野沢直子が書く「亡き父のこと、夫ボブのこと」

野沢直子が書く「亡き父のこと、夫ボブのこと」

  • 文春オンライン
  • 更新日:2017/10/12

事業を手掛けては失敗する父と、成功を信じて疑わない母。その間で懸命に「お笑いの道」を目指す娘。破天荒ながら愛情の深い父との日々を綴った野沢直子さんのエッセイは「リリー・フランキー『東京タワー』に匹敵する親子愛の名作」と絶賛され、大幅加筆のうえ『笑うお葬式』として刊行の運びとなった。個性豊かな家族とのエピソードを、あらたに披露。

◆◆◆

No image

『笑うお葬式』(野沢直子 著)

『父と娘』と聞くとまず私は、自分自身と父のこと、私の娘と私の夫のことを思い浮かべる。

この二組とも父娘の関係性はさらっとしていて、私も私の娘も特にお父さんには執着しない派で、例えば「お父さんとデート」などと言って父親と腕を組んで二人でどこかに出かけるといったようなことは人生で一度もしたことがないし、娘と夫もそんな風にして出かけているのは見たことがない。だが、たしかに父からの愛情には包まれている。

私は今はアメリカに住んでいるのだが、毎年夏には二ヶ月ほど日本に里帰りして、おかげさまでテレビの仕事などさせて頂いている。

今は他界した父が亡くなる数年前のある夏、私が例年通りに日本に里帰りした時のことだった。日本に着いて数日後、父に会いに実家に行くと、父が私の顔を見るなり何かとても残念そうにため息をついて見せた。

「なによ?」

「あのなあ、直子。今、日本のテレビはな、毎日AKBっていうのばっかり出てるんだぞ。あんなにAKB、 AKBって、AKBばっかり出てたら、直子がテレビに出れなくなっちゃう」

私は「ええええ」と言って、椅子から転げ落ちそうになった。

かぶってない。私とAKBは枠が全くかぶってないのだ。それを、この八十近い父にどう説明したらいいのだろう。父がとても不安げな顔をして私の顔を見ているので、私はとにかく言った。

「あ、あのさ。なんていうのか、心配してくれるのはありがたいことだけど、AKBと私じゃ、芸能界でのポジションが全然違うからさ。心配することもないんだよね」と説明したが、どうも父は理解できないようで、次の年の夏も会うなり父はまた同じことを言っていたのでひっくり返った。

当時もう五十にもなろうという完全にばばあの自分の娘が、あんなミニスカートを穿いたかわいい女の子たちのせいでテレビに出られなくなってしまうと心配している。父の頭の中の、私とAKBのみなさんは同列に並んでいるのだろうか。AKBファンのみなさん、本当にごめんなさい。この父の愛情は嬉しいけど、絶対に同列じゃないですから。

No image

父の心配を呼び起こす存在。2012年9月6日。©山元茂樹/文藝春秋

そして次に夫のボブの話であるが、長女が総合格闘技という世にも過激な競技を始めてしまった時、娘のやっていることを理解したいからということで、夫は五十六歳にしてムエタイを始めてしまった。

ムエタイもなかなか過激なので、どう考えても五十六歳で始めていいものではないだろうと心配していたら案の定、ムエタイジムに入って二ヶ月目には肋骨を折り、それでも頑張って肋骨が治り次第ジムに戻ったが、次には膝を痛めてとうとう断念していた。

笑っちゃ悪いと思うのだが、もう穿かなくなったムエタイのパンツがしばらくの間洗面所に干されたままになっていたので、見る度くすっと笑っていた。まあ、とにかくは娘のやっていることを体験してみようと挑戦したのは偉いとは思うが、何もそこまでしなくたってと、洗面所で風に揺れるパンツを見る度に笑えた。

『お父さん』の愛情表現は、お母さんのそれとはちょっと違うような気がする。 一般的に、母親に比べると父親というのは子供と接する時間が短いせいで子供の早い成長や変化になんとなく疎く、そのせいで愛情表現がどことなくずれてしまうのかもしれない。

でも、お父さんたちのそのちょっと突飛でずれているところが、なんとも微笑ましい。

父の、AKBに負けてしまう野沢直子という世にも間違った心配など、今となってはありがたいとさえ思い、これを思い出してくすっと笑ったあとに必ず心が暖かくなるのだ。

No image

父に抱かれる幼子が野沢直子さん。今も昔も、変わらない可愛さが。

(野沢 直子)

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

プロフィールを見る

コラム総合カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
子育てするのに「天国な街・地獄な街」ランキング ――ママ友関係が酷いのは? NPOがあると要注意?
【お値段以上すぎ】1690円のニトリ抱き枕、中毒者が後を絶たないワケ
一卵性双子に関する15の事実
これは凄い「革命的」過ぎるソファが話題に!一人暮らしに欲しい
「この子、怖いな...。」エリート男が引いた、初デートのカウンター席で女が豹変した瞬間
  • このエントリーをはてなブックマークに追加