樋口真嗣×松尾諭『シン・ゴジラ』対談#1 最大の誤算は「泉修一のブレイク」

樋口真嗣×松尾諭『シン・ゴジラ』対談#1 最大の誤算は「泉修一のブレイク」

  • 文春オンライン
  • 更新日:2017/11/12

キャスト329人。3監督・4班体制、スタッフ総勢1000人以上。空前絶後の規模にして、大成功を収めた映画『シン・ゴジラ』。あの名場面はどう生まれたのか? 樋口真嗣監督と泉修一役・松尾諭さんが語り尽くします! (全2回#2につづく)

No image

樋口真嗣監督(左)と泉修一役・松尾諭さん(右)

『MM9』がなかったら『シン・ゴジラ』はなかった

松尾 こうやって対談するのは初めてですね。

樋口 最初に松尾さんに会ったのは、いつだっけ?

松尾 『MM9』ですよ。伝説の深夜ドラマ。あれがなかったら『シン・ゴジラ』はなかったという。監督が樋口さん、キャストに高橋一生、ピエール瀧さん、橋本じゅんさん……。そして『シン・ゴジラ』総監督・庵野(秀明)さんも出演してました。

樋口 粟根まことさんも出てました。『MM9』はもう5年前くらいになる?

松尾 いや、もっと前ですよ。僕に子どもが生まれる前ですもん。7年前ですか。

樋口 俺がもう映画に疲れてて、これからはテレビと配信の時代だって、テレビドラマをやってみたくなったんですよね。そこで一緒になって、仲良くなって、僕の撮るやつ撮るやつ全部に……。

松尾 いやいや、そんなことないですよ。『のぼうの城』とか全然お呼びがかからなかったですからね(笑)。5年くらい前に偶然会って、それで『進撃の巨人』の役をいただいたのが樋口さんとの2回目のお仕事です。あのときは、茨城の高萩にある廃墟でロケしていたら、ロケハン中の樋口さんに遭遇して。

No image

最初は松尾諭=泉修一役を考えていなかったんです

樋口 あのとき、松尾さん救急隊の格好してたよね。

松尾 そうです。その格好のまま「何してるんですか?」って聞いたら「『進撃の巨人』のロケハンだ」って。

樋口 あの格好のせいで、いつもより若く見えた。「若い役、いけるな」ってそこで思って、ちょうどいいやって役のオファーをしたんです。

松尾 僕その時、40手前のオッサンですよ。三浦春馬と同じ21、22歳の設定って……。石原さとみの後輩という役でしたからね。

樋口 そうか『MM』やって『進撃』やって『シン・ゴジラ』か。

松尾 メシの誘いはよくいただくんですけど、仕事の誘いは3回。ありがたいご縁です。

樋口 『シン・ゴジラ』のときは、松尾さんを「この人取ったぁーっ!」バシーッて感じで百人一首の全国大会みたいにキャストとして確保したんですよ。

松尾 それはありがとうございます。

樋口 最初は「保守第一党政調副会長・泉修一」の役ではない、別の役を考えていたんです。というのは、長谷川(博己/内閣官房副長官・矢口蘭堂役)さんと絡ませたくなかった。長谷川さんと松尾さんの絡みって『デート』での印象が強くなりそうだったから。映画の中で長谷川さんは政治家として見えなきゃいけないのに、松尾さんと一緒になった途端『デート』のあの高等遊民に見えちゃアウトでしょう。だから、ちょっと心配だったんだけど、全然大丈夫だった。

No image

あの日は庵野さんが機嫌悪くて……

松尾 あのとき、確か准監督の尾上克郎さんにだったと思いますけど、「矢口と泉の関係は、庵野さんと樋口さんみたいな関係だから」って言われました。まあ、盟友という感じかなと思って臨んだんですけど。

樋口 松尾さんの撮影初日のこと? 立川の災害対策本部予備施設の入り口で矢口と泉が会うシーン。

松尾 そうです。僕、本読みと顔合わせに行けなかったんで、庵野さんには撮影現場で初めて挨拶したんですけど……。

樋口 あの日はもう、時間がないので庵野さんが機嫌悪くて……(笑)。

松尾 いや、もう「あれ? なんやろう?」ってムードでしたよね。庵野さんとこに挨拶に行ったら「あ、どうも」みたいな感じで、思わず長谷川くんに「ちょっと、どうなん?」って聞いたら、長谷川くんもピリピリしてて、なんか大変なところに来ちゃったな、というのが僕の『シン・ゴジラ』第一印象ですね(笑)。

No image

樋口 あの日は、その前の屋上撮影シーンが天気待ちで押してたんですよ。それで、待ち時間に竹野内(豊/首相補佐官・赤坂秀樹役)さんと長谷川さんが影踏みして遊んでたの覚えてる。

松尾 段取りやって、カメラテストになった時に、長谷川くんが「セリフは早口で言わないとカットされるからね」って言うんですよ。でも、その前に樋口さんには「早口じゃなくていい」って言われてたんです。で、本番前になって今度はプロデューサーが僕のところに来て「とにかくバーッて喋って、パーッと歩けばいいから」って演出つけてきて(笑)。

樋口 そうそう、プロデューサー自らもね。

松尾 庵野さんいて、樋口さんいて、尾上さんもいて、さらにプロデューサーもおんのかいって、ワケわからないままワーッと歩いてやったのがあのシーンです。

No image

泉修一は「おいしい役」だった

樋口 それにしても泉修一は「おいしい役」だったと思う。存在感も、他の登場人物とは明らかに心の掻き乱れ方が違う分、際立っていたと思いますよ。多くの人物が大波に揺られてる小舟なら、泉は揺れていない悠然とした立場。

松尾 確かにそうでしたね。

樋口 長谷川さん演じる矢口は大きく動揺するタイプで、庵野さん的には「追い詰める」という言い方をしてましたけど、けっこう長谷川さん自身をイライラさせるように仕向けて演出してました。

松尾 それでこそ、あのイライラ演技になってたんですね。

樋口 そして、矢口のイライラが爆発するのが、あの名場面。

松尾 「矢口、まずは君が落ち着け」

樋口 まさか、あんなシーンになるとは思わなかったんだよね。

No image

「矢口、まずは君が落ち着け」秘話

松尾 もともと、台本になかったシーンですからね。A4用紙に書かれた「差し込み」を直前にもらって、ワーッと激昂している矢口をなだめて「まずは君が落ち着け」と水を差し出してくれ、と指示をもらったんです。ただ、長谷川くんの演技もかなりの激昂ぶりだったんで、これはただ水を渡しても落ち着かんだろうと。それで、リハーサルで水を放り投げてみたんですよ。それなら「ハッ!」ってなって、自然と落ち着いた演技に持っていけるかなと。

樋口 ところが、本気で怒った演技をしているから、長谷川さんがその水に気がつかないのね。

松尾 ペットボトルがそのままボーンって当たって。「何やってんだ!」ってむしろもっと怒らせちゃった(笑)。それで本番は、胸にドンとやって水を渡す方法にしたんです。

No image

樋口 見ていて、「松尾さんは見事に場面を持ってくなあ」って思いました。

松尾 いやいや……。僕としては、矢口の秘書官・志村(祐介)役の高良健吾くんに、ねぎらいを込めて水を渡すほうが演技としては重要だと思ってました。泉は政治家としての計算なのかわからないけれど、下の人間、周りに常に気を配っているという人間像にしたかったんですよ。そこは結局、映んなかったんですけど。

樋口 長谷川くんが激昂して、高良くんが秘書官としてシュンとした感じを見逃さないという、幹事長を目指すものとしての、振る舞いですよね。そして、泉のあの泰然とした存在感は、そのあと万能感を伴っていく……。

松尾 ああ、「フランス政府にパイプがある。裏で交渉してみるよ」と泉が動くシーンですね。あれもたまたま僕にセリフが回って来たんですけど、「え、泉ってなんでもできるんだな」ってさすがに思いました(笑)。

「あの、成さん、怒らないでください」

樋口 困ったらもう、とにかく泉にセリフを振っちゃった。それこそ、総理臨時代理役の平泉成さんと対峙するシーンあたりから、異様な万能感が出始めましたよね。話の設定的に無理目なセリフとかも、泉に言わせれば通っちゃうみたいな。

松尾 「ですが、総理。自国の利益のために他国に犠牲を強いるのは、覇道です」と(平泉)成さんに迫るシーンは印象に残っています。本番では成さんが穏やかに「そんなことはわかってるよ、泉ちゃんだって我が国の立場、わかってるだろ」と嘆息していますけど、テストの時は、あの成さんまでが激昂演技でしたよね。成さんがそう来るなら、こっちはあえて冷静な演技で泉らしい万能感全開でいこうと決めてたんですけど、樋口さんから「あの、成さん、怒らないでください」って指示が入って。

樋口 そうそう。実は、あの場面の直前に、日米首脳電話会談のシーン、成さんと嶋田久作さんが同席するシーンを撮ってたんですよ。嶋田さんが台本読んでアメリカのひどい要求にいろいろ思うことがあったんでしょう、本番で机を思いっきり叩いて「この内容は酷すぎますっ!!」って激昂してくださったんだけど、そのテンションに成さんが当てられちゃったんだと思う(笑)。

松尾 あ、そうだったんですか。

樋口 密室でやってるとそういうテンションが伝染して面白いんですけどね。

No image

松尾 成さん関連のシーンはいろいろ思い出がありますね。矢口プランを承認してもらうあの場面で、竹野内さんが成さんの後ろから「総理、そろそろ好きにされてはいかがでしょう」って語りかけるじゃないですか。あれを目の前にして、「ああ、総理は赤坂の言うことは聞くんだな」って腹の底から思って僕、「チッ」って顔してるんですけど、その顔も映ってなかったですね(笑)。

樋口 とにかく、この映画で最大の誤算は泉修一がこんなに注目されることになったこと。脚本を作っているときに、長谷川さんと高良くんの組み合わせを考えながら、「これはもう、ファンのみなさん、思い思いのストーリーを二次創作してください!」って考えていたんです。労をねぎらう感じで高良くんの肩を長谷川さんがポンと叩いてあげる場面とか、できる限り盛り込もうとしたんですよ。ところが、そこには全然引っかかんなかったんですよね。まさかの泉修一、水ドンがブレイク。

松尾 いやホントに、思いもよらないことでしたけど、格別においしい水にはなりました。

No image

◆#2 なぜ日本で大ヒットして、スペインで野次られたのか?http://bunshun.jp/articles/-/4887につづく&

写真=鈴木七絵/文藝春秋

ひぐち・しんじ/1965年東京生まれ。高校卒業後『ゴジラ』(84年/橋本幸治監督)で特殊造形に携わったことがきっかけで、映画界に入る。その後“平成ガメラシリーズ”で特撮監督を務めたほか、『日本沈没』(06)、『のぼうの城』(12)、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN 前後篇』(15)などの監督作品がある。

まつお・さとる/1975年兵庫県生まれ。映画・ドラマで存在感ある脇役として活躍中。出演映画作品に『テルマエ・ロマエ』、ドラマ作品に『最後から二番目の恋』『デート』『ひよっこ』など多数。

(「文春オンライン」編集部)

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

芸能カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
川口春奈「撮らないでって言わないとわからないのかな?」 盗撮&アップに苦言
“ホームレス中学生”麒麟・田村裕の現在の給料
脱げる女優・佐々木心音×AV女優・紗倉まな「女の子たちが、絶対通る道」を語る──
ビートたけしの“子ども”がラブドールを相手にガチSEXしていた
安室奈美恵“子離れ”できず「お前うぜえよ」
  • このエントリーをはてなブックマークに追加