面前DVという「新しい虐待」が子供に与える深刻な影響

面前DVという「新しい虐待」が子供に与える深刻な影響

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/09/16
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「密着」と「愛着」との大きな違い

親子は、基本的に父・母・子の三者で形成される関係です。そのなかで、母と子の2者関係は、出発点が新生児期の絶対的依存関係であることから、そもそも距離の取り方が非常に困難なのです。

本連載でも何度も述べてきましたが、力関係において勝る親のほうが子どもとの関係(距離)を決定してしまいます。

「虐待」という言葉が誕生したのは、親の側に責任があり、子どもには責任がないということを明らかにするためでした。

それを「親離れ・子離れ」という言い方で、親子が五分五分であるようにとらえるのは誤解です。思春期以降ならまだしも、義務教育までの子どもには当てはまりません。

子どもと距離を取る主体は親(母)であること、そして密着する主体も母であることを忘れてはならないでしょう。

そう、「母子密着」は母から仕掛けられたものなのです。子どもにその一端の責任を求めるのは酷というものです。母子だけの閉鎖された関係は、母親の独裁を生み、危険なものと化すのです。

「密着」という言葉は、使いやすいものの、実際はとても粗雑な言葉です。ここで、近年子どもの発達におけるキーワードとされている言葉を紹介しましょう。

幼い子どもが人として成長・発達するためには、養育者(母親とは限らない)への「アタッチメント」が不可欠だと言われます。少々専門的かもしれませんが、簡単に説明しておきましょう。

アタッチメントは愛着と訳されますが、愛情と同じではありません。「子どもが不安を感じた時、養育者にくっつく(アタッチする)ことで、安全感や安心感を回復するシステム」のことを指します。

アタッチメントの主体は子どもであり、外界の不安や時には恐怖などを感じたときに特定の養育者にくっつくことで、安心感や安全感を回復させ取り戻すのです。

それを受け入れる養育者の対応を「ボンディング」といいます。あえて日本語にすれば、絆づくりといえるでしょう。

子どものアタッチメントが養育者のボンティングによって安定的に発達すると、2歳くらいから、子どもは他者や世界に対して安定的で信頼感に満ちたイメージを抱けるようになります。これがいわゆる望ましい発達の基礎となると言われています。

この2つの言葉と比べてみたとき、密着という言葉が表すものは、子ども主体というより、親の側が自分の不安を解消するために子どもを利用する「親主体」です。アタッチメントやボンディングからは程遠いことは言うまでもありません。

イクメンが母子密着を生み出すこともある

では夫がいれば、三者になるから、母子の密着が防げるのでしょうか。

父親不在が母子密着の背景にある、という説明は、さんざん垂れ流されて食傷気味なくらいです。これが当てはまる親子関係も多いでしょうが、一方で、それだけでは説明のつかない親子関係も多くなっています。

近年では、イクメンをはじめとして父親が育児にかかわる機会も増えました。休みなく働くのが男としてのあるべき姿といった価値観は、一部を残して変わりつつあり、土日や休日は親子で過ごすのがスタンダードになっています。

そして登場したのが、父親がいることで起きる母子密着です。

前回述べた内容を復習すれば、「父・母対子ども」という二対一であることが望ましいのです。ところがこれが崩れると、妻が子どもを味方に引き入れることで、「夫対妻子」という一対二の関係となります。

子どもを味方につけて夫と対抗する、子どもを保護者に仕立ててケアさせる、子どもを夫に対しての防波堤にするといった試みは、多くの家族でそれほど珍しいことではないと思います。ときには、父親が子どもと組んで、母親を疎外することもあります。

母が嘆き悲しみ子どもに不安をぶつけるということは、母の崩壊を意味し、不安や恐怖から回復する基地であるアタッチメントというシステムの崩壊を意味します。

いわば子どもたちにとって世界の崩壊にも等しいのですから、子どもは必死になってそれを防ごうとします。母が崩壊しないためには何でもする、母を守るために母の意向を先取りし、母の意志どおりに期待どおりに生きることになります。

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その結果、母の忠実なしもべになったり、母の庇護者になったり、母の叶わなかった夢の代理実現者になったりするのです。

このようないわば生存を賭けた子どもたちの行動を、「子どもたちはみんな母親が大好き」という牧歌的イメージでとらえるのは、大人たちによるメルヘン化ではないかと思います。

面前DVという心理的虐待

本来、夫婦間で解決すべき問題なのに、そこに子どもを巻き込んでいくことは、子どもを親の都合で用いたり利用する(use)ことになります。

虐待を表す英語は、専門家のあいだではアビューズ(abuse)かマルトリートメント(maltreatment)を使っています。前者はabnormal useの略で「乱用」を意味し、後者は「不適切な(悪い)かかわり」を指しています。

このような定義からすれば、子どもを夫婦の争いに巻き込むことは、子ども乱用であり、虐待であるといえるでしょう。

ところが、巻き込む意図はなくても、子どもがいることも忘れてしまうほどに夫婦の言い争いや対立が激しくなる、そして最終的にはいっぽうが暴力という手段で相手を鎮圧し、いうことをきかせるという事態が起きます。

殴ったり、ときには怒鳴ったり、物を壊したりする行為は、相手を恐怖に陥れることで服従させる効果を持ちます。

これをDV(ドメスティック・バイオレンス)と言い、子どもの前で行うことを面前DVと言います。知らない方も多いかもしれませんので、少し説明しましょう。

2000年に児童虐待防止法が成立したとき、まだ面前DVについては言及されていませんでした。

2004年に同法が改正され、子どもの面前でいっぽうの親(残念ながらほとんどが夫です)がもう一方の親に暴力をふるうことは、児童への心理的虐待にあたるという定義が付け加えられました。

あまり知られていませんが、日本では児童虐待対策とDVの被害者支援との連携が不十分なままなのです。

前者は厚労省、後者は内閣府という所轄官庁の違いだけでなく、人道的でヒューマニズムを基本とする児童虐待防止と、フェミニストたちが長年草の根的運動でかちとったDV被害者支援とは、どこかしっくりこないのかもしれません。

私は双方にかかわってきましたので、2004年に上記の内容が加わったとき、興奮したことを覚えています。

「これでDVと虐待がつながった、両方を視野に入れた家族の支援がやっと始まるんだ」と。

長年アルコール依存症にかかわってきましたので、家族が暴力に満ちていること、DVと虐待は同時に起きていることを1980年代から実感していました。子どもへの被害という一点でこの2つがつながったことを心より歓迎したのです。

しかしこの時点ではまだ面前DVという言葉は使われていません。DV被害者の支援者は、子どもたちの目に見えない被害については無知のままでしたし、児童虐待の現場では、子どもたちの両親にDVが起きていたかどうかはそれほど大きな問題とされませんでした。

虐待の半数以上は心理的虐待である

大きな方針転換は警察庁から起こりました。2012年から、夫の暴力で恐怖にかられた妻が110番通報して警察が駆け付けた際、その場に子どもがいれば、児童相談所に面前DV=心理的虐待として通報することになったのです。

このことが、虐待の通報件数に大きな変化を生みました。別表Ⅰを見てください。これは警察が2011年~2015年の上半期に児童相談所に通告した人数の内訳です。

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警察庁作成の資料を参考に編集部作成

この図によれば、2015年の上半期には全通報件数の半数以上が心理的虐待で、その半数以上が面前DVであることがわかります。

別表Ⅱは、厚生労働省が2017年8月17日に発表した2016年度の全国の児童相談所の児童虐待対応件数です。総数は前年度比18.7%増の12万2578件(速報値)で、1990年度に統計を取り始めて以降、26年連続で増加しています。

虐待の内容別では、言葉や態度で子どもを傷つける「心理的虐待」が最多の6万3187件で全体の52%を占めていますが、その半数以上が面前DVです。

「身体的虐待」は26%(3万1927件)、「ネグレクト(育児放棄)」21%(2万5842件)、「性的虐待」1%(1622件)です。ここでも、面前DVが心理的虐待の総数を押し上げているのがわかります。

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厚生労働省のデータをもとに編集部作成

親のDVは子どもに深刻な被害を与える

おそらく多くのひとたちは、「虐待の通報件数が増えた」という記事を読んだとき、身体的虐待が増加していると想像されるのではないでしょうか。しかし2つの図から見えてくるものは、DVの通報が増加しているという事実です。

DVに怯えた妻が110番通報する勇気を持ったことで、駆け付けた警察官がその場に凍り付いたような目をしている子どもをみつけて児童相談所に通告をするのであり、父も母も、子どもに対して心理的虐待を行ったという自覚はないのです。

妻にとっては夫の暴力が最大の問題なのであり、夫は妻に怒っていますが、子どものことはかわいいと思っているのです。このように身体的虐待やネグレクト同様、面前DVも親に虐待の自覚はありません。

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では面前DVはそれほど深刻な被害を与えるのでしょうか。

アタッチメントという言葉を思い出してください。子どもにとって何より大切なのは安心感と安全なのですが、世界そのものである養育者=親が、もういっぽうの親に暴力をふるうという現実は、子どもたちのアタッチメント形成を困難にします。

どの子どもも一時期夢中になるほど大好きな遊びに「秘密基地ごっこ」があります。庭の片隅にこっそりつくった秘密の場所が、3歳を過ぎた子どもにとっては誰にも侵されない自分だけの基地になるのです。

アタッチメントとは、安全基地の役割ともいえるでしょう。親が子どもにとって安全基地の役割を果たしているか、という問いかけがもっとなされるべきではないでしょうか。

また、DV目撃の子どもへの影響は、その瞬間だけの問題ではありません。心理的虐待はそれで死ぬことはありませんが、そのぶん記憶され学習されることで、極端に言えばその後の人生の深部において大きな影響を与えます。

今回はすべてを網羅することはできませんが、もっとも大きな影響として挙げたいのは、暴力こそが最終的解決であるという刷り込みです。

最後は父親が怒鳴って終わる、殴ったり暴れたりすればとにかく全員が受け入れるという「解決」を経験すると、あんな父親みたいになりたくないと思いつつ、どこかでその行為を学習しているのです。

このことについては、本連載で追ってくわしく述べたいと思います。

「愛のムチ」なら許されるのか

甲子園の高校野球の熱闘をはじめ数々のスポーツが与える感動はわかりやすく、家族全員で共有できます。

半ば引きこもっている息子や娘たちが、オリンピックの期間中は居間に出てきて家族といっしょにテレビの前で声援を送る。しかし閉会してしまうと、再び以前と同じ状態にもどってしまう、といったエピソードをカウンセリングの場ではしばしば耳にします。

しかし感動の裏側で、運動部やスポーツ選手の強化練習における暴力やハラスメントの問題はひそやかに語られ、時々表面化して問題になったりします。

ひとつの目標に向かうとき、暴力的な方法や脅しを用いることが正当化された時代がありました。古くは「巨人の星」、「スクール・ウォーズ」などにみられるように、殴ることが強くなる条件とされていたのです。

最近、有名ジャズ音楽家の中学生に対する行為が、暴力なのかどうかについて様々な場面で話題になっています。テレビでも「愛のムチじゃないか、それまで否定したらまずい」という発言がされたのに対して「あんなことするなんて大した音楽家じゃないな」という意見も出されました。

もし人類の進歩というものがあるとすれば、それは、暴力が減少することではないかと思っています。

最大の暴力は、言うまでもなく戦争です。国家の戦いという大義名分のもとで、人間が人間を殺すことが戦争であるということをいやというほど見せつけられてきました。

少なくとも私は、誰からも暴力をふるわれたくないし、誰にもふるいたくないと思っています。愛があれば、ムチは不要なのです。ムチや暴力以外の方法で、相手に伝えようと努力すること、そのために言葉は存在するのだと思います。

育児とは、子どもの安全基地を提供すること

カウンセリングにおいてしばしば語られる記憶があります。

社会的に立派な職業についていた父親から執拗にと言ってもいいほど暴力を受けていたと語る女性、父親が毎晩のように母親を殴る隣の部屋で、別の世界のできごとと信じ込ませながら受験勉強をしていた男性……。

愛のムチ、しつけなどと名付けることによって、暴力をあたかも美しい行為であるように見せかけることは可能でしょう。

でも、受けた側は、必ずそこに屈辱感や恐怖、わずかな怒りを忍ばせているものだと思います。愛のムチとは、それを行った側の正当化の言葉であって、受けた側の言葉ではないと思います。

アタッチメントが子どもの立場に立つ「子ども語」だとすれば、虐待もDVも暴力も受ける側に立つ「被害者語」なのです。

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育児とは、もっとも弱い立場の子どもの立場を思いやり、安全基地としての親であることを最大の柱としています。極論すれば、それだけでいいとさえいえるでしょう。

母子密着の問題点は、母が自分の都合で子どもとの距離を縮めるからであり、そこに子どもの安心感の確保という視点はありません。

子どもという無抵抗な存在を思いのままに扱うことは、自分が正しいと信じて子どもをその方向に強いるために殴ることと変わらないでしょう。

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