背景とは…

――今回「ノイタミナ」に続いて「+Ultra」という新しい枠を作ったのには、どういう経緯や狙いがあったのでしょうか?

森彬俊プロデューサー(以下、森)
「ノイタミナ」ができてから今年で14年目になります。それで私たちが実感したのは、日本のアニメファンの作品を見る目が非常に成熟してきたということです。
スタートした当時に比べてアニメの本数自体も増えていますが、内容もまた様々な方向性のものがあり、その中からお客様が自分の嗜好に合った作品を自由に選べることが求められています。

一方、海外については、当初は日本での放送から現地に届くまでにタイムラグがあったり、そもそも見ていただくインフラがなかったりなど、様々な問題がありました。
それが近年ではNetflixやAmazonプライム・ビデオなど、見ていただくためのワールドワイドな環境が整ってきたことによって、視聴までの時間差や見た際の感覚など、日本のファンと変わらなくなってきています。

この2つの点から、国内外同時にムーブメントを起こすような先鋭的な作品が作り得るようになってきました。これが「+Ultra」という新しいブランドを新設することになった経緯です。

――「海外に向けた作品」とは、具体的にはどういったものでしょう? 国内向けの作品と何が違うのでしょうか?


一例ですが、日本の実在する地域を舞台にした青春もの、といったジャンルがありますよね。

――ええ。そういった作品では聖地巡礼なども盛んに行われています。


でも、海外のファンにとって日本の風景は馴染み薄かったり、行ってみたくてもなかなか足を運べなかったりということが生じます。
海外を意識した作品の場合は、国内外どちらのファンでも同じように好きになってもらえる舞台や世界設定を用意し、フラットに意識を共有できるようにする必要があります。

もちろん、今後「+Ultra」で聖地巡礼をできるような作品を作ることもありえますが、こういった意識が海外に向けた作品作りには必要だと考えています。

■コンセプトは「3つのHigh」

――たしかに海外では、SFやファンタジー、あるいは同じ日本でも現代ではなく近未来を舞台にした作品が人気な傾向はあります。

そういった海外ファンの状況がある一方、今の日本のアニメマーケットでは、毎クール5~60本以上の新作アニメが放送されています。

そんな中で日本のアニメファンに“ゼロ話切り”されないためにはどうすればいいか? という問題があります。

それに対しては、「+Ultra」は高いクオリティの作品を恒常的に打ち出せる枠にしていきたい。

劇場用に近いレベルの作品が「+Ultra」では毎週見られる、という状況を作ることで、目の肥えた日本のアニメファンの皆様にも安定して見ていただけると考えています。

――すでに放送が始まっている『INGRESS THE ANIMATION』や、今後放送されるラインナップもかつてのOVAを想起させるようなクオリティの高さを感じますね。

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(C)リヴィジョンズ製作委員会

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(C)ボンズ・渡辺信一郎/キャロル&チューズデイ製作委員会

アニメは1作品作るのに何百人ものクリエイターが1年も2年も費やして作っていますから、せっかく作り上げた作品が見てもらえないのは一番悲しいことです。

ではどうやったら見ていただけるか? そのひとつの答えが、きちんとクオリティの高い作品を安定的に生み出す枠を設けることだと考えました。

「+Ultra」という枠タイトルには、「一歩先の視聴体験をお届けする」「ひとつ先へ」という意味が込められています。

さらに「3つのHigh」をコンセプトに掲げていて、それは「ハイクオリティ」「ハイエンド」「ハイターゲット」。つまり、映像としての質が高く、メッセージとしても先進的な作品を、ハイターゲットのお客様にお届けする、ということです。

――まず日本のアニメファンに見てもらうことが「+Ultra」の大きな命題なんですね。

海外に向けた作品を、と言っても、まずは日本のお客様にきちんと見ていただかないことには仕方がありません。

私たちはノイタミナでの経験を通じて、日本のアニメファンはクオリティの高い作品を見分ける目を持っていると実感しています。それだけ日本のファンの見る目を信頼しているわけです。

そういったコンセプトのあらわれで、「+Ultra」のムービングロゴはマンガ家の大友克洋さんに描いてもらいました。

――確かに、海外で高く評価された「ハイクオリティ」「ハイエンド」「ハイターゲット」な作品といえば、大友克洋さんの『AKIRA』が思い浮かびますね。

『AKIRA』も最初から海外でのヒットを狙ったわけではなく、質の高い作品を作った結果、海外にも受け入れられたのだと思います。

そういった作品作りをする新たな枠が「+Ultra」なのだと大友さんに説明し、ご快諾をいただきました。

■「+Ultra」と「ノイタミナ」は両輪

――一方、「ノイタミナ」は今後どうなっていくのでしょう?

ノイタミナは日本のマーケットをしっかり狙っていく、という風にコンセプトを分けているので、「+Ultra」と共に並び立つものと考えています。

実は同じチームが両方を手がけていて、作品の方向性に合わせて、この作品は「ノイタミナ」だね、こっちは「+Ultra」だね、という風に分けています。

「ノイタミナ」枠を二段積みにするという選択もあったと思います。

しかし「+Ultra」という枠を設け、曜日とブランドを分けることで、より色の違ったアニメを楽しんでいただきたい、というのが我々の考えです。ですので、2つは両輪だと考えています。

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――先ほどアニメクリエイターのお話がありましたが、クオリティを高くすればそれだけ制作費も上がってくると思いますが、その辺りは実際どうなっているんでしょうか。

たしかに「+Ultra」の作品はこれまで私たちが作ってきたTVアニメ作品よりもハイバジェットになっています。

というのも、昨今アニメ業界の労働環境や制作費について様々な面から論じられるようになり、成果に見合った適正なフィーを支払おう、という風に業界全体が少しずつ変わってきているんです。

いくら3つのHighだと言っても「クオリティは高く、だけど制作費は据え置き」ではまかり通りません。

きちんと現場スタッフと作品が目指すクオリティについてコンセンサスを共有し、そのためにはどのぐらいの予算が必要なのかを逆算して提示してもらう。それがあったうえでやっと「このクオリティを一緒に目指そう」となるわけですから、結果的にバジェットは大きくなります。

――アニメファンにとっても、好きな作品を作ってくれたクリエイターにはきちんと還元されてほしいでしょうから、ファンにとってもいい流れになってきているんですね。

そうですね。パッケージメーカーさんが主導でアニメ製作をする場合、ある程度の作品数をつくることができて、それを各TV局の放送枠を買って放送する形です。

一方、私たちのようにTV局側がアニメを作る場合は、当然自社の番組枠の中で放送することが前提です。フジテレビでは「ノイタミナ」と「+Uitra」で毎週2枠、年間8クール分しか企画を持てないわけです。その中で勝負できるアニメをつくっていく必要があります。

そうなると、コストを抑えて数を多く作るより、予算がかかってもいいからひとつひとつクオリティの高い作品を作り「この枠では毎回ハイクオリティのアニメが見られる」という信頼感を勝ち取る。

まずは作品やキャラクターを好きになってもらい、そこからグッズやイベントなどで応援して頂いたほうが、結果的に私たちのビジネスが成り立つ、と考えています。

――昨今、莫大な数のアニメが作られていて、作る側も見る側にも疲弊している人が出ているような気がします。本数を絞ってひとつひとつの作品に注力する「+Ultra」の方針は、そういった状況へのアンサーにも思えます。

はい。作品を濫造するより、ひと作品のクオリティを高めていくほうが、結果的に海外にも届くようなアニメになるのではと考えています。

これが新しいスキーム……というのは言い過ぎかもしれませんが、アニメ業界の新しい流れになってくれると嬉しいな、という思いはありますね。

■初回放送と同時に、Netflixで全話配信! TV局にとって影響は?

――また角度の違う話になりますが、今回『INGRESS THE ANIMATION』はTV放送と同時にNetflixでの配信がスタートしました。しかも、全話一挙公開です。それによってアニメの視聴体験やアニメビジネスにはどういった影響があるとお考えですか?

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(C)「イングレス」製作委員会

少し前であれば、「TV放送と動画配信はお客様を取り合うライバル関係だ」という考え方もありました。

でもお客様の立場で考えればどちらも選択肢に過ぎないわけで、対立するものではないんですよね。

それに、作品を多くの方に見てもらわないことにはパッケージもグッズも買ってもらえませんから、とにかくまず多くの方に見ていただくことを重視しています。

フジテレビを中心にTV局でまず日本国内をカバーし、Netflixで海外からも見ていただけるようにする。

そうやって見ていただけるウインドウを増やすことが重要だと考えています。

『INGRESS THE ANIMATION』では、毎週1話TV放送されますが、Netflixでは既に全話公開されています。こういった取り組みはキー局では初めてかもしれませんが、Netflixで全話見た方の口コミによってTV視聴の方のモチベーションが牽引される、または“保険になる”ということもあり得るのでは? と期待しています。

――保険というのはどういうことですか?

視聴者の立場で言えば、『INGRESS THE ANIMATION』のようなオリジナル作品に3カ月間付き合うのって、ひとつの賭けですよね。

「最後まで付き合って結局つまらなかったらどうしよう」「時間をかけて見る価値はあるんだろうか」という不安があると思うんです。

そこに1話の時点で「Netflixで最後まで見たけど面白かったよ!」という人がいれば、それが継続視聴するモチベーションになる。そんなシナジーが今後生まれてくるのでは、と考えています。

――とにかく最後まで見てもらうことを重視しているんですね。

今はどんな作品がヒットするか予測がつかない時代ですから、クオリティの高い作品を作り、それをとにかく多くの方に最後まで見てもらう。

作品を見てもらい評価されれば、結果的にグッズやイベント、ゲームなどの周辺ビジネスも活性化する。これを真摯にやっていくしかないと思っています。

『君の名は。』がデートムービーにまでなったことからも分かるように、アニメそのもののプレゼンスや社会的評価も上がっていて、より多くの方がアニメを見る時代になってきています。ですからコアなアニメファンだけでなく、広い層に作品を届けることが重要だと考えています。

――そういったアニメ開発部の意向は、フジテレビ全体の戦略方針を反映したものと考えていいんでしょうか。

アニメは、フジテレビとして取り組むべき試みの最先端であると考えられています。これまでTV局は外部で作られたアニメ番組に枠を用意して放送する、CMを流すといったことがメインの収益でした。

それらが減少していく中、自分たちで積極的に作品を作っていけばグッズなどの2次利用も収益になりますから、放送外収入の要になってくる。

私たちは幸い「ノイタミナ」の時から作品を作り2次利用収入を得るノウハウを積み上げてきました。そこを期待する形で、より組織的に動けるようアニメ開発部を6年前に設立しました。

その結果、「+Ultra」や「ノイタミナ」といった深夜アニメ枠だけでなく、『レイトン ミステリー探偵社~カトリーのナゾトキファイル~』を放送している朝枠や、『ペンギン・ハイウェイ』のようなファミリー向け劇場用作品といった挑戦が今できているんです。

――フジテレビという会社全体でアニメ分野に期待し、新しい挑戦をしているわけですね。

社として、アニメは放送局のビジネススキームを変える存在だと期待しています。今年のフジテレビのアニメラインナップ発表会で、大多亮(おおた・とおる 常務取締役)が発表したということからも、社としての意気込みがあらわれていると捉えていただきたいです。

■「アニメプロデューサー」にとって最も重要なこととは?

――ここまでは、放送枠のコンセプトなど「TVプロデューサー」的な視点でお話を聞いてきました。ただ、アニメファンからは、TV局のアニメプロデューサーが作品づくりにどのくらい、どのように携わっているのか見えづらいように思います。森さんがどのように作品づくりに関わっているのか教えてほしいです。

そうですよね、プロデューサーの仕事ってなかなか分かりにくいですよね(笑)。

私たちは企画の立案からはじまります。原作ものの場合は原作者さんと、オリジナル企画であれば脚本家や監督の方と打ち合わせをし、どんな話で、どんなクリエイターを集めるかという根っこの部分から企画を作ります。

それに伴い「こういう企画だったらこの企業さんがスポンサーになってくれる」「こんなグッズを作ってくれる企業さんと一緒にビジネスをしよう」といったように、その作品の収益化までをワンストップで行います。

――作品作りとビジネスの構築、両方やられているんですね。プロデューサーはビジネス分野を担当する人というイメージを持つ人も多いかと思いますが、クリエイターの方とお話することも多いのでしょうか?

もちろんです。シナリオ会議やアフレコ収録なども全て立ち会い、スタッフの皆さんと作品づくりについて話をさせてもらっています。

とはいえ、絵を描いたりと作品そのものをつくりあげるのはクリエイターの皆さんです。プロデューサーの役割で一番重要だと思うのは、クリエイターの皆さんと「こういう作品を目指したい」「これがゴールだ」と意識共有することです。

その軸がしっかりしていないと、作品もビジネスもうまくいきません。その軸を指し示せるのは、企画を根っこから立ち上げ、クリエイティブ面もビジネス面も把握しているプロデューサーしかいないからです。

――最後に、そんなお仕事をされている森さん自身について聞かせてください。やっぱり森さんはアニメがお好きなのですか? そして最初にハマったアニメは?

子どもの頃に見た『機動警察パトレイバー』ですね。夏休みにBSで一挙放送されていて、そのとき初めて見たんです。「他のロボットアニメと何か違う!」と子どもながらに異質さを感じて。

――ロボットアクションよりドラマが中心で、公務員が温泉旅行に行って終わりって回もありますもんね。

そこから、アニメなのに子ども向けではない広がりを感じてハマっていきました。

私は仙台出身なのですが、当時はあまりチャンネル数もなかったので、レンタルビデオ屋さんでアニメを借りてよく見ていたんです。するとTVアニメだけでなくOVAなど大人向けのアニメもあって、そこから映画や映像全般にのめり込んでいきました。

大学時代は、自主制作映画を撮ったりもしましたが、「俺にはクリエイターは無理だ」ということが分かっていい経験になりました (笑)。

一方で、映画制作を通じて作品ができるまでの流れやスケジューリングなど、人に動いてもらい映像を作ることは学べました。

そこから、クリエイターになることはなく、プロデューサーという形を目指してTV局に入社したんです。

――絵を描いたり映像を撮ったりではない形で作品作りに関わろうと。

そうです。この記事をご覧の方で、アニメは好きだけど絵は描けないからなあ……とお思いの若い方もいらっしゃると思いますが、プロデューサーという立場であればまた違った立場から作品作りに携われるということはぜひ知っていただきたいですね。アニメプロデューサーは今人手不足でもありますので。

――「+Ultra」という新しいアニメ枠と、それを推進するアニメプロデューサーという仕事のことがよく分かりました。本日はありがとうございました。

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