誤解がいっぱい、ゲノム編集食品の安全性と表示を解説する

誤解がいっぱい、ゲノム編集食品の安全性と表示を解説する

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  • 更新日:2019/07/10
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農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)がゲノム編集技術を用いて研究、開発中の収量性の向上を目指したイネ(提供:農研機構)

ゲノム編集食品の安全性や表示をめぐり、ニュースが増えてきました。国も全国5カ所で説明会を開いています。

しかし、品種改良の科学や表示制度の仕組みがよく理解されないまま、報道されているように思えます。

ゲノム編集食品は安全だとする主張よりもどうしても、危険視する活動家が目立ち、マスメディアも好んで取り上げます。「市民の不安は大きいのに、知らないまま食べさせられる……」という話は、センセーショナルで人を引きつけます。

そんなふうに簡単に整理できたらどんなによいか。でも、そう単純な話にはなり得ません。かなり複雑、難しい。詳しく解説します。

ゲノム編集食品とは

ゲノム編集技術は、生物の遺伝情報であるゲノムの特定の部位に、意図的に変異を加えることで、性質を変えようというものです。医療分野でもこの技術の利用が検討されていますが、食品の分野では、家畜や作物を品種改良する際にゲノム編集技術を用いようとしています。

品種改良では、ゲノムの遺伝情報を構成するDNAを切断できる酵素を、家畜や作物の細胞中で働かせて、特定の部位を切断します。すると、DNAを構成する塩基が一部抜けたり、別の種類の塩基配列が入ったりします。それにより、よい性質が付加されたり、悪い性質が抑制されたりします。

家畜のゲノム編集では、切断できる酵素等を受精卵に直接、注射針で注入してDNAを切ります。一方、作物は細胞壁があって直接注入ができないので、まずは遺伝子組換え技術により酵素を作る遺伝子を導入し、遺伝子組換え植物を作ります。そのうえで、細胞中で酵素を働かせてDNAを切断します。

酵素を働かせてDNAを切断した後は、酵素の遺伝子は不要です。そこで、元の「遺伝子組換えもゲノム編集もしていない作物」を交配(掛け合わせ)して、ゲノム編集により特定の部位は変異しているけれども、酵素の遺伝子は持っていない系統を選び出し、新しい品種を作り出すのです。

ゲノム編集技術を用いれば、従来に比べて短時間で効率よく品種改良ができます。

一部は、安全性審査をせず届け出制に

こうしてできるゲノム編集食品の取り扱いについて、厚労省は専門家を集めた会議(薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会新開発食品調査部会遺伝子組換え食品等調査会)で検討しました。DNAを切断した際に、その生物が持っていない外来遺伝子や特定の塩基配列を、意図して挿入したりする場合には、「遺伝子組換え」と同様に「安全性審査が必要」と整理しました。

一方、DNAを切断した後、塩基が1~数個、抜けたり(欠失)、ほかの塩基と入れ替わったり(置換)、追加されたり(挿入)、というようなものは、安全性審査はしない、と決めました。

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文字が塩基を表す。酵素がはさみとなりDNAを切断すると、多くの場合にはまた元通りに修復されるが、修復ミスが起きる場合があり、1〜数塩基の欠失や置換、挿入が起き、良い性質をもたらす場合がある
(出典:農研機構資料http://www.affrc.maff.go.jp/docs/anzenka/attach/pdf/genom_editting-5.pdf

人工的にゲノムを操作しているのになぜ? という疑問が沸き起こります。しかし、実はこの「DNAが切断された後、1〜数塩基が欠失したり置換されたり、挿入されたりする」という現象は、自然界で普通に日常的に起きています。紫外線や自然の放射線等、さまざまなものによりDNAが切断され、こうした変異が引き起こされています。

さらに、これまで行われてきた品種改良でも、「化学物質や強い放射線によりDNAを切断し、その後に自然に起きる塩基の欠失や置換、挿入により性質を改良する」というやり方が普通に行われてきています。ゲノム編集が特定の部位を切断するのに対して、化学物質や放射線による突然変異はどこを切ることができるのかわからず、天に任せた状態。でも、切断した後に起きる現象は、ゲノム編集と同じです。

化学物質や放射線による突然変異によりできた新品種は、安全性審査もなく販売され、これまで問題が生じたことはありません。

厚労省の専門家会議でもさまざまな議論がありましたが、「1〜数塩基が変わるタイプのゲノム編集技術による食品は、自然の突然変異や従来の品種改良と差異がなく、安全性において同等」という結論に。したがって、審査はせず、安全性に関する情報を一定程度届け出てもらうこととなりました。

ただし、さまざまなタイプのゲノム編集食品について、「安全性審査が必要か、届け出で済むタイプか」を判断するステップが必要です。そのため厚労省は、事業者から事前相談を受け付け審議会の中にある「遺伝子組換え食品等調査会」にも意見を求め、そのうえで届け出か安全性審査か、振り分ける、という制度案を検討中。現在パブリックコメントを実施しています(7月26日まで意見を募集)。厚労省は、このパブリックコメントに寄せられる意見も考慮したうえで、今夏に制度運用をはじめる予定です。

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オフターゲット変異は除去される

ゲノム編集技術の安全性においては「オフターゲット変異」が懸念されています。反対運動を展開している人たちは、必ず言及します。オフターゲット変異というのは、DNAを切断する酵素が、目標とするターゲット以外の部分を切ってしまう現象です。酵素は、DNAの配列を識別して特定の部分を切りますが、まったく同じ配列の部分は、同じように切ってしまいますし、よく似た配列の部分を切ってしまうこともあります。

医療分野ではこれは重要な問題。しかし、品種改良と混同するべきではないでしょう。

作物の品種改良の場合には、遺伝子組換えとゲノム編集を施した後、細胞を培養してそこから芽を出させ、植物の通常の形に戻す工程があります。実は、この培養段階でも自然の突然変異が大量に起きています。そのため、たくさんの細胞からよいものを選抜する工程が欠かせません。さらに、元の作物(遺伝子組換えとゲノム編集を施されていないもの)と交配し(これを、戻し交配と呼びます)、最終的には、ゲノム編集技術がターゲットとした部位のみ変異がかかっており、それ以外の部分は元の作物と同じで外来の酵素遺伝子も持っていない個体にします。

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植物を対象としたゲノム編集では、DNAを切断する人工制限酵素のもととなる遺伝子をまず、遺伝子組換え技術によりゲノムに挿入する。 これにより、細胞中で人工制限酵素が作られるようになり、DNAを切断し、ゲノム編集技術が目的とする変異を引き起こす。だが、違う部位を切ってしまう「オフターゲット変異」が起きる場合もある。 しかし、この後に遺伝子組換えやゲノム編集技術を用いていない系統を交配すれば、メンデルの法則により人工制限酵素の遺伝子や、オフターゲット変異は分離できる(取り除ける)。 後代の交配と選抜により、最終的に、ゲノム編集による変異はあるが人工制限酵素の遺伝子やオフターゲット変異のない系統のみを、新たな品種とする。
(出典:農研機構企画戦略本部 田部井豊新技術対策室長提供)

選抜と交配の工程が何段階にもわたってあるので、仮にゲノム編集によってオフターゲット変異が起きたとしても、最終的には除去されている、と考えられるのです。

家畜の場合には、受精卵細胞にゲノム編集技術を施す場合が多いのですが、同じようにたくさんの卵細胞を処理し、その中から選抜しますので、同様にオフターゲット変異が残っている可能性は著しく低いのです。

従来の品種改良でも、オフターゲット変異は起きている

可能性はゼロ、とは言えません。科学者はいかなる場合もゼロは証明できないので、「可能性は著しく低い」という言い方をします。培養や選抜、戻し交配等の複雑な工程を知っていれば、納得できます。が、知らない人は、「ゼロでないなら危ないのか」と感じ、理解しにくい部分なのかもしれません。

さらに言えるのは、従来の品種改良においても、ターゲットとしない部位の変異は普通に起きていて、その後の選抜や交配の工程で除去されている、という事実です。新品種として商用化された後に、安全上の問題が浮上したケースはありません。ゲノム編集のオフターゲット変異が、それらと異なりリスクが高い、とはみなせません。

外来遺伝子等の挿入のないゲノム編集については、特別扱いして危険視する科学的根拠はない、と私は考えます。

表示を義務化できない事情

こうして、1~数塩基が変わるゲノム編集食品は、開発事業者による届け出制で管理することになりました。

ただし、消費者の一部がゲノム編集技術に不安を抱いているのは、間違いありません。厚労省が、届け出制とする方針を打ち出した報告書についてパブリックコメントを実施したところ、安全性への懸念を訴える声が寄せられました。

また、食品への表示についても「ゲノム編集技術でつくられた全ての作物等とその加工食品について、表示の義務付けを要望する」などの意見が出ました。

「安全性にかんする国の判断は信用できない。しかし、表示されれば、識別できて、避けることができる」ということでしょう。ご意見ごもっとも。消費者が自主的かつ合理的に選択できる機会を確保するのは、とても重要なことです。でも、そう簡単に表示できない事情があります。

ゲノム編集食品は、科学的には、従来の食品と区別できないのです。

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農研機構が研究、開発中のイネ。一つの穂につく籾の数をゲノム編集技術により増やしている。(提供:農研機構)

遺伝子組換えとは異なる

遺伝子組換えの場合、組換え品種のある大豆やとうもろこしなど8農産物とその加工品33品目について組換え品種を用いた場合には、必ずその旨を表示しなければなりません。事業者に義務づけられています(加工品は、使われる遺伝子組換え作物が原材料の上位3位まで、かつ全重量に占める割合が5%以上の場合)。

科学的な分析により、遺伝子組換え品種と非組換え品種を明確に区別できるため、事業者も自らが利用している原材料を確認できるし、取り締まる側も科学的に監視できる、として義務表示制度が動いています。

遺伝子組換え食品の場合も、安全性審査を経て認可されたものは、非組換え食品と同等に安全です。したがって、安全面から区別する必要はありません。しかし、消費者が自主的かつ合理的に選択できる機会を確保するために制度があります。

同じような制度をゲノム編集食品にも作ればいい……。

ところが、ゲノム編集食品の場合には、第三者は通常の食品と科学的な区別ができません。自然による突然変異なのか、化学物質や放射線により人為的に突然変異を起こしたのか、ゲノム編集技術により突然変異を起こしたのか。変異自体は同じなので、方法の違いは識別できないのです。

厳密に言えば、開発企業自身は、詳しい遺伝情報を把握し変異を加えているので、周辺の遺伝情報などから区別ができます。しかし、その遺伝情報こそが良い品種作りのポイント、他企業などに知られたくない「企業秘密」。したがって、現段階では第三者はその情報を使えず、識別できません。

消費者庁が「義務表示制度の創設は難しい」と明言

これでは、義務表示制度を作っても監視ができません。6月20日に開かれた消費者委員会食品表示部会で、消費者庁は「表示違反の食品の検証可能性」という観点から「義務表示制度の創設は難しい」と明言しました。

そう書くと、「生産段階で、ゲノム編集かそうでないかを区別し保証書を付け、分別して流通させて保証書で識別すれば良い」という意見が聞こえてきます。科学的分析による監視を「科学的検証」と呼ぶのに対して、書類等に基づく監視は「社会的検証」と表現されます。

でも、ゲノム編集の場合には、社会的検証も厳密には無理。なぜならば、農場にある収穫したての農産物であっても、区別できないからです。つまり、保証書の真正性すらも、担保するのが難しいのです。

種苗企業から種子を購入した時に、ゲノム編集だったかそうでないかを聞き、信用するしかありません。間違えるはずがないだろう、と思われるかもしれませんが、開発企業と種苗企業が異なる場合も多いのです。種苗企業は、開発企業からゲノム編集技術を用いた系統を購入し、それに従来の方法も用いて新しい品種を作り出します。そのうえで、その種子や苗を販売します。

もし、種苗会社が間違えて種子や苗を販売したら、だれもチェックできないまま、その農産物は流通販売され、川下のすべての事業者が間違えて消費者に届ける、という事態となります。

さらに、農家がゲノム編集による種子と、ゲノム編集が用いられていない種子をうっかり間違えて植えて収穫したら、どうなるでしょう。穀物など大量を船で輸送する場合など、作業工程で一部が混じってしまう、ということも起きるかもしれません。しかし、なにが起きても書類が整っていればいい。こんな制度では、意図しない混入を防ぐのが難しいだけでなく、不正の温床にもなり得ます。

もう一つ問題なのは、末端の製造販売事業者の被る大きな不利益です。

もし、社会的検証により義務表示制度を課す場合、制度を守らなければならず違反したときに罰則が科せられるのは、末端で容器包装に表示する事業者です。彼らは通常、原材料を購入して食品を製造し販売します。購入した原材料を調べても、ゲノム編集かそうでないか確認しようがなく、もし保証書が付いていたとしても、それが正しいのかどうか判断できない。なのに、もし違っていたら違反に問われてしまう。それは、あまりにも理不尽です。

そして、消費者の負担も大きくなります。食品業界は生産や流通の各段階での書類の確認や分別等により、莫大なコストの上乗せを迫られます。当然、消費者もコスト負担を迫られることでしょう。こんな義務表示制度が多くの消費者の支持を得られる、とは私には思えません。

事業者の責任による任意表示の仕組み

でも、消費者の一部は、区別し選びたがっています。そんな人たちが、なんの表示もないまま、無理矢理食べさせられる、という状況になるのはよくありません。そこで、重要になるのが任意表示制度です。消費者の知りたいという要望に応えて、事業者が自らの責任において自主的に表示します。

遺伝子組換えの制度においては、遺伝子組換え農産物を含む場合には必ず表示しなければなりません(義務表示)。しかし、含まない場合はなにも表示しなくてよく、「遺伝子組換えでない」というのは、事業者が自らの責任において行う任意表示と位置づけられています。

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2023年4月から改正施行される新しい遺伝子組換え表示制度。遺伝子組換えを分別生産流通管理をしていないものや、分別生産流通管理をしていても、遺伝子組換えの混入率が5%を超える場合は、表示が義務化されており、「遺伝子組換え」であることを明示しなければならない。一方、分別生産管理をしており、混入が5%以下の場合は、その旨を表示をしてもよいし、なにも表示しなくても良い「任意表示」となっている

ゲノム編集食品の場合には、「ゲノム編集である」「ゲノム編集でない」両方とも、自らの責任において表示したい、という業者だけにしてもらい、欲する消費者に結びつけるのです。そうすれば、事業者にとっては商品の付加価値、消費者にとっては自主的かつ合理的な選択の機会の確保、につながります。

この場合も企業秘密である詳しい遺伝情報が公開されない限り、第三者は科学的検証ができません。しかし、開発企業が「ゲノム編集である」とか「ない」と保証する種子を農家が栽培し、収穫物を近くの加工工場で加工して包装し小売りへ、というふうに、途中の流通や加工工程をできるだけシンプルにすれば、ミスや意図せざる混入のリスクは下がります。書類で責任を明確にしながら流通や加工を行い、トレーサビリティを確保して消費者へ届ければよいでしょう。

分別流通、書類による保証等でコストはかかりますが、すべての事業者に課せられるのではなく、一部の事業者が自らの責任でコストをかけて管理し、商品を値付けして売るのであれば、それは自由。そして、消費者が、その任意表示は科学的に保証されたものでないことを了承のうえで、納得して高く買うのであれば、問題ありません。

また、ゲノム編集により栄養成分の含有量が上がるなど、別の指標で科学的に区別できるケースもあるでしょう。筑波大学が、血圧上昇を抑える機能を持つGABAを豊富に含有するトマトを、ゲノム編集技術により開発しています。市販された時に、「GABAを高濃度に含有する」ことが科学的に担保され、「ゲノム編集技術が用いられている」という任意表示がなされていれば、消費者は判断し選択することができます。

あるいは、科学的管理ができるように企業秘密の一部を公開して「この配列があれば我が社のゲノム編集食品だから、科学的に区別してほしい」する事業者も現れるかもしれません。

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消費者の誤認、風評被害を招いてはならないが

ただし、注意すべき点があります。「ゲノム編集でない」という任意表示が、消費者の「ゲノム編集はわざわざ避けなければならないほど、危ないもの」という誤認、そしてそれに基づく買い控えという「風評被害」につながらないように、事業者も食品表示制度を規制する消費者庁も、十分に注意しなければなりません。

遺伝子組換えにおいては、豆腐や納豆等に「遺伝子組換えでない」という表示が氾濫し、それが「遺伝子組換えは危ない」という誤認につながった、という意見が強くあります。また、食品添加物においても、「不使用」「無添加」などの任意表示を見て購入する消費者の7割以上が「安全で健康に良さそう」と誤って受け止めていることが、2017年度の消費者意向調査で明らかとなっています。

任意表示は、こうした誤認と風評被害につながりやすいのです。現時点で、届け出制により運用されるゲノム編集食品は、従来食品と同等に安全である、というのがほとんどの専門家の見解です。任意表示は、そのうえで消費者が選ぶための手段です。

今夏に、届け出制度がはじまる

厚労省は、ゲノム編集技術により外来遺伝子や長い塩基配列が意図して挿入されているタイプのものは安全性審査が必要、DNAを切断した後、1~数塩基の変異が自然に起きているものは届け出制としました。企業に対する公平性の観点からも、届け出を義務化することはできません。届け出に強制力はないのです。しかし、厚労省は「届け出しない事業者名を公表することもあり得る」と述べ、制度に実効性を持たせようとしています。

実際に食品が出回るのはそれから数カ月先になると見込まれていますが、それまでに、どのような表示制度にするかを決めなければなりません。

国は事業者や消費者等、さまざまな関係者の意見を聞く予定にしており、7月2日から全国5カ所で意見交換会を開いています。また、6月20日には、消費者庁が消費者委員会食品表示部会で表示制度について説明し、委員が意見を述べました。

私も委員の一人として、表示義務化は不可能と考えること、任意表示制度の重要性、誤認や風評被害を防ぐための考え方などについて、いくつかの提案をしました。任意表示については、ほかの委員も言及しました。

メディアの中には、安全性審査がなく、義務表示もされないことで、「消費者がそれと知らずに手に取る事態になりかねない」(東京新聞2019年6月22日朝刊)と報じたところもあります。

批判だけなら、簡単です。でも、批判するなら、公平で公共性のある代案を示して欲しい。科学的かつ公平に考えるなら、厚労省と消費者庁の現在の判断にならざるを得ない、と私は思います。だからこそ、欲しい人には届くという任意表示制度を、きちんと構築し運用してゆく必要があります。

また、毎日新聞は6月20日付ウェブ版で「任意表示によって『ゲノム編集でない』という表示がまん延しないような工夫が要る」と書いています。そんな発言は、委員のだれもしていないように思います。そもそも、事業者が自由にできる表示の一部を牽制する、というような恣意的なことが、できるはずもありません。

実際には、「ゲノム編集でない」という表示が誤認を招かないような工夫が要るのです。

残念ながら、ゲノム編集の複雑な科学と表示の考え方を理解しないまま記事を書いている人たちが少なくない、と思わざるを得ません。

変異が、多様な生物、食品を生み出した

DNA、遺伝子を切断し人為的に操作する、というのが、消費者や記者にも違和感や怖さを呼び起こしてしまうのでしょうか。

そもそも、DNA、遺伝子に起きる切断、変異をとても悪いことのように受け止める人がいますが、そうとは限りません。生物はさまざまな変異があったからこそ進化し、多様となりました。この地球の多様な生物、環境は、地球46億年の遺伝的変異の結果です。

厚労省の専門家会議などで議論をリードした農研機構・田部井豊新技術対策室長は、「農研機構はおよそ 22 万点の遺伝資源を保有しています。品種改良をするためには遺伝資源が重要ですが、これらは意図しない変異、つまりオフターゲット変異の蓄積の結果なのです」と説明します。

品種改良、育種は昔、自然の突然変異からよいものを選択していました。近世以降は人為的に行われるようになり、遺伝資源を組み合わせたり、人工的な変異を付け加えたりして、飛躍的にすぐれた品種が生まれるようになりました。

有用種同士の交配にしても、地理的に遠く離れて絶対に自然交配は起こりえないような種を飛行機で運んで交配させたりしますから、自然に沿うものとは言いがたいのです。「自然でなければイヤ」と決めてしまったら、現代においては米や野菜、果物など、ほとんどの食品を食べられず、飢え死にすることになります。

こうした歴史も踏まえて、皆さんにはゲノム編集技術やその表示についても関心を持って判断してほしい。そう願っています。

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(出典:農研機構資料http://www.affrc.maff.go.jp/docs/anzenka/attach/pdf/genom_editting-5.pdf

<参考文献>
・厚生労働省・薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会新開発食品調査部会遺伝子組換え食品等調査会
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-yakuji_148834.html

・消費者委員会食品表示部会第54回、第55回会合
https://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/syokuhinhyouji/

・消費者庁・遺伝子組換え表示制度に関する情報
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/quality/genetically_modified/

・農林水産技術会議・ゲノム編集技術
http://www.affrc.maff.go.jp/docs/anzenka/genom_editting.htm

・東京新聞2019年6月22日朝刊

・毎日新聞2019年6月20日付・ゲノム編集食品、表示義務化見送りへ
https://mainichi.jp/articles/20190620/k00/00m/040/189000c

・厚労省・「ゲノム編集技術応用食品等の食品衛生上の取扱要領(案)」及び「届出に係る留意事項(案)」に係る御意見の募集について
https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495190105&Mode=0

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