ゲバラの同志 鹿児島ルーツ ボリビア日系2世、前村フレディ 理想求めた姿映画に

ゲバラの同志 鹿児島ルーツ ボリビア日系2世、前村フレディ 理想求めた姿映画に

  • 西日本新聞
  • 更新日:2017/10/11
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前村の父純吉(右から2人目)が営んでいたボリビアの雑貨店映画「エルネスト」のワンシーン。オダギリジョー(右)が演じる前村フレディは、キューバでエルネスト・チェ・ゲバラと出会う(c)2017阪本順治監督

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キューバ革命(1959年)の指導者エルネスト・チェ・ゲバラが南米ボリビアで軍事政権打倒を目指して、共に戦った同志の中に、鹿児島出身の移民の父を持つ唯一の日系人、前村フレディがいた。ボリビアで生まれ育ち、留学先のキューバでゲバラに出会い、その思想に傾倒したが革命は失敗。25歳で殺害された前村は長らく反逆者の扱いを受けてきた。だが没後50年を迎え、前村を主人公にした日本・キューバ合作映画が全国公開された。貧困や権力に敢然と立ち向かう前村にゲバラの信頼は厚かったという。“革命家の血”はどこから来たのか。父の古里、同県頴娃(えい)町(現南九州市)にルーツをたどった。

緩やかに波打つ茶畑と芋畑が広がる南九州市の耳原集落。「確かこの家だったと思います」。前村のいとこ、上村冨美子さん(66)=鹿児島市=は、ある平屋の前で立ち止まった。前村の父純吉と、その妹で上村さんの母ノリさんが暮らした場所だ。

純吉はこの地から1913年に南米ペルーに渡った。だが出稼ぎ先の農園の労働は過酷を極め、徒歩でアンデス山脈を越えてボリビアに移った。雑貨店を開業して富を築き、ボリビア人女性との間に3男2女をもうけた。

「いろいろあったはずなのに嘆いたことなど一度もない。寡黙な父だった」。純吉の次男として41年に生まれた前村は、映画の中でそう語る。

裕福な家庭に生まれながらも格差と貧困の深刻さを目の当たりにして育った前村は、貧しい人を救う医師を志すようになる。62年4月にキューバに留学した。

映画ではキューバで揺れ動く前村の青春時代が描かれる。脚本も手掛けた阪本順治監督は何度も南米に渡り、前村のきょうだいや同級生を取材。誠実で意志が強く、かつ他者の意見にも耳を傾ける-。決め手になったのは、長姉マリーさんの「きょうだいの中で最も父親に重なる部分が多かった」という言葉だった。

軍人や地主が農民から搾取するボリビア社会に怒りを抱いていた前村は、同国の軍事政権打倒を試みるゲバラ軍に志願。66年にゲリラとして母国に潜入した。だがボリビア軍に捕らえられ拷問の末に射殺される。

家族は一時拘束され、軍の監視下に置かれた。反逆者としての汚名がそそがれ始めたのはゲバラの遺骨発掘が始まった90年代。2005年には左派政権が誕生し前村らの評価が見直された。08年には前村のおいのエクトルさんが鹿児島を訪問。その時、初めて前村の存在や歴史を知った上村さんは「まさか自分のいとこが革命に関わっているなんて」と驚いたという。

ゲバラは前村について「完璧なゲリラ戦士」と日記に書くほど信頼を置き、自身と同様に医学を学んでいたこともあり、仲間内では前村を自分の名前でもある「エルネスト」と呼んだ。

それにしても革命家としての資質はどう培われたのか。純吉に続いてペルーに渡った前村のおじ、重春を知る福元福一さん(78)=南九州市=は語る。「昔からここは貧しい地域でしたが、村の祭りや公民館の建設費も米国や南米に出稼ぎに行った人の寄付でまかなえた。正義感が強くて地域に尽くす人が多かったね」

郷土史に詳しい県立図書館の原口泉館長は、「江戸時代から薩摩藩には開拓政策があり、フロンティア精神あふれる人が多い。特に頴娃町のあたりはかつて不毛の地で、移民を多く輩出している」と説明。「フレディの功績は、移民の歴史を持つ薩摩に誇りと勇気を与えてくれる」と評する。

理想を追い求めて戦い続けたゲバラと、維新の立役者を生んだ鹿児島にルーツを持つ前村。志半ばで倒れた2人の思いは、50年たった今も色あせることはない。

「日本人にしか撮れない」阪本監督

阪本順治監督(59)は、3年前からキューバやボリビアでの取材を重ね、キューバ政府の協力も得て映画を完成させた。「日本が高度成長と東京五輪に沸いていた時代、南米に日本人の血が流れ、希望を追求した名もなき医学生がいたことを知ってほしい」

映画は1959年にゲバラが広島を訪れる場面から始まる。「核のおぞましさを、実感を持って知ったチェ・ゲバラと、日系人のフレディが、キューバ危機を通じて出会っていく。これは日本人の監督にしか撮れない」と直感したという。

キューバでの撮影は現地政府の協力を得て行われ、軍事訓練のシーンは実物の武器を用いた。日本文化に対する認知度は高く、阪本監督は「ロケを見ている人が、松坂大輔はどうしているのかとか声を掛けてくる。原爆のこともよく知っていた」と振り返る。

主人公、前村の父は鹿児島から南米に渡った。「九州の人には新天地を求めていく勢いや夢を抱く力があった。なんとしても成功して国に財を持ち帰るというおとこ気は感じる」

前村役のオダギリジョーさんは、全編スペイン語で演じている。

★エルネスト(キノフィルムズ配給)

革命間もないキューバの首都ハバナに留学した日系ボリビア人、前村フレディは、キューバ危機のさなかに革命家エルネスト・チェ・ゲバラと出会う。医師になり貧困に苦しむ人々を救いたいと考えていた前村は、権力や貧困と闘うゲバラの姿勢に共感。母国に革命を起こそうと、ボリビアの軍事政権打倒を目指すゲリラ隊に加わった-。

オダギリジョーさんが主演。キューバとの合作で、映画の大半はキューバ人俳優と現地で撮影された。

=2017/10/04付 西日本新聞朝刊=

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